カイトは思考を巡らせる。
ハイアームズ侯爵が首謀者と交渉しているなら、住宅街という狙われる場所にただ狙う標的として以上の意図はないはずだ。単に一つの区域を狙う必要があり、この住宅街はたまたま選ばれた。その次に導力停止現象の発生がある。
対して、数日前のに生じて依頼も出された魔獣被害。その時に導力停止現象は報告されていなかった。恐らく、実際にも発生していないはずだ。一度発生してしまったら、瞬間的に騒ぎになってしまうものだ。
つまり。魔獣被害は、昨夜と現在の魔獣襲撃を見越していたものではないのか。
魔獣被害の発生場所は住宅街と聖堂広場。住宅街と聖堂広場にあって、貴族街にないもの。それは貴族の存在もそうだがそれ以上に──
「水路だ。住宅街に張り巡らされている水路からか!」
帝都を始め、五大都市には地下水路が張り巡らされていると聞く。
そして、そうなると
効果範囲の五アージュは球場に発生する。道の真ん中に落としてしまえば街頭から地下の導力灯まで届く可能性が高くなるが、地下水路のどこかにあるなら、地上へ及ぶ可能性はもう少し限定できるため、住宅街を狙いやすい。
かつこの非常事態なら、今更領邦軍兵士も水路なんて気にしないのではないか。
カイト、エリオット、ガイウスは地上の水路を片っ端から探しまくった。周囲は既に魔獣と兵士の戦いで叫び声と鳴き声と殺気に満ちている。
「……見つけた!」
道と道の間にある水路。当然侵入防止や異物排除のための網がかけられているのが普通だが、カイトたちが発見したそれは、容易に外れるよう工作がなされていた。
カイトが構わず、水路に飛び込む。水位は膝上程度だが、水しぶきを上げ、制服をずぶ濡れにした。
「二人とも行くぞ!」
「承知!」
「え、ええ!?」
ガイウスが勢いよく、エリオットが戸惑いまごつきながら水路に降り立った。
カイトたちは金網を外し、水路の中へ入り込んだ。
反響する水音、暗くなる視界。自分たちの声が小さく聞こえる。
あるのは微かな光だけだ。
「うう……まさか水路に入るなんて」
滝のような水の音に紛れて、上層である地上からは悲鳴や怒号が響いている。それは領邦軍が魔獣と戦っている証拠だ。今地上では、導力器を抑えられた領邦軍たちが懸命に抗っている。
少しでもその未来を明るくするため、カイトたちは進む。
水の抵抗をかき分ける。わずかな光を頼りに歩く。そうして水路を下がっていく。石造りの滝を飛び降りる。
もう全身がずぶ濡れだった。少しずつ体力を奪われる中で、カイトたちはしっかりとした地下水路の歩道に上がった。
ここがセントアーク地下水道だ。
偶然にというべきか、そこは広場だった。点検用地下水道の中継点なのだろう、四方に水路と歩道が続いている。
カイトは笑った
「ビンゴ……!」
あった。
だが、それを阻む数十体の魔獣の群れ。
「悪しき気を感じる。魔獣被害の出処というわけか!」
「魔導杖やARCUSが使えないと、まずいよ……!」
今まともに戦えるのはガイウス一人だ。さすがに分が悪い。
「エリオットはできるだけ退避! ガイウス、魔獣を頼む! オレが
短期決戦しかない。
「任せろ。風と女神の加護を、カイト」
「た、頼んだよ!」
散開。ガイウスが十字槍を振るう。飛び出したドローメを薙ぎ払い、体を回転させながら襲いかかる飛び猫に石突を喰らわせる。勢いを殺すことなく浮遊する魚型のワニシャークを穂先でえぐり込む。
奮迅するガイウスの影からカイトが飛び出す。全力疾走、襲いかかる魔獣の本気の攻撃を次々と躱していく。
「す、すごい……!」
エリオットが唸った。自分と同じようにずぶ濡れ、ガイウスより小さい体躯では体力も少ないはず。それでも、カイトは泥臭く魔獣の攻撃を躱していく。頭突きを、噛み付きを、爪牙を紙一重で。
