「さぁ、お前の願いを言ってごらん」
悲しくて飲み込んだ言葉がある。それは絶対に叶わない言葉だ、それに言えば必ず皆に笑われてしまうのは分かっていた。だから僕は言わずに飲み込んだんだ、自分を守る為に。
「僕の願いは…」
ここでも飲み込んでしまいそうになる。言わなきゃ願いは叶わない。目の前にいる魔女は笑いはしないだろう。しかし…どうにも言い難い…原因はきっと僕が人を信用していないからだろう。
「お婆さん、その前に確認なんだけど願いを叶える条件は大切な人を殺す、それだけかい?」
「あぁ、それだけだねぇ。お前の叶える条件は大事な人を殺す、ただそれだけだねぇ。簡単だろぉ?」
「……ねぇ、お婆さん。願いが叶う条件を変える事は出来ないのかい?例えばこの前足を取り戻したラフィスの様に、自分の身体の一部を差し出して願いを叶えるとか…」
ラフィスは僕の知り合いの知り合いで、首長キャロット族の雄だ。彼は両足を取り戻す変わりに両腕を差し出した。僕には不便にしか思えなかったが、彼は足を取り戻せたので随分と喜んでいるらしい。
「それは出来ないねぇ、まず願いの大きさが違うからねぇ、それにお前はロボットだ。ロボットが身体の一部を差し出して何になるんだよ、ただゴミが増えるだけじゃないかねぇ」
酷い言い草だな、でも確かにそうだ。ロボットの僕が身体を差し出した所で誰も喜ばないだろう。悔しいけど、魔女は正しい。
「でも、条件が大切な人の命だなんて横暴すぎないかな?僕は願いを叶える為に誰かを身代わりにしなきゃいけないのかい?」
「そうだよ、一番大切な人を差し出すんだねぅ。どうなんだい?お前にも一人ぐらいはいるだろうぉ?」
いる。魔女に条件を聞いた時に真っ先に思いついた人物がいる。僕の一番大切な人、僕が人間になりたいと思えたのは、きっとその人がそばに居てくれたからだと思う。
「分かった。少し考えさせてくれないか?」
「考える必要はないよねぇ。お前にはもう魔法をかけておいたよ、条件が満たされれば何があってもお前の願いは叶うだろうねぇ。さっ、帰ってとっとと愛しい人を殺してきなよぉ」
「勝手な事を…」
だが、それ以上は何も言えなかった。人間からすれば魔女に出された条件なんてすぐに却下するだろう。だけど、僕はロボットだ。ずっとずっとロボットだ。かれこれスイッチが入れられてから1000年以上は経っている。
その間、僕はプログラムされた事だけを繰り返してきた。それがどれだけ虚しいか、君には理解できるかい?絶対に出来ないだろう。だってそれが理解できるのはもうこの世界では僕しかいないだろうから。
X X X
「あっ、お帰りなさい。ヴィヴィ」
「ただいま、ビビ。今日も来てたんだね」
家に帰るとビビが待っていてくれた。ビビは近所に住む人間の女の子だ。僕は彼女が生まれた時から知っていて、かれこれもう100年以上一緒にいる。
「うん、家が開きっぱなしだったから勝手に入っちゃた。ゴメンね」
「いや、前にも言ったけど入って良いよ。それより帰りを待っていてくれてとても嬉しいよ、ありがとうビビ」
「どういたしまして」
ビビが優しく微笑んでくれる。ほんとに優しい子だ、時々僕なんかと一緒にいるのが申し訳なく思ってしまう程に。
「ふぅ…しかし今日はなんだかとても疲れたよ」
お気に入りの椅子に座り一息つく。もちろん疲れなんて感じる筈がなく、少しでも人間に近づきたくて真似事をしているうちに、いつしか口癖になってしまった。
「ヴィヴィ…会いに行ってきたんでしょ?その…アウストロの森にいる子攫い魔女に…」
