SIREN in Bloodborne   作:猫屍人

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ダスクブラッドが発表された記念 2年ぶりに文書きました


悪夢

「狩人さん!」

 

 人の血肉を混ぜ合わせた獣を切り捨てて、血霞も残らぬ浄化の炎が肉を焼き尽くす。いっそう燃え上がる神秘的な炎が一瞬照らし出したのは、赤く染まった隠し街のレンガ柱に身を預けた狩人の姿だった。

 軽く右手を上げて恭也を迎えた彼は、思ったよりも歩みの速い恭也の姿にひどく安堵しているようだった。濃い血の匂いが炎で散らされたか、軽くマスクを下ろして小さく息を吐く。

 

「よかった、後ろで火柱が上がっていたからな…貴公、来てくれると思った」

「待っててくれたのか。合流、できて良かったよ」

「狩人、変な怪我してないな?」

 

 人当たりのいい笑みを浮かべた少年に、どこからともなく響く少女の声に、狩人の心が少しばかり温まる。どこまで行ってもよそ者でしかなかった自分が、狩りに没入する以外で満たされる機会は少ない。だからこそ、特殊な力や武器を持っているこの異邦の少年が、自分の人間を留めているようにさえ思える。

 そんな恭也はつかれたな、とひとりごちてから仕舞い込んでいた手紙と、なにやら格別に香る輸血液を取り出した。両手で差し出されたそれらに、これは?と目で尋ねる。

 

「ちょうど狩人さん宛で預かりものがあったんだ。手紙のほうは…多分狩人さんじゃないかって。名前読めなかったんだけどな」

「手紙、手紙か。私宛とは些か…そうだな、ありがとう。まずは検めよう」

 

 受取り、差出人を確認する。…どうやら、確かに自分宛てらしい。随分と見慣れない字体だが…自分の名前だと啓蒙される(わかった)。輸血液はポーチに仕舞い、軽く手紙の封蝋を剥がして中を読む。

 

 内容をまとめるならばこうだろうか。

 

―――拝啓、狩人様。あなたは栄あるカインハーストより招待を受けました。つきましてはヘムウィックの辻にて、迎えの馬車にお乗りください。

 

 実際はもっと仰々しく、貴族が戯れに下民へ向けるような字体ではあったが、おおむね貴族らしい物言いにクスリと笑う。

 

「ああ、確かに私への手紙だ。カインハーストとやらからの招待だそうだ。これはどこで?」

「ヨセフカ……さんの診療所。俺にも多分同じ内容で来てた。アリアンナさんが読んでくれた」

「アリアンナ、彼女が」

 

 それだけで啓蒙高くも愚かしい脳内がある程度の答えを導き出したが、この少年を前にしてわざわざ指摘することもない。考えを秘めたまま、狩人は納得したような顔で返す。

 

「成程、ならばキョーヤ、私からも少し情報共有を。先にビルゲンワースの学び舎から情報を追ってこちらに赴いたのだが、この隠し街に新たな言葉が刻まれていた。曰く、メンシスの儀式を止めろ、さもなくば、やがて皆獣となる……メンシスとやらを討てば、夜明けへの足がかりにはなるらしい」

「儀式…メンシス…また新しいやつか。やっぱ人間ってどこに行っても同じような事やってるなぁ」

「儀式、生贄、それで巻き込まれる奴らばっか。あたしもうんざり」

「ふ、貴公らにとっては慣れ親しんだ手合か?頼もしいことだ」

「うええ……」

 

 異界をいくつも滅ぼすさなか、元凶となるのはなにも化け物ばかりではない。それらを手引するのはいつだってほとんどが人間だった。ときには狂い染まった人間…だったものを斬り伏せたこともある。辟易とした表情は、美耶子の方は見えないが同じ顔をしているのだろう。

 

「聖堂街にもそれらしい者はまみえなかった。街の奥へ行けば何かしらがあると踏んだが、どうにもこの門の先に私のなにかが警鐘を鳴らしていて足踏みしていたところ……君たちが来る気配がした」

