エリゼ・シュバルツァー。アリス・A・アレスレード。
二人の女学院よりの訪問者。エリゼはリィンと、アリスはカイトと。それぞれ語らうことがあった。
リィンとエリゼは本校舎の屋上へ向かった。カイトとアリスも、どこか人のいない場所で話そうということになった。けれど本校舎はなんとなくリィンたちとも鉢合わせてしまいそうで、移動するのは躊躇われた。
やや呆気にとられて第三学生寮に戻る委員長コンビに申し訳なく思いつつ、カイトはアリスに促した。グラウンドへ行こう、と。
「わぁ、広いね」
それに少し驚くアリスを見て、カイトは笑った。
「帝都の女学院。お嬢様学校じゃさすがに土臭いグラウンドはないか」
グラウンドで自由行動日に活動しているのは主に二つだ。ラクロス部と馬術部。夕方、もっと言えば太陽が真っ赤に染まるのが見えるグラウンド。
だが一日も終わりになろうというこの時間帯、馬術部はいないし、ラクロス部は他のメンバーとともにグラウンドの整備をしていた。遠くのアリサはカイトに気づき、さらに隣のアリスを見て面食らった顔となったが、カイトが『問題ない』とジェスチャーで答えた。アリサは再び自分の作業に戻った。
「一応、運動授業用の屋外会場はあったけど、万一にも怪我をさせないような芝生の作りだから」
「なるほど」
「カイトさんは、大きくは感じないの?」
「まあ、見慣れたグラウンドだし」
実技教練含め別の授業でも使うときはある。慣れたものだろう。何よりカイトとしては、このグラウンドなんてちっぽけに思えてしまう蒼穹の大地を見たのだから。あの解放感を感じてしまったら、グラウンドはもの足りない。
グラウンドに入るための階段の、その一段にカイトは座った。カイトはその隣にアリスを促した。
「えっと……?」
「ま、少しくらい気を楽にしてもいいとは思ってさ。意外ときれいだよ、ここ」
石造りの階段のことだ。士官学院にはガイラーという初老の男性用務員が勤めているが、彼の仕事ぶりが年季の入った丁寧なものなのだ。さすがに靴を履かない場所と同じとまではとはいかないが、男女ふたりが座って話すくらいはできると思う。
「何より、今はそんな感じの方がいいかと思って。父さんもいないし」
アリスはふっと笑う。
「ふふ、そうね。そうさせてもらおうかな」
アリスもまた、スカートの裾を丁寧に折りたたんでカイトの隣に座った。
「クロスベルから、また随分違うところで再会したね」
そうしてアリスは病院で父親と接していた時とは違い、帝都で出会った町娘のような雰囲気となる。
「そうだな……裏社会の社交場で大脱出劇を演じたと思ったら、今は帝都近郊の士官学院だ。どんな間柄だっての」
「ふふ……」
「エリゼちゃん……リィンの妹さんが発起人? ここに来たのは」
「うん。リィンさん、エリゼのお兄さんに話がしたいって……」
なんだかお互いの人間関係がややこしかった。ともかく、『エリゼちゃん』と『リィンさん』で一致する。
「エリゼとリィンさんも、文通をしていたんだって。それで気になることがあって、学院に行くって言っていたから」
「それでオレがいることも知ってたし、アリスはついて行くことにしたと」
「私、エリゼの一学年先輩なの。だけど色々縁もあって、仲良くなっちゃった」
リィンとエリゼの文通のことはリィン本人から聞いて知っている。ひと目見て兄妹仲は良さそうだと思った。エリゼのあの態度は寂しさの裏返しか、あるいはその手紙になにか納得のいかないことでも書かれていたか、そんなところだろう。
とはいえ中々にご立腹ではあったので、後でリィンに事情を聞いておく必要はありそうだ。
アリスは軽い疑惑の目線をカイトにも向けた。
「カイトさんも、最近文通が滞っていたよね?」
「あー、うん。そうだな」
なんの反論もなく、実際アリスとの文通の頻度は減少していた。学院に入って最初の一ヶ月はともかく、この三ヶ月はものすごく減った。言うまでもなく、初めての学院生活でいろいろとてんやわんやだったからだ。
