また次回は令和でお会いしましょう。
「お、おおお……バカな……! お、俺の財宝、俺の財宝が……っ!?」
薄暗い洞窟の奥深くに、俺たちはいる。
その目の前に黒い瘴気に覆われた大男が嘆き悲しんでいるのを眼前にして。
「俺、俺、俺! 糞……ちくしょう……あぁ……くそ! そういえば俺死んでたっけなぁ! じゃあ仕方ねぇか……でも惜しいなあ!」
自分に言い聞かせるように。だが、その悔しさを晴らすように声を荒げる大男——先輩であるキャプテン・キッドに向けて言った。
「安心しろよ。死者には使えないだろうから俺らが有効活用してやる。だから、もう眠ってろ」
「は、ははは。 ここで、俺と朽ち果てるよりはましか……」
キャプテン・キッドは憑き物が晴れたような笑みを浮かべて云うが、正直なところ――。
「あぁ、微妙な宝は残しておこうと俺は思ってるから、安心しろ」
俺の一言でキャプテン・キッドが固まった。
正直遺した宝が有効活用出来るかどうかも怪しいところだし、荷物になるのも御免なんだよなぁ。財宝を分ける部下も少ないわけだし、本当に必要に応じてもらっていくだけだ。
もし、これで多くの部下がいたら根こそぎ奪うところだが。今はエウリュアレとアステリオスしかいないので、それで十分だ。
「というわけで、あんたの宝は必要な分だけもらってくから安心しろ」
「…………そりゃねぇよ」
泣きそうな表情を浮かべてキャプテン・キッドは瘴気と共に消えていった。
切ない気持ちと共に去った偉大な海賊に黙祷を奉げる……こんなの柄ではないが、己の財宝を最後まで守り旅路を続けてきた男に、何もしない方が失礼だ。
数十秒の黙とうを捧げて、俺は――。
「やっっっっほぉおぉぉぉぉう! 宝だ宝だっぁぁぁああああああああ!」
喜びの雄たけびを上げ、キャプテン・キッドが隠し残した財宝に向けて駆けだした。
「たから、だぁあ」
「締まらないわねぇ。というか、アステリオスも真似しないの!」
後ろから呆れたような視線を感じるが、気にも留めずにアステリオスと共に金銀財宝の山に突っ込む。
無機質な香りと美しい輝きを放つ財宝に目を奪われる……流石は偉大な海賊っ! 山のような金貨――呪われてはいない――と金で創られた装飾品に美しい銀食器、おぉ胡椒までありやがるっ。それに葉巻までっ、くそ、いい宝物に囲まれやがって、うらやましいぞこん畜生っ!
あぁ、これを見るだけで苦労が報われる……。
ここまで来るのに金貨の呪いで見慣れた海賊風情のゾンビと、キメラとかいう分け分からんごちゃ混ぜ生物と襲われ対峙してきた。
その都度、俺とアステリオスが特攻で突っ込み、エウリュアレがサポートとして弓矢をバンバン撃ち、ゾンビやキメラを倒してきた……まぁゾンビはエウリュアレに見惚れて「女神さまぁ、女神さまぁ」とか言って擦り寄ってくるのが気色悪かったが。
「うっ、ティーチ。 このお宝凄いね、どれがいちばんいいの?」
「今回の目玉はやっぱり葉巻だな……普段手に入らない希少品だからな。ふふふふっ、笑いが止まらんなぁ」
「それさえ止まれば、少しはマシな男に見えるわよ。 まっ、中の中のレベルだけどね……あらこの頭飾り、いいわね」
「さすがは女神さま、お目が高い。そいつはダイヤと蛇を飾りに造られた装身具だ、王侯の象徴として使われていたぜ」
「へぇ、王侯ねぇ……だったら女神である私が飾れば更に価値が上がると思わない?」
怪しい笑みと共にその目は『そうでしょう? そうって言いなさい』という有無を言わさずの迫力があった。
しかし。
「とてもきれい! エウリュアレに似合う飾り、ぼく、さがしてあげる!」
エウリュアレの迫力をモノともせずに、純粋な想いと気持ちをそのまま言葉にするアステリオス。
……おぉう、無垢すぎるその言葉と振舞いは、汚れ切った俺にとってまぶしいぜっ。
現に女神さまは照れて顔を赤くしていやがる……凄まじい男だぜお前はっ。
「え? え、えぇ、そうね……その役目は貴方にピッタリね、アステリオス。 それじゃあ、あなたにその役割を与えてあげる!」
「うんっ、まかせて! ティーチ、それでもいい?」
「っあぁ! 好きなもんだけ持っていけっ!」
眩しすぎる笑顔を見せるアステリオスのお願いに断るわけがないっ。
嬉しそうにして金銀財宝をかけ分けていき、飾り物を探すその背中を微笑ましさを覚えながら、エウリュアレに声をかける。
「んで? あんな良い男に好かれている女神さまのお気持ちはどうなんだぁ? んっ、んんんっ?」
「っだ、黙りなさいっ私は女神エウリュアレよっ!? 男を魅了し惑わせるなんて手玉に取るように簡単よっ!?」
「その割にはニヤケが止まらない様子だなぁ……けけけっ、素直になったら――ってうぉぉお!?」
「うるさい煩い煩い!」
顔を真っ赤にしながら矢を乱れ撃ちをしてビックリするが、照準もあっていない矢など恐れるに足らず。
首を傾けて、身体を捻って、一歩引いて、かがんで、簡単に避けて避けまくれる。
