SIREN in Bloodborne 作:猫屍人
一般的な山や野の動物を狩るための銃
水銀弾を込めることは出来ず、ヤーナムの獣を狩るには心もとない
故にこそ、ヤーナムでこのような銃は用いられることはない
道具にすら速さが追い求められるこの町では、廃れ、置いていかれるのだ
蒼い炎がぼうっと燃え上がる。
「うええ、匂い、やっべ…」
「そ、そんなに臭いのか恭也?」
「屍人の巣のがマシだよこれ」
恭也は美耶子の案内のもと、狩人が恭也を運んだ道から昇降機の直前にあった場所、下層水路へ通じる長いハシゴを下っていた。しかし月明かりが照らしているとはいえ、手元はひどく薄暗い。腰元には刀身をのぞかせた焔薙を吊るしており、恭也はこれを灯り代わりとして足場の悪い壁際を照らし出していた。なんとも罰当たりなことだ。
「おえっ、匂い強くなってきたぞ」
辟易とした表情を見せるのは何度目だろうか。中世ヨーロッパの文化では道端に2階の窓から投げられた汚物が表通りに捨てられていた、という文献もあるようだが、ここの住人たちはそうした汚水の一切合財をこの下水に流しているらしい。まとまっている分、それらは恭也の嗅覚を全力で攻撃しにかかってきていた。
そして、匂いの原因はどうやらそれだけではないらしい。
恭也がやっとの思いでぬかるんだ(ナニがぬかるんでいるのかは知りたくもない)足元と、冷たい水に靴から上を濡らして地に足をつけると、フゴフゴと耳障りな鼻息が彼の耳を打った。それは降りた真横にある水路の先から聞こえてきているらしく、汚水以上にツンとした異臭も同時に漂ってきている。
興味本位で覗き込んだ彼は、その先に人よりも遥かに肥え太った巨大な「豚」の姿を見た。水路の向こう側から見える灯りで照らされた豚の口元は赤く染まっており、ポタポタとその液体の正体である血が滴り落ちている。
当然、その豚の主食は糞尿や人間であるのだろう。水死体さながらのふやけ、伸び切った人体が水の流れに沿ってぷかぷかと運ばれている。人を人とも扱わぬ捨てられた死体にはまだ息があり、正常な命あるものを憎み攻撃してくるものもいたが、それらはすでにかの「狩人」によって斬り伏せられてしまった後のものばかり。
ベルトコンベアで運ばれる食品のように、豚の口元をなお赤く染めるばかりの腐肉と化しているものばかりであった。
「恭也、やっぱりこの街ヘンだ」
「人の命をばかみたいに捨ててるよな……」
異邦の二人組であるからこそ、この光景を見てそんな感想が浮かんでいた。恭也も美耶子も、暮らしは違えど生まれや人格は教育も行き届いた現代日本の若者のソレだ。人の命にまだ法律などが十分に行き届いていない無法地帯。異界を通じてとはいえ、はじめて日本を離れて目にする過去の異国が行う所業には同意し難い気持ち悪さを抱えているらしい。
だからだろう。余計に、二人にはあの赤い衣の男から頼まれた「ガスコイン神父の娘」の保護へと向ける気持ちが強まった。
「美耶子、狩人さんからなんか、それらしい話とかって聞いてるか?」
「ううん、わたしが聞いたのはこの道を真っ直ぐいったら、さっきの大橋を降りた横の道につながってるってことだけだ」
「じゃあ神父さんの家は横道にあるかもしれないな」
そのガスコイン神父も、何を思ってこんな誰も来ないような場所を通って来たのだろうかと疑問に思ったが、だからこそなのだろうという納得もあった。なんせ獣狩の夜という異界が頻繁に生じる街なのだ。こういう道を通ってでしか行けないよう、狩人としての立場のある人物が家族を守るため正規ルートへ頑丈なバリケードを作っていてもおかしくはない。
そこまで考えて、恭也はふと思い至る。確か、あの大橋を登ろうとする前、噴水のある広場に頑強な鉄柵で守られた、崖際の家がなかったかと。
「なぁ美耶子。ちょっと上に行ってもらってもいいか」
「ん、わかった」