ビビが客人用の椅子に座り、緊張した面持ちで聞いてきた。そうか、やはり今日やってきたのはそれが聞きたかったからか。因みにアウストロの森はここから北へ歩いて10日程歩いてやっと着く場所だ。丘にはとても危険な麒麟王アウストロが住んでいるので、町の人も何か余程の用がない限りあの場所には近づかない様にしている。
「ああ、会ってきたよ。噂ではとても野蛮人だったが、実際会ってみると意外と話が通じる人で助かったよ」
「そうなんだ。で、ヴィヴィの願いはどうなったの?もしかして願いを言わずに帰って来たの?」
「そんな訳ないじゃないか、ちゃんと願いを伝えて来たよ。成果は見ての通りだけどね」
「そっか、ダメだったんだね…」
ビビは残念そうにしているが、内心は違うだろう。何故ならば彼女は元々魔女に会うのは反対してたし、彼女の覆う雰囲気で何となく分かる。僕達はもう100年以上一緒にいるんだ、ロボットの僕でもそれぐらいは分かるさ。
「ダメ…ではなかったよ。とある条件を満たせば直ぐにでも願いは叶う魔法をかけられた、なろうと思えば僕は人間になれるかも知れないよ。もちろん魔女の嘘かも知れないけどね」
「とある条件って何?」
やはりそこを突いてくるか。ここは嘘をつきたい所だが、あいにく僕はロボット。人間の様には上手くは出来ない。
「一番大切な人を殺せば満たされる。つまりビビ、君を殺せば良いって事さ」
「そんな…」
ビビは思わず絶句した。まさか僕の不幸が自分の身にも降りかかってくるとは思ってなかったのだろう。ゴメンね、ビビ。僕もこんな事を君に言いたくなんかないんだ。だけど、君なら今ある希望を粉々に打ち砕いてくれるのじゃないかと思うんだ。さぁ言っておくれ、私が死ぬぐらいなら貴方が死ねば良いと。
「ヴィヴィはどうして人間になりたいんだっけ?」
あぁダメじゃないか、そんな希望を抱く言い方をしては…。とっとと僕を突き放してこの部屋から出るのが正解なのにどうして君は間違ってしまうのか。ほんとに…怒りで狂ってしまいそうだよ、でもそんな所が僕は大好きだ。
「僕は…そうだな、心が欲しいんだ」
「心?」
「そう。ビビ、君がもし誰かを好きになったとしたら、それは君が自分の意思で人を好きになったのだろう。だけど僕は違う。誰かが好きになる様にプログラミングされたから、好きになるんだ。もしかしたら僕がビビが好きなのも、僕を作った人の趣味嗜好のせいなのかも知れない」
「違うよ。ヴィヴィが好きになったのなら、それはヴィヴィの好きな子なんだと思うわ」
「…そもそも好きとは何なんだろ?自分の気持ちが合っているのかすら分からない。ねぇビビ、ロボットが痛く感じる気持ちと、人が痛く感じる気持ちはどう違うんだろうね」
「そんなの分からないわ、だけど一つ言えるのはロボットなのがヴィヴィであって、人間になったらそれはもうヴィヴィではないんじゃないの?」
ビビが何を言っているのか分からない。これもロボットだから?人間なら理解出来るの?知りたい…ビビ達が感じている痛みを。
「僕の夢を全部否定するんだね…」
「否定はしてない…。それに私はロボットのヴィヴィが好きだし、そのままでも良いと思ってるよ」
だけども君と僕とは違う。ロボットがどれだけ不便で、つまらない存在なのか分からないからそんな事が言えるんだ。ビビも一度なってみれば良いよ、ロボットに。と言えば、ビビが泣くかも知れないから此処で話を無理矢理打ち切る事にした。
「…ビビ、とりあえず君が言いたい事は分かったよ。これ以上話をしても険悪になるだけだろうし、此処はもう話を一旦終わろう。僕も色々と考えたいし」
