心の軌跡Ⅱ~重なる標~   作:迷えるウリボー

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56話 高原の火種③

 

 

 Gと猟兵崩れたちとの石切り場内部での戦闘は、今まで繰り広げられた魔獣との戦闘とは違っていた。またケルディック組とバリアハート組が戦った野盗や領邦軍兵士とも異なる。

 猟兵《崩れ》──とはいえ命のやり取りの経験もある戦場の戦士と、そして暴力を厭わないテロリスト。その二者たちが、本気で自分たちを殺そうと武器を構えてくる。

「カイト・レグメント。今回ばかりは忖度もせん。全員仲良く煉獄へ招待してやる!」

 他のⅦ組メンバーが猟兵崩れを相手取り、カイトとミリアムはGを見据える。

 カイトはGの放った第四世代の魔法、《アンチセプトオール》によって導力魔法と戦術リンクを絶たれていた。導力魔法は駆動時間は()()()()変わらないが、威力に関しては術者によってある程度の調整ができる。魔法途絶の効果も例に漏れず。当然Gはできる限りカイトの能力を封じているはずだ。

「……さすがに前世代を使ってるとは思わなかった。ENIGMAですらないとはね」

「私に未来は必要ない。妄執が、怨念があればいい。それだけの話だ」

 導力銃を乱射してきた。躱す挙動に移るが捌ききれず、足に血の線が走る。

 もつれ、よろめいたカイトの足元に白い光が浮かび上がる。ひび割れたように見える地面から襲いかかるその衝撃は、時属性魔法《ホワイトゲヘナ》。

「ガーちゃんっ!」

『Π§ЁЙЭΩ!』

 荒い機動でアガートラムがカイトに迫った。銀の腕がカイトの腹を捉え、殴り込みの要領で魔法の攻撃から退避させる。

「うぐぉっ!?」

 わずかに吹き飛んだカイトに目もくれず、アガートラムはそのままGに突貫した。その一撃の威力はカイトの様子を見るに明らかだが、Gには当たらず空を切る。

「ちょま……オレじゃなくて相手を叩けよ!」

「アハハ、ゴメンゴメン。リンクも繋げられないと意志共有もできなくって困っちゃうねー」

 アガートラムを操るミリアムは強い。カイトも修羅場を潜ってきた粘り強さがある。それでも、簡単にやられてくれるGではない。

 カイトの視界に戦闘を続ける猟兵崩れとⅦ組メンバーが入る。

 Ⅶ組は強い。例え猟兵相手でも、リィンたちは善戦していた。単純な武芸の実力では負けていない。だが、小銃や手榴弾と言った戦場ならではの武器を使う敵に対して、一瞬で勝ちきれるわけではなかった。戦闘はまだ続いている。