前転、飛び上がりからのサイドステップ。頭を抱え込みスライディング。魔獣の背に飛びかかってからの大跳躍。
「はっ……はっ……!」
ひとつひとつ躱す。例え導力器がなくとも、自分はこの足で異変解決に尽力してきたのだ。
そうしてカイトは台座にたどり着き、
さすがに運が尽きる。飛び猫の背後からの蹴りをまともに受ける。どこにでもいる魔獣だが、まともに喰らえば体に響く。どんな魔獣相手にも油断はできない。
「ぐぁっ……」
勢いを流すためにあえて地面を転がる。筒のようになすがまま数回転。ようやく体勢を整え起き上がった、その視界いっぱいに広がるワニシャークの大きな口腔。
「はっ!」
ガイウスの気合が漏れ出る。跳躍したガイウスが槍を突き立て、真上からワニシャークを串刺しにする。
「サンキュ!」
「行け、カイト!」
走る。ガイウスが耐えてくれることを信じ、彼に魔獣の注意が引くように動いた。カイトはそのまま半逃亡、ガイウスが魔獣を相手に奮闘する広場から遠のき、通路のひとつに転がり込んだ。
疲労のあまり壁に背を預け、それでもカイトは手にした
「なんだかんだで初めて手にするな……」
軍事クーデターから浮游都市まで、リベールを惑わし続けた漆黒の福音は、周囲の稼働中の導力器に干渉して今も青黒い波動を出している。
カイトはそれを地面に叩きつけた。しかし漆黒の導力器は乾いた金属音を響かせるのみ。
ラッセル博士の報告のとおりだ。
「でも……こちとらケビンさんに話を聞いてたんだよ!」
かつて殲滅天使レンが狂ったお茶会を開いた時、カノーネ・アマルティア元情報部将校が陰謀に加担し
結果、
なら、それをこの場でやってみるしかない。
この場に
自分が持っている、導力を補給するEPチャージをありったけに取り出す。そのカプセルと
そして。
「……ごめん、ティータ」
カイトは魔導銃を取り出した。カイトのZCF製試作型魔導銃は、大きな導力機構を備えている。技術者からすれば小型化が目標なのだろうが、今のカイトからしてみればこの大仰な導力回路が必要だった。
そのために魔導銃を壊してしまうことこそ、カイトの心が軋む。
一秒の瞑目。カイトは意を決して、魔導銃を
衝撃。白光。大きなノイズとともに、漆黒の導力器から小さな煙が上がっている。
その時、地下水路の灯りが一斉に明滅し、そして復活した。
体に訪れる活力。戦術オーブメントが術者に与える恩恵である身体強化だ。
つまり。
「やった……賭けに勝ったぞ!」
カイトはこれ以上ない快哉を上げた。
「エリオット、ガイウス! 行け!」
カイトの声を聞くまでもなくわかっていた。エリオットの導力杖にはアクアマリンの輝きが灯り、二人の体に力強さが灯される。
「やった、これで!」
「よくやってくれた、カイト!」
復活したのだ。これで、魔獣の襲撃に立ち向かう全ての人の戦況が変わる。
魔獣は残り十体。たった二人、それでも立ち向かってみせる。
褐色と可愛らしい二人の少年は、活力を宿した声を響かせた。
『ARCUS駆動!』
金色の光軸が、二人を繋げる。
────
二体のライノサイダー──AとBは、明らかに普通の様子ではなかった。イストミア大森林でガイウスが言ったように、慄きその恐怖のあまりに興奮しているように感じられる。
一体のライノサイダーAが突っ込んでくる。ラウラとフィーは二人同時に跳躍した。
フィーが身軽な体捌きで遠くに逃れるのに対し、ラウラは大剣の重さもあってライノサイダーAの側面に着地。そのまま大きく大剣を振り切る。硬質化した皮膚の隙間、可動する皮膚の間の脆弱な部位を狙う。