「え、気配って?」

「火柱だ。貴公の戦い方は派手だからな。ちょうどいい休息になった」

「あぁ~、そ、そっか。なんかスマートな戦い方する人に言われると恥ずかしいな」

「恥じることはない。貴公のそれは、如何に強大な敵が現れようと通用するだろう、誇るべきものだ」

 

 言いながらも、少し狩人は驚く。特に急を要するということもなく、久方ぶりに話し込めるタイミングだったからか、存外に舌が回る自分自身に。

 あの気色の悪いナメクジや、血に飢えた獣ばかりを相手に独り言ばかりが虚しく響く狩り場から離れた反動とでもいうべきか。どこか居心地悪げに頭を掻いた恭也を前に、狩人自身も気持ちの切り替えのため咳払い。

 

「ともかく、カインハーストについてはこの先を突破してから考えたいのだが、構わないか?」

「大丈夫、俺もここからどこ行けばいいかわからなかったし」

「変な赤い流れも狩人で途切れてたしな。あたしも狩人についてくの賛成」

 

 多数決も全員が肯定。ならばとあからさまに巨大なアーチを潜り抜けた瞬間、ちりんちりんと遠くから鐘の音が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 赤い月が喰らわれ、異臭が満ちた。

 ひやり背筋を震わせる空気は生暖かい。

 無造作に振る鐘の向こうから、血肉が折り重なる音。

 

 まるでこの世に生まれ落ちるかのように現れた、人の肢体が練り重なった怪物が羊水を思わせる粘液と共に石畳を打った。

 

「うわキモ」

「手慣れているなミヤコ……」

「いや人がいっぱいの化け物って結構いてさ…」

 

 二人の脳裏にもたらされた啓蒙、その特別な智慧が目の前の存在に「再誕者」という名を刻む。とはいえ、かたやすでに白痴の蜘蛛を殺した上位者殺しの経験があり、かたや数多の化け物を異界のついでに屠ってきた歴戦の少年少女だ。

 すかさず目を片手に当てて視界ジャックを行う恭也。このアーチを抜けた広場、上階にて鐘を鳴らしていた女たちの視界から配置を確認した彼は、それらが鐘を光らせ何かしらの攻撃を行おうとする様子を狩人に伝えた。

 

 ひとつ頷き、声もなく狩人はノコギリ鉈を畳んで上階に向かう螺旋階段を目指した。それなりの刃渡りを持つ恭也に、狭い石造りのテラスに陣取る女どもを相手取るのは難しいだろうとの判断であった。

 なるべく恭也には人の形をした相手を切ってほしくない、という独りよがりな感情も含まれていたが。

 

「よし、宇理炎!」

 

 狩人が階段に駆け出すと同時、地に足ついて巨大な腕を振り上げた再誕者に合わせ、地獄の炎が宇理炎の人形を翳した地面から迸る。狩人が目印だと言った威力に決して陰りはなく、振り下ろされようとした腕は炎の勢いに負け、恭也の近くの地面に狙いを逸らされた。

 その質量がもたらした地響きはわずかばかりに恭也の体幹を揺らしたが、二の足で踏みしめ、構えた焔薙の切っ先が無防備な腕を狙う。傷口より燃え広がった浄化の炎は、しかし再誕者が纏う羊水じみた粘液のせいか効きが悪く見えた。

 

「三歩引いて! 上からも来てる!」

 

 美耶子の完璧なナビゲーションを疑うこともせず、恭也は追撃をやめ後方に三歩ステップして下がる。先程まで立っていた場所には鐘を鳴らす女が繰り出した神秘の光弾が着弾する。彼を狙っていた鐘の女は、追撃を繰り出そうとして――背後より忍び寄っていた狩人に首を掻っ切られた。

 現世との結びつきが薄いのか、体液とも呼べぬモヤじみた何かを撒き散らして消えゆく鐘の女を見やることもせず、狩人はテラスを駆けた。この僅かな時間で、すでに広場を囲む上階の半分を巡っていたらしく、彼が通り抜けたところは未だ消えきっていない鐘の女が何体かが消える途中の屍をさらしている。

 

「狩人、あとはそのまま3体だよ! ふたつ向こうのやつだけ気づいてるから気をつけて」

(やりやすい…!)