美耶子は霊となった身体を活用して、ふわふわと恭也から離れられる限界の高度まで上がってみせた。そして恭也も彼女の視界をジャックし、記憶から思い当たった場所がないかと探してみせる。
すると、まっすぐと進む道の最中、通じていそうなハシゴを見つけることが出来た。
「美耶子、降りてきてくれ」
視界ジャックは、本人が拾った音やそのジャック先の人物の言葉も拾うことができる、情報アドバンテージに優れた手段である。そして美耶子との意思疎通ができるようになった今、美耶子と片目ずつジャックしあうことでその優位性は更に発展を遂げていた。
恭也の言葉を拾った美耶子は側に降りると、恭也の視界の外に敵がでないか見張りながら、まっすぐに進み始めた彼に並走する。
カンカンカン、とまたハシゴを登りきると、その1つ目を登りきったところで恭也が見た鉄柵の反対側の景色を見ることが出来た。家屋の窓にも、人がいるらしい灯りが少しばかり揺らめいている。どうやら、間違いはないらしい。
「やった、きっとあそこだ」
「あっ、恭也うしろ!!」
2本めのハシゴを登って、意気込んだ彼の耳を美耶子の叱咤が叩いた。慌てた様子の彼女の言葉に従って身を伏せると、ハシゴのすぐとなりにあった家屋の扉が破壊され、大男が恭也の頭のあった位置へとブロックのような鈍器を振り下ろしていた。以前は盲目であったがゆえ、僅かな物音にも敏感に反応した美耶子のおかげで第一難は逃れることが出来た。
「うァぅ!ウアァぁ!!!」
「こいつも獣ってのに、なったのか!?」
その答えを示すかのように、目元まで降りたフードが風でめくれ、蕩けた瞳が恭也を見据える。だが以前対峙したあの白く恐ろしい獣――聖職者の獣とは違い、その瞳は混乱と殺意と狂気によって濡れた不安定なものであった。
とはいえ、もはや目についた人間全てを叩き潰す危険な障害であることは変わりない。こんな姿形の人間を、なんども切り伏せてきた恭也は、幸か不幸か迷いなく焔薙の刀身を抜き放ち、切っ先を向けることができる戦意の持ち主であった。
そしてこの大男にとって不幸でしかなかったのは、不意を打たれる以外、恭也の対人戦における立ち回りは見事なものであるということ。時間の感覚を忘れ去るほど、異界という地獄の中で人間に必要な食事や睡眠もろくにとれず、ひたすらに折れることすら許されない精神で人の形をした化物を切り伏せてきた彼は、まず一刀にて大男の右手首を切り飛ばした。――その手に持った鈍器ごと。
手ごと武器を失った大男はその体躯の攻撃こそ厄介だが、鈍重さがまた最大の弱点となりうる。呻く暇もなく返す刀で足を切りつけられた男は膝をつかされた。
最後に恭也は懐から左手で握った不可思議な土の人形、宇理炎を大男に向かって突きつけた。
「燃えろ!」
もちろん、後はご想像のとおり。宇理炎が生み出した煉獄の炎は、男を跡形もなく燃やし尽くす炎の柱に閉じ込め、消し去った。
「毎回毎回さ、恭也は」
「あーもうわかってるって! でも仕方ないだろ、美耶子もわかってるだろうし」
「それはそうだけど、怪我するってわかってて止められないのは嫌だ」
むすっとした物言いの中には、やはり彼女の悲しみも込められている。そのことを引き合いに出されてしまえば、恭也は所在なさげに頭を掻くことでしか誤魔化せなかった。
「とにかく、登ってみよう。オルゴールの音も聞こえる。女の子が持ってるとしたら、ここで合ってるだろうしさ」
「むぅ……ちゃんと後ろは見とくから」
わかったよ、と小さく答えた恭也は、今度こそ最後のハシゴを登りきった。鉄柵の向こう側には、もう獣になった民衆が新しく出てきているわけでもない、静かな噴水の広場がある。先程通った場所に間違いはなさそうだと、この街の複雑な地形に苦笑いが顔ににじむ。
