心の軌跡Ⅱ~重なる標~   作:迷えるウリボー

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54話 黎明③

 

 

「そういえば、ファストさん。《累加》と《グランシュトローム》、本当に助かりました」

 ファストを招いての談笑は続く。その折、カイトはふと思い出した。

 ルーレでの依頼のお礼として、カイトはファストから二つの結晶回路(クォーツ)を受け取っていた。当時の主流であった第四世代型戦術オーブメント用でありながら、ARCUSと同じコンセプトでファストが自ら()()した二つのクォーツ。

「きっと、あれがなかったらオレは異変の解決に尽力できなかったですから」

「お役に立てたのなら幸いだよ」

 カイトは戦術オーブメントを使ってリベールの旅路を駆け抜けた。わけても浮遊都市での戦いにおいて、大規模アーツは常にカイトの切り札となっていた。 

 アリサがポツリと答える。

「《リベールの異変》、ね。正直、貴方がその中心にいたなんて普段の授業態度からは信じられないのだけど」

「失敬な」

 若干棘のある物言いだったが、アリサからしてみれば全くの本音だろうからなにも返せなかった。

「大変だったんだぞ。猟兵が王都を占拠したし、王国中で導力が停止した」

「それはもちろん知ってるわよ。でも、それならどうして貴方が前線にいられたのかって」

「みんながオレに託してくれたからね。《零力場発生器》を」

 《零力場発生器》。福音(ゴスペル)の導力吸収を無効化してくれるユニットだ。

 技術革新が続き、煽られるように軍拡がなされるが、ZCFはむしろ《零力場発生器》の技術を平和のために各技術工房に公開している。この場の三人なら概略は知っているだろう。

「それでも、導力銃は使い物にならなくなったし、しばらくRF社製の火薬式軍用拳銃を──」

 はっと、カイトは自分の言葉によってひとつの話題を思い出した。

「そうだ、ファストさん! 実は導力銃について相談したいことがあったんです!」

 ファストは嫌な顔をせず、続きを促す。アリサはカイトの豹変ぶりに気圧されたが、ARCUSの話からは離れたかったのか、カイトの話題変更を止めない。シャロンは変わらず微笑んでいる。

 カイトは事の経緯を話した。ZCFの試作型魔導銃がセントアーク実習で壊してしまったこと。導力停止現象に対するカイトの反省と、今後の武装に関しての話だ。

 ファストはまず聞く。

「そのジョルジュ君? の言う通り、確かに修理について僕が出せる手はない。けど、武装の観点から言うなら少し話せるかもしれないよ」

 カイトは自分の見解を話した。

「今は……やっぱり《異変》の時みたいに、火薬式の武装も必要なんじゃないかって思っています」

 ティータとの縁もあり、カイトはZCFの試作型魔導銃を扱ってきた。それは心強かったし興味もある。だが現実として、カイトの前に立ちはだかる敵はことごとくカイトの予想を超えてくる。

 帝国にいる限り、《C》とまた事を構えたって不思議ではない。その時、再び導力がかき消されないとは限らない。いや、そもそも自分はまた立ち向かえないかもしれない。

 そんな未来は嫌だと思う。少しでも自分の戦える手段を、突破力を増やしたいのだ。

 《リベールの異変》で、カイトはレーヴェやレンの言動をヒントに《並戦駆動》を自分のものにした。魔法と銃で、前者の可能性を広げた。

 次の段階が来ているのかもしれないと、そう思った。

「そのために、今までよりみんなの助けになるような……敵を屠れるような、そんな力が必要じゃないかって」

「なるほど」

「ただ、火薬式銃器の威力とリスクの高さは理解しているつもりです。だから、少し悩んでいて」

 カイトは剣や槍といった武術としての武器を使わない。立ち回りや訓練で集弾率や戦略を変えられるが、それでも個人の努力では実力に限界が来る。考えるべきは仲間の中で、自分の目的に叶うだけの工夫をすることだ。それによって武器を変えることにためらいはない。