当たった。だが致命傷ではなかった。斬撃は浅く切り裂くに留まり、もう一体Bがラウラの四肢をもぎ取ろうと角を突き立てる。これもラウラは辛く躱す。
フィーが飛び出し、ライノサイダーAの頭部に踵落としを見舞い注意を自分に向ける。咆哮とともにライノサイダーAが突進を繰り出す。愚直な一撃、しかし正面衝突でもすれば致命傷は避けられない。
このままライノサイダー二匹を住宅街のど真ん中で暴れさせるのは躊躇われた。ラウラとフィーは、どちらからともなく走り始める。
「ところで、フィーはなぜトールズに? サラ教官とは元々知り合いだったとのことだが」
ラウラも剣士として日頃から鍛えているから、ある程度の速度を保ちながら走ることはできる。それはフィーも同じだった。
「思うところがあって脱退したのか?」
「私が団から離れたんじゃない。団のみんなが私を置いていったの」
フィーの《西風》での日々は《猟兵王》の死とともに終わった。
《赤い星座》──《西風の旅団》と並ぶ大陸最大規模の猟兵団。その長は《闘神》と呼ばれていた。
《猟兵王》は宿敵である《闘神》との一騎打ちを果たすこととなった。それは歴史の裏で行われた大陸の趨勢を変える出来事だった。
三日三晩の死闘の果て……その戦いは両者相討ちとなって幕を閉じる。
そして、《西風の旅団》は解散した。ただひとり、フィーを残して。
そうしてフィーはサラと出会った。とある事情で二大猟兵団の動向を追っていたというサラはフィーと居合わせ、事情を話したフィーを強引に士官学院に連れて行った。
ラウラとフィーは路地裏まで足を運ぶ。ライノサイダー二体は愚直に二人を追いかける。
「ラウラこそ、どうしてトールズに?」
「私の場合は単純だ。目標とする父に追いつくために」
《光の剣匠》ヴィクター・S・アルゼイド。それがラウラの目標だ。
「《猟兵王》。そなたの育ての親は、猟兵という存在のひとつの到達点だったのだな」
「うん。容赦はしないけど分別はあった。変な人だけど自分の役目は絶対に果たす。団長はそういう人だった」
「フィーは寂しかったのか。家族が離れるのが」
「そだね。団のみんなも、団長がいなくなったのだって納得できない」
二人は路地裏の行き止まりにたどり着く。それなりの広さはある、しかし巨大なライノサイダーを相手にしては分が悪い。背に壁の圧力を感じ、二人は魔獣を見据える。
「だから、あの人と同じ景色を見てみたいとは思うかな」
「そうか。やはり我らは似ているな」
その時、街中を波動が巡る。導力停止現象の終焉だ。
身体にみなぎる戦術オーブメントの身体強化。
カイトたちが、やってくれた。
ラウラは大剣を持つ手を、一瞬だけ強く握る。
「ようやく私はそなたのことを知れた」
「私も、少しはラウラのことを知ったかな」
「《リンクブレイク》の原因は、互いが合わないという諦めだった」
「そだね。私もそう思う」
ラウラは猟兵にいい感情を抱いていなかった。フィーはそんなラウラとの連携を、半ば諦めていた。
けれど。葛藤したこと、意思を貫いたこと。お互いの成り立ちを聞いたこと。
「我らは、何一つ間違っていなかった。その結果が今ここにある」
「うん」
ARCUSが熱を帯びる。
操作なんて必要ない。戦術オーブメントは自分の身体の延長戦上にある。
そしてその意思も、言葉に乗せる必要はなかった。
「行くぞ、フィー」
「任せて、ラウラ」
連携でも何でもない。『駆動』の一言さえ要さない。全く同じ瞬間に、二人は意識を繋げる。
輝く金のラインが伸びて、二人の間でぶつかり瞬く。
途切れることのない絆が、今ARCUSを通して顕現した。
私が仕掛ける。
承知。
言葉とならない意思が閃き、何も言わずにフィーが動いた。
