進みが遅いと言われても仕方ないでござる……(涙)
修正、追記しました。
「あんたが、アンとメアリーの船長かい? さっきは助かったよ! あたしはフランシス・ドレイク、この金色の鹿号の船長さ!」
………………はっ!?
すまん、色々と衝撃的過ぎて思わず唖然としてしまった。
いや正直に云おう……俺はフランシス・ドレイクのファンだ。
様々な大陸を渡り冒険してきたという話は、恥ずかしいけど俺の心をときめかせてくれたのよ。
世界一周を成し遂げ、その収益によってイギリスを大航海時代の覇者へと導いた人物……フランシス・ドレイクは俺にとって憧れの存在なんだが。
「あん、なんだい?」
顔に傷はあるものの、それは美貌と相まって余計に美しさを増し、開けた胸が大きく揺れるピンク色の女性――フランシス・ドレイクが首を傾げた。
まさかあの有名なフランシス・ドレイクが女だと誰が思ったよ……。
聞いた話はバラバラで、フランシス・ドレイクの性別はちまちま変わっていた。
やれ筋肉隆々の男だった、可憐な女性だった、女性に扮したオカマだった等々で正直混乱しかけたが、性別に関係なくドレイクの冒険話は少年心をときめかせてくれるので、気にしなかった……しなかったけどさぁ!
俺が想像していた以上にギャップが違いすぎてちょいと混乱しかけているんだけどっ!?
あの有名なドレイクがまさかの女性っ!? 男も顔負けすることをやらかしておいてっ、どんだけ肝が据えた人なんだよっ!?
はっ、いかんいかん。こんなことで混乱するな、黒髭エドワードよ。
これくらいで混乱しては、これから先の冒険にも付いていけない気がするからなっ、うんっ!
「いや、ちょいと混乱しただけで気にしないでくれや――俺も名乗らせてもらおうかな、ドレイク船長。 俺の名前は黒髭、エドワード・ティーチだ、以後よろしく頼むぜ」
俺はそう云って、憧れていたドレイク船長に手を伸ばして握手を交わした。
* * * * *
握手を交わした後、俺とドレイクは交渉を重ねていた。
アンとメアリーは船長同士の話し合いに首を出さないと云って離れていった……しかし『離れたくない』と云わんばかりの目で見つめていた為に「またあとでな」と云って二人の肩を軽く叩いてやった。
他の連中も同様に離れて、俺らの交渉を見守っている。
「船の修理ねぇ……残念だけど俺らは手伝えないな。もしかしたらここに宝が眠っている可能性があるし、何より純粋に宝と冒険を楽しみたいんで、あんたらを手伝う余裕がないんだよ」
ウィリアムに目を付けられている時点で結構ヤバい上に、船どころかドレイクの部下共もボロボロだ。
更に今の俺の船には嘗ての仲間たちがいないし、戦力差的にも恐らくウィリアムの方が上だろう。
そんな状態で一緒に戦ったら共倒れする可能性がある……場合によってはアンとメアリーやあの少年少女らだけでも連れて逃げちまおうかな――忌々しいけどよっ!
「そいつは参ったねぇ……あのウィリアムって奴は今にでもアタシらを追いかけているんだよ? 手伝ってくれないっていうならここで滞在するしか手がないねぇ」
あっ、こいつ結構イヤラシイわぁ――元々胸元を見せている時点でもお色気的に厭らしいけど――『俺らも戦いに巻き込ませるぞ♡』と云っているようなもんじゃんこれ。
なに、新手の嫌がらせ? だけどこんなんで俺を抑えられるとは思わないでくれよ?
「そんだったら、連中を置いて一人で逃げだしてやるか、ウィリアムの仲間になってやるさ……生き残るためには泥塗れにでもなる覚悟も持たなきゃな」
「それが出来るとは思えないね。あんたは生き残るよりも仲間や部下を優先するタイプと見た、あんたが乗船させているメンバーを見る限りね……煌びやかな格好をさせている子供にあの厳つい身体を持つ男、それに中年のおっさんの全員が良い顔をしている」
チラりとドレイクの仲間か客人と戯れているアステリオスとエウリュアレに、ヘクトールを見るドレイク――年齢も性別も何もかもバラバラな奴らを受け入れている俺を、そう見てくれるのは有り難い。
そうだ、あいつらがいるからこそ、俺はドレイクとの交渉をしない――下手に一緒に戦えば死ぬだろうし、彼奴らに無残な経験をさせたくないのだ。
「お褒めの言葉をくれたのはありがたいが、そろそろ俺らはこの島を探索するから自分たちのことは自分で何とかしてくれ――精々死なないことを祈っておく」
まぁ死ぬ前にアンとメアリーに子供らは助け出すけどな……。
しっかし、そうなると救出にはアステリオスかヘクトールに頑張ってもらわんとなぁ、アンメアは自力で何とかするだろうし。ウィリアムは俺が引きつければワンチャンあるか?