「そう、分かったわ。後、ヴィヴィを混乱させる様な事を言ってゴメンね」
「いや、良いよ。元はと言えば僕が悪いのだし、ビビが謝る必要はないよ。こちらこそビビを困らせてゴメンね」
そうだ。元はと言えば勝手な事を言っている僕が悪いんだ。それなのに腹を立ててビビを困らせるなんて…会いに来てくれたのに失礼過ぎる。これは反省しなきゃ。
「じゃあ、今日は帰るね」
「うん、会いに来てくれて嬉しかったよ、ビビ」
「あっ、そうだヴィヴィ、今度の休みの日にどこか出かけない?」
唐突に…ではないか。ビビがお出かけに誘う時はいつもこんな感じだ、どうやら彼女は思い立ったらすぐに行動を起こさなきゃ気が済まないらしい。
「良いよ、何処へ行きたい?」
「ライオンフラワーがたくさん見たいから、サンディエルサの丘に行きたいわ」
「あそこか、ビビはあそこが本当に好きだね」
「ふふ、だって何回見ても感動するんだもん」
サンディエルサの丘はビビと何回も一緒に行っている場所だ。此処からそう遠くはなく、たまたまビビと散歩している時に出くわした場所で、今では僕達の憩いの場所となっている。
「分かったよ、じゃあ今度の日曜日にサンディエルサの丘へ行こう」
「ありがとう。楽しみにしているわ、じゃあねヴィヴィ」
「ああ、またねビビ」
ビビが笑顔で手を振り、去って行く。そして扉が閉まった瞬間にため息を…もちろんつけはしないが、下を見てしょんぼりする。僕はなんて事をしてしまったんだろうか、罪悪感が押し寄せてくる。今度ビビに会ったらもう一度ちゃんと謝ろう。そう決心し、僕は寝室に向かい、コンセントを自ら背中に刺し、シャットダウンした。
X X X
約束の日となった。タイマーをかけていたので、寝坊するなんて事は有り得ない。だけど、一度でいいから寝坊なんて事をしてみたいものだ。皆が注目してくれるあの瞬間が僕はちょっと羨ましかったりする。
「ヴィヴィ、起きてる?」
インターフォンが鳴り、ビビがドアをノックしながら訪ねてきた。約束の時間よりも15分も早い。
「あっ、ビビもう来たのかい?ちょっと待ってて。直ぐに用意するから」
「いや、ヴィヴィゆっくりで良いよ。早く着き過ぎたのは分かってるから」
と、言われたものの待たせる訳にも行かず、僕は急いで支度をした。ロボットだから服選び等をしなくても良いのは不幸中の幸いなのかな。
「お待たせ、ビビ」
「ヴィヴィもう出てきたの!?ビックリするぐらい早かったね」
「まぁね、昨日の内にちゃんと用意を済ましといて良かったよ」
ロボットだからそういのはキッチリしている。もしやらなかったら故障したのかなとか言われるしね。
「じゃ、行こうか」
「うん」
サンディエルサの丘は此処から3時間ほど歩いた所にある。僕は疲れなんて知らないから、余裕で行けるが、ビビには結構キツイみたいだ。人間は限界が知れるから羨ましい。僕は分からないし、分かった所で止めようがない。そして限界が分かった時はきっと終わる時なんだろうな。
X X X
「ビビ、もう少しで着くから頑張って」
「ゴメンね、ヴィヴィ。カバンを持って貰ってるのにこんなペースで…」
「ビビは人間なんだから仕方ないよ。無理のないペースで歩いて行けば良い」
「ありがとう、ヴィヴィ」
ゴールは目と鼻の先だ。予定よりも30分も早く着こうとしている。これもビビの頑張りのお陰だ、やはり見た目に反してビビは根性ある。
「見て、ビビ。あそこで閑古鳥が踊っているよ」
「本当だ、可愛い…」
