心の軌跡Ⅱ~重なる標~   作:迷えるウリボー

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56話 高原の火種②

 

 

「あ、シカンガクインの人たちだ!」

 導力迫撃砲は監視塔に使われたように、対人の重火器よりも大きなものでもある。大人の背丈に迫る大きさだ。

 複数の迫撃砲の間で飛び跳ねる少女は、十三歳程度──影の国の頃のティータと同じ年齢だろうか。技術少女に比べるとかなり天真爛漫に見えるので、より子供っぽく見える。

 碧色の髪はところどころ跳ねていて、金色の瞳が大きく見開かれている。

 少女の纏う衣服もまた、町娘とは程遠い風体だ。四肢の露出が多いこともさる事ながら、ボディラインがはっきりとわかるスーツは明らかに特殊作戦用のそれに見える。

 当然ながらカイトは見覚えがない。ガイウスも、あまりに場違いな少女の存在に戸惑っている。

 それでも、こんな場所にいる存在を警戒しないわけにはいかなかった。リィンを筆頭にアリサとエマが得物を構え、カイトとガイウスもやや遅れて双銃と十字槍を取り出す。

 ところが、真っ先に太刀を引き抜いたリィンは、カイトとは別の意味で動揺を隠せてはいなかった。

「どうして君がここにいる……!?」

「やっほー!! こんなところまで来るなんて、さすがだねっ! オジサンが興味を持つだけはあるよ!」

「え……知り合い?」

 カイトが聞いた。エマが混乱とともにカイトに伝える。

「オーロックス砦上空を飛んでいた傀儡と女の子です」

「それって、マキアスが捕まる口実にされた件か」

 カイトも訪れたことがあるバリアハート近郊のオーロックス砦。クロイツェン領邦軍の詰所である。そこにリィンたち五月のA班が向かった時に、上空を浮遊する銀色の傀儡と、そして傀儡に乗る少女を目撃したという報告は確かに聞いていた。

 それが、目の前の少女というわけか。マキアスはそれによって領邦軍への侵入という容疑で拘束された。アルバレア公爵がその愚行に走った理由を考えれば、少女がいなくても同じ結末になっていたのかもしれないが。

 ガイウスがいてもたってもいられずに問いただす。

「君は一体何者だ?」

 目の前の少女は格好を除けば明らかに年相応の少女だが、いかんせんいる場所が場所だ。五人の疑念は膨れ上がるばかり。

「むーっ、なんかロコツに怪しまれてる……」

「生憎、君くらいの年の女の子に大鎌で殺されかけたこともあるからね。安心はできないよ」

「だからー、ボクはそんな物騒なことはしないよー!」

 カイトのちょっとした爆弾発言は少女の存在によってかき消された。観念したのか、少女は胸を反らしつつ、決め顔となった。

「ボクはミリアム。ミリアム・オライオンだよ! 監視塔と共和国軍基地を砲撃した連中の拘束に来たんだ」

「──なっ」

 自分たちと目的が同じ? いや、それよりも自分たちが仮説を建てた真犯人の存在を知っている?