跳躍し壁を蹴り、二体のライノサイダーの真上へ。飛び越えながら双銃を乱射する。
ラウラが大剣を振り上げる。ライノサイダーAに向け大上段から斬り込む。それはまだ硬い皮膚に遮られ、浅い亀裂を作るに留まる。
反撃の意図があるのかないのか、ライノサイダーAは身をかがめて突進。それをすんでのところで躱したラウラは、油断なくライノサイダーAを見据えた。
「こっちだよ」
フィーが疾駆し、ラウラを襲おうとしていたライノサイダーBに奇襲を仕掛ける。双銃剣では致命傷にはいたらないが、皮膚の柔らかい部分に当たれば失血はする。怒りとともに、ライノサイダーBは小さな少女を視界に捉える。
今、二体の魔獣をラウラとフィーが挟み込んだ立ち位置にいる。
フィーが横に避けた。直後に地を裂く衝撃波が二体のライノサイダーを蹂躙した。ラウラの戦技だ。
追撃。暴れる二体を相手に、フィーは
ライノサイダーAとBがわけもわからずに突進。ラウラとフィーは容易く避けた。二体とも街の壁にぶつかる。衝撃とともに埃が舞い、さすがの魔獣もよろめく。
「ふむ、さすがに街まで無傷とは行かないか」
「それは仕方ないね。次の課題」
今、ラウラとフィーは背中合わせとなっていた。二人を挟むように、混乱から回復したライノサイダーたちが構える。
少女二人は、ジリジリと左右へ動いた。
それは布石。
ライノサイダーたちが突進する。
避けることは困難ではなかった。重要なのはタイミングだった。そのために二人は左右へ動いた。位置の調節が必要だったのだ。
「これでいいな?」
「ん、上出来」
ギリギリのタイミングで二人は跳躍。それはフィーとのリンクによりラウラも可能となる搦手。
標的が消えると、目の前には同族。二体のライノサイダーが、互いに正面衝突した。
凄まじい衝撃。あまりの圧力に一瞬のためが生じ、そうして膨れ上がったエネルギーが爆散。ライノサイダーの角は折れ、今度こそ足取りがおぼつかなくなる。
見逃さない。ラウラは力をため、フィーはステップを踊りだす。
フィーの突進、翻って二撃目、三撃目。間を縫うようにラウラの光る大剣が大きく振られる。
シルフィードダンス、そして洸刃乱舞。それぞれのリスクを度外視した大技がライノサイダーの身体を切り裂く。
ゆっくりと傾くライノサイダーたち。導力停止現象が収まったからだろう、周囲の喧騒もまた混乱から快哉に変わりつつある。
魔獣が完全に沈黙し、地に倒れた。路地裏に立つのはラウラとフィーだ。
お互いを見た。無傷であることを確認する。《戦術リンク》の光軸が名残惜しげに解かれる。正面に立つ。
「我らを阻めるものなど」
「いるわけないね」
ハイタッチ。二人は、屈託のない笑みを浮かべた。
────
エリオットの魔導杖から波動が放たれる。攻勢導力の衝撃波が魔獣を打ち据え、ひるんだところをガイウスの十字槍が屠る。
思考が閃き、ガイウスの後ろを付け狙う飛び猫を、魔導杖の柄頭で押さえ込んだ。身もせずに石突で飛ばす。さらに正面にいた魔獣へ渾身の突きを繰り出す。
「ARCUS駆動……!」
エリオットが止まる。纏うのは青色の波だ。その数秒はガイウスが守り、収束した波の代わりに
さらに、ガイウスが跳躍した。一瞬のため、覇気を纏い振り下ろす。衝撃が地下水路の地面を伝わって伝播し魔獣たちを飲み込んだ。
沈黙する魔獣たちを睥睨し、エリオットとガイウスは得物を振り払う。
カイトが戦線復帰をする前に、エリオットとガイウスは魔獣を蹴散らした。それはガイウスの強さであり、エリオットの成長の証であり、Ⅶ組が持つARCUSの可能性でもあった。
「おっしゃぁ!」
「えへへ、やったぁ!」
「俺たちの勝利だ……!」
