心の軌跡Ⅱ~重なる標~   作:迷えるウリボー

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59話 再会と鼓動~緋の帝都~①

 

 

 七月二十四日。八時三十分。

「帝都ヘイムダルは、言うまでもなく帝国の首都だ。すなわち現皇帝であるユーゲントⅢ世がおられる都ということになる」

 特別実習に向かう列車内だ。複数あるボックス席の一角で、マキアスは眼鏡を指で押し上げつつ言った。まずは確認がてら基礎的な場所から、というわけである。

 今回マキアスは実習地の出身なので、彼が故郷のことを話すのは当たり前のこと。そして彼に対してユーシスが露骨な煽りを挟むのも、今となっては当然のことである。

「そんなことはわかっている。表面上の教科書的な知識ではなく、もっと実のある情報をよこせ」

「ぐっ」

 そんなⅦ組の日常風景に対する反応はいくつかある。無関心がフィー、呆れ果てるのがアリサやラウラ、呆れ笑いがその他大勢だ。

 マキアスと同じ故郷組のエリオットがフォローした。

「えっと、帝都は十六の区画に分かれているんだ。それぞれが地方都市並みの規模を持っているんだけど、帝都全体の人口は八十万人を超えてるって話だね」

 帝国はおろかゼムリア大陸最大の人口だ。カイトが知り、訪れたことのあるどの都市よりも多い。

 競い合えるのは共和国首都イーディスくらいだろう。それでも数字上は帝都が明確に勝っている。

 帝国の首都にして心臓部。全員が何かしらの形で訪れるか、そうでなくても列車の移動で帝都駅を利用したことがあった。

 カイトにしても、短期間とはいえ遊撃士として歩き回ったことがある。エリオットとの出会いは帝都のマーテル公園だったし、アリスの依頼もあった。訪問したのが片手で数えるほどだというリィン、アリサ、ラウラよりはむしろ知っているかもしれない。

 そんなことを話していると、話題はリィンの妹のことに移る。エリオットが聞いた。

「エリゼちゃんが通っている女学院も帝都だよね」

「ああ。だからサンクト地区の説明()()ならできる。妹の住む場所の近くだしな。まあ大聖堂もあるサンクト地区だし、()()()()心配はないんだが」

 シスコンという言葉が、リィンを除くⅦ組全員の脳裏に浮かんだ。

 アリサがカイトとガイウスに顔を向けた。声を潜めながらである。

「ねぇ、妹さんがいる二人としては、リィンのあの態度はどう思う?」

 ガイウスはシーダとリリ、カイトはマリィとポーリィのことである。カイトの妹分についてはアリサも会ったことがないけれど。

「兄妹仲がいいのは素晴らしいことだ。リィンにしてあの妹あり、というのは納得できる」

 朗らかに笑うガイウス。彼も彼で少し鈍感だった。

「でもまぁ、リィンのあの様子を見るとなぁ……」

 カイトが言うのはオル・ガディアと戦った時のことだ。あれを笑い話にすることはできないが、あえて言うなら特別実習の時の危険では生じず、()()危険に晒された時に発現したとも言えるかもしれない。

 アリサたちの声が聞こえているのかいないのか、エリオットが試しに聞いてみた。

「でもリィンもかなりのシスコンだよね。エリゼちゃんの方はブラコン()()って感じがするけど」

 二人の関係性に楔を打ち込む音楽少年。このあたり、エリオットも中々根が図太い。

 リィンは朗らかに笑った。

「うーん、そうか? 別に普通のことだと思うが」

「シスコンだな」

「シスコンだね」

「シスコンです」

「シスコンよ」

 女子四人から集中砲火を受けるリィンであった。

 エリゼも、加えてアリスも第三学生寮に泊まったので、女子たちと親睦を深めている。そのなかで、特にリィンになにかとやきもきさせられているエリゼは女子たちの同情を買ったらしい。

 そんなことはつゆ知らず、朴念仁はエリオットとの一方的な会話を続けている。

「まぁ、仲は悪くないとは思うぞ。実際この間の喧嘩の理由もわからなかったし、あんな感じできつく当たられることもあるしな」

 エリオットが目を点にしてカイトを見た。その様子をカイトは見守る。エリオットが何を考えているかは戦術リンクがなくてもわかる。

(『うわぁ、自覚ないんだ』ってとこだろうな)