「ニシシ、少しは話を聞く気になった?」

「いや、一応はちゃんと聞いていたんだけど、オレたち」

「……わかった。落ち着いて話をしよう。俺はリィンシュバルツァーだ」

 各々の自己紹介を終え、ミリアムは笑った。

「だから知ってるってー。トリスタの《シカンガクイン》の人たちでしょ? 面白そうだよね!」

「俺たちも君を見たことがある。オーロックス砦で君を乗せていた傀儡も近くにいるのか?」

「あ、さすがにバレてたんだ。ううん、ガーちゃんは()()にいるよ」

 ミリアムが右手を掲げる。

 そうすると、信じられないことに空間が歪んだ。

 出現したのは丸みを帯びたボディ。少女がすっぽりと収まることのできる大きさ、体部と二つの腕からなる、銀色の傀儡。

「これがガーちゃん! 正式名称は《アガートラム》!」

 ミリアムは自信満々で言う。そしてそのアガートラムと呼ばれた傀儡も、まるで胸を張るような動作で人間でいう腕の部分を腰らしい部分に当てた。

「EЙЭΩωθΥ!」

 発する『声』とでも言うべき機械音。まるでミリアム自慢を受けて同意でもするような……。

 カイトは目を剥く。

「な、なんだぁ!? それ!?」

 他のⅦ組と同じく、驚くことしかできない。仮にも結社などという超技術を持つ一団を見たことがあるのに、そんな自分でも思考が停止しかける存在。

「ニシシ、頼りになるボクの相棒だよ~。信じられないなら、ちょっと戦ってみる?」

 銀色の腕が「やるか?」とでも言うように持ち上げられる。本物の人間だったら力こぶでも作っているのだろうか。

「いや……遠慮しておくよ」

 リィンが構えていた太刀を収めた。

 問いただしたいこともある。けれど、今はミリアムの言う犯人の拘束をしなければ。

「それで、まず聞きたい。君は犯人の動向をわかっているのか?」

「えっと、カイトだっけ? なかなか疑い深いね~」

「オレたちは純粋に監視塔の現場を検証してここにたどり着いた。けど君の口ぶりは、まるで犯人を見てきたようにも感じる。もちろんその傀儡で空を飛べるとはいえだ。証拠はあるのか?」

「むー、ガーちゃんは傀儡じゃなくてガーちゃんだってば!」

 ミリアムは背後の兵器群を示す。

「この迫撃砲を見てよ? 同じものが、共和国軍の基地から少し離れた場所にもあったんだ。同じ連中が仕掛けたとしか思えないよね?」

 カイトたちは顔を見合わせる。自分たちの推論もまた、より正解に近づく。

「数名の武装集団……たぶん猟兵崩れだと思うんだけど、姿も目撃してる。ボクはまず情報収集を任されたからすぐに拘束はできなかったけど、これから確かめに行くんだ」

 その言葉に、リィンは希望を見出す。

「待ってくれ! ということは……」

「そいつらがどこに行ったか知っているのか?」

 ガイウスもだ。故郷の危機を前にして、ガイウスはこの三ヶ月で一番感情を顕にしていた。

 ミリアムは、なんてことのないように答えた。

「うん、高原の北のほうだよ」

 A班の面々は顔を見合わせる。迷う必要などなかった。

 

 

────

 

 

 ミリアムをリィンの後ろに乗せ、A班は馬で再び高原を駆ける。

 まず、導力迫撃砲を発見したことは共和国軍基地からの攻撃ではないという事実を示している。ゼクス中将へ報告すべき大事な情報だ。

 一度ノルドの集落へ戻り、導力通信を利用してゼンダー門へ連絡する。学生たちの調査をゼクス中将は聞き入れ、Ⅶ組の調査時間を十五時まで延長してくれた。

 ミリアムは、真犯人たちが逃走した場所を『高原の北のほう』と言った。高原を駆けながらミリアムに話を聞くと、それはⅦ組が昨日話題に出した場所であることが明らかになった。

「……その特徴は《石切り場》だ。俺も前に寄ったことがある。間違いない」

 特別実習の範囲となった南西と北東のエリアの中で、石切り場は北東端に近い場所にあった。そしてそれは共和国側のエリアとも近い。両国の干渉エリアに分かれた連中が事を起こしたあと、合流するのであれば納得のいく場所でもある。どうしてこんな不気味な場所に、という疑問はあるが。

「犯人の意思があるのかもね。二大国に戦争させようとする勢力なんて、周辺諸国どころか大陸全土の敵って言ってもいいもん」

 ミリアムがさらりと恐ろしい事を言う。だが間違いではない。

 エレボニア帝国とカルバード共和国はゼムリア大陸の覇権を争う大国だ。単純な人口や軍の規模で言えばこの二国に敵う国はいない。導力革命、大陸横断鉄道、飛行船、海路。そして情報。様々な領域で繋がってしまった大陸だ。戦争が起きれば経済は停滞し、人は死に絶え、人々は混迷の煽りをまともに受ける事になる。

 そんな原因を作ろうとする今回の真犯人は、酔狂という言葉では表しきれないほどの狂人なのだ。

 石切り場にたどり着いた。高原の山間に佇む古代ゼムリア文明の遺構は、人の気配が覆い隠さるような()()()()()()()()()()に包まれている。

「ほ、本当にこんな場所にその武装集団がいるの?」

「たぶん遺跡の方に潜伏してるんじゃないかな? ほら、あそこのザイル!」

 アリサのたじろぎに辺りを目ざとく見渡していたミリアムが、石切り場の複雑な景観の中にある異物を指さした。簡単に人が登ることのできない段差の上に、巻かれたザイルを見つけたのだ。遠目から見ても明らかに最近設置された人工物だとわかる。

