心の軌跡Ⅱ~重なる標~   作:迷えるウリボー

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57話 女学院よりの訪問者①

 

 

 七月中旬。六月の特別実習実習を終えると、旅の気分からまた忙しい毎日に戻ってくる。

 この頃トリスタは初夏を迎え、士官学院では学生服が夏服へと切り替わった。

 緑、白、そして深紅。それらが半袖のシャツとなり解放感に溢れる。入学当初いがみ合っていた貴族クラスに平民クラス、それらが歩み寄るきっかけになればいいのだが、一回生はまだ二回生のような空気を作るのは難しい。

 夏の盛りの前、まだ暑すぎず、過ごしやすく気持ちのいい日々。特科クラスⅦ組の面々はようやくハードなカリキュラムに慣れてきた。水練というこの季節ならではの授業も始まり、熱を産んでは冷まされる浮かれた日々となっていた。

 そんな折の七月十八日、自由行動日。シャロンというスーパーメイドのおかげで朝食の集合率も増加した第三学生寮。

 殆ど同じ時間に起床し、二階で顔を合わせたカイトとリィンは隣りあって座る。その正面では一足早く起きたらしいラウラとエマが談笑していた。

 タイミングよくシャロンが厨房から近づいてきた。

「おはようございます、リィン様、カイト様。本日も朝食は召し上がられますか?」

「おはようございます、シャロンさん。是非お願いします」

「自由行動日にシャロンさんのご飯をいただかないのはだめですから」

「まあ、ありがとうございます」

 そう言って、そつなくシャロンはプレートに乗せていた朝食を二人に配る。

 見覚えどころか印象深いメニューに、カイトとリィンがまじまじとそれを見た。

「これって、ノルドのミルク粥?」

「わざわざ作ってくれたんですか」

「はい。アリサお嬢様にどうしてもとせがまれてしまいましたので」

 ウォーゼル家の朝餉で出されたものと同じだ。ノルド組としてはあそこで出された食事はどれも暖かみのある優しい味わいだった。そういえば、アリサはウォーゼル家の長女シーダにメニューを聞いていた。よほど美味しさを感じたのだろう。もっとも、カイトにしてもリィンにしてもそれは同じだ。

「先ほどガイウス様にもご賞味いただきました。ノルドの方々程ではありませんが、及第点はいただけた次第でございます」

「そんな、とんでもない」

「本日のメニューはミルク粥。とはいえ食べ盛りの皆様ですから、温野菜にスープも用意がございます。遠慮なくお申し付けくださいませ」

 淑やかに一礼をして、シャロンは再び厨房に向かった。

 シャロン特製のミルク粥をいただく。さすがに現地の具材まではないが、それでもあの味わいに近いものが食べれるのはありがたい。

「あぁ、染みる……」

「はは、シャロンさんには頭があがらないな」

「アリサもなんだかんだシャロンさんの管理人業務に文句を言わなくなったしね」

 前方からラウラが声をかけてきた。

「これほどの絶品を食べれるとは、少々ノルド組が羨ましくなってくるな」

「確かに。ガイウスもまた招待したいと言っていたし、いつか行けるといいな」

「オレたちとしてはB班も気になるよ。ブリオニア島の食事事情はどうだったの?」

 ラウラは羨ましがった割には得意げな顔で述べてきた。

「こちらはこちらで帝国随一の海都の近くだからな。バレアレス海産の新鮮な魚料理を頂けた」

「へぇ……」

 カイトが唸る。自分もルーアン市出身なのでテティス海で漁師が持ち帰った魚を食べることはそれなりにあった。だが故郷から北に上がった帝国の海だと生息する魚類もまた違うのだろう。ちょっと羨ましい。

「羨ましいか?」

「なんでラウラが得意気なの?」

 若干不思議そうなカイトだった。

 リィンが尋ねる。

「けど、ブリオニア島は確か無人島だろう? 誰が料理をしたんだ?」

「ちょうど海都が夏至祭の時期でな。折よく観光客用のロッジに専門の調理師がいたのだ」

 毎度のごとく実習の報告を行ったわけだが、そこでカイトたちA班の面々は、B班の成果を聞いている。

 ブリオニア島はラマール州西端、バレアレス海に浮かぶ孤島だ。古くは住民がいた痕跡もあるし、ノルドで見た巨像と同種の像もあるし、静かな浜辺と豊かな緑が人気の行楽スポットである。もっとも、ビーチなど以外の森林地帯はここ数年魔獣が増えてきた影響で封鎖しているらしいのだが。