少しでもビビの気を紛らしてあげたくて色んな物や生物に目をやる。迷惑なのかなと思う時もあるけど、教えてあげるとビビは笑顔を見せてくれる。だから止められないのだ。ゴメンね、ビビ。
「さぁ、ライオンフラワーまでもう直ぐだよ。ビビ此処からは…」
「手を繋いで行くのよね、分かってるわ」
決めた訳じゃないが、ライオンフラワーへの場所に辿り着く時はビビを手を繋いで踏み入れるのが恒例となっている。正直照れ臭いが、これをやらないとビビは不機嫌になってしまう。
「じゃ、ヴィヴィ!此処からは走って行こう!」
「えっ!?ちょ、ちょっとビビ!」
ビビが僕の手を引っ張って行こうとする。少しびっくりしたが、ビビが元気を取り戻してくれてとても嬉しい。
X X X
「着いた~~~~!」
「うん、やっと着いたね。ビビお疲れ様」
ビビは辿り着いたと同時に仰向けで倒れ込んだ。勿論、無数に咲くライオンフラワーちゃんと避けている。
「ふふ、草がフカフカで気持ちが良いわ」
「久し振りに来たけど、此処は何一つ変わってなくて安心したよ」
もしライオンフラワーが咲いていなかったらどうしようかと思っていたが、いらぬ心配だった様だ。ライオンフラワーが辺り一面咲き誇っている。
「ねぇ、ヴィヴィも寝転んだら?気持ち良いよ」
「そうだね、ビビがそう言うのならそうしよう」
ビビの隣に行く僕も寝転ぶ。ロボットの僕には草がフカフカかどうかは分からなかったが、空は快晴で、横にはライオンフラワー。ビビが言っている気持ち良いってのが少し分かる気がした。
「……」
「……」
僕もビビも空を眺めてボーっとする。此処で天気が良いねとか、久し振りに来て良かったねとか、言うべきなんだろうが、僕は言えなかった。だって、ビビが横で少し哀しそうな顔を見せていたから。
「……」
「…ビビ何処へ行くの?」
ビビは急に立ち上がり、崖の方へ向かって行った。勿論驚いたが、それと同時にやっぱりなとも思った。あんな話をした後に何処に出掛けようだなんておかしい。ずっと嫌な予感はしていた。そして的中してしまった。
「ビビ待って!そっちに行ったら危ないよ!」
「そんなの分かっているわ、ヴィヴィ。それに私は自殺なんてする気はないわ。何故なら貴方に殺して貰わなきゃいけないんだもん」
「ビビ…」
冗談を言っている顔ではない。ビビは此処へ僕の願望を叶えに来たのだ、自分の命と引き換えにして。
「さぁ、私を殺して。ヴィヴィ」
「ビビ…どうしてそこまでしてくれるんだい?君にとって僕は一体何?命を差し出してまで、僕の願いを叶えようとして一体君に何の得かあるの?ねぇ、教えてよビビ」
こんなロボットの為にそこまでするなんて間違っている。ビビも僕の願いなんてまともに聞かず、他の人の様に故障かな?と笑ってれば良いんだ、結局それが正解なんだ。
「どうしてって…ヴィヴィはずっと私のそばに居てくれた。どんな時も。小さい頃、高熱を出した時も、友達に虐められて独りぼっちになった時も、夢を諦めた時も、両親が亡くなった時も、ずっとずっとそばに居てくれた。ヴィヴィがいなかったら私は此処にはいない。だからヴィヴィの為に命を差し出すなんて容易いことなのよ」
「そんなの…そばにいるなんて当たり前の事じゃないか…」
「そう、当たり前をやってくれたから願いを叶えてあげたいのよ」
「ビビ…」
ここでビビを殺せば人間になれる。長い間夢見てきた人間に。でも、殺してしまったらビビには会えなくなってしまう。そんなのは絶対に嫌だ。
「ビビ悪かったよ、この前の言った事はもう忘れてくれ。僕は人間になんかなりたくないし、ビビと一緒にいたい。気が変わったんだ。だからもう一緒に帰ろう」