「……結論から言うと、RF社製の銃器には動力を火薬と導力で切り替えられるラインナップがある」

「え、そうなんですか!?」

 初耳だ。だがRF社に連なる三人には周知のことだったようで、カイトと違い驚いている様子はない。

Trans Chamber System(トランス・チャンバー・システム)、頭文字をとって《TCS》と言ってね。発砲に必要な動力を生み出す銃の薬室(チャンバー)を、導力式と火薬式で切り替える機構なんだ。数は少ないけど、市場にも出回ってる」

「そんなものが……」

「マキアス様の導力散弾銃の場合、実弾とレーザー弾を切り替えることができますが、それの亜種ということになりますわ」

「あの、シャロン。なんで見たこともないマキアスの散弾銃の詳細を知っているのよ」

 そもそも導力革命以前、銃の動力は火薬によって賄われていた。火薬の燃焼によるガスの圧力を利用して、弾丸を射出する仕組みだ。そのために弾丸には弾頭と爆発を起こすための火薬と雷管が、銃本体には雷管を起動させるための撃鉄が備わっていた。

「ファストさんって、導力技術者ですよね? 火薬式兵器にも詳しいんなんて」

「RF社は元々歴史ある武器工房が前身だからね。導力革命以前は当然、今でも火薬式兵器を取り扱ってる。社員もこのくらいの知識は披露できるさ」

 そして現在の導力銃は、火薬式のそれとは仕組みが異なっている。トリガーを引くと撃鉄ではなく導力器が作動し、銃身内部でエネルギーを収束させて弾丸を射出する構造だ。その構造から、火薬式とは異なり導力によって反動や威力を制御できるのが導力式銃器の強みなのだ。

「ただ、カイト君の望みに叶う商品があるかはわからない」

「どうしてですか?」

「TCSが組み込まれている銃器のラインナップは小銃(ライフル銃)や散弾銃、機関銃といったタイプにあって、拳銃には存在しない」

 なぜか。カイトからすれば当然の疑問だった。

 そもそも導力銃はその構造によって女性や子供でも扱うことができるものになっているが、火薬式では拳銃でも男性が一丁のみ扱うのが現実的だ。発砲時の反動や銃そのものの重みから考えても火薬式拳銃は鍛えていない女性には不向きだし、現実的な装弾数なども含めると二丁拳銃なんて芸当は導力銃でないと実現できない。

 片手で拳銃を扱うこともそうだし、導力銃には薬莢(やっきょう)を入れる必要がない。弾丸は小さくなり、必然最大装弾数も多くなる。また薬莢にEPチャージと同じ仕組みで導力エネルギーを込め、これを威力に上乗せするタイプも存在している。

 何より最大の理由は、導力式の薬室と火薬式の薬室は導力器の有無も含めて構造が異なることだ。そのため切り替え式は得てして大柄になり、現状拳銃の大きさにTCSを組み込むことはできない。

「だから、RF社はおろか、恐らく大陸の技術メーカーを見渡してもTCSのある拳銃はないと思うよ」

「ええ……」

 その話は少しショックだった。

 火薬式拳銃の威力は高いが、扱いにくいのは周知のこと。それをわかっているから、火薬式だけという選択肢もない。それでは戦場を屠る猟兵とまるで変わらない。

 唸っていると、アリサが口を開いた。

「貴方は、自分の得物にこだわりがあるのね」

 二丁拳銃のことだ。魔導銃という小柄な武器に対してもだろう。

「オレに銃の扱いを教えてくれた師匠はライフル銃を使ってたし、そっちにも心得はある。二丁拳銃を選んだのは、最初に触った親の形見の銃だったからなんだ」

 今は片割れがヴァレリア湖に沈んでいる元相棒。遊撃士としての未来を考え始めた時から、カイトはずっとそれを使っていた。

 確かにこだわってはいた。自分を命がけで守ってくれた両親の分身だから。

 でもある時からその行動を縛る鎖は消え失せていたように思う。はっきりとした時期は覚えていない。けれど、レーヴェに銃を斬られた時を思い返すと、どうしてか殆どショックに感じなかった。

