心の軌跡Ⅱ~重なる標~   作:迷えるウリボー

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52話 Link of 《ARCUS》!①

 

 

 午前十一時前。カイトたちⅦ組B班は宿泊地に戻っていた。

 ハイアームズ侯爵との謁見を終えてからすぐだ。宿泊地は結局寝所として使えることもなく、ただの休憩場所と化している。

 現状のセントアークを取り巻く状況は不透明で、そして理解できる事象すら不可思議なものだった。

 カイトたちは、一度それを整理する。

 

 ・昨夜発生した魔獣の襲撃。

 ・そして今日、再び十三時に襲撃と導力停止現象が発生する。

 ・これらは人為的な出来事である。

 ・ハイアームズ侯爵を筆頭に、サザーラント領邦軍上層部は事情を把握している。

 ・ドレックノール要塞にも導力停止現象は生じ、正規軍の応援は絶望的。

 ・ハイアームズ侯爵は楽観視していないとはいえ、今日の襲撃を『最後』だと判断している。

 ・首謀者が結社という可能性は否定できないが低い。

 ・ハイアームズ侯爵と首謀者は既に交渉の席についている可能性がある。魔獣被害の件を考えると、しばらく前から。

 

「これが現時点でわかることか」

 宿泊地にはホワイトボードもあった。それに、考えられることを一つ一つ書いていった。

「ふむ、判明していない部分が多いな」

 ラウラが唸った。首謀者の正体と目的。何もかもがわからない。

「ハイアームズ侯爵は犯人をわかっているんだよね」

「ああ、それに今日の襲撃が最後だと言っていた。あれは確証を持った言葉だったと思う」

 エリオットとガイウスが言う。

「カイトはどう思うの?」

 フィーがカイトに問いかけた。今セントアークにいる人間において、カイトほど導力停止現象に精通している人間はいないといっていい。

「……確証はないけど、オレは結社が関わってる可能性は低いと思ってる」

 身喰らう蛇。ゼムリア大陸の歴史の裏で陰謀を働かせる謎の結社の存在を、カイトはB班の面々に説明していた。

 結社は《リベールの異変》を引き起こした。そこには《輝く環》という目的があった。だが今回は住民の被害が生じただけで、それ以上のことに発展していない。周辺には古代の遺構もない。結社が引き起こした陰謀にしては少しこずるいようにも感じたのだ。

「そもそも、革新派と貴族派の両方に敵対する勢力ってわけわからないんだよなぁ」

 カイトは頭をかいた。

 実感のあるなしはともかくとして、カイト以上にエリオットやラウラは知っているだろう。ユーシスとマキアスの争いの種の一つでもある、革新派と貴族派の水面下での争い。

 だが、今回首謀者はその両方に牙を向けている。魔獣はセントアークのみを襲ったが、導力停止現象を起こした以上は「お前も標的になる」と明言しているようなものだ。

 悩むカイトに、ラウラが告げた。

「……カイト、一つ進言するぞ。ハイアームズ侯爵は、必ずしも貴族派とは言い難い」

「それはどういう?」

「ハイアームズ侯爵は穏健派だからな」

 貴族の力を削ごうとしている革新派がいる以上、革新派に対する防衛はするのが多くの貴族の方針だ。だがそれに対して、例えばアルバレア公爵家のように強硬手段を取るのが全てではない。なんとか融和を図ろうとする貴族もいる。

「つまり、ハイアームズ侯爵家と革新派への同方向の矢印は成立するってことか?」

「あくまで可能性だがな。我がアルゼイド家にも、貴族派としての立場を明確にするよう圧力をかける家は多い」

 ラウラもまた貴族だ。だが、先月の実習で大貴族の負の一面も目撃してきた。だからこそ考えられる視点だ。

 首謀者の目的が『革新派と貴族派双方』ではなく、『革新派と穏健派ハイアームズ侯爵』である可能性。

 わからないことはもう一つある。

「それと魔獣の件だよな」

 セントアークを襲撃した魔獣の群れ。五人で話し合いほぼ確定していたことだが、イストミア大森林を探索していた時の魔獣の異常な気配と関連づけることができた。魔獣は人為的に操られ、住宅街に侵入したと考えるのが妥当だ。