「だから、少しだけお話がしたいと思って」
「……アリス、やっぱりすごいよな。競売会といい、今日といい、大した行動力だ」
「そう?」
「ああ、自信を持っていい」
そうして、アリスは聞く。
「士官学院はどう?」
「忙しいよ。毎日の授業はレベルが高いし、士官候補生だから軍関係の知識と技術も求められる。極めつけはⅦ組のカリキュラムさ」
「そういえば、試験運用的なクラスに配属されたんだよね?」
「ああ、特科クラスⅦ組。月に一回は帝国内のどこかに飛び回ってるからな」
ケルディック、パルム、バリアハート、セントアーク、ノルド高原、ブリオニア島。クラス全体で数えれば既に六ヶ所だ。帝国百景の制覇も夢ではない。
「ところで……カイトさんってオリヴァルト殿下の知り合いだったんだ?」
「ああ、ばれた? あの人が──はい?」
意味を噛み砕いてから、背筋が冷える。
今日は旧校舎の件といい、驚くことが多すぎやしないか。どうしてアリスが自分とオリビエの間柄を知っている。
「ふふ、初めてカイトさんを出し抜けた気がする」
「いや、ずーっと前から仰天させられてるけど……」
「本当は、女学院に在籍してるオリヴァルト殿下の妹君から聞かされたの」
「ああ、アリスが女学院に興味をもったきっかけの」
そういえば、いつだったか彼から弟と妹がいると聞いていた。
「えーっと、オレとアリスが知り合いでアリスの後輩のエリゼとリィンが兄妹で、二人の知り合いの子が帝国皇族でその兄がオリビエさんで……ちょっと待ってややこし過ぎる」
カイトはため息を吐いた。
「アリスも、女学院は充実してそうだね」
「うん、充実してる」
アリスは聖アストライア女学院の高等部に入学を果たした。
以前、帝都で出会った際に聞いたことだ。入学したいができていない、と。あの時はアリスが伯爵家令嬢であることなんて想像もしていなかったわけだから、帝都のお嬢様学校に入れないことに疑問はなかったが、今考えると腑に落ちない点もある。
「もしかして……父さんが入らせてくれなかったってことか」
「うん」
そもそも子供の経済力は親に依存するのが常なので、そこに意向が入るのは当たり前だ。だが、アスベルの態度を見たことがあるので、別の印象も生まれてしまう。
そこからどうしてアリスの意を汲んだ現在となっているのか、というのも疑問ではあった。
だがそれは一度置いておいて、アリスにとっては喜ばしいことだろう。エリゼという後輩も、そしてオリビエの妹という存在とも関係が持たれたのだ。
「淑女としての礼儀作法も教わるから、私としては貴族としての自分が育つ感じがして嬉しいかな」
「充実してるなら何よりだよ」
「アルスに会える機会が減ってしまったのが、少しだけ残念だけど」
カイトはクロスベルから離れ、アリスはクロスベルに行きづらくなった。お互いアルスに会う時間は減ったわけだ。アルス本人が二人に対して裏表もなく応援してくれていたのであまり心配はしていないが。
「そうそう、そのクロスベルで最近色々あったけどさ、アルスは大丈夫なのか? やっぱり、文通の頻度も減っているんだ」
カイトが離れて以降にクロスベルで起こったことといえば、主立っては教団事件だ。
「その事件で病院が慌ただしかったみたいだけど、今は大丈夫そう。でも、クロスベルは通商会議が近づいてるから、それで慌ただしいみたいだけど」
「なるほど、それがあったか」
通商会議とは、およそ一ヶ月半後に迫ったクロスベルで開かれる国際会議のことだ。西ゼムリアの各国が参加するので、開催枠のクロスベルはもちろん帝国やリベールも徐々にその話題が持ち上がりつつある。
クロスベルに関して、会議のことは確かに気になる。けれどカイト個人としては、アリスとの関わりの中でもっと心配なこともあった。
「……
