二人だけが知る   作:不思議ちゃん

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十三話

「ん?」

「どうかしたの、桜くん」

「いや、知り合いがいたような気がした」

 

 辺りを少し見回すも視線を感じなくなってるので何処にいるのか分からない。

 近くにカフェがあるけども、わざわざ戻って確認するほどでもないか。

 

「桜くん。知り合いがいたとしても、そっちに意識持っていかれたらダメなんだからね」

「はいはい。…………あ、少しここに寄ってもいい?」

「別にいいけど……流石の私もこれ以上は気が引けるよ?」

「いや、アキのじゃなくて。今日ドタキャンしたお詫びとして」

「…………むっ? 今まで勝手に私が男の子だと思っていた桜くんの知り合いって女の子なの?」

「そういえば言って……ないな。女の子でアキと同い年だ」

 

 知り合いの性別を聞いてから難しい顔をしているアキが静かなうちに買っておこう。

 静かなアキというのも珍しいけれど、何をそんな真剣に考えているのやら。

 

 店に入ったはいいが、こういった買い物は今まで経験がない。

 今世では大体アキの言う通りに買ってきた。

 だから深く考えないで雪ノ下陽乃に似合うか似合わないかで決めればいいか。

 

「これ、プレゼント用でください」

「はい、かしこまりました」

 

 お金を払い、買ったものを受け取り、振り返ればすぐそこにアキが立っていた。

 多少驚きはしたが、普通だったら声あげて周りから変な目で見られるところだったぞ。

 

「桜くん、それ渡す意味とか知ってるの?」

「一応知ってはいるけど、こういうのって恋仲の人たちがやることでしょ? それに渡す側が一方的に思っていてもいいと俺は考えてる」

「…………知ってるのに渡せる相手なんだ」

 

 アキが言ったことはキチンと聞こえているのだが、何を言いたいのか真意は分からなかった。

 

「それで、あとはどこを回るんだ」

「あと行くところは二つだから、張り切ってこー!」

 

 少し前までは気にしなかったが、今では多少の恥ずかしさぐらい感じる。

 もういい年なのだから少しは大人しくしてほしい。

 そう考えながらもどこか楽しいと思っているのだから、人の感情とは難しいものだ。

 

 

 

 

 

 ドタキャンした日から二日が経った。

 今日もまた雪ノ下陽乃と会う約束をしているので、いつもの喫茶店にて本を読みながら待っている。

 一昨日買った詫びの品もキチンと忘れずに持ってきているし、これで少しは…………あれ? なんだろう。

 

 雪ノ下陽乃がドタキャンしたことに怒っている、なんてことはないだろう。

 そしたら拗ねている? ──まさかそんなわけ。

 悲しんでいるのだろうか。──それこそないだろう。

 

 ならこの気持ちは俺自身が彼女に対して抱いているもの……なのだろう。

 けれどこの気持ちが何かは分からない。

 胸の内に広がるモヤをどうにも意識してしまう。

 

「や、先輩」

「うん、こんにちは」

 

 気付けば約束していた時間の五分前で、目の前に雪ノ下陽乃が手を振っていた。

 けれどその姿に少し違和感を覚えるのは気のせいだろうか。

 

「一昨日は悪かったね、ドタキャンなんてして」

「ううん。私も久しぶりに妹とお出かけできたから楽しかったよ」

 

 やっぱり、何か変な感じだ。

 話し方なんかは変わらないけれど、どこか一線を引いている。

 特典が無かったら気付けないような、小さな違和感。

 こう言った仕事なら今後もどんどんして欲しい。

 

「これ、ドタキャンしたお詫びなんだけど……貰って欲しい、かな」

 

 早めに渡しておかないとズルズルと先延ばしにしてしまう。

 白く綺麗でしっかりとした紙袋をテーブルに置き、雪ノ下陽乃の方へ差し出す。

 

 …………ああ。

 まだこの気持ちはよく分かっていないけれど。

 いま渡したものを受け取ってくれたら嬉しいし、拒否されたら少しショックを受けるのはなんとなく分かった。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 一昨日と同じように足取りは重かったけれど、少しだけ軽い足取りに自分でもショックを受けた。

 

 もう否定できないくらいに先輩が好きだということは分かっている。

 けれど仲良い様子を見せられ、二回目に至ってはドタキャンされているのだ。

 それをされてようやく否定することをやめたのだが……もう遅いんだよね。

 

 略奪愛をしてでもってのが私なのだろうけど、なんだか先輩相手にそれはみっともない気がした。

 別に略奪愛は悪いものと思っていない。

 ただなんとなく、そうしたくないなってだけ。

 

 でも先輩を好きなこの気持ちはすぐに消えてくれそうにないから、心の内で一線を引く。

 これ以上、どうにかならないためにも。

 

 そんな思いを抱きながら喫茶店へと向かえば、少し難しそうな顔をした先輩がいた。

 また何か集中して考えているのか、私が前に来ても気が付かない。

 

「や、先輩」

「うん、こんにちは」

 

 声をかけてようやくって感じだ。

 何についてそんな真剣に考えていたのだろうか。

 

 ドタキャンの話は嘘をつかないけれど全部は話さなかった。……まあ、無難な返しだ。

 事実、雪乃ちゃんとの買い物は悪いものでなかったし。

 

 そんなことを思っていたら先輩が何やら紙袋を私に差し出してくる。

 お詫びと言っていたけれど…………え?

 

 今まで先輩から話を振られてこなかったのに、何段階すっ飛ばしてお詫びというプレゼント……?

 

 あれ? 挨拶の後、先輩から話題振った……?

 頭が混乱しすぎて考えが上手くまとまらない。

 先輩から貰ったプレゼントを開けて少しは落ち着こう。

 

 これって……。

 

 中身はネックレスだったけれど…………先輩は意味を分かっているのだろうか。

 

【ふたりの絆を深めたい】

【永遠に繋がっていたい】

 

 ネックレスのプレゼントにはそんな意味があるのだが、先輩が知らないなんてこともないだろう。

 

 ……これからは一線を引いて先輩と接していこうと思った途端にこれだ。

 これじゃ諦めるに諦められない。

 今まで何度もずるいと思ってきた事はあるけれど、今回のこれは群を抜いている。

 

「一昨日あった妹の誕生日で気になったんだが……………………雪ノ下陽乃の誕生日はいつだ?」

「……………………ふぇ?」

 

 普段の私からは出ないような声が出てしまった。

 さらに追い打ちで情報が。

 

 妹の誕生日?

 私の誕生日?

 先輩が私に興味?

 先輩って人を呼ぶときフルネームなんだ。

 あれ? 初めて名前呼ばれた?

 

「慣れない事をしてるのは分かるけれど、もう少し興味を持っていこうかなって」

 

 少し恥ずかしそうに笑う先輩を見て、自分の胸が高鳴っている。

 色々と混乱していてもハッキリとそう意識しているあたり、私も相当なんだろう。

 

 さっき先輩が言っていた言葉が遅れながらも脳が理解し始めていた。

 勝手に誤解して、勝手に諦めて。

 やっぱり慣れない事はするものじゃないな。

 

「私の誕生日、七月七日で一ヶ月ほど過ぎてるんだけれど……何か期待してもいいのかな?」

 

 これまで先輩に見せてきた笑顔の中でも一番と言えるほどいい笑みを浮かべていると思う。




作者がもう耐えきれんかったんや……
はるのんおどろいたのんで許して……

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