考えながら俺はドレイクから離れようと数歩歩きだしたとき。
「パーレイだッ!」
ドレイクが叫んだ――なんだと!?
「海賊の掟であるパーレイが宣言されたら、交渉に応じなきゃいけないよ? 交渉の内容は変わらない、あんたたちはアタシの船の修復とあのウィリアムって奴をぶっ倒すことさ」
……すっかりと忘れてたわ、『パーレイ』のことを。
パーレイは彼女の云う通り『海賊の掟』であり、『交渉』という意味でもある。
宣言されたら俺は交渉を応じなければならない。
「……はぁ、ったく分かったよ。 それで交渉に応じたらあんたは俺に何をくれるんだい?」
「——こいつさ」
ドレイクが自信満々の笑みを浮かべると同時に、自ら輝いたのと同時に手元には黄金の杯が握られていた……おいおいどんなマジックだよ。
「こいつは、どんな願いでも叶えてくれる杯さね。 正直これは手放したくないけど、溜め込んだ財宝や金貨は全部使い切っちまったまんだからね、これ以外の交渉できるものがない。 何より今は戦力が欲しい……あの野郎と闘える戦力が」
「へぇ、願いを叶えてくれる杯ねぇ。 じゃあ例えば、マッチが欲しいと云ったら出してくれるのかい?」
「勿論さ、その証拠に……ほいっと」
俺の冗談に笑うとドレイクの持つ黄金の杯が一瞬輝くと、一つのマッチ箱が飛び出しては彼女の反対の手に収まった――おいおいマジかよ……っ。
「……とりあえず、火をもらっていいか? 葉巻を吸いたいからよ」
「あいよ、使いな」
俺が葉巻きを加えると、ドレイクはマッチで葉巻きを点火してくれたと同時に、煙の美味い味が口内に染み込んでくる……あぁなんて美味い美味すぎるんだっ。
久々の葉巻は美味すぎるっ、アステリオスの島を出てからあまり吸えていなかったからなぁ。
吸えば吸う程に旨さを増す……あぁこれは水分補給ならぬ葉巻補給というべきか。
とと、そんなことよりっと。
「フゥゥ……しかし驚いたな、そんな便利なものを俺にくれるってわけかい? たかがウィリアムを倒すくらいで」
「アタシにとっては重要な事さ――あの野郎は、アタシを……フランシス・ドレイクを嘗めただけでなく女として観やがったっ。 アタシはねこれまで海賊として振舞ってきた……それが一番我慢ならないんだよっ! アタシの海賊としての誇りを汚したあの野郎は必ずぶちのめす、そう決めたんだからね!」
その叫びは屈辱に満ち、そして怒りを抑えきれない表情と覇気を感じそして見た俺は思わず笑い、興奮で篩えてしまった。
あぁ、これがフランシス・ドレイクなのか――誰よりも海賊として誇りをもって生きた黄金の鹿号の船長!
これが、俺が憧れ続けたあの海賊かっ!
「いいねぇ、『パーレイ』に従い、あんたの交渉を、そして意気込みと宝に免じて受けてやるよっ! それとドレイク船長よっ、仮に死にかけ、あんたの命運がここにつきかけた時は――腹を切って俺に詫びなっ!」
「はっ、上等だよ! アタシはね、こんなところで死ぬ予定なんざ更々ないんだっ!」
お互いにそう意気込み、契約を交えた後はその契約としてお互いに握手をした――。
おっと、杯はちゃんともらうぞ……パーレイに従ってな。
「ティーチ、葉巻はダメだよ」
「はい、没収ですわ」
アンとメアリーが目敏く俺のくわえた葉巻きを見つけたと同時に、取り上げた挙句に、無残にもカトラスでバラバラに切り刻まれた。
……畜生めっ、俺の楽しみ、葉巻補給を奪いやがって。