「……えっと、エリゼちゃんは十五歳だっけ?」

「ああ、あいつも来年には社交界デビューだ。いずれいい相手に巡り会えればと兄貴としては思ってるよ。生半可な奴じゃ絶対に認めてやらないけどな」

「朴念仁だな」

「朴念仁だね」

「朴念仁です」

「朴念仁よ」

 リィンは将来後ろから刺されて命を落とすのかもしれない。カイトは、合掌するのはやめておいた。

 そんな様子を見るカイト、ガイウス、マキアス、ユーシスの四人である。

「まったく、お前の実のない説明のせいで帝都の把握が疎かになるだろうが」

「さすがに僕のせいじゃないだろう……というか、それを言うなら君こそ婚約者がいたことのほうが驚きだ」

 カイトが生唾を飲み込んだ。気づかずガイウスが聞いた。

「貴族というのは、やはりそういった婚姻も早いものなのだな」

「といっても昨今は平民側の常識が主流になりつつある。アリス嬢との婚姻も親同士の勝手な取り決めだ。俺も彼女も全くもって乗り気ではないのだがな。父上にも困ったものだ」

「なるほど。常識も根深いということか」

「俺も一応は四大名門に連なっている。無視はできん。それに先ほどのエリゼ嬢ではないが、皇帝陛下の御子息と御息女……セドリック殿下とアルフィン殿下も来年は十六歳。この年頃の令嬢であれば誰しもが通る道というわけだ」

 ユーシスはマキアスに向き直った。

「この手の話題ならば突っかかると思ったが。随分殊勝な態度だな?」

「うるさい……僕にだって思うところはある。カイトはどうなんだ? 知り合いなんだろう?」

 珍しく沈黙も多いマキアスだった。彼はカイトを盾にした。

 男子三人から注目を受け、カイトは頬を掻きながら答える。

「アリスとあったのは帝都とクロスベルで、この間のトリスタで四回目だ。初めて会った時は貴族だなんて聞かなかったし、そこいらの街の女の子かと思ってたよ」

「なるほど。通りでいつもの剽軽な態度で接していたわけだ」

「悪かったな、剽軽な態度で」

 いつになくユーシスの棘が刺さるカイトとマキアスだった。

 今回、特別実習の場所はA班B班ともに帝都ヘイムダル。それを実技テスト後の説明で知らされた時は、今までとは別の意味で驚いたものだ。

 帝国の中心に向かうこと、班で分かれないこと。そして宿泊地についても。

 班でのくくりなく自由に席に座っているのもそれが理由だったりする。

 A班はリィン、カイト、エリオット、ユーシス、フィー。B班はアリサ、ラウラ、マキアス、エマ、ガイウス。

 A班に女子がフィーだけということで、発表直後にフィーが文句を言い、他の女子三人も白い目となったのである。そんな態度を一身に受けたサラが言ったのだ。『今回はA班とB班の宿泊地が同じなのだ』と。

 ところで、フィーが女子の感性を覚え始めたことに対してエマとリィンにカイトが感極まって涙を流し、酒もないのに三人でリィンの部屋に集まって杯をぶつける一幕があったのだが、それはシャロンしか知らない出来事である。

 閑話休題。

「課題をまとめてくれる人も宿泊地も聞いていない。とはいえ僕やエリオットの家に泊まるということもないし、結局は言ってみないとわからないか」

 宿泊地については前日にも話し合っていたことだった。だがガイウスの家のような可能性は低い。親の立場はともかく、二人とも十人も泊まれない小さな家だと言っていた。

 そもそも帝都駅で列車を降りたあとどこに行けばいいのかすら知らない。今までのことを考えれば現地の人物がやって来て挨拶に来てくれるのだろうが。

 セントアークではクレア大尉がハイアームズ侯爵の下へ案内してくれた。バリアハートではルーファス、ノルドではゼクス中将だ。いずれも錚々たる顔ぶれである。

 カイトがマキアスに言った。

「やっぱりオレとしてはマキアスのお父さんが来るんじゃないかって思うんだけど。っていうかマキアスのお父さんもトールズの関係者なんじゃないの?」

「それこそ、僕としてはあり得ないと思うが。普段から官舎で寝泊まりしてるし、学生のカリキュラムに首を突っ込んでる余裕はないはずだ。学院関係者というのは、そもそも聞いたことがないな」