余所者嫌いな街らしい作りといえばそうなのだろう。ひと目ではわからぬ複雑な造りは余所者を迷わせ、しかしそこに長らく住む人間にとっては隠し通路なども思いのまま。きっと、これまで恭也たちが通った所とは違うルートの道もあるはずだ。
そこまで考えて、かぶりをふった。今はとにかくガスコイン神父の娘を探すのが先決。あわよくば、その子に他の避難させても大丈夫そうな住人を教えてもらえれば。
「……あなた、だあれ?」
「え?」
恭也が声のしたほうを見ると、目的地だった家の窓からその声が聞こえてきたようだ。家の黄色い灯りの向こうに僅かに恭也の胸元までしかなさそうな小さな影が見える。
「えっと、もしかしてだけどガスコインって人の娘さん?」
「え、う、うん。ガスコインは私の家名だけど……異邦のお兄さん、もしかして、お父さんのお知り合い?」
「そうってわけでもないんだけど、その、俺は君を助けに来たんだ」
「私を助けに…? お香も少ないけど、夜はもう少ししたら明けるよね? だって、お父さんはいつもこのくらいになって帰ってきてたし、少し、きっと、お仕事がちょっと長いだけで」
窓の向こうの声は尻すぼみになっていく。ひとりで押し殺してきた不安が押し寄せてきているのだろうか。だが、真実を告げれば彼女はきっと耐えられなくて泣き崩れてしまうだろう。父親が獣になって、狩られて死んだ、などと。
だがこの異常事態ゆえに、きっとこの子が乗り越えておかねばならない問題なんだと恭也は判断した。思ったよりもずっと残酷で、救いもないこの世界に生きている恭也は、嘘偽りのない事実を口にした。
「嘘じゃないんだ。君のお父さんは、この先にある墓地で死んでしまっていた」
かつて、恭也は美耶子に「その犬、死んでるみたいだから」と言って美耶子を守るために誘導しようとしたことがある。その時にも似た物言いだが、いまの恭也には別の考えもあった。
「……嘘だよ」
「本当だ」
「嘘だ、嘘だ。余所者の人の言葉なんて信じない」
「だから俺が来たんだ。オドン教会なら、香もいっぱい焚いてあって安全だ。お父さんを知ってる人に頼まれて、君をそこに連れて行こうと思って」
「嘘だよ…!」
やはり、耐えきれなかったかという恭也が想像した通りの反応が帰ってきた。年頃のほどはわからないが、確実に美耶子の元の年齢よりも一回り下だろう。舌っ足らずな発音は、まだ上手くしゃべれない小さな子特有のものだ。
そんな子に、父親の死を告げるのも辛いものがあった。だけど、恭也はめげずになおも言う。
「俺はここで待ってるから、避難できる準備が出来たら――」
その言葉を打ち切るかのように、鎖や布で覆われた格子窓のそのまた内窓が、勢いよく閉められた。きっと今のあの少女にとって、恭也は悪いことを言う悪いやつだ、と見えているのだろう。無理もない反応だった。
「恭也、待つのか?」
「うん。でも多分、そこまで時間はかからないと思う」
「……うん、わたしもそう思う。ああいう子は、根っこは強いはずだし」
どこか達観したように、小声で語り合う二人の内容に首を傾げるかもしれないが、真実を言おう。こうした状況は、「はじめてではない」のだ。
二人は時間を忘れるほどに異界を巡り、元凶となる人物や化物を焼き払い、時には謎を解き明かし、日本に満ちる不思議や神秘を潰していった。そんな中、巻き込まれた一般人が居なかったわけではない。
ここのところはめっきり見かけなくなってしまったが、こうして幼い少女が残酷な世界に押しつぶされるという状況も幾度かは経験しているのだ。
そのまた幾度かを、恭也が、彼が間違えた選択をとってしまったことで、明確な死でもって迎えてしまったこともある。
なにより、似た女の子といえば恭也には誰よりも近くにいる人物を知っている。
だから、こうしてひとまずは安全な場所にいて、それでいて強い父親を持っていた少女には考える時間を与えた。彼はそれを待ちながら、レンガの壁に背中を預けて虚空に話しかける。
