心の軌跡Ⅱ~重なる標~   作:迷えるウリボー

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51話 立場と心④

 

 

 手配魔獣との戦闘は終わった。それはカイトたちにとって苦しい戦いとなった。

 敵性魔獣は《グライムドローメ》。ドローメが集合化し凶暴化した手配魔獣である。ドローメと同じく導力魔法を多用し、またその軟体が厄介で徒手空拳などの攻撃をものともしない。

 《戦術リンク》を成功させたい。そのラウラとフィーの願いを男子たちは了承した。彼女たちを前衛とし、他の面々が補助に回る。

 結論から言えば、ラウラとフィーの《戦術リンク》は失敗した。戦闘中に《リンクブレイク》が発生したのだ。

 グライムドローメはその巨大さ故に、一つ一つの挙動が大きい。カイトたちは緊張を滲ませながら行動を取った。

 カイトは大きく動き回り撹乱を。

 ガイウスは攻撃魔法を。

 エリオットは補助魔法を。

 そしてラウラとフィーは、それぞれのスタイルに合わせた得物による攻撃を。

 メンバーそれぞれの行動に失点を受けるようなものはなかった。生命力の強い手配魔獣を相手に、確実にそれを削いでいった。

 それでも、ラウラとフィーのリンクは途中で消失した。

 ユーシスとマキアスの時のように、突然弾かれたのとは少し違う。ゆっくりと、しかし確実にリンクの煌きが先細り、やがては糸が切れるように儚げに。

 それは傍から見ていたカイトやガイウス、エリオットにとっても心苦しいものだった。ラウラとフィーがどれだけリンクに集中しても、いや集中するからこそ途切れ、そして悪魔があざ笑うかのように消失する。

 もちろん手配魔獣を前に、それだけで戦況を崩される五人ではなかった。ドローメには魔法も効く。全員の尽力もあり、なんとか絶命させることに成功する。

 戦闘が終わった時、誰も言葉を吐かなかった。魔獣や鳥や獣の鳴き声が響く鬱蒼とした森の中、誰も何も言うことができなかった。疲労困憊、精神虚脱。時間が止まったように感じていた。

 カイトは疲れきった脳をなんとか働かせて考えた。

 どうしてこうなった?

 疲れた。

 どこか落ち度はあっただろうか。

 ラウラもフィーもお互いに向き合おうとしている。

 なのに、どうしてこう上手くいかない。

 自分が悪かったか。

 ガイウスとエリオットが悪かったか。

「……そんなわけないだろ」

 自虐的に、さらには加虐的になりかけて、そこで初めてカイトは言葉に出した。戦闘終了からおよそ一分後。それが五人を含めても最初の発声だった。

 緩慢な所作でカイトはへたり込むエリオットに近づいた。

「大丈夫か?」

「う、うん……なんとか」

 魔導杖を文字通り杖のようにして立ち上がるが億劫そうだ。エリオットに片手を差し出す。

「ガイウス、怪我はないか?」

「ああ、幸いにもな」

 ガイウスはいち早く立ち上がっていたが、いつも以上に声が少ない。

 そして、カイトは残る二人の方へ向いた。

「ラウラ、フィー……」

 二人はカイトに背を向ける位置にいた。

 それぞれ、膝を折ってしゃがみ込んでいた。

 本心では、声をかけるべきか悩む。だが、かけなければならない。

「……手配魔獣は討伐完了。誰も致命傷はない。ひとまず、セントアークに戻ろう」

 ラウラとフィーが立ち上がった。お互い見ていないのに、ほとんど同時のタイミングだ。

(こんだけ息ピッタリなのに、どうしてリンクが繋がらないんだ、女神様……)

 カイトは方針を伝える。

「帰りも魔獣がいるはずだ。できるだけ避けて進む。オレが先頭を歩くから──」

「私は後衛に回る」

 カイトの言葉を遮って、フィーは告げた。

 男子三人が、その様子に驚いていた。いつもの無表情な彼女からは想像もできない、切迫した声だ。

「フィー?」

「役に立てなかった。私はもう、前衛に立てない」

「そ、そんな……!」

「だがフィー、お前の実力があったから今の戦いも勝てたんだ」

 それぞれ、エリオットとガイウスが言った。

 ガイウスは励ましの意図を多く含んでいるが、実際何一つ間違っていない。《戦術リンク》が断絶しても、フィーの貢献は大きかった。ラウラも同様に。それは紛れもない事実だ。