 リィンがミリアムに尋ねた。

「君ならあそこまで飛ぶことができるな?」

「うん。けど……君たちは無理でしょ?」

 当然ながら人間の腕では届かない。傀儡でミリアムが飛んだとしても、残るカイトたちは置いてけぼりだ。

 正面には、やはり人間の身では動きそうにもない、閉じられた岩の扉がある。

 身軽に馬から降り、ミリアムは叫んだ。

「ガーちゃん!」

「ΘΠ∃ΓΛЁж!」

 傀儡──アガートラムが出現。カイトたちの許可もなく、アガートラムがその豪腕を振るった。大伽藍(だいがらん)が崩れるようなけたたましい音と土煙。

 石造りの扉をぶち壊したのだ。

「さ、これで行けるよね?」

「い、『行けるよね』って貴女……」

「機械とは思えない、凄まじい破壊力ですね」

 女子二人が度肝を抜かれる。アガートラムの動きは、それほどに滑らかだった。

 カイトが恐る恐る近づいて、そうしてアガートラムに触れる。

 冷たくて滑らかな質感だった。強く押し込んでも、やはり陶器のようにびくともしない。

「ニシシ、気になる?」

「もちろん。とはいえ今は後回しだ」

「その方がいいよ。キミツジコウだから話せないし」

 道は開けた。中には恐らく今回の事件の真犯人がいる。

 現在十三時を過ぎた。タイムリミットは着々と近づいている。

「よーしっ! それじゃあみんなとガーちゃんで──」

「待った、みんな」

 逸る仲間たちを、カイトは制する。

「ガイウス、石切り場の中は複雑な構造なのか?」

「いや、道筋は自体は単純だ。広い空間だし所々凹凸の壁はあるが、ほとんど一本道に変わりない」

 問われたガイウスが答え、正面の開かれた入口と遠くにあるザイルを見た。

「ここの正面から進めば、あのザイルから入った空間にも辿りつけるはずだ」

「わかった。なら、ここは二手に別れよう」

 その場の全員がカイトを見る。特別実習も三回目。ガイウスとエマにしてみれば、カイトと同じ班になるのは二度目だ。リィンとアリサだって、少年の性格や言動は把握している。彼の予想外な提案が、しかし的を射ることが多いということは。

「ニシシ、わかったよ。ボクと誰かもう一人が上に行くんだね?」

「その通り。二手に分かれて挟撃しよう。相手は正体も不明、しかも用意周到な奴らだ。こっちも全力で叩く」

 Ⅶ組とミリアムがいなければ、戦端は確実に開いていただろう。不確定要素を除いては、恐らく全てのことが犯人の思う通りに動いている。来るはずがない後方から飛び込んで、精一杯相手を撹乱してやるのだ。

 リィンが聞いた。

「それなら、ミリアム。何人まで乗れる?」

「うーん、できるだけ軽い方がいいなぁ。強襲の役割だし、一人が限度だよ」

「なら俺とリィン以外の誰かだな」

「わ、私は遠慮しておくわ」

「……同じく。ちょっと怖いので……」

 アリサとエマも断念。体重的な意味では許容範囲内だろうに。むしろそれを気にしたからか、あるいは男子たちに下から見上げられるわけにはいかないからかもしれない。

 なし崩し的にメンバーが決まる。

「じゃ、オレが行きますか。レーヴェと一緒にドラギオンに乗っておいてよかったぁ……」

 アガートラムがその両腕を曲げ、人一人が乗れるような席を作る。導力車などならシートベルトがあるはずなのだが、ここでは何もなく命を張るようなアトラクションだ。

 カイトとミリアムが乗り、他の面々は馬の手綱を手頃な場所にくくりつけた。

「それじゃあリィンたちが正面から突入してくれ。オレたちは必要に応じてその隙を突く」

「わかった。それじゃあ、お互い気をつけていこう」

「カイト、ミリアム。風と女神の加護を……!」

「よーし、それじゃしゅっぱーつ!」

 石切り場に正面から突入するリィンたちを見届けつつ、アガートラムは上昇した。ザイルが巻かれている地点に着地、正面には既に開かれている洞穴がある。

「それじゃ、よろしくねーカイト」

「ああ、ミリアム」

 ガイウスが数える程だけ入ったことのある石切り場。古代ゼムリア文明の遺構は当然ながら手入れなんてされていない。空気は粘り気があり、強い衝撃で砂埃が舞う。大量にではないが魔獣の気配もあった。