「僕からもいいかな、カイト」

 エリオットだ。

「イストミア大森林と昨日のこと……ケルディックのことを思い出したんだ」

 カイトとフィーが傾注する。

 先月のA班は、ケルディックの商品の盗難事件を負っていた。紆余曲折がありながらも商品は保護でき、犯人も捕まえられたのは確かだ。

 だが、犯人を捕まえたルナリア自然公園でそれは起こったのだという。ヴェスティア大森林のヌシ、《グルノージャ》の襲撃が。

「それって……」

 カイトは考える。魔獣の強さと規模は違うが、明らかにおかしなタイミングで魔獣が襲ってきたことは一致している。

「それと……僕とガイウスは、()()()を聞いたんだ」

「笛の音?」

「ああ、明らかに自然の音ではないものだ。その直後だった。自然公園を満たす獣の気配がざわついたのは」

 エリオットとガイウスの説明は、カイトに一つの可能性を呼び起こした。

(もしかして……《G》や《C》?)

 二年前、カイトとジン、アネラスの帝国の旅路に立ちはだかった者たちがいた。ジェスター猟兵団の残党と手を組み、執拗に遊撃士を襲撃して国外への退去を図った者たち。組織の規模も不明で名称もわからなかったが、彼らには確固たる目的があった。

 あの時もルーレの鉄鉱山で魔獣の襲撃があった。その時、確かに笛の音が響いていた。

(復讐は貴族を狙ってたのか? それとも正規軍を? そもそもどうやって福音(ゴスペル)を入手したんだ……ああ、わかんねぇ!)

「カイト、そろそろ本題を決める時間」

 フィーがピシャリと言い放つ。

「どうするの?」

 時間を見る。十一時。魔獣の襲撃が来る十三時までは二時間。リミットとなる列車の発車時刻までは一時間だ。

 カイトとしては、残らないという選択肢はなかった。ハイアームズ侯爵が襲撃が来ることを知っていたとしても、導力停止現象が生じている中での戦いは熾烈を極めるはずだ。支える籠手として、魔獣の襲撃を目撃した者として、見過ごすわけにはいかない。

 何より導力停止現象が生じているなら、それを解決に導くのは自分の役目だ。

「オレは残る、けどみんなはどうする?」

 ラウラが即答した。

「何を言っている? 私も参加するに決まっているだろう」

「え?」

 思わず、狐につままれたような顔になってしまう。

 ここから先のセントアーク内は、短時間とは言え混迷の大地と化す。その危険性がわからないラウラたちではないはずだ。

 だが。

「槍術なら導力器の有無も関係ない。役にたてるはずだ」

「僕も、避難誘導ぐらいなら出来ると思う」

 ガイウスが、エリオットが、迷うことなく告げた。

 火種が渦巻く帝国に生まれ落ちたⅦ組。突発的に生じた問題を前に、自分を含めた彼らは主体的に動こうとしているのか。

「やり残したことがある。まだ実習は終われない」

 最後に、フィーが告げた。Ⅶ組への参加を「めんどくさい」とぼやいていたフィーがだ。

「私が聞いたのは、『どう動くのか』ってこと」

 ラウラも、エリオットも、ガイウスもカイトを見ている。現状を打破するために、どうすればいいのかを考えている。

 仲間たちを見くびっているのは自分ではないか。カイトは笑った。

 これが、オリビエが望んでいた景色なのだ。

「よし。それじゃあ作戦を考えよう」

 

 

────

 

 

 十二時四十分。《白亜の旧都》セントアーク。

 セントアーク市内、わけても住宅街区画は緊張とざわめきに支配されている。

 住宅街に居住する住民は昨日に引き続き聖堂広場に避難を始めている。領邦軍により魔獣襲撃の報がなされたのだ。だがその真相は語られず、一般の人間には因果関係の見えない襲撃、魔獣の暴走と伝えられていた。