「おぉ怖い怖い」
「————ッ!」
揶揄うようにニヤニヤとした表情を浮かべる俺。
それに苛立ちと恥ずかしさもあってか、エウリュアレの声にならない叫びとと共に更なる矢が襲い掛かった。
それからエウリュアレの矢避け大会が開催された――アステリオスが全ての飾り物を選出するまで続いたのは言うまでもない。
洞窟を抜け出して、明るい太陽の光が目を眩ませるが、ものの数秒でその光に慣れる。
俺たちは、これより浜辺に停めたアン女王の復讐号に戻るために歩く――道中にいたゾンビやキメラはもういないから、帰りはとても楽だ。
「はぁあ……もう疲れたわ。 アステリオス、ちゃんと私をエスコートしなさい」
「うん、わかった」
矢を放ちまくって疲れ果てたエウリュアレは、必要に応じた宝を持っているアステリオスの肩に乗っかり頭に寄りかかっている――まるで親子みたいだと思ったのは俺だけじゃないはず。
そして、エウリュアレの髪や首には様々な飾りが付けられていた。
真珠と金で造られた髪飾りは勿論、大ぶりで存在感のある青い宝石のペンダントとダイヤモンドの耳飾りを身に着けた彼女。
普通の女だったら高価な飾りつけを付けた貴族風を思わせるが、エウリュアレはそんな風には見えない。
無垢と純粋を形にしたかの如く麗しい彼女の方が美しく、逆に飾り付けがちっぽけに感じる。
彼女もそれが分かっているのだろう。だが決してそれを外そうとせず、気にいっているようだ。
アステリオスの動き合わせて、飾り付けが揺れ動くのを、楽しさと嬉しさが交る輝かきの目で見つめている――初めてプレゼントを貰った子供のように。
その目が懐かしく感じてしまう…………あいつらも何かしらのプレゼントをやったら、そんな目をしていたなぁ。
「元気にやってるかねぇ、あいつらは」
感慨深くなってしまうものの、俺らしくもないので直ぐにそれをかき消して――ふと思い出した。
「そういやよ、エウリュアレ。 お前を追いかけている奴の事を聞いてなかったな……船まで時間があるからよ、教えてくれや」
「そういえば、出港した後にすぐこの島に上陸したから言い忘れちゃったわね。 そいつはね、海の覇者になるために私が必要とか云ってたわ……それがどういう意味なのか知らないけど、今も彼奴は私のことを探しているんじゃないかしら」
海の覇者になるために、女神さまが必要ねぇ……一体どんなジンクスがこいつにあるんだぁ?
こいつと旅をしてきて分かったのは、我儘で寂しがりやな女神様しかないぞ……そんな特殊の力があるようには見えんがなぁ。
だが、狙われているっていうなら、譬え同僚でも容赦はしないぞ。
何故ならこいつらはもうすでに俺の部下であり仲間なんだからな……どんな奴でも叩きのめしてやる。
「よっっし! 帰ったら、すぐに出港するからな! また新しい宝や島が待っているからな!」
「っう! わかった!」
「はぁ……騒がしいわね、でもまぁ悪くはないわ」
アステリオスの気合とツンデレ女神さまの言葉を背に俺は歩きだしていった。
* * * * *
アン女王復讐号でも、黄金の鹿号でもない、一隻の船が海を漂っていた。
その船の一室から少女の喘ぎと男たちの興奮気味に満ちた声が響いてくるも、男は興味を惹かれることなく船内を歩き進めて、甲板に出てきた。
甲板から見える満月が輝いて周囲を照らしている姿が、揺れ動く海面に映っている。
普段だったら月見酒をしゃれこんでいたものの、今はそれどころではない。苛立ちしかなかった。
アルゴー船で捕えた少女——メディアリリィに、男が求めていた『箱』について拷問を掛け続けて、ようやく得たのが不必要なものだったからだ。
彼女に何の価値も見いだせなくなった男は、部下たちに欲求を発散させるためにプレゼントをした。今頃、肉体的と精神的にも責め尽くされ、部下たちに発散させられているだろう。
そんな哀れな彼女をすぐさま脳裏から捨てて、次いで考えたのは『箱』のことだ。
『箱』に生贄等を捧げれば無敵の力を、世界の覇者になれるなど、結局そんな甘い考えはなかった。
寧ろ訪れるのは滅んで何もなくなる世界。
(ちっ、意味がねぇんだよ)
そんな世界を男は望んではいない――望むのは支配。富は勿論、力や女も全て自分の力で、手に納めるのだ。
箱の力は惜しいが、使い方次第で世界を滅るのなら意味がない。
結局自らの力で伸し上がり、この特異点とやらで支配者となるのも悪くないが……どうにも気が乗らない。
「お前のいない世界で伸し上がってなぁ……」
男が唯一に認めた男。倒したかった男。
自由を掲げて、やりたいようにやってきたあの男と対立した時が海賊人生の中でも特に楽しかった。
だからこそ認めた男が死んだということを信じられなかった――その後の人生がつまらなくなったのも言うまでもない。
「はんっ、まあいい。 精々見ていやがれよ、この俺が支配する海をな」
誰に云ったつもりでもない独り言を呟いたことは、月しか知らなかった。