俺として目覚めたのは、ちょうど五歳のころだった。
目覚めた俺に待っていたのは泣き悦んでいた母さんの顔――最初は一体誰だこの人って思ったが、次に来たのは『昔』の俺と『いま』の記憶が流れ込んできた。
頭痛が半端なかったが、それでも何とか受け入れることができた。
それからは怒涛の人生だった。
何せ現代とは全く異なるカリブ海の時代だったので生き残ることに必死だったわ。
そして何の因果か知らんが、母さんが亡くなり、ガタイがいいからと言って成人(二十歳)になって間もなく、無理やり私掠船に乗船させられては、海に駆け出すこととなり――感動を覚えた。
海を越えた世界の広さを。人々との出会いを。未知なる土地への旅路を。
何もかもすべてが俺の心を打った。
この海をもっと駆け巡りたいと思ったのだ――その思いを胸に俺は。
犯罪者こと海賊になった。
いやまぁ、理由はあるんだよ?
実はさ、胸糞悪い奴隷商人が上司に交渉してきたのよ。
それが余りにも悪徳商法すぎるからつい殴った挙句に、その商人のものを嫌がらせに全部盗みこんだわけよ――まぁ中には家族のためにと身を売ったという奴もいたので心苦しかったが。
奴隷はいても困るから、船長と相談しては、商人から奪ったその船で清掃等の仕事ををしてもらってから適当な街に到着しては適当な就職先を一緒に探してはさよならバイバイ。
中には俺と共に生きたいとか何とか言ってたけど、折角自由の身になったんだからと断った。
そして、奪った船を売りさばいて自分の船を購入しようかと思ったら――港町でその商人と海軍に見つかった挙句に俺を犯罪者に仕立てやがった。
……まぁ、俺が考えもなしに行動したのが悪かったんだけど。
俺はその商人と海軍を適当に叩きのめしては、奪った船を使って海に出たわけよ。
それからというもの、海軍に追われながらの俺の旅が始まった。
まぁぶっちゃけ、俺は海賊行為よりも旅をすることが目的だけど必要に応じては略奪もしたこともある……といっても犯罪同業者——奴隷船や海賊、俺らを騙そうとした悪徳商法をする商人からだけどな。
商人や同業者から奪った金銀財宝は売りさばき、奴隷を町の偉い人や店主と交渉して解放したりと街に到着してから超がんばった。
それこそ寝る間も惜しんで頑張った……途中で部下に「俺らにもやらせてくださいよ、船長!」と言われたり、奴隷からも「あんたの船に乗せてくれっ、売られた俺らを存分に使ってくれ!」とせがまれたが殴り飛ばしては言い聞かせてやった。
海賊ゆえに略奪もしたが、それよりも俺は自由を求めて旅をして色々あった……。
金貨に呪われた海賊共と闘ったり、復讐に燃えた殴った商人が変な本を使っては海の魔物を召喚して俺らを潰しにかかったり、無人島かと思ったら化け物の巣だったり等など……様々な冒険をした。
海を自由に駆け巡っては他の海賊共と付き添ったり、闘ったりなんてしていくうちに、いつの間にか二百五十人の部下を召し使えるようになった。
そういや、中には女もいたんだぜ? 女は船に乗ってはいけないという掟があったものの、俺は面白そうだと思って置いといた――。
まぁ、その女たち欲しさや人気もあって仲間たちでの争いが勿論あった……だけどそんなアホな連中には厳しいお仕置きをした――足で股間をグリグリしたり、一日中帆に吊るしたりとか無意味に嫌なことをしたり、時に過激に銃で足を打ち抜いたりとかした。
部下を制するのも結構めんどくさかったわ、それでも俺を慕ってくれたから悪い気はしなかったが。
だが、そんなことをする必要はなかった。
我慢の限界でそいつらに襲い掛かった部下はなくなっていた――男としての象徴が。
その女たちは意外と御転婆で男顔負けの腕前をしていた……下手したら俺負けるんじゃねぇのって思うくらいに。