「わからんな」

 声が聞こえ、カイトは正面に意識を戻した。Gは琥珀の波を纏いながらも、動かず語りかけてくる。

「お前は一人の遊撃士だったはずだ。今更帝国の学生となり、どうして私の前に立つ?」

「あれからリベールに帰った後も、色々なことがあった。あの時とは違う。それだけだ」

「何も知らない子供の遊撃士でいれば、祖国で悠々と暮らせていたものを」

「沢山のことを知った。あの時のままじゃいられなかった」

「そうして我らの悲願を邪魔するのか」

「当たり前だ。テロリストを野放しにできるわけがない」

「沢山のことを知っただと? それで博識を気取るか。反吐が出る」

「……」

 Gには仲間がいる。幹部である彼の部下たちも、屈強なVも、仮面で素顔を隠したCも。行動しているのはG一人でも、その背後には彼らがいるのだ。

 油断はできない。敵は帝国に、確実に何かの計画をなそうとしている。G一人を止めたからといって、彼らの計画が止まるとは思えない。

 カイトは考える。それでも目の前の男はなんとかして拘束しなければ。何か取り返しのつかないことになる気がする。

 まだ導力途絶が終わる気配はない。だが悠長に待ってくれる敵でもない。

 Gが導力銃を天に掲げた。そのまま発砲。天井の岩盤に命中し残響を響かせた。それは敵味方全てにGの存在を注目させた。

「《バグベアー》どもよ。どうにかして学生たちを抑えろ。あと数十秒保てればいい」

 そうGが言った。単なる契約関係ではあるが、それでも最初の会話で聞こえた五百万ミラという大金によって主従関係が明らかとなっている。

 Gの琥珀の波が収束した。出現したアトラスハンマーの岩石を避けながら、カイトとミリアムがGに迫った。

 後ろから猟兵崩れの一人がカイトを狙う。手榴弾を投げてきた。

「ジェスター相手にだって戦ってきた。今更猟兵崩れに遅れをとるか!」

 投げられた手榴弾が起爆する前に思いっきり蹴り飛ばした。誰もいない空間、目線よりやや上の岸壁にぶつかり爆発。一部分が音を立てて崩壊した。

 そこは壁一枚を挟んだ空洞だった。境がなくなり、中が見え──異形の存在が沈黙していた。

「なっ」

「なんだ、コイツはぁ……!?」

 Ⅶ組メンバーと戦闘をしていた猟兵崩れが、そこにいた存在に戦いてしまう。好機となるも、Ⅶ組も同様に動けなかった。人間との命のやり取りが霞むほど、余りにもそこに隠れていた化物は恐ろしかった。

 人間の大きさを優に超える体躯。だが、それは四足獣でなければ脊椎を持つ動物ですらない。八本の多節脚。巨大な球体の闇を称える眼球。産毛であるはずの──恐ろしく身の毛がよだつような棘。

 太古の時代から石切り場に巣喰い、数多の生き物を喰らってきた《白銀の悪魔》。ギノシャ・ザナクだ。

 Ⅶ組メンバー、猟兵崩れ、ミリアムまでもが固唾を飲んで見上げる。声も出せなかった。

 巨大蜘蛛は、その球体の眼球に闇を宿していた。人間の呼吸とは全く違う鳴動と振動。小規模とはいえ戦闘をしていた人間たちの隣で全く反応がなかったのだ。眠りについているのか。

 それでも。手配級魔獣が幼稚に感じる化物を前に、声も出せるはずがない。

 猟兵崩れなどは腰を抜かしている者もいた。戦闘は一時の休止を見せる。

 そんな中、ミリアムは怖がることもなくギノシャ・ザナクを見ている。初めて見る存在を前にして、場を考えずに興味津々といった様子だ。

 だが、それ以上に警戒を忘れてはならない男が動き出していた。

「おい、G。何をしている……?」

 リィンが太刀を構え、首だけ動かして遠くからその男の様子を見ていた。Gは懐から何かを取り出した。

「……やめろ、今すぐそれをしまえっ」

 ガイウスが、取り出したのが手榴弾であることと、それにより定める狙いを理解して蒼白した表情になる。

 猟兵崩れや女子たちが気づかない中、Gは手榴弾の安全ピンを抜いて振りかぶり──

「やめろ……やめろーっ!」

 カイトが叫び、Gに向かったがもう遅い。知的な男とは思えない遠投が発揮され、手榴弾は見事に狙い通り──ギノシャ・ザナクの足元で爆発する。岩盤を震わせ壊しながら、何よりも安息の平穏を邪魔されたことに対して怒れる怪物が動き出した。