 観光客に紛れ、海都からの定期船で上陸したB班の面々はロッジ責任者から課題を預かり、手配魔獣に観光客の案内、ビーチの哨戒に観光スナップ写真の収集など、手広く課題をこなしたらしい。

 その地理的条件もあってA班ほどの対立する某かの悪意はなかったそうだが、バリアハートの時のような不穏な気配はあったらしい。

 ブリオニア島の南東には《ジュノー海上要塞》というラマール領邦軍が誇る一台拠点がある。正規軍のガレリア要塞とも比肩できる海上の最終防衛圏だ。

 その要塞が、夜、海都オルディスに負けないほど光り輝いていたのだという。通常ならあり得ない程に。

 加えて要塞に作業船の出入りがあったことも確認でき、似合わないことにそれはブリオニア島にも停泊していた。

 革新派と貴族派の対立が公然の秘密となって久しい現在はともかく、昔は海上防衛やリベール・ジュライ・ノーザンブリアなどの臨海国家への睨みを効かせる要衝だった海上要塞だ。それが、革新派の影もないラマール州で活発的に動いているというのは、先のバリアハート以上の革新派に対する警戒心そのものだった。

 何よりの成果は、ラウラとフィー・マキアスとユーシスのペアが《戦術リンク》を結べたことだった。それどころか《リンクブレイク》を起こさず、リンクの切り替えも問題なく行えたのだという。魔獣騒動も小規模だが発生したらしく、A班共々上々の結果だった、

「島から見える海都の灯籠は絶景だったぞ。まぁ、そこでもユーシスとマキアスは小競り合いをしていたが」

「うわぁ、それは雰囲気が台無しだ」

「うん、そうなのだ」

 ラウラは笑っていた。先月からわかっていたことだがフィーと問題なく過ごせたこともそうだし、マキアスとユーシスの仲についても、言葉とは裏腹にいい結果だったのだろう。

「特別実習もクラス内の問題も一段落した。水練の授業も始まって『夏が来た!』って感じだし、気分も爽快だな!」

「ふふ、カイトさんもいつになくいい笑顔ですね」

 そういうエマが微笑む。リィンが続けた。

「水練といえば、ラウラも水泳部だけあって速かったな」

「ふふ、そう簡単にⅦ組トップの座を渡すわけにはいかぬからな」

 ラウラはカイトを見る。

「そなたも、男子の中で一番とは恐れ入ったぞ」

「孤児院は海から近い場所にあったからね。昔は泳いだもんさ。でも、ラウラとフィーにはやっぱり負けるな」

「ああ、俺も驚いたのはそこだ。本気を出したフィーがラウラと僅差になるとは思わなかった」

 ラウラとの確執が解消されて以来、フィーの方方への態度も徐々に軟化しつつある。物事に積極的に取り組む姿勢も見えてきて、この場にいるフィーの保護者役三人が感激している。その結果の一つがラウラとの水練での白熱した一戦だ。

「レグラムに戻ったらまたひと泳ぎしたい気分だ」

「レグラムか。そういえば湖もあったもんな」

「ラウラさんの故郷ですか。なんでも風光明媚な町並みだとか」

「悪く言えば辺鄙な場所ではあるがな。私にとっては大切な故郷だ」

 そこで、カイトが思い出す。

「そういえば、夏期休暇って来月にあるんだっけか」

 そもそも士官学校には年末年始を除き長期休暇は存在しない。トールズの場合は八月上旬、自由行動日を挟んだ五日間を名目上の夏期休暇としているだけだ。

 ただ、貴族生徒はその限りではない。『将来の領地運営の勉強』という名目での帰省が認められていて、八月になればほとんどの貴族生徒はいなくなり、第一学生寮は閑古鳥が鳴くのだという。