そいつ曰く「今まであったぶらぶら感がなくなって、なんか空しいっす。あっ、でもこれはこれで……いいかもしれねぇ」
変な快楽を覚えたそいつに気色悪さとそんな悲しい事件も起こした、その女たちをなるべく俺の管轄におくように主船に乗船させて旅をつづけた。
…………まぁ、まさかそいつらに夜這いかけられて、何十年も守ってきた童貞が奪われるとは思いもしなかったが。
というよりあいつらは何で俺を絞り尽くすほどの体力を使ったくせにあんな艶々して、俺はカサカサになるんだ理解不明だ。
閑話休題(そんなことよりも)
過去の色々な出会いや旅路、闘いが俺の中で思い出として広がっていく。
阿鼻叫喚と云える船を燃やす火災と、体に響く猛烈な痛みと共に流れ込んでくる記憶に俺は苦笑した――これじゃあ走馬灯じゃねぇかよ。
紆余曲折あったわけだが、二度目の人生も悪くなかった。それなりに自由に生きた……糞なこともしたが。
だけどもう、それも終わり……か。
「ティーチッ! しっかりしなよっ、もうすぐ、もうすぐ治療できるからっ」
「メアリーッ、嘆いている暇があったら早くティーチを持ち上げますわよ!」
……置いてきたはずの女二人の声が聞こえる――幻聴か幻影か?
だが、俺の身体が持ち上がるのと二人の温かさを感じるあたり……どうやら本物のようだ。
おいおい、なんでお前らがこんなところにいるんだよ。結構遠い場所に置いてきたはずなのに……ここまで来るとはなぁ。
というか、俺の命令を聞かなかったんかい。
「おいおい……船長命令を聞かなかったんかい。あとで、罰だな」
「うるさいっ! あんな紙切れ一枚ごときで僕たちが聞くと思うの!?」
「罰金も体罰も幾らでも受けますわっ! とりあえずその減らず口を閉じときなさいっ!」
死ぬ間際でも、血反吐を吐きながらでも、饒舌になれるんだな。
「最後の命令だ、アンメアコンビ。俺を置いていけ、どうせ助からねぇよ。海軍の野郎どもめ……好き放題に刺したり撃ったりしやがって……いくら俺でもこいつはさすがに――」
「いやだっ! そんな命令も弱気も聞きたくないっ! 悪名高い黒髭が、らしくないよ!」
「そんな減らず口を叩いたのを後悔なさい! すぐに治療して――!」
「分かってんだろうが、この傷じゃ、もう無理さ。 だが死ぬ前にお前たちに会えてよかったよ」
痛みで擦れていく意識で見ると、普段の御転婆さが見られない泣き顔のアンとメアリー、そしてこいつら同様に置いてきた船とそれに乗船している部下共の姿。
眠気と寒気が襲ってきているから、そろそろ俺は逝くのだろう。
だが、死ぬ前にせいぜいカッコいいことを言って、いなくなってやろう。
「これまでの俺は全て海においてきた! 自由に略奪し、旅して世界を見てきた! その報いが来ちまったが、後悔はしてねぇ! だが、一つだけお前らに託してやる――!」
「俺の誇りを全部くれてやる――!」
「この誇りは自由に使え! お前らの人生の糧にしてっ、やりたいことをやりやがれっ!」
「俺の、黒髭の、最後の言葉だ――っ!」
その言葉を言い終えたのと同時に、俺の瞼はゆっくりと閉じていく――。
あぁ眠い、なんて眠いんだ。
こうして、自由勝手に生きた俺の二度目の人生は幕を閉じることになった……。
――――しかし、そうは問屋が卸さなかった。
目覚めたらそこは。
「あん? なんだ、地獄って海なのか?」
――エドワード・ティーチは愛船に乗っていた。
目の前にはキナ臭い海が広がっているも、己が冒険心を漂わせて出港する――その先にいる嘗ての宿敵がいることは知らずに。
そして嘗ての仲間とマスターもいることも知らずに彼は。
「さてとっ! どんな冒険が待っているのかねぇ!」
冒険を繰り広げるために船を動かしていく――たった一人でも。