 轟音と咆哮とともに、巨大蜘蛛のいくつもの複眼が人間たちを捉えた。

 茫洋とする闇の中に、腰の抜けたままの猟兵崩れがいた。

 瞬時に、巨大な糸が一人の猟兵崩れを巻き込む。

「う、うわぁ──た、助け……!」

 口まで糸が巻き付き言葉を奪う。それでも、辛うじて両足が暴れていた。その様子を、学生たちも残る猟兵崩れも戦闘を中止することしかできない。

「ダ、ダズゲ──」

 咀嚼。噛み砕く。巨大蜘蛛が、その口腔に鮮血を滴らせて、ただ緩慢に生命として当然の活動をしている。

 暴れる猟兵崩れの足が最大限に伸びきって、そして急に脱力する。それはまさしく命が終わる瞬間だった。

「……」

「なんっだよ、これ……」

 アリサが、エマが絶句している。カイトは、ただただそうとしか呟けなかった。

 人が命を散らす場面に立ち会ったことはある。レーヴェとの最期の時の会話がそうだ。

 だが、今の猟兵崩れの散華は全く違う。仮にも理性と知性を持つ人間が、強大な存在にただ捕食されるだけの、心のそこから湧き上がってくる恐怖。それしか感じなかった。

 太古の時代から人間を生贄にしてきたであろう情景が蘇る。言い伝えにあった悪しき精霊(ジン)が目の前にいる。

「この石切り場の主といったところだろう。目覚めたばかりで空腹らしいから、全員仲良く餌になってくれると助かる」

 Gだけは、冷静そのものだった。どうしてそう平然としていられるんだと、Ⅶ組メンバーが疑問を持つ。

 リィンとカイト、そしてガイウスが気づいた。ノルドを脅かす災厄を前に、故郷を護ろうと奮起した少年が叫ぶ。

「その笛か……ケルディックとセントアークの魔獣を昂ぶらせたのは!」

 Gが懐から、()()を取り出していた。ガイウスの言うとおり、それは《笛》だった。大した装飾もなく、黒色に灰の線が入った、エリオットが見ても『趣味が悪い』と言いそうなもの。

 リィンとカイトは、ガイウスの言わんとしていることを理解した。二人も聞いていたのだ。それぞれの旅路で、魔獣が襲いかかる直前に聞こえた不気味な笛の音を。

「その通りだ。そしてこれは、これから死出の旅に赴くお前たちへの葬送歌となる」

 笛を吹くG。それを止める余裕もなかった。音を奏でる笛から、艶やかな、けれど肺腑を恐怖に縛り付けるような音が流れる。それは目に見える悪気に変わり、紫色のオーラがにじみ出てくる。

 その少ない対話で、エマもアリサも理解する。これから何が起こるのか。

 いけない。それを許しては。

 カイトが、リィンが、ガイウスがGに突貫していく。だが、それは叶わなかった。契約関係にあった猟兵崩れではなく、ギノシャ・ザナクがカイトたちとGの間に立ち塞がったから。

 土煙と衝撃を巻き起こして、壁として立ちはだかる巨大蜘蛛。威嚇のような鳴動を起こし、そして太く強い糸が吐き出される。学生たちは、先の猟兵崩れの光景が脳裏に閃いて辛うじて躱せた。

「くっ……」

「魔獣を従えたのか……!?」

 ガイウス、そしてリィンがたたらを踏んだ。迫力ある守護者を前にたじろぐ。

 カイトは伝聞と実体験に、合点がいくこととなった。

 魔獣を操るという、常識を超えた現象を引き起こす魔道具。《封じの宝杖》、《響きの貝殻》、そして《輝く環》に《隠者の方石》。カイトは、今までたくさんの()()を見てきた。

「まさか、古代遺物(アーティファクト)……!」

「さすがに気づくか……面倒な。だがお前たちはこれで終わる」

 ギノシャ・ザナクの向こうでGの声が聞こえる。しかし、Gはそのままカイトが来た方向のザイルに手をかけた。素早く駆け上がり、悠々とⅦ組やミリアムを見据える。

「では……親友たちと、かけがえのない最期を過ごしたまえ」

 そうして、Gは闇に消えた。

「くっ……あの野郎!」

「カイト、今は魔獣をなんとかするのが先だ!」

 ガイウスが叱責し、カイトは悔しさをにじませながらもギノシャ・ザナクに向かい直る。

 Gを追おうとするのはカイトだけではない。もう一人、ミリアムに対してはリィンが引き止めた。

「ミリアムも、先にこっちだ! 負傷した容疑者の保護と拘束……君にじゃなきゃ任せられない!」

「むー……仕方ない、か」

 Ⅶ組メンバーは背後を見た。アリサとエマのさらに後ろでは、腰を抜かした猟兵崩れたちが震えていた。仲間が呆気なく喰われたことで、もはや戦場の常すら忘れてしまったらしい。逃げようにも逃げ切れないこの状況、ギノシャ・ザナクを倒せないのならばおとなしくしてもらうしかない。

