「こんにちは、先輩。相席いいですか? あ、アイスコーヒーお願いします」
「ん? …………許可出す前に座って注文している人のセリフじゃないな」
キチンと覚えてくれている事がとても嬉しく、それだけで満たされるような気さえする。
先ほどのセリフは私と桜くんがこの喫茶店で初めて交わした言葉である。
校庭にいた桜くんを初めて見た日から一年。
桜くんと付き合い始めてからはだいたい半年。
私は二年に。桜くんは三年へと進級した。
恋人になってから変わったことは桜くんと出かける回数が少し増えたぐらいだろうか。
それでも変わらず、学校が終わった後はここでノンビリとした時間を過ごしてきた。
何か変化があったのに、何か変わらないものがあるだけでとても嬉しく思える。
「いつもならお待たせなり、挨拶で座るのに何かと思ったよ」
「私が言えた事じゃないですけれどよく覚えてましたね」
「そりゃ、あそこまで懐に入ってきたのは陽乃が初めてだからな」
「よく桜くんに話しかけてたクラスの女子は?」
「この場所で、っていうのが俺にとっては大事かな。……それに、陽乃は少し特殊だったから」
最後の特殊っていうのはよく分からないが、あまり関わりのなかった頃の私を大切であるはずの場所に受け入れてくれたことを知り、また深く好きになったと実感する。
私はこんなにもチョロかったのかとたまに思わなくもないが、オタクがいうところの『沼にハマる』という意味を思い知った気分だ。
「桜くん、今年で卒業な訳だけど。どこに行くのか決めてるのかな?」
「んー、……陽乃が行くところに行こうかなと思ってる」
「え、あそこも結構いいとこだけど、桜くんならもっといけるでしょ?」
「そうだけどさ……ね?」
桜くんの言わんとしていることは分かる。
それを嬉しく思う反面、少し才能が勿体無いようにも思ってしまう。
「陽乃は気にしないで。俺が好きでしてることだからさ」
気遣ってくれてるのは分かるが、それでもしこりは残ってしまう。
桜くんもそれが分かっているからか、それ以上何か言ってくることは無かった。
「そう言えば、去年は学園祭を別々で楽しんだわけだが……今年はどうする?」
「もちろん、一緒に回るよ?」
「何かやろうと考えているのなら早めに言ってくれ。陽乃の無茶振りをこなすのはすごく疲れる」
「それでもなんとかしてくれるのが桜くんだから」
「もうすでに何をやるか考えてる顔してる」
確かに桜くんの言う通り、何をやるかすでに決めてある。
出会ってからずっとだが、桜くん相手に隠し事ができた試しがない。
けど隠し事はできないが、白状しなければそれがどのようなものなのかバレないのは経験で知っている。
「……なるほど、バンドやるのね」
「うぇっ!?」
大丈夫なはずだろうと思っていたらあっさりとバレ、私らしからぬ変な声が出てしまった。
「な、何故それを……」
「いや、雪乃ちゃんに聞いたらすぐ返事くれたよ」
「口止めしたはずなのに……」
いや、まあ話しちゃうだろうなとは思っていたけど……。
雪乃ちゃんは桜くんのこと、すごい慕っているようだし。
「まあ、バレちゃったものは仕方がないね」
☆☆☆
吹っ切れたように学園祭で何をしようとしているのか楽しそうに話している。
おそらく内容の全てではないだろうが、ある程度分かっていれば何とかなるはず。
教えてくれた雪乃ちゃんにお礼のメールを返しておき、頼んだ時はホットだったが時間を置いて少し冷めてしまったコーヒーに手を伸ばす。
陽乃と付き合い始めてそれなりの時間が過ぎ、これからあるであろう未来に想いを馳せる。
……今のとこだけ切り抜けば俺、死ぬ間際みたいだな。
そんなことはどうでも良く。
モノクロだった世界に色をくれた陽乃にはとても感謝している。
今では同級生、後輩とも普通に言葉を交わすようになっているから自分でも驚きだ。
これから先、長い時間を陽乃の無茶振りに付き合わされるのだろうが、とても楽しみである。
取り敢えずは学園祭で演奏する曲と、楽器の練習からかな。
更新遅かったわけは活動報告にて簡単に書いてあります
この話で終わらせるつもりでしたが、無理だったので多分次で終わります