誰様、俺様、黒ひげ様じゃい   作:春雷海

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……すみません。仕事納めやゲームやら小説やらで激務となり、中々作成に至りませんでした。

三か月もお待たせして申し訳ありませんでした……。


誰様、俺様、黒ひげ様じゃい11

ドレイクとのパーレイを結んでから、次にとった行動は船の修復だった。

 

修復と云っても竜骨がやられてしまったので、かなりの材料が必要なのだと思っていたが、ところがどっこい。

 

幸か不幸か、なんとここにはワイバーンという伝説の存在が屯っていたのだ!

 

翼を大きく広げては雄叫びを上げる翼竜に興奮を隠せずに「おぉっ!」と叫んでしまった。しかし、感動している俺を余所に他連中はあっさりと狩り尽くしていき、目の前には十五体目となるワイバーンの鱗や骨が積み上げられていく。

 

畜生、伝説のワイバーンを少しでも感動しないのかお前らはっ。特にアンとメアリーッ、なんでそんなに興奮しないんだっ、これが男と女の違いだっていうのかっ!

 

そんな俺の叫びに『何を言っているんだか』と云わんばかりで見る俺の現クルーメンバーとドレイク、いぶかしげに見てくるアンとメアリーにドレイクのクルーたち……なんだよ俺が可笑しいのかこん畜生めっ!

 

「まぁ、確かに伝説って言われているけど……」

 

「ここに来るまで何度も見たし、全然感動を覚えないっていうかなんというか……」

 

「えっ!? ちょっ、お前らってどんな冒険してきたわけ?」

 

ワイバーンを見ても感動も興奮もせず、ただ苦笑しているこの双子の兄妹——アンメア曰くマスター云々らしい――は一体どんな体験をすればそうなるのか、個人的に知りたい……。

 

「まぁ、立香と詩奈の語りは後でゆっくりと聞かせてもらいな。 三十体まであと半分だけど、いったん休憩をとるために、ウチの船に戻ろうじゃないか」

 

ドレイクの言葉に従って「うん」と云ってアステリオスはエウリュアレを肩に置きながら風呂敷――これはドレイクの聖杯提供品――に鱗と骨を詰め込み、ヘクトールは文句を言いながら「やれやれ、おじさんをこき使わないでくれよぉ」と嘆きながら槍を担ぐ。

 

結局竜が隠している宝物も全くないし、骨折り損のくたびれ儲けみたいだ全く……『お宝ある所にはドラゴンありき』っていう謳われも充てにならないもんだ。

 

「あぁ畜生! 竜なら宝物ぐらい持ってろぉい!」

 

「愚痴なら後で沢山聞いてあげるからさ、さっさと運んでいこうよ」

 

「そもそも、可笑しなことを言わないでくださいな。 生前魔物や化け物たちを相手にした上に、ここまで巡ってきた人が翼竜を見て今更感動してどうするんですの?」

 

「あん? 感動するなって無理があるだろうが、伝説の存在をこの目で見られたんだからよ。 それに生前って……」

 

メアリーの慰めにありがたく思いながらも、それよりアンの言葉に引っ掛かりを覚えた。そうだ……今更ながら思い出したが、俺は確かに死んだはずだ。

 

それじゃあ俺は一体なんだ? ゾンビなのか? いや別に食欲には飢えていないし、思考も出来るし、傷つくと痛いのは変わらない……。

 

そもそも、この身体は一体何なんだ。そういや、アステリオスたちは英霊だよな? その英霊と何で俺が互角に戦えるんだ? 死んだはずの身体なのに、寧ろ前よりも動きやすい上に疲れも感じられなくなった……。

 

俺は一体どうなっちまったんだ?