 感じる違和感はそれだけではない。この世ならざる空気は。

「ここ……たぶん上位三属性が働いてるな」

「え、そうなの?」

「経験があるんだ。こんな空気の迷宮を探索したことがある」

 リベールの封印区画では七耀脈に近い場所のために異常な魔法現象が生じていた。そして影の国では、今と同じ地水火風の四属性のみでなく時空幻の上位三属性が魔獣へのダメージに影響を及ぼしていた。

 カイトの感覚はそれほど研ぎ澄まされているわけではない。偏に過去の経験あってのものだ。

 そして、そんなカイトだからこそ気になることはもう一つある。

「……それとさ、ミリアム」

「なーに?」

「そのガーちゃんって、本来は《戦術殻》って名称じゃないか?」

「ニシシ、わかるんだ?」

「うちのクラスは毎月それに似たやつと戦わされててね」

 Ⅶ組がアガートラムを見て驚いたのは、常識を超えた存在に遭遇したからだけではない。その外見が実技テストの例の存在と同じだったからだ。カイトが初めて見た時に驚愕した、ワイスマンの戦術殻と似ていた傀儡にだ。

 結社の影は明らかにではないとはいえ、帝国にも蔓延っている。どこにその尻尾があるかもわからない。

「君は、帝国正規軍の関係者なのか?」

 戦術殻。ワイスマン。鉄血宰相。重なる欠片の最悪の可能性を考えた。

「……へえ」

 ミリアムが静かに笑う。

 目の前の少女はリベールを震撼させた白面とはまるで重ならない。結社にはレンのような一見して害のないような少女もいたが、それでも正体を表した時の迫力は恐ろしかった。ミリアムにはそのような隠された何かはなく、少なくとも雰囲気に関しては素のようだが。

 リベールを離れてから何度も驚かされる。敵に見えていたものがそうではなくなったり、一見して穏やかな青年が獰猛さを発揮したり。持っていた常識は覆されてばかりだ。

 だから油断できないし、慎重すぎてもいられない。真実を掴みとらなければならない。

「細かく聞き出すつもりはないよ。ただ、一言聞きたいだけだ」

「うん、そうだよ。確かにボクは正規軍の関係者。でも今はこれだけかな」

「うん、十分だ」

 敵との接触も近いだろう。

 十四時。カイトとミリアムはそこに到着した。

 狭い通路を抜けた先、大きな広間だった。しかし天井は遠く、壁には穿たれた穴もある。そして広間の一角には奈落の底へ続く大穴や、瓦礫の山や上下に伸びる大小の鍾乳石も存在している。

 カイトたちは幸いにも広間を見渡せることが出来る場所に出た。空間全体を確認できる。ミリアムがアガートラムを隠し、物陰に潜んで様子を伺う。

 その中央に、複数の人間がいた。

「おい……ここまでやればもう十分だろうが!」

「とっとと残りの契約金も渡してくれよ!」

 叫ぶ男たちの格好は明らかに堅気ではない。導力式のアサルトライフルやヘルメットの種類やデザインは揃わず、余り物を集めたような風体。猟兵というには覇気もなく、カイトの知るジェスター猟兵団よりも腑抜けに見える。

