二人だけが知る   作:不思議ちゃん

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今更ですが高評価、お気に入り、感想、誤字報告など、ありがとうございます。
コメントも全部読ませていただいてます。


十話

 夏休みに入ったのだが、私はまだ先輩と一度もあっていない。

 なんでも八月に入る前には宿題を終えたいらしいのだが、先輩なら余裕で終わるはず。

 なのに立てた予定だと、会えるのは八月に入ってからなのだ。

 

「陽乃ちゃん、どうかした?」

「これ、美味しいなって」

「でしょっ! 私もこれが一番美味しいと思うんだよね」

 

 考えすぎて少し黙っていたようだ。

 いま、一緒に遊んでいるクラスメイトの一人から心配されてしまった。

 

 少し早い時間からファミレスで話をしながら昼食を済ませ、コーヒーのチェーン店で持ち帰りした飲み物を飲みながら次の目的地であるカラオケを目指している。

 

 別につまらないわけではない。

 ただ、どこか物足りないと感じているだけ。

 それは先輩がいないからなのかは……うん。分からないからだ。

 

 これ以上は違和感を持たれてしまうから気持ちを切り替えようとしたところで。

 

「行くよ、アキ」

「もう、ちょっとは待ってよ」

 

 聞きなれた声が聞こえ、そちらを振り向けば。

 初めてみる私服姿の先輩がそこにいた。

 荷物を持っており、親しげに話す女の子の姿も見える。

 私と同い年か一つ下ぐらいの明るく可愛らしい子だ。

 

 先輩はそのまま私に気付くことなく女の子と何処かへ行ってしまったが、先ほどの光景が頭から離れなかった。

 

 話している時、私にも笑みを浮かべてくれることは何度かある。

 けれど先ほど見た笑みは根本から何かが違うような、とても自然で柔らかな笑みだった。

 

 

 

 気が付いたらみんなと手を振って別れるときだった。

 あの後の記憶がサッパリと無いけれど、みんな楽しそうに手を振っていたし対応は問題無かったのだろう。

 

 少し重たくなった足で家に帰り、カバンを床に置いてソファーへと倒れこむ。

 今までに感じたこと無いほどの疲れがどっと押し寄せ、すぐにでも眠れそうだ。

 

「おかえりなさい、姉さん。そんなところで寝たら風邪ひくわよ」

「ただいまー。……んー、今は動けなーい」

「…………はぁ」

 

 雪乃ちゃんが呆れたようなため息をつきながら離れて行く気配を感じたが、目を閉じた私は押し寄せる睡魔に勝てず、すぐさま眠りについた。

 

 

 

「…………ん」

 

 もぞりと体を動かし、まだ半分寝ぼけたままだが上体を起こす。

 寝る時にはかかっていなかった毛布があるのは雪乃ちゃんのおかげだろう。

 なんだかんだで優しいのだ。今度、何かお返しをするしかない。

 

「起きたのかしら」

「おはよう、雪乃ちゃん」

「ならご飯の準備をするから、姉さんもいろいろとどうにかしたら」

「うん」

 

 すぐにお風呂はいるだろうし、着替えなくても大丈夫か。

 床に置いてあるカバンを拾って自身の部屋へと向かう。

 簡単に荷物の整理を終え、手洗いを済ませて戻ればテーブルに料理が並んでいた。

 

「そういえば今日、帰ってこないんだっけ」

「ええ。だから姉さんが料理を作ると張り切っていた気がするのだけれど」

「あー……なんか、ごめんね」

「別にいいわ。あそこまで疲れてる姉さんを見るのは初めてだもの」

 

 これまで雪乃ちゃんには完璧な姉という姿しか見せてこなかったし、これからもそのつもりであったのだが……。

 ここ最近、気の緩んだだらしのないところばかりを見られているのは気のせいでないはず。

 

 内心で一つ息を吐いてイスに座り、雪乃ちゃんが作ってくれた料理に手をつける。

 

「……私は今の姉さんの方が好きよ」

「ほぇ?」

「……何かおかしい事でも言ったかしら」

「いや……普通に驚いているというか」

 

 今までそんな事言ってくれたのは……ずっと昔の小さい頃にあったような気がする。

 けれど歳を重ねるにつれ、雪乃ちゃんとの関係は良いとは言えないと思っていたし、実際にそうだった。

 それがまさか、再び雪乃ちゃんの口から好きと言ってくれる日が来るとは。

 

「確かに慣れない事を言っている自覚はあるわ。……でも、キチンと口にしないと伝わらないこともあるものね」

 

 いま、ふと気がついた。

 私が変わったのも確かにそうだが、雪乃ちゃんも雰囲気が何か変わったような……?

 

 人が変わったと感じた時、それはその人ではなく自分が変わったのだ。

 みたいな話を聞いたことがあるけれど、それを差し引いても雪乃ちゃんは変わった……と思う。

 

「それよりも、今日は何に疲れていたのかしら」

「…………ぅ」

 

 一眠りしてから意識しないようにしていたというのに、ピンポイントでそこを抉ってくるとは。

 これまで積み重ねてきたことの仕返しなのだろうか。

 

 内心がそのまま表情に出ている自覚はある。

 私を見て驚いた顔をしている雪乃ちゃんを見たら仕返しでないことは分かるのだが、それでもそう思ってしまう。

 

「姉さんもそんな顔をするのね」

「前にも聞いたと思うけれど、雪乃ちゃんはお姉ちゃんをどう思ってるのよ」

「姉さんは姉さん、でしょ?」

 

 このやり取りの何がツボにはまったのかは分からないけれど、クスリと笑みをこぼす。

 雪乃ちゃんも同じ気持ちだったようで、笑みを浮かべていた。

 

「……今日はクラスメイトと遊びに出かけていたんだけどね」

「うん」

「先輩の声が聞こえたから、そっち向いたら実際にいたの」

「声はかけなかったの?」

「知らない女の子と一緒にいたから。……仲よさそうで、見たことない笑顔を浮かべてた」

「その先輩の家族とかではないのかしら」

「先輩の家族についてとか聞いたことない。……まあ、私も話したことないからお互い様なんだけれど」

 

 気を利かせてなのか夢を持たせてくれるようなことを言ってくれるけれど、これで実際はこ、……恋人、とかだったら何かが壊れるような気がする。

 

 私だって確かめたいけれど、真実を知りたくないのもまた本心だった。

 ……端的に言ってしまえば怖いと感じている。

 一歩を踏み出し、今の関係が壊れてしまうのを。

 

「なら、代わりに聞いてもらうとか」

「真実を知ることに変わりはないから……」

「これ以上は姉さんが頼ってきたらにするわ。あまり部外者が余計な口出しするわけにもいかないものね」

 

 その優しさは嬉しいけれど、もう少し粘ってほしくもある。

 

「また何かあったら話してちょうだい」

 

 さっさと食べ終えてしまった雪乃ちゃんは立ち上がって空の食器を流しへと運んでいってしまう。

 

 その後ろ姿をなんとも言えない目で見ながら、料理を口へと運ぶ。

 …………うん、美味しい。




最近持病のヤンデレ書きたいが止まらないので、もしかしたら完結させた後にヤンデレルートをifで書くかもしれません。
完結で満足して書かないかもしれません。
今後ともよろしくお願いします。
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