 そしてそれはⅦ組の貴族生徒も例外ではない。

「リィンとラウラは帰るのか? ユーシスは親父さんとのことがあるし帰らなさそうだけど」

 カイトの問いに二人が順に答える。

「俺は……Ⅶ組全員が帰省するってわけじゃないし、あまり考えていないな」

「同じく。修行半ばで帰る気はないからな」

 考えてみれば、入学してから四ヶ月目の夏期休暇だ。確かに故郷に帰るのも早い気がしないでもない。

 そしてリィンがカイトに促す。

「カイトこそ、今年くらいは帰省してもいいんじゃないか?」

「へ? オレがか?」

「前に言っていたじゃないか。一年半くらいクロスベルにいて、かれこれ二年は帰ってないって」

「まあ、言ったけど……許されるの?」

 平民生徒も帝国各地から来ているので、場合によっては帰省が認められる可能性もあるらしい。だが結局五日間の休暇だけではあまりのんびりもできないので、そのまま学院に残る選択をする平民生徒がほとんどだ。

 その彼らにしても、基本二年で卒業という期限があり、年末年始にも帰省できるという理由がある。カイトのように二年以上帰っていないわけではないので、確かに事情が異なるとも言える。

「外国からの留学というわけですし、その辺りは多めに見てくれるんじゃないでしょうか? 折角の機会ですし、カイトさんもゆっくりしてもいいかもしれませんね」

 元々が遊撃士としての旅路の途中で、クロスベルで自分の修行ややりたいことを終えたら、別の国に行ってみたいとも思っていた。漠然と考えていたのはカルバード共和国だ。一度里帰りをするという選択肢が確かにぽっかりと抜けていた。

 カイト自身、確かにありだと考え始める。

「カイトの故郷か。はは、一度見てみたい気はするな」

「まあ自慢の故郷だけど……傍から見れば片田舎の海港都市ってだけだよ」

「だったら、みんなで遊びに行くのもいいかもしれないな」

「へ?」

 リィンの予想外の発言にすっとんきょうな声をあげてしまうカイト。

「バリアハートにノルド……月に二ヶ所の特別実習なら俺やラウラ、他メンバーの故郷にもいずれ訪れる可能性はある。けどカイトの故郷はリベール。選ばれる可能性はまずないだろうからな」

「ふむ、妙案だな」

「いいですね。フィーちゃんなんて絶対に行きたがりますよ」

 思いの他前向きに検討する三人。里帰りところか級友を連れて小旅行とは考えがつかなかった。

「……まあ、考えておくよ」

 と、そんな風にカイトは明後日の方向を向くことになる。

「そうだ、リィン」

 ラウラがリィンを見た。

「そなた、今日も旧校舎の調査に行くのか?」

「ああ、生徒会の他の依頼を終えてからだが」

「今日は私も連れて行ってはくれぬか? 部活も今日は休みでな」

「あ、ならオレも連れてってくれ。同じく保健室待機もなくて暇なんだ」

 なんだかんだリィンに協力すると言っておきながら、今まで参加したことがなかった旧校舎調査だ。特別オリエンテーリングで徘徊していた魔獣にそこまで手応えを感じなかったというのもある。けれど徐々に手強くなってきているという話も聞くし、二ヶ月ほど前から聞く『内部構造が変わる現象』も自分の目で確かめておきたかった。

 そしてせっかくの機会だからというべきなのか、エマも名乗りを挙げた。

「私も参加させてください。ここまで話して仲間はずれというのも、少し寂しいですし」

「わかった。今月はなかなかスムーズに決まったよ」

 聞けば、リィンが主導なのは変わらないがいつの間にかⅦ組全員が参加するようになったらしい。カイトで最後だ。

「現時点で四人、バランスもいい編成だけど、これで締め切るか?」

「いや、魔獣も手強くなってきているしあと一人くらいは──」

「それなら、僕も同行させてくれないか」

 新たに食堂にやってきた人物の声が、カイトたちの注目を集める。

「おはようございます」

「そなたが名乗りを挙げるとは、珍しいな」

 女子二人がそれぞれ口を開く。マキアスは少しだけ考え込んでから、眼鏡のブリッジを指で押し上げるのだった。

「その、たまには体を動かしたくてね」

 

 

────

 

 

 そもそものきっかけは、リィンがヴァンダイク学院長から直々に受けた依頼だった。

 士官学院創立前、暗黒時代から存在するといわれる旧校舎は曰くつきで、魔獣討伐と修練がてらリィンは調査を引き受けることになった。一回生の中でもⅦ組は特別オリエンテーリングで地下ダンジョンに突き落とされたわけだし、慣れという意味では適任だ。