 導力停止現象が再び発言する時間もまた、魔獣の襲撃と重なる。領邦軍兵士たちは導力銃を装備せず、剣や槍を構える。

 そんな中。住民に避難を促す彼らの死角を縫うように、カイト、ガイウス、エリオットの三人は住宅街の路地裏を走り回っていた。

「う、うーん……やっぱり見つからないなぁ」

 走り、止まり、周辺をくまなく探す三人。それがひと段落つくと、各々手帳に書き記し再び移動する。既に何度か、三人はこの行程を繰り返している。

 決して全力疾走ではないけれど、それなりの重労働。前日の疲れもあって、エリオットは息が切れている。

 同様の作業を行っても、カイトとガイウスはまだ息を切らしていなかった。留学生二人、褐色の偉丈夫が茶髪の少年に語りかける。

「それにしても、福音(ゴスペル)とはそこまでに小さいのだな」

「掌に収まるサイズだ。正直、見つけるのは困難を極めるけど」

 全員がセントアークに残り、魔獣襲撃に対してできることをする。そう決めた五人が考えたのは、領邦軍でもない自分たちが()()()()できることだった。

 Ⅶ組メンバーは手練も多いが、導力停止現象が発生する今回に至ってはARCUSや得物が使えなくなるので本来の戦闘力を発揮できない。ならばいっそ事態を解決するために、別のことに意識を傾注させようというの作戦に至った。

 すなわち、福音(ゴスペル)の回収、及び破壊だ。

 魔獣襲撃がほぼ確定的であり、それを行う首謀者を捉えられないのなら、少しでも街へ襲いかかる被害を少なくするべきだった。

 幸いにも、カイトは結社製、そして浮游都市(リベル=アーク)で精製された本物の福音(ゴスペル)を見たことがある。ヴァレリア湖の上で王国を巻き込んだ導力停止現象──黒く、蒼く煌めく光の波動も知っている。

 だからその特徴を教えた。Ⅶ組B班の五人はそのために住宅街を端から端まで捜索している。

 そして魔獣との正面からの戦闘を想定しないため、班を二つに分けた。男子組と女子組にだ。

 その編成を希望したのは、ラウラとフィー自身だった。

 捜索を続けながらエリオットが言う。

「ラウラとフィー、協力できるといいね」

「そうだね。あとはもう信じるだけだ」

 カイトが返す。何もしなければただ放棄するだけともとれるこの言葉は、共に時間を過ごしてきたⅦ組のメンバーだからこそ言えることだった。

「カイト、改めて確認したい。福音(ゴスペル)が置かれてる場所は住宅街のどこか。それは間違いないな?」

 福音(ゴスペル)は《輝く環》の端末であり、その半径五アージュ以内に存在する導力器からエネルギーを吸収する性質を持つ。対象となった導力器を起点として、さらに五アージュ以内に別の導力器があれば同様の現象が生じる。この繰り返しだ。この性質が明らかになる前、ラッセル博士は福音(ゴスペル)に干渉しツァイスの街の導力器を根こそぎ停止させたことがあった。

 今回も同じことが予想される。ただ問題は住宅街で連鎖反応が起こっているため、砂漠から針を見つけ出すのと同種の困難が伴われることだった。わかるのはガイウスの言う通り、住宅街のどこかにあるだろうということだけ。

 カイトは悪態をつく。

「くそ、埓があかない。もうちょっと絞ったほうがいいか……?」

 意気揚々と宿泊地を飛び出したのはいい。リスクの高い選択をしている自覚はある。それでも、もう少し可能性を狭めるべきか。

「エリオット、ガイウス。知恵を貸してくれ」

 頼りになる二人を見る。クラスを主導してはいなくても、陰日向に支えてくれる仲間だ。

「オレは福音(ゴスペル)のことを、この街の誰よりも知ってる。でもそのせいで頭が固くなってる気がするんだ。二人の考えを聞きたい」

 その時、喧騒がにわかに激しくなる。魔獣襲撃の時も近い。

「少し考えたんだけどさ。領邦軍がまだ解決できてない事件があるよね」

「俺も気になっていた。新たな視点というのなら、あえて過去に立ち返るのはどうだろうか」

 サザーラント領邦軍は優秀だ。住宅街の防衛戦は堅固に守り仰せている。それだけではない、ハイアームズ侯爵の極秘裏の判断があったとしても、住民の安全を確保するための手段は試しているはずだ。導力停止現象の排除も含めて。