魔獣たちの沈黙と水音が響く中、カイトたちは叫んだ。敵を倒し、自分たちで決めた目標を達成する。
先月とは違う、確かな手応え。導力停止現象が収まった以上、領邦軍も少しずつ勢いづいて魔獣を追い払えるだろう。
「ラウラとフィーは大丈夫か……?」
ガイウスが問い、カイトはARCUSを操作する。ラウラのARCUSの番号を入力。機械音が数回鳴り響いて、通話モードとなる。
『こちらラウラ。やったな、カイト』
「カイトだ……って、まだ何も言ってないだろ」
『そんなことはない。三人がやってくれたのだろう?』
通信の向こうのラウラの声は清々しいものだった。
カイトは自分たちが地下水路にいることを話す。そして。
「ああ。
『成果はもう一つあるぞ』
ラウラの言葉に、カイトのみならずエリオットとガイウスの二人の表情も明るくなる。
『《戦術リンク》を成功させた。……その、迷惑をかけたな』
フィーの声も聞こえた。
『ありがとね、三人とも』
沈黙するカイト。少年の身体が徐々に徐々に縮こまり、完全にしゃがみこんで──
「……ぃよっしゃーっ!!」
飛び跳ね、全身で喜びを表現する。その五月蝿さなど気にせず、エリオットとガイウスが喜んでハイタッチ。地下水路の鬱屈さなど気にもならず、男子三人は年頃の少年のように無邪気に笑い合う。
その馬鹿笑いを一通り聴き終えて、ラウラは呆れたように笑っていた。
『まったく……感謝する。我らは引き続き領邦軍と協力する』
「わかった。オレたちもすぐに地上に出る。また後で会おう」
状況を報告し合い、通信を切る。
「よし、ここが踏ん張りどころだ。最後まで気を抜かないでいこう」
カイトは二人に話した。まずは地下水路の入口を目指さなくてはならない。
そうして三人は歩き出す。そこでカイトは一つ思い出した。
「そうだ、ちょっと待ってくれ」
「どうしたの?」
「
魔獣との戦いの舞台となった広場。その中央でガイウスとエリオットは立ち止まった。カイトはそこから離れ、さきほど一人逃れた通路側へ走る。
そこにはショートしたままの
それらを拾った、その時。
「カイト、伏せろ!」
「え」
ガイウスが叫んだ。振り向いた時には、彼と自分の間の天井に光が溢れる。
そして轟音、爆発。
崩落する天井。瓦礫の山が通路を塞ぐ。
「うわぁ!?」
「カ、カイト!」
カイトはすんでのところで後ろに引いた。瓦礫でいっぱいになる視界。エリオットの狼狽の表情も見えなくする。
土煙に咳き込み、静寂が訪れてからカイトは現状を確認した。通路が完全に分断され、エリオットとガイウスと分たれた。
「カイト! 大丈夫か!?」
くぐもったガイウスの声が聞こえる。
「……大丈夫だ、負傷もない! そっちは?」
「僕たちも怪我はないよ!」
ひとまずの緊急性はないようで、カイトはほっと息を吐く。
「合流できそうもないな。二人共、仕方ないから地上で合流しよう」
「わかった。くれぐれも身の安全に気をつけてくれ」
「また後で会おうね!」
それぞれ歩き出す。地下水路の構造はわからないから不安は残るが、二人の安全を祈るしかない。そして自分の身の安全にも気をつける時だ。
カイトは進む。だが、すぐに立ち止まった。
「……はぁ」
嫌な予感はしていた。
確実にイレギュラーでなければ成し得ない所業だとは思っていたのだ。
「やれやれ……そのまま導力器を忘れていればよかったものを」
男の声。しかし変声機によってくぐもったそれは粘りあるあるものだ。
漆黒の仮面。漆黒の外套。威圧的な雰囲気、そして身の丈もある
「嫌な予想が当たってくれたな」
「まあ、歓迎しよう。カイト・レグメント」
「嫌だね、仮面野郎」
《C》──かつて辛酸をなめることになった強敵との、二年ぶりの邂逅だった。