「なぁ美耶子」
「なに」
「ひっでぇもんだよね。俺たちが生きてるとこって」
「…うん」
「でもこうして、また話せたり、喜んだりもできる」
「そうだな」
「頑張りたいよな」
「当たり前だ、さわれるようになったらその尻蹴っ飛ばしてでも歩かせるから」
「なんかきつくなってきた? 前の美耶子らしいや」
「ふんっ」
声だけで、ずいぶんと思い出すことはできるものだ。かつての彼女の姿を想起して、こうして話すうちに美耶子がどんな素振りをしているかを思い描く。実際、そのとおりなんだろう。
「……お兄さん」
そうしてどれほど待っただろうか。
内窓が再びきぃときしみを上げながら開かれる。今にも泣きそうな声で呼びかけるその少女は、やはり嗚咽を我慢しきれずに言った。
「お母さんを、一緒に探してくれるかな」
「もちろん」
恭也は彼女の提案に、間髪入れず笑顔で頷いた。
家の内窓から覗く灰色の瞳が少し震えたかと思うと、少女は少し待っていてほしい、と再び窓を閉めた。その直後、恭也の近くにあったレバーが反対方向へとひとりでに動き、ガスコイン家を入り口と窓で分断していた重厚な鉄柵が地面を摺りながらもギチギチと甲高い音をたてて開かれた。
そして少女の気持ちを表すかのように、玄関の扉もゆっくりと開かれる。恭也がその入口の方へと移動すると、ようやくその少女と対面することが出来た。
灰色の長袖とロングスカート。金色の髪を後ろで一つに束ねる大きな白いリボン。そして伏し目がちなまぶたから覗く灰色の瞳。その姿を見ていない恭也たちには知る由もないが、この周辺の住民がまともな頃は、母によく似ている、目元は父親譲りの可愛い顔立ちだと言える少女であった。
「さっきは、ごめんなさい」
「いや、こっちも初対面なのに辛いこと言っちゃったね」
「違うの。私も信じたくない、けど、でも仕方ないから。この街では、よくあることだから」
一瞬目を見開いて、恭也はやるせない気持ちになった。思ったよりも、少し違う理由での立ち直り方であった。そして少女にこんな言葉を言わせたこの街が、嫌になる。獣の病だかなんだか知らないが、そんなものが延々と居座り、当たり前に過ごせたはずの人間の日常を抉り取っていく。
こんな幼い少女ですら、身内の死を納得させるこの街の元凶を。人知れず固めた恭也の決意は、ガスコインの娘がいる手前、言葉を発していない美耶子にも伝わった。
「それで、お父さんは墓地のほうで見つけてくれたん、ですか?」
「うん。そこで死んだってオドン教会の人に聞いた」
「じゃあ、お母さんも、お父さんを探しに行ったから、きっとその近くにいると思い、ます」
「わかった。それじゃあ君は絶対に傷つけさせないから、心当たりのありそうな場所に集中して。もう戻れない奴らは俺が倒すから」
「……お願い、します。みんなを、救ってあげてください」
本当に敏い子だと、彼は感じていた。
美耶子といい、異界でひとり倒れていた美耶子の友達だったあの子といい、こうした異常事態で遭遇する子はなにかと思いの強い子が多い。かつて別の異界でこの手から溢れ落ちてしまった、守れたはずの幼い命も、恭也自身が間違えなければ無事に生還できていたであろう心根の強さがあった。
今は語ることも出来ないが、そうした経験が恭也の焔薙を握る手を強めさせる。思いの丈に反応するように、焔薙からは青い炎が燃え上がった。守護獣「木る伝」もまた、こうした思いに共感をしているのだろうか、と。
「恭也、さっきの昇降機が大橋の階段を降りたとこから繋がってるから、そこから墓地に向かおう」
美耶子のナビゲートに目配せと小さな頷きで返しつつ、恭也は武器と警戒を携えて少女を誘導し始めた。誰かの家の塀の中で騒いでいた犬が柵を壊し狂乱のまま襲いかかってきた以外は、今の所敵らしい敵も居ない。