 

「ティーチ? どうかしたんですの?」

 

アンの言葉に俺は思考の渦から目覚め、振り返るとメアリー共々俺のことを心配そうに見つめていた。

 

「……あぁ、いや何でもない。 ちょいとボーッとしただけさ」

 

俺がいったい何なのかは置いといて。それよりかはまず材料を運んでいくのが先決か。

 

 

 

 

 

 

二隻の船を着地させている場所まで戻ってきた俺たちは、休憩をとる為に、各々好きなところでくつろいでいる。

 

正直ウィリアムのこともあるので休息する暇はないが、ドレイクのクルーである双子が明らかに疲労を隠せていない様子だった。

 

なるべく短くも長めに休息させるように終了時間を決め、その時間まで、それぞれ休みを取ることにしたのだ。

 

そんな中で俺はというと――。

 

「ははっ、まさかフランスで竜を率いる魔女たちと闘うとはなぁ、だからそんなに驚きもしなかったのかっ。他はっ、他はどんなところを旅したんだ、うんっ!?」

 

ドレイクのクルーで双子の兄妹である立香と詩奈、そして彼女たちの仲間たちと自己紹介し、俺の船の甲板にておしゃべりをしていた。

 

内容はこいつらが今までの冒険についてだ。懐かしい日本の冬木、イギリスで様々な化け物や英霊たちと冒険し戦ってきたのだという。

 

因みに二人の仲間は各個人で過ごし、甲板で横になったりしてくつろいだり、見張り台に上がって警戒をしたり、訓練をしていた――アンとメアリーは胡坐をかいている俺の両隣に座り、メアリーは俺の膝を枕にして横になったり、アンは俺の肩に頭を乗っけていた……ちょいとしたハーレムになっている。

 

 

「――次は詩奈、お願い!」

 

「はい! 立香からバトンタッチされて私がローマについて語ろうと思います! ローマでは私たちとマシュは、あのネロ・クラウディウスと出会いました!」

 

「おぉっ!? あのネロ・クラウディウスとか、いやぁまさか暴君まで一緒に旅をしていたとは思いも――」

 

「あっ、因みにネロは女帝だよ」

 

「マジかっ!?」

 

衝撃的発言に驚きを隠せなかったっ、まさかあの暴君と云われたネロが女性だとっありえねぇ!?

 

いやドレイクが女である時点で可笑しくもなんともないか?

 

「いやぁ、お前らの冒険はすげぇなぁ! よっしゃっ、次は俺の冒険記を聞かせてやるとすっか!」

 

「こ、これは貴重ですよ先輩ッ。黒髭エドワード・ティーチの冒険記をまさかご本人が語ってくださるなんて……ッ」

 

『うわぁ、これは僕も興奮しちゃうなぁ! 海賊王黒髭の語りなんてめったに聞けないぞぉう!』

 

おっ、ドクターは兎も角、マシュみたいなお嬢ちゃんが俺を知っているとは珍しい……。

 

というかそこまで感激されると嬉しいし新鮮な反応だ――手配書の所為で殆どは俺らを毛嫌いする連中はやっぱ多かったし、海賊ってだけで偏見な目で見られることもあったからなぁ。この嬢ちゃんのように感激されることなんて中々少なかった。

 

「よっしゃっ、よっしゃっ! それじゃあ語ってやるとするかね、まず金貨に呪われた海賊がいてな――」

 

 

* * * * *

 

 

それはとある港町で出会った海賊同業者たちに絡まれたことから始まった。

 

曇りのない満月が美しい真夜中……俺らは酒場を貸し切りにして新人歓迎会兼奴隷解放祝福の宴を開催し盛り上がったところに、突如その同業者たちが入ってきた。

 

『てめぇら、この金貨があれば俺らによこしやがれっ!』とその金貨を片手に同業者たちは叫んだ。

 

突然入ってきた同業者にそんなものはないからさっさと出ていけ、折角の酒と飯がまずくなると仲間が叫んだが――俺はそいつにげんこつで口を強制的に閉ざさせて言ったんだ。

 

『一緒に酒を飲まねぇか? せっかくの美味い酒が台無しになるぜ?』

 

喧嘩なんかをして折角の宴を邪魔されては困る。穏便に過ごそうじゃないかと言外に伝えたものの……残念ながら俺のその言葉は奴らにとって不快の言葉だったのさ。

 