 だがフィーは首を横に振る。

「それでも、私は成功させるって言った。決めた仕事はやり遂げる、それが私()()の生き様だった。それができないんじゃ、私の価値はない」

 ガイウスの言葉も事実だ。そしてフィーが抱く感情も事実だった。先月に引き続き生じた、連携の不和。ショックは相応に大きかった。

「いや、それは許容できない」

 カイトの声ではなかった。フィーを許さなかったのは、他でもないラウラだった。

 少女二人が向き合う。緊張する男子三人。

「どういうこと?」

「そのままの意味だ。フィー、そなたの能力を前衛で活かさない手はない」

「だとしても、私じゃラウラと効果的な連携が取れないよ。ガイウスに任せればいい」

「それもいいかもしれない。だがそれでは、私こそ前にいる意味がない」

「ならラウラが外れるの?」

 ぞくりと、男子たちから冷や汗が吹き出る。

「戦力的にも、私が後ろのほうが合理的だよ」

「私は合理で話をしていない」

「理解できない。どういうこと」

「諦めたくないからだ。フィーとの最高の連携を」

 フィーが僅かにたじろいだ。それは動きには出ず、また表情も僅かに視線を落とすだけだった。だから、気づいた人間はこの場にはいなかった。

「……どういうこと」

「正直に言おう、フィー。今の私にはそなたのことが受け入れられぬ」

「……ぁ……」

 それは、場合によってはとどめとなる言葉だった。実際、フィーはその目を濁らせつつある。このまま、二人は終わってしまうのかもしれない。

 相手がラウラでなければ。

「だがな、諦めたくない。四月の実技テスト、フィーと成し遂げた高揚を。それはそなたも同じであろう?」

 直前のたった一言の言葉の刃が、次の真意でこうも簡単に意義を変える。

 フィーは今、迷いの中に光を見つけかけている。

 カイトはフィーに向けて言った。

「オレはもちろん、ラウラの意見に賛成だ」

「……カイト?」

「二人の相性が最高なのはもうⅦ組の全員が知ってる。ここでリンクを繋がない、諦めるなんてもったいないよ」

 ラウラが今、諦めずにいる。フィーだって諦めようとしたのはその前に挑戦があったからだ。本当に、もったいなさすぎる。

 それはラウラとフィーの何よりの思いだろう。だからカイトは、別口から焚きつけることにした。

「それに二人共。今頃A班はユーシスとマキアスもてんやわんやだろう」

 それでも、リィンもいる。場所はユーシスの故郷バリアハート。リスクはあるが、それでも何かしらの成果を上げているだろう。

 ラウラとフィーがカイトを見た。少年は疲れを隠せなくとも、なんとか取り繕っていたずらっぽく笑ってみせた。

「あの二人に先を越されたいか?」

「それは恥ずかしい」

「悪いとは思わないが、不本意なのは確かだな」

「なら決まりだな」

 カイトは四人を見た。自然、集まってくる。

 一部始終を見ていたエリオットも、ようやく元気を取り戻す。

「二人ならきっと大丈夫だよ!」

「風と女神の導きを。焦らず、向き合えばいい」

「ラウラ、カイト、エリオット、ガイウス、もう少しだけみんなの力を貸して」

「そなたらに感謝を。恩は必ず返そう」

 まだ、二人の絆は解かせない。

 カイトたち五人はイストミア大森林を出る。

 前衛はラウラとフィー。男子三人は後ろに回る。女子二人は《戦術リンク》を繋がらずとも、それでもなんとか前線で戦い続けた。

 一同なんとかセントアークに戻り、夕食を楽しむ。先月のB班実習とは違い、少しばかりは穏やかな空気なのが幸いだった。

 今回はレポート作成があまり得意ではない面々が多く、一同協力して──カイトはほとんど教える側に回り成し遂げた。

 そうして男女別室に別れ、寝室に入る。

 今日の実習の課題もなかなかのもの忙しさだった。体力的な疲れに精神の揺らぎ、それらが多すぎて変に精神が昂ぶっている。寝る準備ができても、中々寝付けない同室男子三人だった。