今のところは会話しても大丈夫ではないか、と判断した恭也が少女を見ると、思ったよりも恭也の歩幅が少女よりも早かったのか、少し急ぎ目に歩く少女の姿がある。
「あ、ごめん! 少しゆっくりいくよ」
「あ、ありがとう」
考え事を傍らにしていたこともあって、少女自身の状態を疎かにしてしまっていた。そのことを反省しつつも、恭也は当初の目的通り、他に避難できそうな住人が居ないのかを訪ねてみることにした。
「なぁ、このあたりの人はなんで避難しないんだ?」
「え?」
「君の家に来る前、いくつかの家をノックしたんだけどさ、なんか余所者ってことで全然取り合ってもらえなくてさ」
「……ここの人は、何度も獣狩の夜を経験して、それごとにおかしくなっていくんだってお父さんが言ってた。私達の家は大丈夫だったけど、ヤーナムの血にうまく合わなかったら、
「そっか。まーた獣狩の夜ってやつか。なんか怖いな」
「うん、怖いよ……ほんとに、怖いの」
胸元で両手を握る少女が体験してきた日常への侵食は、年頃の快活さを奪って余りあるものだったということか。手のかからない子、というよりも感情が上手く見せられない面が目立つ。
そうまでして人を変える獣狩の夜とは。ヤーナムとはいったい何だというのか。解決しなければならないな、と恭也が思っていたその時、美耶子もまた考えを巡らせていた。今回の狩人、というような自己紹介をしていた、恭也を墓地まで運んでくれたあのヤーナムの外から来て狩人になったといった男のことだ。
あのランプから消えて、今は何をしているのだろうかと。
そうして居るうちに、結局少女の母親が見つかることなく、彼らはヤーナムの墓地にまで戻ってきてしまっていた。まだ真新しい墓石の破壊された欠片が散乱しており、足場はあまり良くはない。
「ほら」
「う、うん」
どこかの少女で文字通り死ぬほど練習した小さな子へのエスコート。安心させるように笑った恭也に、ようやく少女もまたぎこちないながらも笑顔を見せる。そんな少女は、ハッとなにかに気づいたかのように、墓地の入口側へと視線を滑らせた。
恭也の手をぱっと話した彼女は、心から安堵をみせ、大声で叫ぶ。
「ヘンリックさん!」
「え、おい!」
彼女が駆け出していった人物は、よろよろとおぼつかない足取りで現れた。この夜にも目立つ黄色い狩装束と、腰に下げたノコギリ鉈がこの人物が狩人であるということを示している。
だが恭也は少女のそんな姿に笑顔を見せるわけでもなく、焦燥のままに駆け出した。
「ダメだ!! 逃げて!」
「え?」
「……………ぅ」
ヘンリック、と呼ばれた男がぶるりと身を震わせたかと思うと、その手は凄まじい速さで腰元のノコギリ鉈へと伸ばされた。そして畳んだ短いリーチの形のまま、これまた凄まじい勢いで少女へと向けられた刃を、すんでのところで踏み込みが間に合った恭也が焔薙で受け止める。だが、
「うぉっ!? なんだ、力つよすぎ……!?」
「うぉおおおおおおああああああッ!!」
喚き散らしたヘンリックが焔薙ごと恭也の腕を弾き飛ばし、空いた反対の手がビキビキと音を立てて一回り肥大化。そして指から伸びる爪は不衛生に伸び、尖っていく。そのまま恭也の心臓を一直線に狙う左手を、恭也はかつて受け取った「知識」のままに、鋭く横へとステップを刻んだ。空を切った手をバッと開いて、今度は腰元の短銃を手にしたヘンリックが獲物と定めた恭也をにらみつける。
狩装束のマスクと帽子の間から覗く瞳は、間違いなく「蕩けて」淀んでいた。おそらくは知り合いであろう少女をためらいなく切り裂くほどに。
「そんな、ヘンリックさんまで……」
「いいから逃げて! せめてその階段登るくらい!!」
「で、でも!」
「守りきれない!!! からぁ!!」
戦闘のさなかに会話できるほど、恭也に余裕はない。間髪いれず切りかかってきたヘンリックの攻撃を刀で上手くいなしながら、ノコギリ鉈の振り下ろしを地面へと振り切って恭也は途切れ途切れに叫ぶ。