 それでも、《リベールの異変》が終わった後もカイトは二丁拳銃を選んだ。鎖を取り払った上で、その上でそのままでいたいとも思った。

 アリサは少しぶっきらぼうに息を吐いてカイトを見た。

「ふぅん。貴方の戦闘スタイルだったらライフル銃に変えるのも手かと思ったけど、無粋な提案だったみたいね」

 パルムでもセントアークでも、カイトはクラスメイトのフォローに回っていた。アリサも手配魔獣戦のあらましは知っている。だからこその可能性を広げる選択肢だ。

 身のこなしを落とすことにはなるが、ライフル銃は拳銃より威力も射程距離も上だ。

「アリサの提案は一理あるよ」

「さすがはアリサお嬢様。ご学友のために真摯に考えた提案を。このシャロン、感激いたしましたわ」

「だから、そういうこと言わない!」

 それに、二丁拳銃に関してはフィーもいる。けれど自分とフィーでは明らかに戦闘スタイルが異なる。同じ得物だとしても、決してなしな選択ではない。

「よし。それならこうしよう」

 ファストが手を叩いた。

「例えTCSといわなくとも、カイト君の望む『導力式と火薬式を併用するような拳銃』を僕が考える」

「できるんですか?」

 それは技術的制約とファストの物理的な問題、双方の意味だったが、当の青年はあっけらかんとしていた。

「苦心していたARCUSも今は試験運用段階だ。僕も会長から『新武装の開発』も検討するよう言われてるからね。これは腕がなるよ!」

 むしろ喜んでいる。そういえば、ルーレで別れ際の時もこの青年はティータのように無我夢中で話していたか。

 カイトが女性陣二人に目をやると、アリサは困ったように、シャロンは面白そうに笑うだけだった。ファストのこの行動はいつものことのようだ。

 後からシャロンに聞いたことなのだが、この少し自分勝手な行動は、イリーナ・ラインフォルト会長も黙認しているらしい。その理由は『そのほうが有用な開発を多くしているから』だという。実際以前もカイトと出会ったし、今回もこうして新たな開発に着手しようとしている。案外馬鹿ににできないのかもしれない。

 改めて、カイトはこの頼りになる青年を見やる。

「よろしくお願いします。嬉しいです、ファストさん」

「こちらこそ! やっぱり、君との話は大いに刺激されるよ!」

 

 

────

 

 

 それから二日間、ファストはシャロンとサラを通じてⅦ組メンバーの紹介を受け、一人一人にARCUSの使用感を聞いて回った。

 カイトとアリサほどとはいかなくとも、全員が全員それぞれの知見を基に話ができる。フィーなども、元猟兵の視点から語ることができる。

 Ⅶ組メンバーからして見れば面白いのがマキアスとユーシスで、二人がファストにリンクブレイク時の反応などを事細かに聞き出すものだから、第三学生寮は珍しく怒声や笑い声が響き渡った。

 またエリオットとエマについては魔導杖についても熱心に話を聞いていたようで、ファストは朝から晩までⅦ組メンバーを呼び出してはやや独善的に、しかし周りを巻き込むように楽しげに話していた。

 そうしてファストが嵐のように去っていった日から一夜。六月二十三日。

 午前中の授業を終え、学食を済ませたカイトをサラが尋ねる。

「カイト、君に導力通信が来てるわよ」

「オレにですか?」

 学食で彼女と会うのは珍しく、呆気にとられる。食べ終えていてよかった。

「この後は実技テストですよね? 大丈夫なんですか?」

「国外からの通信だし、参加に多少遅れてもいいから出てあげなさい」

「国外から?」

「ええ。ZCFからよ。心当たり、あるんじゃないから?」

「あっ」

 ある。大ありだ。

「というかトールズに導力通信器があるのは知ってましたけど、国際通信もあるんですね」

「それはそれ。ビアンカさんに声をかけてみなさい。準備して待ってくれているから」

「わかりました。それではカイト・レグメント、実技テストに大幅に遅れます!」

「堂々とサボり宣言するんじゃないわよ!」

 サラの怒号を背中で受け流し、カイトは颯爽と学生会館を後にする。

 毎月、実技テストは平日の中日に行われている。時間割としては昼食後だ。まさしく今の時間にグラウンドに集合するよう伝えられているが、今日初めてカイトはそのルーティンから外れることになる。