 ミリアムが言った猟兵崩れという言葉に間違いはなさそうだ。

 だが、その集団と向かい合う眼鏡の男は明らかに空気が違う。

「あいつは……《G》!」

「知ってるの?」

「忘れるはずがないよ。テロリストだ」

 先月も邂逅した《C》の仲間。一年半前、カイトやジン、アネラスたちに立ち塞がった危険な存在。その片割れだ。どうして、こんな帝国の外にいる。

 Gは眼鏡を揃えつつ、猟兵崩れたちに向き合って話していた。

「そうはいかない。契約内容は『帝国軍と共和国軍が戦闘を開始する状況を作る』ことだ。膠着状態が続くようならもうひと押ししてもらう」

 四人いる猟兵崩れのうち一人がため息を吐く。

「ちっ……面倒だな」

「だがもう少し我慢すりゃ莫大なミラが……」

 聞こえる会話から彼らの関係を知ることが出来る。Gは猟兵崩れの仲間ではない。雇い主か。

「ふーん、どうやらあいつが犯人みたいだね。実行犯の猟兵崩れだけじゃなくて、ちゃんと捕まえないと」

「とはいえ、あいつは高位の正遊撃士に近い実力も持ってる。油断はできないぞ」

 自分はヴェスティア大森林でCに追い掛け回されたから目撃してはいないが、トヴァルから報告も聞いている。ジェスターの猟兵と何人か徒党を組んで戦ったとはいえ、高速駆動で魔法を連発出来るトヴァルと互角だったのだ。

「それに……奥の手だってあるはずだ。リィンたちが来るのを待って、最善手を打つ」

「りょーかーい」

 双銃を握り締め、その瞬間を待って話を聞く。

「しかし、どうしてアンタらはそんなに羽振りがいいんだ? どんな大金持ちのスポンサーを味方につけたんだか」

「……我々の背景を詮索しないのもまた契約内容のひとつだったはずだが?」

「おっと、これは失礼。少なくともこっちはアンタらの成功報酬だけが頼りなんだ。無遠慮なことはしない」

「ふん、それが懸命な判断だ。余計な失敗をしたくなければな」

 相変わらず偉そうで、そしてぶっきらぼうな発言のG。それよりも気になることはある。

 前もGたちはジェスター猟兵団を雇っていた。今回も猟兵崩れを雇っている。部下たちがいないわけでもなかろうに、幹部であるGはまるで足切りのように猟兵を使役している。

 自分たちの手を汚そうとしない精神性もそうだし、猟兵崩れが言うように闇に隠れる一組織にしてはミラの流れが大掛かり過ぎるのもある。

 そして猟兵崩れが言うスポンサー。彼らの背後にあるもの。これまでにGたちが敵対してきた行動を考えれば、予想ができてしまうこともある。

(……証拠がないだけで、本当に怖いな)