少女も理解したのか、必死に階段を登っていく。咄嗟に美耶子の視界をジャックした恭也が片側の視界でその姿を見送り、先に脅威となりうるものはなさそうだと判断する。
「なんだ、今までの狂ったやつとは全然違う…これが狩人ってやつかよ」
ただ獲物を振り回していた民衆や大男とはまるで違う。一撃一撃が鋭く、的確にこちらの臓腑を引き裂こうとしてくる。ソレ以外にも距離を詰めたかと思えばそのまま斬りかかるようなことはせず、ワンテンポ遅れて降り注ぐ斬撃のリズムは、これまで屍人のような敵とばかり戦ってきた恭也にとっては厳しいものであった。
このままだとジリ貧で押し負ける。そう思った恭也は焔薙を両手で握りしめ、相手がバックステップを刻んだ瞬間に同じように前方へのステップを刻んで距離を詰めた。
「焔薙ぃ!」
呼応するかのように青い炎が揺らめき、下段から上段へと振りかざされた焔薙の剣戟には、炎の波が斬撃の後より生じヘンリックへと襲いかかる。もともとの武器のリーチを完全に無視した延長攻撃には対応しきれなかったのか、まともに渾身の炎の一撃を喰らったヘンリックが胸元から蒼い火の玉を灯しながら墓地を覆う建物の壁へと叩きつけられた。
「ッハァ! ふぅ、ふぅ……厳しすぎんだろ」
素早い敵を相手取ってきた、対人慣れした狩人との戦いは恭也本人の想像以上に集中力を削いでいた。ハイになっていた頭から開放された恭也が肩で息をしながら愚痴るが、この程度で終わりとは到底思っていない。
叩きつけられたことで生じた土煙の向こうで、黄色い影が月明かりに紛れて揺らめいた。そして次の瞬間、その影の手元が光ったかと思えば恭也が認識する速度の外でヘンリックが目の前に現れていたのだ。
「―――ッ!?」
無限の命とはいえ、人間に染み付いた防衛本能は恭也に刀を構えさせた。ノコギリ鉈の鋭い刃が多少腕をえぐって行ったがその大部分を刀身で受け止めることに成功する。そしてガードごと後ろに押された恭也は、安心など一瞬もないことを実感した。
すでに、二撃目が振り上げられている。もう間に合わ――
「なにやってんだいあんた!!」
風を切って飛んだナイフがヘンリックの肩にあたり、彼を後退させる。
恭也を切り裂こうとした凶刃を遠ざけたその人物は、恭也が探すよりも早く彼の隣へとばさりと降り立った。一瞬おくれて、ふわりと羽が重力に引かれて緩やかな傾斜を形作る。黒羽根の烏。それが人の形をしたような人物だ。
「あんた見た所、狩人じゃあないね。だったら引っ込んでな」
無数の烏羽を身にまとい、香草を詰め込んだ嘴マスクで顔を隠したキリキリとした女性の声が恭也の前に出る。腰の獲物を抜き放ち、腕を独特の構えで交差させてヘンリックへと向ける。
「こいつは、アタシの獲物さね」
鋭い金属音が音叉のように響き、解けていく。波打つような剣を長短の二本に分かち、黒衣から白銀を煌めかせた彼女は、踊るように身を進ませる。
息をつく間もなく、闇夜を引き連れ、ただ静かに慈悲深く。
日刊ランキングととある感想もらったせいで一気に書いちゃったよ!!
ちくしょうこうやって付け上がるから現実もうまくいかないんだ
てか一気にお気に入り100件こえてしまった これが偽名投稿の力…!ありがとうございます!!糞団子食べてきます!!
ソレとは別に、今回でも触れましたが恭也と美耶子はすでにいくつかの異界を討滅しています。夜見島の闇人しかり、あれの他にも一般人が異形の神やらに巻き込まれた感じのを。
そりゃあ日本には八百万の神がいますし、やべーのもいますわな。って解釈です。
だからここの恭也くんはジェノサイダーに相応しい成長を遂げているのだ……(なおブラボの速度にはまだ未対応の模様
いいとこっぽかったのでここで切ります。
みんなも12時には寝ような!!!!!いい夢見れるよ!!!終わらない夢中夢とか