言うまでもなく、カイトとアリスが特務支援課とともにオークションを台無しにした件についてだ。そもそも裏の社交場なので個々人の素性をおおっぴらにはしないだろうが、二人はアスベルに送られた招待状を使ったわけだし、心の隅に感じていたことだ。そしてそれに関してカイトは何もできず、アリスにすべて任せる形になったので、不甲斐なくも思っていた。
アリスはなんてことのないように言った。
「それが、やっぱり問題はなかったよ。お父様、そもそもオークションのことなんて興味がなかったみたい」
「ほっ……」
「むしろ私としてはカイエン公爵と話しちゃったことの方が心配かな……」
「ああ、貴族派筆頭の」
カイエン公爵。西のラマール州を治める大貴族にして、ユーシスの父アルバレア公爵を抑えて貴族派の先頭に立つ男。オークション会場で出会った彼は、確かに自身が絶対的な存在であることを疑わない人物だった。
そしてカイトの友人であるオリビエが敵対する鉄血宰相──革新派の筆頭と争う存在でもある。
アリスの家が治める街イステットは、ラマール州の一部だ。アリスとカイエン公爵の会話を見ればわかるように、関わりもあったのだろう。
「……そういえば、イステットってどこだっけ?」
「海都オルディスの北ね。路線で言えばラクウェルからジュライ特区方面に行った先なんだけど」
「ふむふむ……知らない単語が色々出てきたな」
後で調べてみようと思うカイトであった。
今回はエリゼがリィンに会いに来たのが発端で、あくまでアリスはついてきただけだ。
帝都から始まり、クロスベルで培われたカイトとアリスの縁。最終的にオークションに潜入したこともあり、ふたりの関係性は確かなものだ。毎日会えるわけではないから、話すことは色々とあった。
そんな中、アリスがひとつ聞いてくる。
「カイトさん、セントアークの魔獣騒動にに遭遇したって言ってたけれど」
「ああ、特別実習の話だね。ハイアームズ侯爵とも色々話したけど」
「そ、そう……」
ルーファス・アルバレア、クロワール・ド・カイエン、フェルナン・ハイアームズ。着々と四大名門と関係が出来つつあるカイトだった。ちなみにその子息息女を数えればもっと出会っているわけだが。
「なに、何かあったの?」
カイトは考えた。急にアリスが五月の出来事に話題を移した訳を。
そしてひとつ、カイトがその発想に至った時には可能性でしかないワードがひとつあった。
「カイトさんは知ってるよね? 貴族派と革新派が争ってること。それに貴族派の中でも、過激派や中立派もいて内部抗争があること」
「知ってるし、想像できる」
アレスレード伯爵が、伯爵筋の中でも筆頭と呼ばれる存在であることも。
「……こんなこと、急に言い出してしまっていいものかわからないけど」
アリスは思いつめた顔をしていた。これが、自分を訪ねたある意味での本命か。
「私の父が、ハイアームズ侯爵へ攻撃をけしかけたのかもしれない」
「……」
思わぬところから、特別実習時の真相を聞かされることになる。
「その話、信憑性は?」
「カイトさんも知ってるでしょう? 父の性格を」
典型的な貴族派としての振る舞いをするアリスの父、アスベル・A・アレスレード。ラマール州の領主と懇意にしていて、そして息子娘のことを地位向上のための道具としてしか見ていない。
その彼なら、有り得る話なのか。
「カイトさん自身はどう? 私の父だからって、遠慮はしなくていいから」
「……アリスの父さんがあの事件の首謀者。そう考えれば辻褄が合うのは確かだ」
穏健派であるハイアームズ侯爵家。革新派との水面下の争いが激化する中、過激思想を持つカイエン公爵やアルバレア公爵にとって、彼が邪魔になるのは想像に難くない。
そしてハイアームズ侯爵は四大名門の中では四番目だ。当然他にも侯爵はいるだろうが、伯爵筆頭が近い位置にいるのは事実。
そして父アルベルは自身の行動をあまり隠そうともしていないようだ。陰謀はさすがにおおっぴらにはしないだろうが、その態度からアリスも感じ取ったか。