 考えるだけで疲労してしまう。

 大きく息を吐いたところで、力強いガイウスの声が聞こえた。

「そこまでだ……!」

 既に得物を構え。臨戦状態で広間に入るガイウス、リィン、アリサ、エマの四人。カイトとミリアムが潜む空間とは真反対の入口から来たのだ。

「なんだ、このガキども!?」

 猟兵崩れが慌て、導力銃を構える。

「トールズ士官学院……ノルドに来ているのは把握していたが」

「私たちのことを知っているのですか?」

「ふん、知らないはずがない。ケルディックとセントアークでの計画……良くも邪魔してくれたものだ」

 その一言で、Ⅶ組も気づく。

「まさか、貴方があの野党たちを影で雇っていたの!?」

「セントアーク……カイトが言っていた《C》の仲間か!」

 セントアークで動いていたガイウス。彼が放ったカイトの名前にGが反応する。

「カイト・レグメントか。あの小賢しい遊撃士がいるのは知っている。何故ここにいない?」

 リィンが答えた。

「彼には連絡役も任せているからな。アンタたちが二手に分かれているのと同じだ」

「なるほど?」

 俯くGの顔。眼鏡の光に表情が読めなくなる。

 そんな犯罪者の返答を待たず、ガイウスが穂先をGに伸ばした。

「ケルディックでは商人たちが悲しんだ。セントアークでは人々が魔獣に慄いた。……お前は今、俺の故郷で何をしようといているっ!?」

「外の状況でわかるだろう? この高原に火種を蒔くだけだ」

「貴様っ……!」

 ガイウスの目が滾る。だが、リィンがガイウスを激昂させなかった。遠い地にやって来て自分たちと縁を繋げた大切な仲間を。

「俺の大切な仲間を怒らせるなよ」

 Gが問う。

「……貴様は?」

「リィン・シュバルツァー」

「トールズ士官学院・Ⅶ組のリーダーか」

「リーダーなんて柄じゃない……でも、それが俺のやるべきことなら喜んで受け入れる」

 ガイウスに代わり、リィンが切っ先をGに向けた。

「監視塔、共和国軍基地攻撃の疑いでアンタたちを拘束する。御託を並べるのはそれからでいい」

「素直に聞き入れるとでも?」

「あんなことをやってしまった連中が聞くとは思わない」

「結構。刃を交える覚悟は嘘ではないようだが」

 Gは猟兵崩れと違い、慌てた様子もなく導力式拳銃を引き抜いた。

「思い出すな。昔、貴様のような何も知らない若者を相手にしたことを」

「何?」

「無知とは怖い。自分が正義であることを疑わない。無論、私が正しいと断じるつもりもないが」

 Gが戦術オーブメントを駆動させた。暗い広間の中でもわかる黒い光の波動。

「いいだろう。トールズ教官に代わり、私が教鞭を執ってやる」

「っ……Ⅶ組()()、武装集団の制圧を開始する!」

 リィンがそう言った。合図だ。

「ミリアム、出るぞ!」

「任せて!」

 動くカイトは並戦駆動で銀色の輝きを纏い駆け出した。ミリアムはカイトから距離をとって走る。

 リィンたちと同じ階層へ向かうのに段差を使うなどもどかしい。ひと思いに跳躍する。

 猟兵崩れは完全にリィンたちを警戒している。

 自らGの背後、リィンたちの視界に入った。ARCUSによる戦術リンクでも視覚的に存在が露呈するのだから、何も繋げず静かに駆動をさせる。そうすれば猟兵崩れもGも一網打尽だ。

 だが、Gは急激に後ろへ振り向いた。

「なっ」

 気配に気づいていた? いや、リィンの嘘がばれた──

「奇襲など……そう簡単には通じん!」

 真っ直ぐにカイトを捉え、Gは黒色の波を収束させた。

 リィンたちの驚く顔を背景にして、Gの得意気な顔が閃いた。

 驚いた瞬間には、カイトの周囲に淡い紫の光が渦巻く。凝集してカイトを囲み、そして弾けとんだ。

「《アンチセプトオール》かよ……!?」

 あと少しで駆動するはずだったARCUSの光が儚くも散る。戦術オーブメントの導力伝達を阻害する特殊魔法。しかし、それはカイトが《リベールの異変》の頃に使用していた第四世代型で扱える魔法だ。つまり……

「カイト、どうした!?」

「気をつけろ! 前世代の戦術オーブメントを使ってる! ARCUSを無効化してくるぞ!」

 Gの銃撃が、体を捻りながら着地したカイトの肩を掠めた。血の線が走る。

 猟兵崩れはリィンたち四人と相対した。それぞれが攻撃や回避を行う中、Gは臆することなくカイトへ追撃。

「させないよー!」

 アガートラム出現。ミリアムがとったボディーブローを真似た傀儡の攻撃がGの横っ腹を狙う。

「くっ」

 これにはGもたまらず避ける。戦闘の最中、ミリアムとカイトがGを見据えた。

「なるほど、《子供たち》──白兎と行動を共にしていたか」

「その通りだよ。一年半ぶりだな、G。もっとも先月は魔獣をけしかけられたけど」

「お前は遊撃士ではなく学生としてそこにいる。協定は崩れ去った。もはや互いを無意味に避ける必要などないだろう」

「嬉しいね。おかげで全力で戦えるよ。《C》も《V》もいないみたいだしね」

「抜かせ」

 ミリアムが、アガートラムの両腕に守られながらGを見据えた。

「ボクのこと知ってるんだ? G──ミヒャエル・ギデオン」

「個人としての名前などとうに捨てた。今の私は怨嗟に駆り立てられる亡霊だ。他の同志たちと、何も変わりない」

 やっぱり《G》は本名の頭文字だったかとカイトは思い至る。

 それに、初めて聞く単語が出てきた。ミリアムを指して《子供たち》と言った。まさか学生たちを呼んだわけではないだろう。

 弾薬を導力銃に装填。手馴れた動きだ。そうしてあらん限り連射してくる。ミリアムとカイトはアガートラムが展開する防御フィールドに隠れる。

「子供たちと遊撃士。邪魔な貴様らがいるなら好都合だ」

 Gが叫んだ。

「カイト・レグメント。今回ばかりは忖度もせん。全員仲良く煉獄へ招待してやる!」

 

 

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