 先頭に立つリィンが、太刀の鋒を敵に向け掲げた。例え純粋な戦闘において不必要な挙動であっても、仲間たちへの激励は必要だった。

 恐らく、Ⅶ組設立以来最大の敵。カイトにとっても影の国ぶりの、理性持たぬ存在との命のやり取りだ。

「全てはこの場を乗り越えてからだ。容疑者であろうと、彼らを守り、目の前の敵を討つ。みんな、力を貸してくれ……!」

「言われずとも、よ!」

「精一杯、お手伝いします!」

「ニシシ、いいよー!」

 カイトが前に出る。

「……ようやく《アンチセプトオール》も解けた。あの眼鏡野郎にしてやられた分は、ここで返す」

「故郷を護るために……こちらこそ、力を貸してくれ……!」

 咆哮とともに、ギノシャ・ザナクが再び突進してくる。それは前に立っていた男子三人をその左右の牙で噛み砕くためのものだ。

 仮にも実習で修羅場は潜ってきたⅦ組だ。躱すことはできる。だが、巨大蜘蛛はそこから頭を振りかぶり、その複眼にガイウスを捉えた。

「む……!?」

 糸が吐き出され、後退したガイウスの足首に絡みつく。真正面から捕らえられなかっただけ先の猟兵崩れとは違うが、それでも頑丈な糸はそう簡単に断ち切れない。

 数秒もたつけば女神行きだ。

「……ガイウス!」

 リィンの覇気とともに、太刀から炎が吐き出される。ギノシャ・ザナクではなく糸に絡みつき、劫火によってガイウスの窮地を助けた。

 それでも敵の勢いは止まらない。ガイウスに迫る顎。十字槍を振り払い竜巻を起こし、エマが魔導杖から炎を吐き出し、巨大蜘蛛を火炙りにする。

「ガイウスさん、大丈夫ですか!?」

「ああ……みんな、助かった!」

 カイトが久々に波を収束させた。ARCUSでの戦闘に慣れてきたあたりで多用するようになった炎の魔法。火球爆撃(イグナプロジオン)がさらにギノシャ・ザナクを叩きのめしていく。

 いかに巨大であろうと、人の大きさを超えていても、生物であることに変わりはない。それも昆虫の類であるなら尚更火には弱いだろう。

 そして、A班のこの班分けは幸いだった。焔の太刀を扱えるリィン、火矢を得意とするアリサ、同じく炎使いのエマ、それらの勢いを増すガイウスの風の技。

 そしてカイトのマスタークォーツ《クリミナル》から供給される炎の魔法。倒し方は意志疎通をしなくても理解していた。

「ガーちゃん!!」

 ミリアムもいる。少女はアガートラムの腕に乗り、天井付近まで上昇。そのまま飛び降り叫ぶ。

「ガーちゃん、トランスフォーム!」

 Ⅶ組メンバーが驚愕する。ギノシャ・ザナクの真上でアガートラムは光輝き、次の瞬間には同じ質感の、ミリアム数人分の巨大な大槌に変わる。

「ボクとガーちゃんで抑えるよ! はやく倒そー!!」

 Ⅶ組の面々に声をかけ、そして身の丈以上の大槌を振り下ろした。実際の木槌や鉄槌なら明らかに重みに負けるのだろうが、どんな現象によるものか変化したアガートラム自身も動いている。

「ギガント……ブレーイクッ!!」

 どんな大男の拳よりも強く、それこそ執行者である《痩せ狼》が振るうという体術にも劣らない破壊力の一撃。致命傷とまではいかないが、それでも確かにギノシャ・ザナクを退ける。

「今だよ! みんなやっちゃえー!!」

 ミリアムの快活な声を聞き届けた。前のめりな姿勢に、Ⅶ組たちもまた気力を保つ。

 魔獣の破壊行動と前衛の攻撃が続くなか、アリサは導力矢を持つ手に力を込める。

「グルノージャの何倍も強い化物……でも、不思議と負ける気がしないわ」

 アリサにとっても、このノルドでの実習は特別なものになった。シャロンが来てラインフォルト家についてクラスメイトに明らかになり、イリーナと再会して動揺した。そんな中でグエンと再会し──けれどそれ以上にリィンや他の仲間と見上げた星空は忘れない。