 トールズ士官学院の顔である受付嬢ビアンカに声をかけ、正面玄関前の導力通信器に手をかけた。保留中の通信器を再度稼働させ、カイトは受話器を耳につける。

「もしもし、カイトです」

『カイトさん! 久しぶりです!』

 可愛らしげな少女の声だ。名乗られなくても誰なのかがわかる。

「ティータ! 元気そうだね!」

『はい、カイトさんこそ!』

 ZCFにおいてカイトが一番に交流のある人物といえば、ティータ・ラッセルに他ならない。彼女の祖父であるラッセル博士とも面識はあるが、やはり旅路を共にした仲間との関係は格別だ。

「ティータも忙しいだろうに、連絡ありがとな」

『えへへ、やっぱりあの時のみんなと話すのは楽しみですから』

「気持ちは同じみたいだ」

『クロスベルだとエステルお姉ちゃんたちと一緒にお仕事をしたんですよね?』

 カイトは笑う。これも三月にミュラーと会ったときと同じ反応だ。

「ああ。遊撃士としても成長してた。それにティータとも会いたがってたよ」

『……えへへ』

 反応に困る。可愛すぎないか、この生き物は。

「アガットさんにちょっと嫉妬しそうだ」

『え?』

「いや、なんでもないよ。それよりもティータ、魔導銃のことなんだけど」

『えとえと、そうでした!』

 ティータがはっと声をもらす。

 本題はもちろん、ここ最近カイトの頭を悩ませている武器のことだった。

 ティータとは手紙でやり取りしていたが、こればかりは直接詫びたいと思っていた。セントアークからトリスタに戻った翌日にはその旨を書き記した手紙を出していたが、こうしてティータの時間をもらえたのは僥倖だった。

 カイトは魔導準備を破壊するまでの敬意を明かす。

「……それで、福音(ゴスペル)を壊すために魔導銃を使うことになって」

『そうだったんですね。帝国でも《福音》が……』

「想定外の事態だった。でも壊してしまったのはオレの落ち度だ……本当に、ごめん!」

 受話器の向こうのティータが、カイトの謝罪などまるで気にせず笑った。

『そんな、気にしないでください。この一年間のレポートも充実してましたし、何よりも兵器である以上、経緯はともかく故障は想定の範囲内でしたよっ』

「……」

『何より、同じクラスの人たちを守るために躊躇いもなくそれができた。そんなカイトさんがすごいと思います!』

「…………」

『あのあの、カイトさん?』

「ティータ。オレさ、五月まではいろいろ苦労してたんだよ。ギスギスしたクラスメイトも多くて」

『えとえと、そうなんですね?』

 カイトが顔に手を当てて大げさに俯く。その様子を見た受付嬢ビアンカが引いていたが、そんな痴態なんて些細なことだ。

 エマとガイウスとエリオットを覗けば、全員が誰かしらと何かしらの問題を抱えていた。今はもうそんな空気はないけれど、過去二回の実習はリィン共々胃に負担をかけられた。主にサラのせいで。

 それが、共に故郷を旅した仲間内の妹分の、なんて健気で愛らしいものか。

「……オレ、ヨシュアと同じようにティータに《お兄ちゃん》って呼ばれたくなってきた」

『えとえと……カイトお兄ちゃん?』

「……くっ!」

 ちくしょう、オリビエさんの気持ちなんてわかりたくなかった。

『あの……カイトさん?』

「はぁ……ごめん、それで魔導銃のことなんだけどさ」

 試作型であることもそうだが、学院やRF社の関係者でも手が出せないことを話した。魔導銃はZCFに送るしかない。

『わかりました! 残骸からでも導力効率の調査もできますし……なによりおじいちゃんやお母さんに《福音》の件を伝えたら、魔導銃を調べさせろって鼻息を荒くしてましたから』