もちろん、まだ可能性でしかない話だ。
入学当時のマキアスをして、旧態依然の、時代遅れの保守勢力。そんな貴族派はいったい何処に向かおうとしているのか。
そして革新派にも、カイトからすれば警戒は解けない。
一体全体どうなっているんだ、エレボニア帝国は。
「カイトさん……私、それを調べてみようと思うの」
「オークションに参加したことと同じ理由でか」
アリスは頷く。
「まだ、私にはわからないことがあるから」
アリスは、黒の競売会にまで潜入した。それは自分や弟を蔑ろにする父を知り、貴族派を知るために起こした行動だ。クロスベルに繋がる闇を知れたのはひとつの成果だ。だが、それでもまだ足りないらしい。大人しそうな見た目に反して、行動力には目を見張るものがある。
「聞いておきたいことがある」
カイトは頭を振った。例え否定したところで、彼女が行動を止めることはしないだろう。
遊撃士や軍人のような戦闘力こそない。けれどアリスの気質は本物のように思えた。今までともに戦ってきた仲間たちと同じように。
「もし仮に、オレたちが考えていることが真実だったとして……それを知ってアリスはどうするんだ?」
水面下の攻防は、自分たちに見えていないだけでその水に住む住人にとっては周知の事実のはずだ。ハイアームズ侯爵がカイトたちに誤魔化したように、交渉相手を知っていたのは明白だ。それが実行犯の《C》たちなのか、その背後にいる者たちなのかまではわからないが。
自分たちが知らないだけで、それは公然の秘密なだけ。知ることの意義は大きい。けれど知ってしまうことで後悔してしまうこともある。
到底容認できないことを自分の父親が起こしている。それを知って、アリスはどうするのか。
問われたアリスは、迷うことなく答えた。
「私一人で、どうすることができるとも思えない。政争はもう行き着くところまで行っている」
「……」
「でも、正しくないのは確か。それを前に、何もしないなんてできない。だから何かをしたい」
正しくないから、どうにかしたい。
それはどこかで聞いたことのある言葉だった。まるで、困難な第三の道を行く友人のような。
「決意表明か。いいな、それ」
カイトは笑う。
「オレだって同じだ。帝国を知りたい。それにどうすればいいのかわからなくても、友達の力になりたくてここまで来たんだから」
アリスの心意気は、これ以上ないくらいわかってしまった。応援したくなるほどに。
「けど実際問題、どうやって調べるんだ?」
「それはそれ、女学院には貴族子女がたくさんいるから、そうしたところから聞いていこうと思う」
「よかった。いきなり直談判でもしようものならさすがに止めるとこだったよ」
黒の競売会で安全策をとる重要性は学んでくれたらしい。
カイトは立ち上がり、大きく伸びをした。
「オレも、できる限りではあるけど調べてみるよ。こっちも、貴族の子息や、革新派の関係者なんかもいるわけだしね」
カイトは座ったままのアリスに手を差し伸べた。
「まったく……協力するように焚きつけられたよ」
アリスは差し伸べられた手を握って立ち上がり、笑った。
「カイトさんなら、助けてくれるって思ってたから」
夕暮れもそろそろ夜になりつつある。若干アリスとエリゼの帰りを心配する頃だ。
「さて……そろそろリィンもエリゼちゃんと話し終えた頃かな?」
「どうだろう。あの子、かなりお兄さんのことが好きみたいだし」
「あー……」
その『好き』のニュアンスが含みのある声色で、アリスも若干笑うものだから意味するところを理解する。身に覚えがありまくりなので、エリゼの心境がなんとなく理解できてしまった。
今日初めてあった少女への感覚。それは理屈ではなく、共時性とも呼べるシンパシーだった。
「カイト、ここにいたのか」
視界の外から声をかけられた。ユーシス・アルバレアが校門の方向からやってきた。
「や、ユーシス」