「兄上の場合は常任理事だったからこそだろうしな。その立場がなければ俺たちに顔を見せることはなかっただろう」

「いや、むしろルーファスさんなら率先してユーシスを驚かしにいくと思うんだけど」

「むっ」

「カイトはルーファスさんと面識があるのか?」

「ああ、ユーシス以外には話してなかったね」

 マキアスの問いにカイトは答えた。

 いずれにしても謎のままである。どの道あと十分も経てば帝都に到着するのでわかるのだけど。

 そうして、帝都に到着する。十人が団体となって列車から降りるとそれなりに注目を集めた。学生服というのも拍車をかけたのだろう。

 そんなⅦ組だから、彼らに用がある場合見つけやすかった。

「到着したようだね」

 男性の声だ。その声は穏やかな雰囲気で、雑踏の中ではかえって目立つことになる。

 紺のスーツを着こなし、背筋を反らせた精力的な壮年の男性。眼鏡をかけており理知的に見え、そして()()()()()()()緑色の髪をしている。

 案の定、マキアスが叫んだ。

「父さん!?」

「ほーら、やっぱり……」

 カイトがニヤリと笑う。そもそも発起人が放蕩皇子なのだ。この程度のサプライズはあって然るべきと考えるあたり、カイトもだいぶ毒されている。

 マキアスが叫ばなくても、彼は有名人だ。例えば帝国時報を読んだことのあるメンバーはその顔を見て合点がいっている。

 男性は物腰柔らかく言った。

「マキアスの父、カール・レーグニッツだ。帝都庁の長官で、ヘイムダル知事を努めている。よろしく頼むよ、士官学院・Ⅶ組の諸君」

 彼の後ろには女性が二人いた。一人は同じくスーツ姿で、恐らく秘書だろう。

 もう一人は灰色の軍服で、Ⅶ組の大半のメンバーが顔見知りだった。

「鉄道憲兵隊、クレア・リーヴェルトです。今回は会議の場所を提供させていただきました」

 

 

────

 

 

 八時五十分。

 帝都駅構内、鉄道憲兵隊司令所の一室にⅦ組は集まっている。

「すまないね、本当なら帝都庁に来てもらうところだったんだが、戻っている時間がなかったのでこの場を貸してもらったんだ」

 それはレーグニッツ知事と鉄道憲兵隊の協力によってなされたとのことだ。クレア大尉は現在、レーグニッツ知事の後ろで沈黙を貫いている。真面目な彼女らしい。

「それでは早速、本日の依頼と宿泊場所を──」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

 あまりにも卒がなく実習地管理者としてレーグニッツ知事が動くものだから、息子のマキアスでさえ呆気にとられている。Ⅶ組としてはもう慣れてしまったマキアスの戸惑う表情。父親であればそれに慣れていないはずもなく、何かを言おうとしたマキアスの言葉を聞くまでもなく返した。