何故なら連中は金貨に呪われた海賊——味覚も何もかも失い、未来永劫満たされず死ねもしない……そんなことを知りも知らずに誘ってしまった俺に殺意むき出し、しかも港町に来るまでの間のストレスも相まってブチ切れて。

 

『全員っ、この嘗め腐った海賊共をやっちまえええええぇぇぇぇっぇぇぇぇぇっ!』

 

――戦闘状態となってしまったわけよ。

 

あの時はまぁパニックになったわ……。

なんでって、おいおい立香と詩奈よぉ、何度も斬っても撃っても立ち上がってくる上に、店の隙間から入ってきた月光で肉と骨丸出しのゾンビ姿になったら、いくら俺らでもパニックになるって……。

 

まぁそんなわけで、死なない同業者相手をしていたわけだが、俺らに転機がやってきた。

 

その転機っていうのが海軍さ――皮肉にも俺らは奴らに助けられた。

海軍が同業者たちに目を剥いている中で、俺らは逃げ出した……だけどすでに俺たちは巻き込まれていたんだわ。

 

奴隷解放するはずだった少女のペンダントに……最後の一枚である金貨があることを知らずに、俺らは逃げ出してしまった。

 

 

* * * * *

 

 

「そして、その奴隷少女を連れて俺たちは島へ向かった。目的はあの――」

 

「申し訳ありません。ティーチ殿、そしてマスターたち……島に一隻の小舟が漂流いたしました」

 

俺の話を割り込んできたのは、見張り台にいた仲間の一人……ハサンさんが音もなく甲板に下りてきた。

 

「ティーチ、今日はここまでのようだね」

 

「残念ながらお預けですわね」

 

そして、メアリーとアンの無情な宣言によって、語ることが出来なくなった。

 

メアリーはため息をつきながら起き上がり、アンは面白そうに笑いながら砂浜に指を差しているので俺はその先を追って見ると――。

 

「どうやら珍客のようですわ……会ってみますか、船長?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「——というわけで。僕たちもあのウィリアム・キッドに襤褸雑巾にされた挙句、島に置き去りにされ、サバイバル生活を送られた恨みを果たしたいのさ」

 

その珍客、ダビデは疲れ切った様子で肩で息をしながら俺らにそう申請してきた。背後には木材で造られた簡潔な小舟、それに乗船しているのは疲れ切った翠髪の獣耳を生やしている少女と、これまた美女が「らめぇぇぇぇぇ! 変なものが出ちゃうぅぅぅぅぅっ!」と泣き叫んでいる子熊を絞っていた。

 

何故あの子熊がああなったのか……それはドレイクやマシュに向かってナンパしだした事が切っ掛けで美女は怒り「ダーリンっ!」と叫んでは絞り始めたのだ。

 

……熊をダーリンって、すげぇことを考える美女もいるんだなぁおい。

 

「ま、まぁ、別にいいっちゃいいんだけどさ……あんたたちは大丈夫なのかい?」

 

ドレイクの疑問はもっともだ。

 

珍客ダビデは優男、喋る熊にそれをダーリンと見立てている美女を見て更に気落ちする少女。正直言って彼らが戦力になりえるか自体怪しいこった。

 

「あぁそれなら安心してくれたまえ。 僕たちもサーヴァントで、特に後ろにいるアタランテやアルテミスにオリオンは狩りを得意としているよ」

 

「……まっ、あんま期待はしないでおく――と云いたかったけど、直ぐにその期待に応えてくれや」

 

あぁ畜生、こいつらは面倒なもん引き連れやがったな。いや、これは寧ろ着けられたか……っ?

 

「うん? それはどういう――」

 

ダビデの言葉が最後まで紡がられることはなく、ドクターロマンの叫びが響き渡った。

 

『大変だっ、皆! 今君たちの島付近に船が一隻近づいているッ! 魔術で隠されていて分からなかったけど――これはウィリアム・キッドの船だ!』

 

最悪の再開が……この島で行われるとはなぁ、ったく面倒くさいことになりそうだ。


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