 

 マスクより上に飛び散った目元の汚れを左手の親指で拭い、次の鐘の女を切り捨てる。

 俯瞰して、絶対に攻撃の当たらない位相から出される美耶子の指示、そして恭也との攻撃の役割分担。テラスの端に等間隔に並んだ鐘の女程度ではひとたまりもなかった。破れかぶれ程度に飛んでくる光弾は足さばき一つで避け、お返しに切りつけてやれば最後の女も消滅する。その瞬間であった。

 

「お?」

 

 下の広場で、巨体の割には猛攻を繰り出していた再誕者の動きがあからさまに鈍る。先程までは正確に恭也めがけて繰り出されていた質量の体当たりは、途端にラグビー初心者が繰り出すようなおっかなびっくりの速度に低下。

 流石に広場の半分近くを埋める巨体相手に、最初の炎以外まともな大技を繰り出せなかった恭也もチャンスを感じて宇理炎を握り直す。懐から幾ばくかの水銀弾が消費された軽さを感じれば、宇理炎を通じて呼び出された地獄の火柱が今度は再誕者の真下から燃え上がった。

 

 最初に比べ、羊水じみた粘液も激しい動きで乾き、撒き散らされていたのだろう。火柱は食らいつくように再誕者の体に燃え移る。かき消そうと無数の手や足をバタつかせた体表面の人体は、その末端から燃え移った炎に苦悶のダンスを加速させる。

 悲鳴じみた絶叫を上げて倒れ込んだ再誕者目掛け、狩人が動いた。上階より跳躍した彼は狩装束をはためかせ、変形させたノコギリ鉈を左手側に引き絞られた。頭部、にも見えるひときわ大きな人体目掛けて赤い月の光を反射させたノコギリ鉈が突き立てられ、ドロリとしたドス黒い血液で反射を鈍らせた。

 

「ッ!」

 

 落下と跳躍で付けられた加速が、刃先の摩擦抵抗をものともせず駆け抜ける。頭部の人型部分を眉間から鳩尾まで。鋭いノコギリの刃でズブズブに切り裂かれた再誕者は、ついに絶叫する口すらも失った。生臭い息をコヒュウと小石が吹き飛ぶ程度には漏らしたソレに、地に足ついた狩人から容赦のない追撃が行われる。

 狩人の身体能力に加わったノコギリ鉈の質量が叩きつけられる度、圧倒的な巨体であるはずの再誕者を解体せしめた。再誕者の体表面を構成していた大小様々な人体のパーツは、今や同じ大きさの肉片として切り落とされていく。

 

 体表面より生え揃った、最後に残った人より少し大きい程度の右手が、待ってくれと言わんばかりに手のひらを突き出すが、もはや張り手の攻撃にすら値しない弱々しいものだった。仮にも上位者じみた見た目の存在がした命乞いだったのだろうか。

 

 だとしても、狩人には通用しない。

 

「終わりだ」

 

 短銃が短く火を吹く。

 眉間に修復不可能な小さな穴を開けて、再誕者は巨躯の全てを脱力して消滅し始めた。ソレを呼び寄せた鐘の女と同じように、しかし、死を確信できるように。撒き散らした粘液すらも、蒸発ではなく消滅を始める。

 

 やがて広場には静寂が戻った。巨体が暴れた破壊の痕はそのまま、まるで悪い夢だったかのように。

 

 感心するように消え立ち上る再誕者だったものを見上げて、恭也は狩人に歩み寄る。

 

「すっげー…完全に燃やさなくても倒せちゃうんだな」

「キョーヤ、貴公の炎が大部分を削ってくれた。私は卑しくもトドメを掻っ攫ったに過ぎんさ」

「いやそんな事無いって!」

 

 狩人はノコギリ鉈にこびり付いた血肉を払い、道中で民衆から剥ぎ取ったであろうボロ布へ押し当てる。この街に到達してからは、大事な狩り道具であり己の相棒。いつの間にか啓蒙されるまでもなく、大事に手入れをしてきた一品。