 それでも事態は好転していない。領邦軍がこの非常事態を前にするあまり、警戒を怠ってしまうある場所だがあるのではないか。

 それがエリオットとガイウスの進言だった。

 一分ほど沈黙となり考える三人。

 そこだ。住宅街の中。防衛戦を引く領邦軍が気づかない場所。

 そして気づく。

「なあ、さっき聞いたことだけどさ。魔獣はイストミア大森林の方向から来ているんだよな?」

「ああ。領邦軍兵士からも聞いたところだ」

「それだと、領邦軍の注意は外へ外へと向いてく。そんな中疎かにされる場所と、明らかになっていない過去の事件……」

 カイトの思考が一歩前に進む。

「昨日の襲撃より以前の魔獣被害。その頃から……?」

「もちろん、その時に導力停止現象があったという記録はない。だが推理の一役にはなるのではないか?」

 これ以上ない、新しい視点だった。

 広がる思考。浮かぶ可能性。首謀者の狙いと予想。

 やがて生まれる、ひとつの答え。

「虎穴へ入らずんばってか。とんだ修羅場になりそうだ」

 滴る汗を拭い、カイトは苦しげに、挑戦的に笑ってみせた。

 その時。

 魔獣の進撃が、セントアークに激震をもたらした。

 

 

────

 

 

 住宅街。武器商会や工房、雑貨屋などが軒を連ねる場所を、ラウラとフィーは歩いている。

 男子三人と異なり、彼女たちの足取りはゆったりとしていた。導力停止現象を引き起こしている福音(ゴスペル)は明らかにそうだとわかる特徴とはいえ、カイトがいない以上は慎重を気する必要がある。そう判断した二人は、どちらからともなく歩くことを選択した。

 十三時五分前。配置を告げる領邦軍兵士の叫びと、言いしれない緊張が街を包んでいる。

「フィー」

「なに?」

「そなたがいた『戦場』とは、こんな緊張が当たり前のような場所だったのか?」

 捜索のための人員分散。この組み合わせを希望したのは二人ともだが、提案したのはどちらだったか。

 覚えていない。たぶん、お互いがそのつもりで喋って、別の組み合わせを話すカイトに朴念仁さながらの疑問符を浮かべたのだ。『何を言っている?』『何を言ってるの?』と。

「そうだね。こんなのじゃ生ぬるい、かな」

 先月の実習報告以降、緊張状態を帯びていた二人の間の空気は、今だって変わらない。けれど今は穏やかな会話がある。

「私がいたのは《西風の旅団》。大陸西部で双璧と言われる猟兵団のひとつ」

 フィーが明かしたのは身の上だった。ポツリポツリと呟かれるのではない。どうしていいかわからなくて不意に猟兵時代のことを呟くのではなく、今の彼女には確固たる意思があった。

「気がついた時には戦場にいた。それが私の当たり前だったの」

 フィーは戦争孤児だった。親の顔も知らず、生死も定かでない。

 戦火が吹き荒れる大陸のどこか。辺境の紛争地帯、数多くの猟兵団が雇われ跋扈し、殺し合うその場所に独りでさ迷っていた。

 フィーを拾ったのは《猟兵王》と呼ばれる人物だった。その称号と立場に違わぬ能力の持ち主……だがフィーにとっては一人の育ての親だ。

「団員は変わった人ばかりだったけど、みんな私を可愛がってくれた。カイトが孤児院の家族のことを話してくれたけど、たぶん同じだと思う」

「……そうか。家族か」

「うん」

 成長するにつれて、フィーも家族の一員として家事を手伝うようになっていった。掃除に食事当番に荷運び。それは生活の一部だ。そして空いた時間に、戦場で生きるための技術や知識を教わるようになっていった。

「私は十歳で実戦を経験した」

「それは……人を?」

「ううん。でも、冷たくなっていった人は知ってる」

 《猟兵王》その人は、フィーが戦場に立つことを良しとしていなかった。しかし団員が《猟兵王》を説得し、フィーはその才能を発揮し、いつしか西風の妖精(シルフィード)と呼ばれる猟兵指折りの使い手となった。