「嘘よ、それに私はヴィヴィを人間にしてあげたいのよ。それが今の私の夢なんだ」
そう言いながら後退りをしていくビビ。ダメだ、そっちへ行っちゃダメだ。
「ビビ!それ以上動かないで!」
「ヴィヴィ後は私を押すだけよ。早く私を殺して」
「嫌だ!!」
大丈夫だ。ビビは自殺する気は無い。僕が近くに行ってビビを離さなければ、死ぬ事はない。此処はビビが動かない様に慎重に近付くだけで良いんだ、大丈夫、僕なら出来る。
「ビビ、僕がどうして人間になりたいか分かってるかい?」
「ロボットが嫌だからでしょ…?」
「そう、ロボットが嫌なんだ。人をちゃんと愛したいんだ、誰かにプログラムされた好きじゃなくて、僕が選んだ人を好きになりたいんだ。そしてその人はビビ、君なんだよ」
「ヴィヴィ…」
「もし君が死んでしまえば僕の夢も消える。君がいないと夢は叶わないんだ。だから僕は君を殺せないし、殺さない」
嘘じゃない。いつも見ていた夢にはビビがいた。僕が人間になったその姿を見て良かったねと言ってくれるビビが。
「…分かったわ。ヴィヴィ貴方がそう言うのなら私は死ねない」
「ビビ分かってくれてありがとう」
ビビにそっと近づいて行き抱きしめる。こんな体で抱きしめて良いのか迷ったけど、ビビが拒否しなかったのできっと良かったのだろう。
「じゃ、ビビ気を取り直してピクニックの続きを…」
「キャッ!!!!!!!!」
崖から離れようとした時だった、二人の体重に耐え切れず崖が崩れてしまった。二人とも真っ逆さまに落ちていく。
「ビビ!!!!!!!!!」
僕は何とかビビだけは守ろうと彼女を抱きしめた。こんな体で守れるかどうかわからないけど、なんとかビビを守れれば…。神様、どうか…。
X X X
気が付けば崖の下で横たわっていた。当然だが、僕の身体はバラバラだ。パーツがあちこちに散らばっている。そんな状態でも左腕と首を動かせれるのは流石ロボットだ。今だけは作ってくれた人に感謝しよう。
「ビビ…どこ…?」
声を掛けるが反応はない。ひびだらけの目で周りを見渡す、するとちょっと離れた所にビビが横たわっていた。
「ビビ…大丈夫…?」
体を引きづりながらビビに近づいていく。ビビがピクリとも動かないのは気を失っているからなのか、それとも…。
「ビビ…ビビ…ねぇ、起きてよ。そんな所で寝ちゃダメだよ」
「……ヴィ……ヴィ…?」
「うん、そうだよ」
「ヴィ…ヴィ…わ…たし…」
「大丈夫だよ、大丈夫」
ビビは意識はあったが、頭から大量の血が流れていた。今からビビを病院に連れて行っても助からないだろう。そもそも僕がこんな状態なのにどうやって病院に連れていくのか。無理に決まってる。なら、ここで僕がやるべき事は一つだ。
「ヴィヴィ…こ…」
「ん?どうしたの?ビビ」
「こ…ろし…て」
「あぁ分かってるよ、ビビ。ちゃんと殺してあげるからそんなに心配しないで」
「あり…あと…」
ビビが笑顔を見せる。最後にその笑顔が見れて良かったよ、ありがとうビビ。もしかしたらさよならだけが僕らの愛なのかも知れないね。
「ビビ…」
僕はビビの首にそっと手をやり彼女を絞め殺した。
X X X
目を覚ませばベッドの上にいた。辺りを見渡せばお馴染みの物が目に映る。ここは私の家だ。どうしてここに私は居るのだろうか?確かヴィヴィと一緒に崖から落ちて…そうだ、ヴィヴィに殺されたんだ。
「ヴィヴィ…?」
取り敢えずヴィヴィの名を呼んでみるが反応はない。それどころか誰か居る気配すら全くしない。もしかしてここは天国なのかな?家ごと昇天しちゃった?