 小気味の良い擦過音を立てて折りたたまれた相棒は、そのまま狩人の腰元のホルダーに引っ掛けられた。周囲に異様な殺気はもう感じないからだろうか。飛び散った体液濡れの服には、人としては不快感がまだ勝る。狩人としては臓腑を浴びる歓びがあるが…まだ彼の中では勝ることはなかった。

 

「ありがとうミヤコ、君のナビゲートのお陰で輸血液を使うことなく狩りを全うできた。大物相手に消耗がなかったのは初めてだ。もちろんキョーヤ、君も強くなったな」

 

 コートに染み付いた返り血を少し払い、狩人が手を差し出す。

 対等な共闘相手とは得難いものだ。恭也もまた、にこりと笑ってその手を握る。

 

「それで…提案なのだが、これからは行動を共にしないか。おそらく秘匿も残すはメンシスとやらが最後だ。君の力添えがあれば心強い」

「もちろん!俺もさっきのやつとか、結構きつかったし。ミヤコもいいよな?」

「うん。オドン教会に逃がせそうなのもいないし。それに恭也は危なっかしいからな。狩人が付いてくれるなら安心」

「よかった」

 

 狩人は、言葉通り安心した。人であることを逐一確かめなければならない程度には、精神の均衡が危うくなってきたのは事実。そしてこの狂った環境で、戦いに身を投じて誰とも喋れないのは彼の精神を着実に追い詰めていた。

 夢に帰れば人形という話相手はいるが、彼女は会話というよりは肯定をしてくれる存在。ゲールマンも時折見かけたかと思えば、眠ってばかりで会話にまでは発展しない。天真爛漫…というには多少血なまぐさいものの、恭也というまだ純朴さを失っていない少年との交流は、間違いなく狩人にとって益となることだろう。

 

 そうして彼らは、先に話していたカインハーストへ向かうよりも先に、この広間の向こう側に見えた怪しげな建物を調査することにした。狩人が秘匿の終点かもしれない予感があると、足を進めたからだ。

 

 ヤハグルという異様な街の中でも、いっとう古めかしい聖堂の中を覗いてみれば、夥しい数の檻を被ったミイラが彼らを出迎えた。

 

「うわあ……やっぱり人がやらかしたらこうなるんだよなぁ…」

「本当に手慣れているな、貴公」

「恭也の言う通り、こういうときにいっちばん怪しいのは真ん中で偉そうにしてるやつだな。ほら、多分アイツ」

「ふむ」

 

 美耶子の言葉に視線を向けてみれば、より高い檻を頭に被ったミイラがトーチに薄く照らされている。

 

「あれ、死んでる」

 

 恭也たちとて、このヤーナムに来る前はいくつかの異界を滅ぼしてきた異界狩りのベテランと呼んでも差し支えはないだろう。だが彼らの経験でも主導者が最初から死んでいることはなかった。大抵は眼の前で呼び出された存在に殺されたり、最後に己を贄として異形を顕現させるのが常套手段だったからだ。

 

「とりあえず服に変なものとか入ってないかな…」

「あまり不用意に触るものでは、っ!?」

 

 残された手がかりであるのは確か。懐を弄ろうと恭也が檻被りのミイラに手を伸ばした途端、狩人を含めた彼らの視界がぞわりと歪んだ。

 

「……どこだここ」

 

 揺れた視界が収まるのは早かった。周囲を確かめようと一歩身動きすれば、木造の床が古めかしい音を立てた。

 どう見ても行き止まりだった聖堂から飛ばされたと判断した瞬間、彼らは自然と己の得物を抜いた。ヤハグルの再誕者から生暖かい不快感を受けた分、この場に満ちた冷気が彼らの肌を刺す。

 

 ふと、狩人の頭に知らぬはずの知識が僅かに流れ込む。

 教室棟、という単語が浮かび上がった。

 

 

 

 

 

 

 

「これで、全部かな?」

 