「ラウラとフィー、少しは歩み寄れたかな……?」

 三人ともベッドに入り込み、けれど目は覚めている。エリオットは顔をのぞかせ、言った。

「……実は、実習の前に二人から相談を受けててさ」

 カイトはうつ伏せから寝返り、仰向けになって大の字に体を伸ばした。

「そうだったの?」

「ま、フィーは遠まわしだったけどね。でも、二人の気持ちは一緒だったわけだし、オレたちは見守ろう」

 なんとなくだが、今日の二人を見て解消は時間の問題のように思えた。自分たちに出来ることは、二人が自分たちのことに集中できるよう彼女たちを守ること。

 男子三人の気持ちもまた同じだ。

「そうだね。僕も、精一杯手伝うよ」

「カイトも、無理はしないでくれ。先月から連続で、何かと苦労もあるだろう」

「あはは……リィン程じゃないけどね」

 このあたり、エリオットもガイウスも優しい。二人とも身の上のことを話したことはないが、意志は強いのだ。

「オレ、Ⅶ組に入れてよかったよ」

「僕も同感」

「俺もだ」

 世間話は続く。クラブのこと、授業のこと、仲間たちのこと、話題は沢山あった。

 エリオットは帝都、カイトはリベール、ガイウスはノルド。それぞれゼムリア西部の北・中・南と離れた場所から集まった三人は、思考も経歴も趣味も多くのことが異なる。共通点なんてそうそうない。

 それでも、三人の間には笑顔が絶えなかった。馬鹿話でも盛り上がる。A班のことでも盛り上がる。

 そうしてようやく欠伸が出てきたころ、カイトとガイウスは異変に気づいた。

「なんか……外が騒がしくないか?」

 

 

────

 

 

 時刻は十二時を回ろうかというところである。深夜だ。大都市とはいえクロスベルのような近代様式でもないセントアークは、夜は暗がりに包まれている。

 特別な日でもない今日、日が昇るまで騒ぐ宿酒場もない。

 だが、暗すぎた。そして喧騒が確かにあった。

 カイト、エリオット、ガイウスの三人は深夜のセントアークに飛び出した。住宅街は、ところどころ住人たちの悲鳴が上がっている。

「ね、ねえどういうこと……!?」

 事態を理解できず、エリオットが怯えながら叫んだ。周囲はほぼ暗闇だ。弱い月光がなんとか周囲十アージュ程度を視認させている。

 様々な可能性がカイトの脳を駆け巡る。迷い、疲れ果て、混乱もしていた。

 だが、やがて一つの実感を持つ。自分で言ったではないか。『きな臭い』と──

「カイト!」

 ガイウスが叫んだ。

「魔獣が接近している! 来るぞ!」

「く!」

 背後から現れたのは、四肢を踏みしめたハイエナだった。獰猛な牙に涎を滴らせ、カイトの腕を噛み砕こうと接近する。

 それを既のところで避けて、カイトは思いっきり蹴り上げた。僅かに呻いた魔獣はガイウスの近くに着地し、彼の十字槍の一閃の前に絶命する。

「な、なんで魔獣が街中に……」

「エリオット、落ち着け。今の程度ならエリオットだってできる」

「う、うん……!」

 今のは一匹だが、ガイウスが言うにはそこらじゅうから魔獣の気配があるという。となると悲鳴は住人のものか。

「大丈夫か!?」

 声が聞こえた。自分たちに向けられている。知らない人間のものだったが、彼が視界に入ってきたことで理解した。領邦軍の兵士だ。

「無事か!? 武器を持っているが、お前たちはいったい……」

「自分たちはトールズ士官学院、Ⅶ組の者です」

「トールズ……そういえば、実習とやらで来ているとのことだったな」

「それよりも兵士さん、どういう状況なんですか?」

 兵士もまた、苦々しい表情だ。

「住宅街に魔獣が出現している。今、領邦軍が住民の避難誘導をしているところだ」

 喧騒の正体は魔獣襲撃と避難誘導が原因か。住民が魔獣に蹂躙されるという最悪の現象だけは避けられているようだ。だが兵士の様子を見るに、予断を許さない状況は続いているらしい。

 カイトはガイウスとエリオットを見た。ガイウスは毅然と、エリオットもなんとか震えを断ち切って頷く。

「群れの規模がどれだけかわからない。お前たちも避難を──」

「いえ、自分たちも避難誘導を手伝います」

 カイトの言葉に領邦軍兵士は驚いたが、説得は無駄だと判断したのだろう。別の言葉を投げかけてくる。

「住宅街は導力灯がつかない現象が生じている! 明かりもない、お前たちも気をつけることだ!」

 一兵士にしては判断が早かった。この状況ではありがたい。兵士は早々に騒ぎの方に走っていく。

 だが、それよりも。

(導力灯がつかない?)