 最初はエリオットとガイウスを引き連れた旧校舎探索は、いつの間にかⅦ組全員を巻き込んだ大掛かりなものになってきている。

 何よりも度肝を抜いたのが、聞いたように『攻略する度に迷宮の形が変わる』ことであり、探索の度に奥へ奥へと進んでいるのは確からしいのだが、真相に近づいているという実感はまだないらしい。

 四月には終点と始点を繋ぐ転移装置が、五月にはさらなる地下階層へと至る自動昇降機が現れ、旧校舎の地下ダンジョンはますます学院の一施設とは思えない風体を帯びてきている。

 そして現在、旧校舎探索班は第四階層を攻略していた。

「そもそも、旧校舎の地下がダンジョン区画になっているっていうのが突っ込みどころ満載なんだよ」

「言ってくれるなよ。俺は慣れてきたぞ」

 カイトのぼやきをリィンはなんてことのないように受け止めた。

 影の国やリベル=アークほどではないが、これまでの探索や特別実習の修羅場を経てクラスメイトたちも異常事態に慣れつつあるらしい。

 また毎月主導して探索しているリィンはその法則性に気づきつつある。

 階層の始点には扉が、終点には《守護者》が必ず存在していること。一月ごとに内部構造が変化すること。

 とはいっても未だ全容が見えていないので確証付けるのも憚られるが。

 徘徊する魔獣もさることながら、最奥に待ち構える《守護者》はイグルートガルムにも引けを取らないほど危険な存在だったという。

 四月は二本の角を持つ大きな悪鬼が、五月は扉と一体化した守護者が、六月には翼と大きな腕を持つ悪魔の使いが、それぞれ終点で立ちはだかった。

 そして十中八九、今回の終点にも守護者はいる。

 メンバーはリィン、カイト、ラウラ、マキアス、エマの五人。

「マキアスも委員長も、だいぶ戦闘に慣れてきたね」

 徘徊する魔獣を何度目か蹴散らして、カイトはそう言った。

 二人とも四月の実習で同じ班となった。別の要因もあったとはいえ、あのときは戦闘一つ一つに苦戦していたと言ってもいい。

 今、マキアスは冷静に散弾銃の有効射程と味方への誤射を避ける立ち回りをできている。エマは時に導力を変形させた刃で敵を狩り、時に仲間の後ろから敵の弱点を解析したりと様々な役割を買ってきている。

「ふふ、ありがとうございます。皆さんと一緒にいて鍛えられました」

「それとサラ教官のしごきもだぞ、エマ君」

 マキアスがため息を吐く。ユーシスやリィンとともに辛酸を舐めさせられた彼ならではの言葉だった。

 また元々武術を嗜んでいたリィン、ラウラをはじめとしたメンバーも負けてはいない。元々の技術も実践の中で鍛えられ、他者との連携も学んだ。今ならそこいらの魔獣も目ではなく、クラスメイトと一緒なら高難易度の手配魔獣にだって立ち向かえるかもしれない。

「ARCUSの戦術リンクも、ペアの相性に関係なく組めるようにもなってきましたね」

 エマの言う通り、現在は戦術リンクの調子もいい。切迫した状況でのリンクブレイクはそもそも仕様のようなものなので仕方がないが、ユーシスとマキアスも文句を言いつつ的確に繋いでいたりする。ラウラとフィー、カイトとリィンなどの相性のいいペアはさらに効果的な連携をとれ、それ以外の組み合わせでもサラの評価は上々だ。

 自分たちは確実に成長しているのだ。

 リィンが訪ねた。

「ところで、みんな。マスタークォーツの調子はどうだ?」

 ARCUS所持にあたり、日々新調する通常のクォーツだけでなく、学院から配布されたそれぞれのマスタークォーツをセットしている。マスタークォーツは今までになかったもので、装備して戦闘経験を積むごとにマスタークォーツ自身が最適化──有り体に言えば成長を果たす。

 例えばカイトは《クリミナル》を、リィンは《フォース》を所持している。

 他のクォーツと同じく、填めれば装備者に様々な恩恵を与える。それは例えば《攻撃》という単純なものでない。ラウラの《ブレイヴ》であれば攻撃力を中心に戦闘の前衛で活躍するような身体能力上昇と活力を与える。マキアスの《アイアン》であればそれが防御力と緊急時の堅牢さなどだ。