 恭也は軟体生物めいた気色の悪い学生もどきを斬り伏せて、焔薙の炎でわずかに己の身を煽ぐ。恭也と狩人が手分けしてこの異空間を探索した結果、元の場所には戻れず、蜘蛛に人の頭をくっつけたが会話の出来る異形がへばりついていただけであった。

 

 この異形は名乗ることこそなかったが、狩人がまだ訪れていなかった場所を教えてくれた。人を小馬鹿にした喋り方こそ鼻についたが、いくつかの謎に対しての疑問を投げかけてみれば、実に快く答えてくれた。焔薙の浄炎をちらつかせれば。

 

 曰く、ここはあらゆる悪夢に通じる通路なのだという。メンシスについてはいくら炎をちらつかせても吐くことはなかったが、どこにでもない場所にあり、だからどこにでも通じている。夜が長引くにつれて捻れは落ち着いてきたようで、確信から遠いからこそこの場所は思案に向いていると蜘蛛男は言った。

 

 話の通じる情報源なのだから、もっと情報を絞るべきかもしれなかったが焔薙の炎を近くで当て(あぶり)続けた結果、思ったよりも憔悴してしまい彼は眠ってしまった。

 

 そうして、恭也たちは彼が言う通じる道とやらを探すため、教室の中にへばり付いていた粘液の学徒を斬り伏せながら進んだところ、あっさりとそれらの道は見つかった。ゾワゾワと背筋に来る不快感よりも、その奥から感じられる気配はこれまでとは比べ物にならないほど悍ましい。少し先を覗いてみたが、ヤーナムでは見受けられなかった断崖絶壁の景色と、全身に突き刺さる殺気にも似た違和感があったため、彼らは教室棟にすぐさま帰投していた。

 

 教室棟の「灯り」の前に戻ってきた狩人は、己の武器と恭也に渡したルドウイークの長銃を見やる。これらに練り込み、狩り道具の手入れに使った血の欠片は少なくはないが、道中で見つけた血石の塊は使ったことがない。そも、この教室棟に唯一いた大男の死血からようやく見出した塊だ。今後を進むなら、間違いなくこれらは力になるだろう。

 

「キョーヤ、ミヤコ。一度戻ってもいいだろうか」

 

 だが、戦いの前に約束したカインハーストについても気がかりなのは確かだった。ここは先に進むよりも、先に教えられた蜘蛛男のいう聖堂東の謎や、狩人の夢に戻って体勢を整えることが狩人として正しい選択だろう。

 

「大丈夫だけど、俺って戻れるのか?」

 

 恭也の疑問の通り、残念ながら教室棟から元のヤーナムはおろか、ヤハグルに戻れそうな道は繋がっていなかった。だが狩人にはある種の確信が…啓蒙があった。

 あの檻頭のミイラにまるごと連れてこられたときの感覚は、彼がヘムウィックの墓地や、ビルゲンワース、様々な場所で使ってきた「灯り」を移動する感覚と全く同じものだったからだ。

 

 そしてこの教室棟という場所にも予感を抱いていた。

 この場所は「夢」の一種であると。

 

 ならば話は簡単だ。恭也はすでに夢に渡ることが出来た存在。

 

「ああ、この灯りは見えるか?」

「灯り…これか」

「それに手をかざして、念じてみたまえ」

 

 狩人のしるべ。そして夢の使者が力を貸してくれる場所。その存在を、いつの間にか恭也も美耶子も認識していた。おそらくは、再誕者を目にしたその時から。

 

 恭也にも、狩人ほどではないが頭に流れ込む啓蒙があった。念じる、というひどく曖昧な指示であったが、不思議と念じるべき内容は彼の中に定まっていた。

 

 恭也の視界がまた歪む。それは檻頭のミイラを触ったときと同じ感覚で、やはり同じようにすぐさま視界は正常に戻った。

 

「ようこそ、狩人の夢へ」

 

 須田恭也は、招かれたのだ。









ウヒッ、ウヒッ
ウヒッヒッヒッヒッ
憐れな異邦の子…優しき友よ
私の神も、あるいは終わりか
あるいは
幾度巡る夜が明けるのか?

ウヒッ、ヒヒヒ…ウヒッヒッヒッヒッヒッ!
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