 ガイウスの故郷への想いとは違う。けれど、ノルドを守りたいと思ったのは同じだ。

 後ろには腰を抜かした猟兵崩れたちがいる。自業自得ではある。それでも、同じ人であるならこれ以上殺させるわけにはいかない。

「放つわよ……私の切り札を」

 それは誰に向けての言葉か。この実習で決意を新たにした自分への発破だ。

 ギノシャ・ザナクは破滅的な強さだが、魔獣であり空腹らしく、頭は働いていないらしい。守ろうと認識したGももういない。近くにいるリィン・ガイウス・カイトを執拗に追っている。

 だから、アリサはしっかりと今の役目を果たせる。

「導力エネルギー充填……!」

 弦を引く。導力弓である以上、純粋な威力の底上げや特殊効果を付与した一撃を放つことができるが、RFグループのご令嬢であるアリサのそれは特別製だ。

 引き絞る矢尻を中心に魔法陣が展開。赤と金の煌きが迸り、爆発力と熱を溜め込む。。

 ジャッジメントアロー。放たれた弓矢の一撃は魔法陣に吸収され、同等の射撃があたかも一瞬のうちに連発されるように放たれた。それは巨大蜘蛛の腹や脚や頭に突き刺さり、先のミリアムの剛擊とはまた違う痛手を与える。

 殴打に弓矢による爆撃。それは前衛の男子たちによるものではない。未だ、ギノシャ・ザナクは盲目的に男子たちを追いかける。

 もうひと押しだ。まだ足りない。エマは魔導杖を天にかざす。

「……私の、護るべきもの」

 ガイウスは故郷を。アリサはノルドに住む祖父を。それぞれ護りたいと明かし、行動している。

 カイトはパルムの時点で仲間たちに帝国入りした目的を仲間たちに話しているし、リィンは貴族でありながら平民の心がわかる稀有な一人として、重心としてⅦ組をまとめている。

 仲間たちはARCUSで、なによりも絆で繋がっている。そう自覚すればするほど、自分は何者なのか、と思う。

 片手で魔導杖をかざしている。無意識に、自然ともう一方の手が丸眼鏡に触れた。

 特別オリエンテーリングで話した、奨学金を狙って入学したという経緯。その後は主席として、Ⅶ組の委員長としての地位を確立した。

 そんな一人の学生としての自分に、思う所がある。自分には、()()()()()()()()()()()()()()()

 これから振るうのは、その目的に関する力。

『そびえ立て──大いなる塔』

 少しだけ、エマの声が反響して聞こえる。同時、ギノシャ・ザナクを取り囲むように幻影の尖塔が三つ、地鳴りを起こしながら出現した。

 Ⅶ組の仲間たちがわずかに驚く。初めて見せた、エマの戦技。委員長に似合わないその攻勢だから。リィンやラウラのように、鍛え上げた体と剣に磨き上げた技術に、たった一撃に全てを乗せるのとはまた違う。

 尖塔から紫銀のエネルギーが中心──ギノシャ・ザナクの頭上に集まり膨れ上がる。

「ロード……アルベリオン」

 魔導杖を振り下ろす。一直線に、ミリアムのギガントブレイクとはまた違う破壊のエネルギーが地面ごと破壊していく。

 この大きな力の本流の前に、仲間たちは驚くだろうか。この力の源や、バリアハートで感づかれてしまった『力』を、今度こそ問いただしてくるのだろうか。

 いや、違う。きっと彼らは何も聞かず、ただ自分を信頼してくれるのだろう。

 今はそれを考える時ではない。生まれてしまった『何も話さないままでいいのか』という感情を振り払う。

 自分がⅦ組の役に立てるのなら。ガイウスの故郷を護ることができるのなら、自分も全力を出すことを厭わない。それは紛れもない本心だ。

 だから。

「ガイウスさん、今です!」

 ギノシャ・ザナク自体にもダメージを与え、そして破壊した地面は瓦礫となり巨大蜘蛛の八本脚を少なからず絡めとり動けなくさせている。

 エマの叫びに、呼ばれたガイウスは頷いた。彼はカイトとミリアムが現れた上階の方へ駆ける。アリサとエマ、二人の後衛が成し遂げた攻撃があるからこそ生まれた()()の時間だ。