「あはは……わかった。これからZCFに送るからさ。よろしく頼むよ」

『はい。そういえば、魔導銃の件は実はオリビエさんにも話しているんですけど』

「そうなのか?」

 初耳だ。

『実はオリビエさんからカイトさん以外の魔導銃の使い手の打診も来てるんです。詳しく聞いてみたら、カイトさんと同じ学校の人らしいんですけど』

「え、そうなの?」

 オリビエは学院の理事長でもあるわけだし、その権威と彼の性格を考えれば外国企業の協賛した導力器を生徒に使わせることは不思議でもないことだった。

『カイトさんのこの一年のレポートを基にした改良型魔導銃なんです。数ヶ月先にはなりますけど……完成したら二台送りますので、楽しみにしていてください』

「わかった。今オレも、別の得物を考えてるんだ。魔導銃の方も、期待させてもらうね」

 ティータとはいつまでも話していたい気持ちもあったが、今時分はスケジュールの縛られる学生だ。カイトは名残惜しくもティータとの通信を終える。

 グラウンドに向かいながら考える。しばらくは先の話になりそうだが、ファストも武器開発に協力してくれ、ティータも魔導銃の開発を進めている。二人共自分への協力を約束してくれている。これほど幸運な話もないだろう。

 数ヵ月後、また自分は少し強くなっているのかもしれない。そう思うと、《C》と対峙した時の鬱屈とした気分も晴れやかになるようだ。

 《福音》やテロリスト、結社の影。先の見えない話ばかりだが、彼らの好き勝手にはさせない。それに今、オリビエが産みだしたⅦ組は能動的に帝国の問題に対処するように成長しつつある。リベールの仲間たちや特務支援課とは違う、けれど同じように頼りになるクラスメイトたちだ。

 今日も《戦術殻》との模擬戦が終われば、また月末の実習地が告知されるだろう。今はクラス内での問題もないし、実習そのものに集中できるはずだ。

(さあ、実技テストをとっとと終わらせて実習の準備に──)

 グラウンドにやってくる。当然サラとⅦ組メンバーがいるのだが、それ以外にも先客がいて驚く。

「あれ、なんで貴族生徒が……?」

 サラを先頭に後ろに控えるⅦ組に対峙するように、白の制服の生徒たちがいた。彼らは五人。今は合同授業の時間ではないはずだが、貴族生徒たちは堂々と、いや偉そうにそこに立っている。

 カイトが彼らに近づくと、貴族生徒の一人が視線をよこしてきた。

「ようやくの到着か。カイト・レグメント」

 パトリック・T・ハイアームズ。以前導力端末の授業でもⅦ組──主にリィンを惑わすような言動をしていた。カイトからしてみれば、典型的な《貴族のお坊ちゃん》を体現したような少年だ。

「……パトリックか。ということはⅠ組の?」

「フン、見てわからないのか?」

「貴族生徒はⅠ組とⅡ組があるじゃないか。生憎そういった違いには気づきにくくてさ」

「……言わせておけば」

 パトリックもそうだが、その取り巻きの生徒たちがカイトに蔑みの視線を投げる。ユーシスとは偉い違いだ。 若干面倒くさくなって、カイトはサラを見て助け舟を求めた。

「妹分との通信は終わったの?」

「ええ、おかげさまで。実りある話ができました」

「結構。じゃ、各自武器を持って配置につきなさい」

「毎度毎度、唐突過ぎますって……」

 大した援軍にもならず、相変わらず前置きのない指示に肩を落とした。

 サラの指示によって動いたのはⅦ組だ。女子とユーシスが少し離れたところへ。リィン、エリオット、マキアス、ガイウスがカイトへ近づく。

 カイトを含めて五人。貴族生徒の人数も五人。なんとなく察しがついた。

「えっと、もしかして模擬戦か? どうしてこんな急に?」

「だよね、僕もそう思うよ」

 魔導杖を構えるエリオットも、先のカイトのように肩を落とした。どうやらⅦ組側は軒並み同じ胸中らしい。

「本当はいつもと同じ実技テストのはずだったんだ。それがパトリックたち……Ⅰ組との模擬戦になってさ」

 諦めたように笑うリィン。彼が言うには、パトリックたちⅠ組の生徒が乱入してきたのだという。

 『目覚ましい活躍をしているⅦ組諸君』に対し、『Ⅰ組の代表が真の帝国貴族の気風を示したい』のだと。先の態度からしてもあからさまな挑発。だがやはりというべきか、サラはこれを了承した。