「こんなところで何を油を売っている」
「何って、心外だな」
「ふん、Ⅶ組招集だ。リィンの妹を探せ」
「はい?」
「奴が変わらず朴念仁ぶりを発揮させたようでな。妹を怒らせたらしい」
「あー……」
容易に想像ができた。話の内容はいまいち想像できないのに。
「わかった、エリゼちゃんを探せばいいんだな?」
「ああ、さっさと動け」
「だから偉そうだっての」
エマとマキアスから話が伝わり、リィンと妹が別れた瞬間を誰かが目撃したのだろうか。大体、アリサ・エマ・フィーあたりが盗み聞きでもしていそうだ。
そして捜索網がユーシスにも伝わった、というところだろう。
なら早速自分も探しに行こう、けれどアリスはどうしててもらおうか。そんなことを考えた矢先、あろう事かユーシスがアリスに声をかけた。
「……久しぶりだな、アリス嬢」
「はい、ユーシス様」
「……ん?」
予想外の受け答えだったので、思わず目が点になるカイト。
しかし思い至る。ユーシスは公爵家の次男でアリスは伯爵家の長女だ。
「……そりゃ、貴族同士だし面識があっても不思議じゃないか」
「当たり前だ。お前こそアリス嬢を連れ回して何をしていた?」
「いや、連れ回してたって……」
「……」
「なんでそこでアリスも黙るの?」
少女が気まずそうな、恥ずかしそうな表情となっている。
「別に、再会を喜んで色々話し込んでただけだけど」
「なに? お前、兄上だけではなかったのか……」
それは、面識のある相手という意味でだろう。呆れ果てた様子のユーシスは、アリスに向き直った。
「すまないな。こいつの横着さが迷惑をかけた」
「……いえ、色々と相談に乗ってもらいました」
「いや、なんでオレが迷惑をかけた前提?」
「一応、この馬鹿者は同じクラスだ。至らないことがあれば俺に言うがいい」
「……はい」
「いや、一応どころかれっきとした同じクラスの仲間でしょ」
「その制服は女学院のものか。そういえば、入学を希望していると言っていたな。希望が叶ったようでなによりだ」
「……はい。たくさんの友人に恵まれています」
「あのさ?」
「なんだ? 馬鹿者」
普通に馬鹿にされた。思わずカイトの手がユーシスの頭に伸びる。
躱された。そして逆に頭に手刀を叩き込まれた。納得がいかない。
「ってぇぇ……あのさ、二人が旧知の仲だってのはわかったけど」
どことなく、アリスが気まずそうにしているのが気になった。
ユーシスは感慨もなく答える。
「お前には前に話しただろう。例の縁談相手だ」
例の縁談相手だ。
「ん゛え゛」
音が出そうなくらいの快速でアリスの方へ首を向けた。
少女はカイトを見ず、目を閉じ、とてつもなくいたたまれないような表情をしている。
Ⅶ組随一のお坊ちゃんが、不思議そうな疑問符を浮かべている。素朴な表情だ。
「どうしてお前が怪訝な顔をしている? 俺としてはお前がアリス嬢と面識があったほうが度肝を抜かれたがな」
「え、え、いやあ、そんなワケナイダロ」
「声が裏返っているぞ」
度肝を抜かれたのはこっちだ。なんだ、急に出てきて。縁談相手ってなんだ。
ユーシスはどこ吹く風だった。いや、これに関して言えば朴念仁と言えた。
「まったく、とっととエリゼ嬢を探せ。アリス嬢はオレが付き添う」
「ええ……?」
間抜けな声が出るカイトを尻目に、ユーシスは踵を返して去っていく。紳士的にもアリスを気遣う姿があり、アリスもそうされてはユーシスに付き従うしかなかった。
「……カイトさん、また後でっ」
グラウンドから去っていく少年と少女。そこにカイトの姿はない。
ひとり取り残された少年は、頭が働かずに、二人の姿が消えてからようやく声を出すことができた。
「……ええ?」
それからエリゼ捜索のために動き出したのは、五分がたってからだった。
心の軌跡Ⅰでルーファスに会って以来の伏線回収……!
次回、58話「リィン・シュバルツァー」
リィン「この状況で次のタイトル俺ですか?」