「実は私もトールズ士官学院の常任理事のひとりなのだよ」

 これにはⅦ組の全員が仰天した。これで、三人の常任理事の存在がⅦ組の知るところになったのだ。

 リィンがカイトを見た。列車内でカイトが冗談で言っていたことを聞いていたのか。

「カイト……?」

「いや、さすがにそこまでは知らないってば!!」

 オレを何者だと思ってるんだ。リベールからやって来た無知で無害な少年遊撃士だぞ。

「……どちらにしても、偶然というには苦しすぎる気がするが」

 ラウラのその言葉は、ルーファス・イリーナに続いて、Ⅶ組の関係者に常任理事がいるということに対する突っこみだ。レーグニッツ知事は笑った。

「我々としても示し合わせたわけではないが。むしろ学院からの打診に最初は戸惑わされた方でね」

 彼らの思惑を伝える気はないらしい。実際、ルーファスとレーグニッツ知事などは立場上対立している。学生の学びの場にどうこうしようとする二人ではないだろうが。

 いずれにせよ、レーグニッツ知事は実習地管理者としての役割を果たしているだけのようだ。よどみなく喋っていく。

「特別実習の期間は今日を含めた三日間。最終日が夏至祭の初日にかかる日程となっている。その間、A班とB班には東と西に分かれて実習活動を行ってもらう」

「父さん、それはそれぞれの班で担当する街区が異なるということか?」

「ああ、知ってのとおりこの帝都はとてつもなく広い。ある程度絞り込まないと動きようがないだろうからね」

 A班はヴァンクール大通りから東側のエリアを、B班には西側のエリアを担当することになる。

 ヴァンクール大通りは帝都駅から北に真っ直ぐ続いている。帝都を貫く大動脈だ。

「それではマキアス、受け取りたまえ」

「あ、ああ……」

 マキアスが封筒を受け取る。

「各班への課題と、君たち全員の宿泊場所の鍵だ。広い帝都、情報交換の有用性も兼ねているので同じ宿泊場所とさせてもらった」

 レーグニッツ知事が席を立つ。

「さて、今日はこれで失礼させてもらうよ」

 穏やかな人物だが、帝都の統括者でもある。忙しくないはずがないのだ。

 カイトは知っている。カール・レーグニッツは革新派に属している。鉄血宰相ギリアス・オズボーンの盟友でもあるという触れ込みだ。帝国に来る前のカイトだったら、まず間違いなく警戒している人物だ。

 一見してそんな苛烈な雰囲気を感じさせず、気さくな男性を演じている。いや、演じているわけでもなく彼の生来の姿なのだろうか。いずれにせよ、只者でないのは確かだった。

「そうそう、帝都内では君たちが持つARCUSの通信機能も試験的に働くようになっている、それでは実習、頑張ってくれたまえ」

 そんな言葉を残して、マキアスの父親は秘書とともに去っていった。

 残ったクレア大尉に連れられ、Ⅶ組は帝都駅を後にした。

「帝都は鉄道路線の中心とも言える場所です。その意味で、鉄道憲兵隊も行政長官である知事閣下には日頃からお世話になっていまして。そのお礼に少しばかりの協力をさせていただいた次第です」

 鉄道憲兵隊は帝国正規軍の精鋭だ。革新派の意向によって動くもの。クレア大尉もその流れのひとりというわけだ。カイトとしては、複雑な気持ちだった。

 帝都駅前広場に出る。マキアスとエリオット以外のⅦ組が感嘆した。

「すごいな、相変わらず……」

「正直、人多すぎ」

 リィンとフィーの漏れる声を聞いて、カイトは二年前を思い出した。

 ジンとアネラスとともに初めて訪れた帝都。リベールの王都グランセルの人口が霞む光景に震えたものだ。

 人や導力車の多さ、背後の帝都駅の大きさ、ヴァンクール大通りの広さ。導力トラムの存在。

 何よりも、友人がいるはずのバルフレイム宮の巨きさ。

「それでは、私の方はこれで失礼します」

 声を聞いて思い出した。クレアがいたことを思わず忘れていた。

「わざわざのお見送り、ありがとうございました」

「三日間の特別実習、どうか頑張ってください。私も応援しています」

 去りゆくクレア大尉を見届ける。

 少々沈黙して、彼女と言葉を交わすのが初めてのエマ・ユーシス・マキアスが口々に言った。

「鉄道憲兵隊といえば帝国軍の中でも精鋭部隊として知られているそうですけど……」

「各地の貴族からはハエのように嫌われているがな。何しろ鉄道さえあれば我が物顔で治安維持に介入する奴らだ」

「うーん、佇まいに隙のない女性だ……」

 フィーがマキアスを見た。

「マキアス、ちょっと鼻の下伸びてる?」

「なっ……何を言うんだフィー!」

「はは、わかるよマキアス。年上のお姉さんって照れちゃうよな」

「カイトは決め付けるんじゃない!」

「よし、それじゃあ移動するとするか」

 リィンは放っておくことにした。

 今回、Ⅶ組は宿泊地が同じだという。フィーのこともあるし、配慮があるのはありがたい。

 封筒は既に開け、リィンとアリサにそれぞれ課題の小封筒が手渡されている。そしてリィンが宿泊地の場所の鍵を持っていた。

 レーグニッツ知事は笑っていた。宿泊地を探し当てるという、帝都実習最初のオリエンテーションだ。

 鍵には、住所が書かれた紙も同封されていた。

 