「それが、フィーが猟兵となった経緯」

「うん。確かに、間違ってるかもね。子供が戦場にいるのが『良くない』ことなんて、誰でも知ってる。でもそれが私」

 その時、魔獣の進撃がセントアークに激震をもたらした。

 刻限だった。軽い地響きと領邦軍の号令が聞こえる。同時、空気を伝わる微かな違和感。導力停止現象が巻き起こり、住宅街に影が生じる。

 この時間には間に合わなかった。それでも、まだ出来ることはある。

 そう思ったとき、二人の前に魔獣が現れた。

 畑あらし、飛行昆虫型のアイアンベイス、飛び猫の亜種ウィッチキャット。無数の魔獣たちだ。領邦軍の防衛線に漏れがあったか。

 戦闘よりも福音(ゴスペル)の捜索を優先したのは確かだが、そうも言っていられない状況となった。大剣を、銃が死んだ双剣を振るう。

 二人の間に連携はない。単一で魔獣を叩きのめす。

 ふと、ラウラの視界に逃げ遅れた住民が映った。母と娘。その方向に向かう魔獣たち。

 恐怖の表情が相貌に張り付く。引き伸ばされる一瞬。ラウラは走る。

 住民に飛びかかるウィッチキャット。その蹴りを大剣の腹で受け止める。

 反動で反り返ったウィッチキャットの背にフィーが飛びかかる。双銃剣が閃き、その羽と体を切り裂いた。

「ここは危険」

「一刻も早く避難するがいい」

 告げるフィーとラウラに感謝を返す母と娘。彼女たちは聖堂広場へかけていく。

 魔獣たちは一匹一匹は大したこともなかった。第一群はこれで終わるが、まだ魔獣の気配はそこかしこに存在している。

「私も質問していい?」

 双銃剣に付着した体液を払って、フィーはラウラに聞いた。

「どうしてそんなに《正道》が大事なの?」

 ラウラがフィーを見た。

「戦いには目的がある。戦いは手段でしかない。そのために試行錯誤するのが私たちだよ。それでも、ラウラが人を守ろうとしたのはどうして?」

 問いかけた自分自身がラウラと同じ行動を取っていたとしても、フィーはラウラに聞かずにはいられなかった。

 実直で竹を割ったような性格。騎士道精神にあふれた剣士。ラウラをよく知る人はそう答える。

 そのラウラが、長い沈黙を作った。

「……それはたぶん、私の中の()だからだろう」

 アルゼイド家の息女として生まれ、父の背を見て育ってきた。父は《光の剣匠》と言われ、帝国の五本の指に入る剣士。その精神は崇高で、家族として以前に剣士として尊敬できるものだった。

 物心が着く前から、剣の道はラウラとともにあった。周りの剣士たちも父を尊敬する。日々まっすぐ成長するラウラを可愛がってきた。

 ラウラの人生は、曇りのない、たゆまぬ努力と研鑽を重ねる道とともにあった。一切の雑念が入らないほどに。

「だから、ラウラはまっすぐなんだね」

「うん。だが、確かに正しさだけで正しさは語れないかもな。そんな理屈が通用しない戦場が、私の知らないところに確かにあったのだから。だが、これが私だ」

 ズシンズシンと、騒ぎの中に荒れ狂う殺気が混じる。

 二人は同時に振り向いた。

 咆哮とともに地を蹴る大型魔獣。大きさは導力車に匹敵している。

 全身が厚く硬質化した皮膚で覆われ、けれど機動力を両立する体躯。導力車をもひっくり返す膂力と他の魔獣を容易く貫く大きな角。

 手配魔獣クラス、ライノサイダーが二体。

 大剣、そして双銃剣を構える。

 ラウラはふっと笑った。それは魔獣の出現によってなどではなく、フィーとの会話によるもの。

「似たもの同士なのだな、我らは」

「似たもの? 私たちが?」

 気づいた時には戦場にいたフィー。

 気づいた時には剣の道に立っていたラウラ。

 フィーが薄く微笑んだ。

「いいね、それ」

 ライノサイダーの巨体が、ラウラとフィーに迫る。

 二人のARCUSに微かに熱が生まれた……気がした。

 

 

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