 喧騒の中、カイトの思考が一つの可能性をもたらす。

 兵士と入れ替わるように、カイトたちの宿泊地からラウラとフィーが降りてきた。

「すまない、遅れた」

「状況はどうなってるの?」

 ガイウスが説明した。状況は不透明だが、それでも緊迫感を理解する女子二人だ。

「当然、私も避難活動を手伝おう」

 ラウラが宣言する。フィーも同様だ。暗がりでも、その表情は確かだった。

 戦闘に心得のあるⅦ組だ。さきほどの領邦軍兵士を見る限りクロイツェン州の兵士よりはよく動いてくれそうだが、逃げ切れない住人もいるかもしれない。自分たちは、魔獣を蹴散らし、住民の安全を確保しなくてはならない。そして迅速な判断が必要だった。

 フィーが提案。

「魔獣一匹一匹は大したことなさそうだし、別れたほうがいいかもね。いざとなればARCUSで──」

「いや、ARCUSは使えない」

 カイトはフィーの声を遮った。驚く四人をよそに、カイトは誰よりも油断のない表情でえ伝える。

「五人で動く。街の灯りもしばらくは戻らないし、オレたちはまともに戦えない。自分たちの安全第一で行くぞ。油断したらオレたちも命に関わる」

 カイトの言う『戦えない』とは、実力不足を嘆くわけでもラウラとフィーの件を引き合いに出すわけでもなかった。

「ど、どういうこと? ARCUSがあればどこの安全を確保したかも──」

「使えないんだ。ARCUSも、エリオットの魔導杖も、オレとフィーの双銃も」

 四人は驚きそれぞれの得物を確認した。結果はカイトの言うとおりだった。

「くそ、昼間の導力灯の不良はこのせいだったのか。どうして気付かなかったんだ」

「……カイト、それは」

 ガイウスが問いかけた。四人は伝聞でしかしらない、この現象は。

「《導力停止現象》だ……!」

 忘れるはずのない、リベールを混迷の大地と化した過去からの反逆。《輝く環》による無慈悲の暴虐だ。

「まってよ、それじゃあ……!」

「導力器が使えないんじゃ領邦軍も機能不全する。オレたちも同じだ」

 カイトは双銃をしまう。

「ラウラ、ガイウス。負担をかけるけど、先頭と殿を任せたい」

「心得た」

「任せてくれ」

「フィーは中央で双銃剣を。オレとエリオットが逃げ遅れた住民を誘導する」

 カイトたちは、避難誘導を開始した。

 魔獣の気配はそこかしこからする。先のハイエナの魔獣に蛇、畑あらしに飛び猫の亜種など、様々な種類の魔獣が襲いかかってきた。

 一匹一匹が手強くないのが幸いだった。ラウラとガイウスが尽力し、辛くも魔獣を屠っていく。

 突然発生した魔獣だが、住民たちに阿鼻叫喚というほどの混乱は見られなかった。カイトたちに出された課題の一つである魔獣被害の調査。つまり既に魔獣被害が出てきたこともあって、ある程度最悪を想定していた住民もいただのだ。

 それでも逃げ遅れた人々も確かにいて、領邦軍に混じってカイトたちは避難誘導を展開することになった。

 導力停止現象は、住宅街に集中して発生していた。それ以外の場所では導力器は動いたため、聖堂広場や大聖堂を避難場所として誘導する。

 騒動は一時間ほど続いた。ある時唐突に住宅街の導力停止現象が治まり、光がもたらされたのだ。

 被害を零にすることはできなかった。怪我人もいれば、窓ガラスを粉砕された家もある。死者が住民と領邦軍から出なかったのが奇跡なほどだった。

 騒動の現場にいて活動に尽力したカイトたちも、図らずも事情聴取を行うことになる。領邦軍が夜通しで復興作業や事後処理を行い、昼間の活動もあって完全に力尽きたカイトたちは避難先の大聖堂内で泥のように眠りこけた。

 そして一夜明け、特別実習二日目。

 カイトはハイアームズ侯爵への謁見を願い出た。

 最初は兵士たちから邪険に扱われるカイトたちだったが、ハイアームズ侯爵本人が根回しをしていたこと、カイトたちⅦ組の活躍、ラウラという貴族令嬢の存在なども幸いし、カイトたちの願いは通る。

