二人だけが知る   作:不思議ちゃん

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十二話

 私が楽しみにしていた日は潰れ、予定していた事の全てがパーになってしまった。

 このまま帰っても何だか癪なので引きこもりの雪乃ちゃんに来てもらおう。

 あの子は友達も少ないし、夏休みの間に外へ出るのは買い物ぐらい。

 姉として妹の健康を考え、外で遊ぼうではないか。

 

 思い立ったが吉日。

 半分ほど食べ進めていたパフェを一旦やめてスマホを手に取り、本を読んでいるであろう雪乃ちゃんにメッセージを送る。

 

 きっと前までなら来てくれるか半々ぐらいだっただろうけど、今なら確実に来てくれるような気がした。

 本当は雪乃ちゃんが目指すべきところまで引っ張れるよう完璧な姉で居たかったけれど……だからって姉妹仲が悪けりゃいいってもんでもないよね。

 

 返事を確認すれば……うん、来てくれると。

 だからこの場所の住所を送っておく。

 残ったパフェをゆっくり食べていけばいい感じに来てくれるだろう。

 

 

 

「お待たせ、姉さん」

「やっはろー、雪乃ちゃん」

 

 私の挨拶をスルーしながら席に着いた雪乃ちゃんは店員にアイスコーヒーを頼んでホッと息を吐く。

 暑い中を歩いてきたためうっすらと汗をかいており、店内の涼しい空気で気が緩んだのだろう。

 

「それで、今日は先輩と会う日じゃなかったかしら?」

 

 それで油断していたからか、開口一番に急所を抉られた。

 

「…………急用が入ったってドタキャンされた」

「そう。それは最低ね」

「そうなんだけど、私もたまに面倒なときドタキャンして逃げる時があるからなんとも言えない……。あ、ちゃんと埋め合わせしてるからケアはバッチリ」

「今日を面倒に思われてるの?」

「んー、先輩は面倒だったら最初に断ってるし、本当に用事ができたと思うんだよね」

「姉さんが見たっていう女の子との用事だったりして」

「……それ、考えないようにしてたんだけど」

「可能性の一つとしてあげただけよ」

 

 他人事だと思って涼しい顔をしている雪乃ちゃんはこの先、私と同じ目に遭えばいいと思う。

 

「そんなわけで予定が空いた私と暇してる雪乃ちゃんで買い物に行こっか」

「別に暇してるわけでは無いのだけれど」

「どんな予定があったの?」

「……残っている宿題を進めたり、本を読んだりよ」

「猫ちゃんの動画は?」

「……何のことか分からないわね」

 

 バレバレだというのに、未だ隠そうとしている姿を見て笑みが浮かぶ。

 私の表情を見て少し不機嫌になっているようなので、これ以上からかうのはやめておかないと。

 怒って帰られたら二人での買い物までパーになってしまう。

 

「雪乃ちゃんが落ち着いたら行こっか」

「ならどこに行くのか決めておきましょう」

「そういうのは決めないで、気に入ったお店に行こうよ。新しい発見があるかもしれないし、そういうのも楽しそうでしょ?」

「姉さんがそう言うのなら」

 

 喫茶店を後にし、電車に乗って大型のショッピングモールへと向かう。

 その間、雪乃ちゃんとはどんな服がいいか、部屋に小物飾ろうかなどと話していたからあっという間に着いた気がする。

 

「うーん、やっぱり人が多いね」

「夏休みの、それも休日なのだから当たり前でしょう。だから家にいるのは悪い事ではないと思うの」

「来ちゃったんだから楽しまなきゃ」

「ちょっと、姉さん!?」

 

 雪乃ちゃんの言う通り、夏休みってことも関係してかいつもの休日よりも人が多い気がする。

 それでも見て回る分にはまだ困らないと思うし、お昼も時間をずらせばゆっくり出来そうだ。

 

 人が多いのを見て足取りが重くなっている雪乃ちゃんの手を取り、引っ張っていく。

 驚いた声が聞こえるけれど、手を振りほどかれることはない。

 うん……こういうのも悪くないかな。

 

 

 

「いやぁ、たくさん回ったね〜」

「本当よ。これを持って帰ると思うと……」

 

 午前は見て回るだけにし、昼食を挟んで午後に買い物をして回った。

 今はショッピングモール内にあるカフェで休憩をしているところなのだが。

 四つあるイスのうち、二つを占めている買い物袋を見て雪乃ちゃんはため息をついている。

 

「雪乃ちゃんも十分楽しんで買ってたじゃない」

「それは……そうだけれども」

 

 私と雪乃ちゃんの買った量にそんな大差はない。

 だから雪乃ちゃんもあまり強く言えないでいる。

 

「車呼ぶ?」

「……そうした方が良いかもしれないわね」

「それならもう少し買えないこともないけど」

「これ以上何を買うのよ」

「雪乃ちゃんがでっかい人形をジッと見てたの、知ってるけど?」

「…………何のことか分からないわね」

 

 きっと、別の日に一人でこっそりと買いに来るつもりなのだろう。

 全く可愛いところが──。

 

「姉さん?」

「…………」

 

 雪乃ちゃんが声をかけてきているような気がするけれど、それどころではない。

 雪乃ちゃんの後ろにある植物越しに先輩の姿を見つけた。

 それもあの時見かけた女の子と一緒に。

 

 二人は親しげに腕を組んで歩いており、先輩の腕を組んでない手には買い物袋が持たれていた。

 

「桜くん、次はあっちの店ね」

「……まだ回るのか」

「あ、デート中にその発言は減点だよ減点」

「そろそろ片腕で持つのは限界なんだが」

 

 あの時と同じように二人は私に気づくことなく、目的のお店へと向かって行く。

 

「…………はぁ」

 

 私と同い年かまだ中学生であるはずなのに、先輩のことを名前で呼んでいる。

 親しげに腕を組んで買い物はデート以外に無いだろう。

 私との約束を破ってまで彼女の機嫌を優先させるのはなんだからしくないような気がしたけれど。

 

「…………本当は互いに、何も知らないんだものなぁ」

 

 だから先輩に対して何かを言える権利など私にはない。

 

「姉さん」

「…………雪乃ちゃん、帰ろっか」

「ええ。……歩いて帰りましょうか」

 

 雪乃ちゃんにしては珍しく他人の気持ちを汲み取っているような気がしたけれど、それに意識を向ける余裕はなかった。

 

 雪乃ちゃんの提案を受け入れ、家へ帰るまでの間に会話は無かったけれど。

 なんだか心地よく、よく分からない感情が押し寄せ。

 

 自身の部屋で久しぶりに泣いた。




……作者はこの作品で二人のイチャイチャを書きたいだけなんだ

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