 困ったものだ。サラとⅠ組に対し、ため息をついた。

「ちなみにこの人選の意図は? わざわざオレを待ってたみたいだけど」

「あちらが指名してきたのだ。言外ではあるが、半ば強制的に」

 珍しくガイウスがぶっきらぼうな言葉遣いとなっている。

 模擬戦であれば正々堂々という立場のラウラと、名実共にその相棒となったフィーがいない。メンバーを選んだのはリィンだが、パトリックはラウラたちを選べば『これは男同士の戦いだ』と突っぱね、ユーシスを選べば『貴族の気風を示す趣旨に反する』と断りを入れた。

(なんだ、それ。ガイウスの言った通り強制的だな)

 カイトは呆れる。パトリックの言う帝国貴族の気風とは、少し狭いものではないだろうか。

 一方で、マキアスは張り切っている。

「僕にとってはいい機会だ。いけ好かない貴族の鼻をあかしてやれるんだからな」

「まあ、マキアスはそれでいいよ」

 以前とは違い自制しているし、暴言でなくてあくまで模擬戦のなかで実力を示そうとしている。その分なら健全な学生のそれだ。

 カイトも自分の双銃を取り出す。

「やるからには全力だ。作戦会議といこうぜ」

 五人で円陣を組み、それぞれの顔を見る。経緯はどうあれ、やると決まった戦いで手を抜くような面々ではない。

 作戦会議。とはいっても各々の立ち回りはこのニヶ月で心得ているし、特別戦闘スタイルを変えるような特異な敵でもない。リィンとガイウスが前衛、エリオットとマキアスが後衛となり、カイトがそれぞれのカバーに回る。パルムの手配魔獣戦に近い采配となる。

 リィンが指揮を執る。

「殆どのペアは実習で、そうでなくても普段の模擬戦で戦術リンクを安定して繋げてる。五人チームだし、臨機応変に切り替えていこう」

「承知」

「待った、リィン。それは概ね賛成だけど、オレから提案させてくれ」

「どうしたの? カイト」

「エリオットとマキアス。二人のリンクは常に誰かと繋がっているようにする。孤立するのはオレ、リィン、ガイウスの誰かだ」

「いい加減僕もわかってきたぞ。パトリックたちに狙われるからだな?」

 マキアスの言葉に頷いた。

 二人は後衛としての経験を着々と積んでいる。見たところⅠ組生徒は全員細剣(レイピア)を持っていて近接戦闘型だ。後衛二人の存在は厄介だろうし、こちらもみすみす対峙はさせたくない。

 カイトが来る前にユーシスが教えてくれたらしい。Ⅰ組の生徒は実戦経験こそⅦ組に劣るが、それを補って余りある帝国剣術の英才教育を受けていると。このような模擬戦においては、楽観視できる相手ではない。

 文武両道を重んじる帝国貴族。パトリックの発言はともかく、知略も使いこなせる可能性も高い。馬鹿正直な戦い方ではなく、必ず一人を集中的に削ってくる。

「そのための戦術リンクだ。基本の立ち位置を守りつつ、必要に応じて連携してこっちも一人ずつ叩く」

 カイトの言葉にリィンが頷いた。

「異存はない。苦しい戦いになりそうだけど……それでも、勝つぞ!」

 号令に応え、カイトは自分の立ち位置についた。

 模擬戦参加者が続々と得物を構える中、カイトはたまたま開始位置が近いリィンに聞く。

「なぁ、パトリックは本当にこのメンバーでいいって言ったのか?」

「ん? ああ、そうだけど」

「……そうか」

 リィンなら気づいているように思うけれど、迂闊には聞けない。

 貴族であるユーシスを退けながら、リィンの参加を許したパトリックの意図を。

 ユーシスほど格のある家でなくても、ラウラの勇名に一歩劣っても、誇りある貴族であるリィンをカイトたちと一緒くたに迎え撃つパトリックの心境を。

(勝つぞ、この勝負)

 双銃を握りしめる。仮に仲間が侮辱されるのなら、黙って受け流すような人間にはなりたくない。

 サラが手を上げる。

「それではこれより、Ⅰ組代表とⅦ組代表の模擬戦を始める──構え!」

 静寂。Ⅶ組の女子やユーシスも固唾を飲んで見守る中、戦いの火蓋が切って落とされた。

「──始め!」

 

 

 

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