「痛い…」
頭痛がする。視界もなんだかグニャグニャしていて気持ち悪い。でも、今はヴィヴィに会わなくちゃ。彼に会ってあの後どうなったかを聞き出したい。私は壁を這いずりながらリビングの方へと向かった。
「あれは…」
リビングに出て最初に目に入ったのが、一輪の花だった。机の上に花瓶に入れられて飾られている。花の名はライオンフラワー。誰がこんな事をしたのかは明白だった。
「ヴィヴィ?やっぱりここにいるの?」
問いかけてみるがやはり反応はない。ヴィヴィは何処に居るのだろう。疑問に思いながらライオンフラワーをもう一度見てみると瓶のすぐ横に手紙が添えられていた事に気付いた。
〈ビビへ〉
手紙を差出人は誰だかすぐに分かった。ヴィヴィだ。私は便せんを丁寧に開封し、ラブレターを読むかの様にドキドキしながら文字を目で追った。
〈ビビげんきかい?キミはじょうきょうがよくわかっていないだろうから、ボクがセツメイするね〉
ヴィヴィの字はお世辞にも綺麗とは言えないけど、不思議と丁寧に書こうとしていたのは伝わった。
〈あのひ、ビビとボクがピクニックへでかけたひ。たしかにビビはしんだ。いや、ボクがころした。そしてビビをころしてボクのネガイはかなった。ニンゲンになったんだ。
ビビ、ニンゲンってスゴイね。ビビのコトをおもうとムネがくるしくなって、ナミダがでてきたよ。イタイけど、ここちよいムネのいたみ。キミたちはあんなカンジョウをもっていきていたのか。スゴイいきものだね、ニンゲンは。
ボクはしばらくニンゲンとしてくらしてみたんだ。いろんなケシキをみにタビにでたりもした。いろんなヒトにもであった。いろんなものがシンセンでね、さいしょはたのしかった。でも、すぐにつまらなくなってしまった。ビビがいないセカイはほんとうにつまらない。なにをしていてもビビがいないってだけで、すべてがむいみにおもえてくる。
やはりボクにはビビがヒツヨウだった。キミかいなければニンゲンになったイミもない。それがカクニンできてよかったよ、ありがとうビビ。
ボクはしばらくしてコサライマジョにあいにいったんだ。ねがいはもちろんこうだ、ビビをイキカエシテほしいと。するとマジョはこういった。たりないと。ほかにアウストロのしっぽのケと、ギガントカエルのたまご、じゃおうクリシュナのキバ、クリスタルデーモンのナミダをささげろといってきた。
とてもじゃないけど、ボクにはムリだといったがマジョはききいれてくれなかった。ならばやることはひとつ。ボクはマジョがいったじょうけんをのむことにした。ぜんぶてにいれるのはほんとうにたいへんだったよ。なんどもしにかけた。ロボットのままならとなんどもおもいもした。だけど、ビビのためならとおもうとしぜんとチカラがわいてきたんだ。これもニンゲンのすごいところだね、スキナヒトのためならなんだってできる。
すべてをてにいれたボクはふたたびマジョのもとへといったんだ。ケッカは…。キミがいまそこでテガミをよんでいるってことはちゃんとネガイがかなったんたね。よかったよ。
ビビ、いまキミはこのテガミをよんでいてもたってもいられなくなっているだろ?ボクをいきかえらせようとかんがえたりしてる?すきにすればいいよ。ながいつきあいだ、キミのことだからとめたってムダなことぐらいわかってるよ。でもね、ビビ。ボクはキミにいきてほしいんだ。たくさんケシキをみて、たくさんのヒトにであって、オモイデをたくさんつくってほしいんだ。そしていつかキミがジンセイをおえたあとにきかせてほしい。キミのどんなジンセイをおくったのかを。じゃ、ビビ。たのしみにしているよ。いつかどこかで。キミにであえてほんとうによかった。さいごにずっといいたかったコトバをかくね。〉
最後の文字だけ何度も描き直した跡が残っていた。
〈あいしてるよ、ビビ〉