『アルト通り4-32-21』

 

「あ、これ僕の家の近くだよ」

 エリオットが言う。

「本当か? それじゃあ案内してもらえるか?」

「うん。導力トラムに乗ろう」

 導力トラムは列車一両分よりも小さい。Ⅶ組が全員で乗り込むだけで、半分近くが埋まることになる。

 女子たちを座らせ、男子たちはその正面に立っていた。

「エリオット、アルト通りって音楽喫茶があるところだよな?」

「あ、カイトも知ってるの? うん、僕もよく通ってたんだよ」

 カイトとしては、アリスと初めて出会った場所でもあるので印象深い。あの近くにエリオットの自宅があるとは思わなかった。

「僕の姉さんも、時々その喫茶でピアノを弾いていてね」

「へぇ、エリオットのお姉さんが……んん?」

 若干記憶が刺激されるカイト。リィンが言う。

「そうだ、実家があるなら先に顔を出したほうがいいんじゃないか?」

「え、でも……」

「エリオットの家、ちょっと見てみたいかも」

 フィーのみならず、他のメンバーも興味を示した。エリオットの姉の話はみんな知っているし、先のクレア大尉という年上のお姉さんを見たからというのもあった。

「うーん、確かにすぐ近くだけど。姉さん帰ってきたかなあ?」

 エリオット自身も別に実家に行きたくないわけではないので、クレイグ家への訪問はあっさりと決まった。

 アルト通りの停留所を降りる。路面を挟んだ通りの反対側には水路もあって、やはりいい場所だ。

 エリオットが案内してくれた場所は導力トラムの停留所からすぐ近くの場所にあった。二階建てで、庶民の家というにはやや大きいように感じられた。

 自身の家なので、エリオットは気軽に入る。なんだかんだで帰郷は嬉しいものだろう。その足取りは少しだけ軽やかだ。

 一階はリビングだった。建物の外見の通り広い室内だったが、エリオットが言う通り調度品や家具などの雰囲気は庶民的な印象を受けた。それは暖かみのある空間だ。

「はいはい、ただいま伺いますよ~」

 二階から女性の声が聞こえた。そのままエプロンをかけた女性が降りてくる。

「お待たせしまし──」

 女性の笑顔が、Ⅶ組──前にいたエリオットに気づいた瞬間に驚愕に変わる。

 驚いたのはⅦ組も同様だ。橙色、エリオットと同じ髪色。エリオットと同じ瞳の色だった。

「……エリオットにそっくり」

「瓜二つ、ですね」

「ウィッグでもつけたら見分けが付かなくなるわね……」

「あの、アリサ? 委員長? フィー?」

 エリオットは若干気恥ずかしそうに女性と向き合った。

「えっと、ただいま。姉さん──うわぁ!?」

 エリオットの言葉は女性によって遮られた。他のⅦ組に目もくれず、なかなかの勢いで飛びついて抱きついたのだ。

「まあまあ、本当にエリオットだわ! ああっ、女神様! 心から感謝します……!」

「ちょ、ちょっと姉さん! みんなが見てるってば~!」

 慌てふためくエリオットを見たのは、クラスメイトとしても一回目や二回目の実習が最後だった。最初はオリエンテーリングの魔獣にも腰が引けていて、そして成長しているエリオット。そんな彼の数ヶ月ぶりの、懐かしい姿を見た。

「はは、随分仲のいい姉弟みたいだな」

 自分とエリゼのことを考えたのだろうか。リィンが和やかに笑う。

「確かに……ちょっと羨ましいくらいだな」

「うんうん、わかるよマキアス」

「だから君はどの立場から言っているんだ……!」

 やいのやいのと仲間たち。ガイウスとともに最後方でことの次第を眺めていたユーシス。彼は誰にも聞こえない声量で、呆れながら貴族の御曹司らしからぬ言葉を吐いたのだった。

「シスコン留学生め」

 

 

 








フィー「女子がわたしだけ?」
リィン「フィー……!」
カイト「フィー……!」
エマ「フィーちゃんがちゃんとした感性を……!」
フィー「3人ともウザい」
ユーシス「問題はないだろう」
アリサ「エリオットもいるしね」
エリオット「うん……うん?」
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