「風よ、俺に力を貸してくれ」

 言いながら、ガイウスは仲間たちにも話した自分の過去を思い出していた。

 日曜教会の神父──グンター・バルクホルンに教えられ、単なる遊牧の少年だった自分は外の世界を意識するようになった。故郷を愛する自分は、そこを始源として(大陸)を知るために動いた。そうして得た力を持って、故郷に降りかかろうとする災厄を払うために戦っている。

 自分がいようがいなかろうが、この歴史の流れは必然だっただろう。けれど自分がⅦ組に参加しなければ、ノルドのことをほとんど知らなかった仲間たちはこの場所にたどり着けているだろうか。

 今の好機は、薄氷の上に成り立っている。そして自分たちが迅速に生還できなかれば、猟兵崩れを生かして捕らえられなければ、帝国も共和国も敵を違えたまま戦端を開くことは確実だ。

 力を貸すよう願うのは風と女神だけではない。ここにこれるまで自分を高めてくれた仲間にも、精一杯力を借りる時だ。

「みんな……俺に力を貸してくれ!」

 願い、溜め込んだ覇気を解放して跳躍する。導力と絡み合い、防御を取らない捨て身の一突きの構え。

 ギノシャ・ザナクが三度ガイウスに向けて糸を吐き出す。それをほとんど動かずに躱した。敵が正確にガイウスを狙えなかったのもあるが、それ以上に戦術リンクを通じて後方のリィンの意志を借りることができたからだった。

 そのまま突撃する。カラミティホーク、ガイウスの決意の一撃がギノシャ・ザナクの脚の一本を貫き吹き飛ばした。

「止めを刺せ! カイト、リィン!」

 突進の衝撃を殺しきれず、瓦礫の地面を転がって、それでもガイウスは(たすき)を繋げる。

「ナイスだぜ、ガイウス……!」

 カイトは笑った。捨て身の一撃を成し遂げたガイウス。実技教練や特別実習では見ることのできなかった彼の成長した一撃に、カイトは彼が故郷で一皮向けたことに喜びを感じる。

 それだけではない。アリサだって昨日の一幕で気持ちを新たにした。そんな二人に触発されて、エマもパルムでは見せなかった積極性を出しつつある。

 重心のリィンは変わらず頼もしい。

 それだけじゃない。

「《異変》を乗り越えたオレがいる……魔獣程度、乗り越えられないわけないんだよっ!」

 魔法の駆動時間を終え、金色の波が収束する。圧倒的に破滅の音を響かせていたギノシャ・ザナクだが、けれど負けるわけにはいかない。

 カイトにとって、初めての仲間の故郷での特別実習。絶対、成功に終わらせてやる。

「もっかい眠りやがれ! 十字衝撃洸(エクスクルセイド)!!」

 崩れた地面のさらに下から、金白色の輝きと圧力がせり上がる。真上に吹き出るエネルギーは十字架を型どり、どんな存在をも女神の下へ送る墓標となる。

 エマのロードアルベリオンによって崩れた岩盤をさらに吹き飛ばし、純粋な魔法攻撃と礫による破壊攻撃を同時になす。得意の魔法を基に、仲間の実力や環境を利用して素の実力以上の攻撃を行う。カイトの得意とする戦いだ。

 ジャッジメントアロー、ロードアルベリオン、カラミティホーク、エクスクルセイド。仲間が繋げた連続攻撃。魔獣相手だからこそ通用する。

 そして、ギノシャ・ザナクは確実に弱っている。引導を渡す時だ。

「いけ、リィン!」

 カイトの号令に、リィンは声を返さなかった。返す必要がなく、互いに理解していた。リィンは了解してくれるだろうし、カイトは理解してくれると。

「焔よ──我が剣に集え」

 リィンの剣に、独りでに大きな焔が纏わる。舞い散る熱気が大気を焦がし、紅い閃きが虚空を切り裂く。隙だらけのギノシャ・ザナクに疾風の如き速度で迫り、太刀を振り抜いた。

「──斬!!」

 横に切り裂き、すぐさま袈裟掛けに二閃目。大上段からの止めの三閃目。それらが、全て巨大蜘蛛の体を引き裂いた。

 燻る熱気を身に宿し、古代から人を食らってきた悪しき精霊(ジン)。数々の魂を石切り場に縛り付けて来た元凶が、今倒れる。

 

 

 

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