 二度目のハイアームズ侯爵邸執務室。

「なるほど。《導力停止現象》か」

 ハイアームズ侯爵に対し、カイトは昨夜の事態を報告していた。そして、リベールの人間としての見解も述べていた。

「信じて頂けるのですか?」

「領邦軍の中には二年前にパルムに詰めていた者もいる。私も当時、視察に訪れたことがあってね。一応知ってはいたのだよ」

 ハイアームズ侯爵は「だが他ならぬ《異変》経験者からの言葉で、今まさに確信となったがね」と加えた。

 空気が重々しかった。

「結論から聞こう。君はこの事態をどう見る?」

「先の異変で暗躍した結社は、この事態を引き起こす手段を持っています」

 結社はリベールでの異変で《輝く環》の端末である漆黒の導力器《 福音(ゴスペル) 》を複製していた。現象を引き起こすことは決して不可能ではない。

 だが、とカイトは言う。

「結社が帝国に、サザーラント州に対して導力停止を起こす意図が不明です。それに、いくら導力灯の魔獣避けの機能が死んだからといって、あれだけの魔獣襲撃は異常だ」

 結社が発明した《福音》は空間投影や七耀脈刺激など馬鹿げた現象を引き起こすが、魔獣を操るなどということはなかった。古代龍(レグナート)を操った精神操作にしても、無差別かつ多すぎる。

「確証はありませんが、福音(ゴスペル)を手に入れた別組織の可能性を考えています」

「なるほど」

「それと」

 カイトは後ろに控えるラウラを促した。

「閣下に伺いたいことがあります。もしや……ドレックノール要塞方面にも、導力停止現象が生じていたのではないですか?」

 ラウラの言葉にハイアームズ侯爵は目を見開いた。

「情報は規制しているはずだが、自力で辿りついたか」

「じゃ、じゃあ……」

 驚くエリオットの先に出る言葉を、四大名門の一角は肯定した。

「君たちの予想の通りだ。先の襲撃と同時、ドレックノール要塞でも同様の現象が生じたという。これはクレア大尉とのホットラインで判明したことでね。それで正規軍も応援には来れなかった」

 やはり、前日に点検した導力灯の不全は導力停止現象によるものだったのだ。道理で異常発生の時以外は何も生じてないはずだ。

 どちらにしても、釈然としない状況だ。首謀者の意図が読めない。

 ガイウスが問うた。

「これから、侯爵閣下はどのように動かれるのですか」

 導力停止現象が絡んでいる以上、襲撃は間違いなく人為的なものだろう。これで終わりなのか、まだ続くのか。それすらわからない、かつ近場の正規軍の手を借りれるとも思えない。

 たった二度の対面だが、ハイアームズ侯爵が己の利のためだけに動かない人だというのは理解できた。領邦軍も態度は偉そうだが、そもそも軍人という括りの中では珍しくもない。セントアーク市民を守ろうとする気概を感じる。

 恐らくハイアームズ侯爵は事態を解決するために動くだろう。

 だが目の前の四大名門の言葉は苦々しかった。

「少なくとも、君たちが心配する必要はない」

「え」

「いつ襲撃が来るかは判明している。今日の十三時にもう一度だけだ」

 その時、導力停止現象もまた生じるのだという。カイトたちは驚愕した。いったい、どういうことだ。

「侯爵閣下、どうしてそれがわかるのですか?」

 あまりの予想外な情報に、さすがのラウラも狼狽を隠せないでいた。礼節が少しだけ乱れている。

 そんな中、クロスベルでロイドを見てきたカイトが、彼のような思考力で一つの可能性に行き着いた。

「まさかハイアームズ侯爵は、もうこの件の首謀者と交渉をしているんですか? いや、もしかして今回の襲撃の前から」 

 恐るべき仮説を前に、他のⅦ組の四人がカイトを向き、そしてゆっくりとハイアームズ侯爵を見る。

「……私から話せることは、これ以上ない」

 その言葉は肯定に等しいものだった。

「君たちは十二時までに列車に乗って実習を終えたまえ。それならば、巻き込まれる前にセントアークから出ることが出来るだろう。セントアークへの襲撃もこれが最後となる見込みだ、心配はいらない」

 そして領邦軍兵士を呼び、カイトたちとの面談の終了を告げる。

「実習地管理者としての言葉だ。強制力はないが……いいね?」

 言い知れぬ、学生たちを思いやる強い感情。それが余計に、カイトたちを真実から遠ざけていく。

 

 







Ⅶ組B班、セントアーク動乱。


次回、9章最終話
52話「Link of 《ARCUS》!」
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