 サラの選定なのか、フィーであれば《レイヴン》という身のこなしに特化したものであるし、元々各々が秘めている長所に特化したものでもあった。

「実習に実技テスト……着実に戦闘を重ねてるからな。僕もいい具合だぞ」

「私も、全部のスロットを開放できました。もっと皆さんのお役に立てると思います」

「元来アーツは不得手だと思っていたが……ARCUSの仕様は私のような前衛にも恩恵をもたらすからな。色々と試しているぞ」

 口々に語る。

 魔法を重要視するカイトにとっては特に大事なことだ。エマと同じく全てのスロットを開放しているし、戦う相手や仲間に合わせて自分の役割を変えられるように多種多様なクォーツを揃えている。質屋のミヒュトから流してもらった珍しい種類まである。

 それはリィンも同じなようで彼の場合は生徒会の依頼で手に入れたり、魔獣が落としたセピスをジョルジュに渡して便宜を図ってもらっているらしい。カイトがあまり他人にクォーツを譲らないのに対して、リィンの場合は懐が深かったりする。

 Ⅶ組はあくまでARCUSの試験運用を目的としている。そのためリンクブレイクのような不調から逆に高度な連携という好調まで実感できているのはいい傾向だろう。

 そんなアーツの話題に差し掛かったところで、カイトは微かに感じていた違和感を口にした。

「……ところでさ。アーツの効き方がおかしくないか?」

 一瞬カイトを見る他の四人。しかし気持ちは同じのようで、

「俺も感じた。先月の《石切り場》と同じだ」

「上位三属性が働いている……そんな感覚はありますね」

「ふむ、先月A班が遭遇した妙な空間のことだな?」

「違和感はともかく、理屈はわけがわからないんだが……」

 としきりに不思議がっている。

 カイトはノルドの《石切り場》以外にも経験があった。《影の国》とクロスベルの《星見の塔》だ。

 霊的だったり、古代の遺構が残っている場所では得てしてそういう不可思議な現象が起こる。そもそも《影の国》は女神の至宝である《輝く環》に連なる異空間だし、四輪の塔の裏の空間だってマキアスの言葉を借りれば『わけがわからない』場所だ。

 現状、カイトにはわかりようのない空間。上位三属性が働いているという事実だけが理解できる。

 そしてもう一つ、この旧校舎地下がそんな『わけがわからない』場所に()()()()()()という事実もある。

 乗り遅れてしまったが、調査に一枚噛んで正解だったと思った。

 やがて魔獣討伐を繰り返し、順調に五人は第四階層を踏破する。そうして、カイトとしてはイグルートガルムと対峙した終点を思い出す広場にたどり着く。

 もはや条件反射のごとく、何もない空間に向かって太刀を構えるリィン。他の面々も続いて得物を構える。

「やっぱり、ここから出現するの? 何もないけど」

「油断するな! 突然に空間が歪むんだ!」

 リィンがそう発言したからではないだろう、本当にそうなって、銀耀石を思わせる光が拡散──複数出現したそれらから、今度は金色の煌きが現れる。

「これは──!」

 一同息を呑む。やはり自然に生息するような魔獣ではない。石造りの守護者だったり悪魔を思わせる存在と同じく、《魔物》と呼称しても違和感のない悪意。

 一目見たそれは巨大な扉をくり抜いたような存在だった。金色の発光、浮遊しながらこちらに近づいてくる巨大な石塊のそれは、神々しくも禍々しい。

 扉の取っ手に相当する場所にあるのは人型の顔面、女性と見紛うそれは恐ろしい嘆きの表情をしていた。

「総員、戦闘開始!」

 リィンが、Ⅶ組のリーダーが指揮を執る。

 セラフィムゲイト──第四階層の守護者が三体、金切り声を上げながら突進してきた。

 

 

 

 







旧校舎調査メンバー
4月:リィン、エリオット、ガイウス
5月:リィン、エリオット、ガイウス、アリサ
6月:リィン、ユーシス、フィー、エマ、ガイウス
7月:リィン、カイト、ラウラ、マキアス、エマ
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