二人だけが知る   作:不思議ちゃん

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最終話

 月日が経つというのはあっという間である。

 陽乃から学園祭でバンドをするといった話を聞いたのはつい最近だったはずなのに、もう当日を迎えていた。

 

 演奏するメンツは如何するのだろうと思っていたが、バンドをする話を聞いた次の日には平塚先生と雪乃ちゃんの二人と顔合わせをしている。

 

 先生を参加させるのはどうかと思うが、それよりもまだ高校生ですらない雪乃ちゃんが参加して平気なのだろうかと思ったりもした。

 そこは陽乃だからと自己完結して深く突っ込んではいないが。

 

 陽乃がギターとボーカル。雪乃ちゃんがキーボード。平塚先生がドラムで俺がベース。

 演奏する曲は陽乃が作詞作曲したらしいが、いい出来だと思う。

 

 メンツがメンツなので上達も早く。

 早い段階から合わせて弾いているため、完成度は高いものとなっていた。

 

 今舞台に立っている人たちが終われば、次は俺たちの番だ。

 全員舞台袖に集まっているが、近くにいるのは陽乃だけで二人は少し離れたところにいる。

 

「陽乃、ありがとう」

「へっ? 急にどうしたの?」

 

 突然感謝の言葉を述べられた陽乃は少し目を開いた後に瞬きをし、首をかしげる。

 その仕草に胸の内から何か込み上げてくるものがあるけども、陽乃の頭を撫でることで押しとどめる。

 

「俺はつまらない人間になっていた。周りの景色はモノクロに見え、色を失った」

 

 大事な話と察したのか、少し真面目な表情で聞いてくれる。

 けれども頭を撫でられるのが嬉しいのか頬が緩んでおり、あまり意味をなしていないのだが。

 

「けれど今、こうして高校最後の文化祭を楽しんでいられるのは陽乃のおかげだ。……だからとても感謝している」

 

 俺のセリフを最後まで聞いた後。

 陽乃は俺の頭を撫でていた手を取り、両手でギュッと握りながら真っ直ぐに目を見て告げる。

 

「──感謝するのは私の方だよ」

 

 恥ずかしいのかすぐに目を逸らされてしまったが、耳まで赤くなっているので隠せるものではない。

 

 平塚先生と雪乃ちゃんがこちらを見て話しているようだが、こちらの声は聞こえていないだろう。

 けれど俺は二人の話し声が聞こえる。

 演奏が終わった後、陽乃をからかう予定だそうだ。

 

「私も桜くんと同じ。まさかこうなるとはあの頃の自分は思っても見なかったけれど、今がとても楽しいの」

「それなら、失った色を取り戻した俺たちは世界がこんなにも鮮やかだと知ったわけだ。それは今この場では二人だけが知る秘密だな」

 

 俺がどういう意図で今、再びこの話を始めたのか理解してくれたのだろう。

 陽乃はこれまで見てきたものよりも一層魅力的な笑みを浮かべていた。

 

 世の中がモノクロに見えていた事は付き合い始めてしばらくしてから話している。

 そこで陽乃も同じだということも聞いていた。

 

 今回演奏する曲のタイトルは『二人だけが知る』となっている。

 学園祭でバンドをやろうと陽乃が決めたのは、伝わらなくても誰かに向けて伝えたいという矛盾する気持ちからだそうだ。

 

 歌詞を渡されてから今の話を聞いていたが、らしいというかなんというか。

 

 そしてそれを悪くないと思っているから、価値がある大切なものだと思えるから。

 目の前にいる彼女(はるの)にとてつもない感謝を抱いている。

 

「そろそろ時間だぞ」

 

 平塚先生に声をかけられ、陽乃はパッと手を離す。

 

「みんなの準備は万端でしょ?」

「もちろん」

「ええ」

「大丈夫」

 

 何事もなかったかのように確認を取る陽乃に、俺たちは頷き返す。

 

 名前を呼ばれ舞台に上がり、チューニングをしている時にふと顔を上げてみれば。

 人がたくさん集まり、演奏をいまかと楽しみに待っていた。

 

 その中にずっと俺へと構い続けていた彼女の姿が見える。

 俺を変えたのが自分じゃなく陽乃であること、隣に自分が立っていないこと。他にも様々な感情が見て取れる。

 

 少しだけ胸の内が痛んだように感じたが、その気持ちを抱くことは烏滸がましい。

 チューニングを終えたベースを一度だけ鳴らし、切り替える。

 

 皆と顔を合わせ、準備が出来たことを確認し、平塚先生がスティックを掲げたのを見て前へと向き直る。

 

 今がある俺の一部分に彼女がいることを伝えるためにも不甲斐ない姿は見せられない。

 彼女のためだけにとはいかないけれど、少しでもこの気持ちが伝わってくれたらと思いながら。

 俺はベースの弦を弾いた。

 

 

 

 

 

 演奏はあっという間に終わった。

 今日あった出来事を忘れることはないだろう。

 いまだに胸のうちには興奮が残っている。

 

 学園祭はまだ終わっていないが、俺は一足先に帰らせてもらう事になっている。

 予定になかった事だが、明日もある学園祭のステージで演奏する事になった。

 

 クラスのみんなの気遣いか、彼女とゆっくりしてきなと心遣いをいただいたが。

 その件の彼女は学園祭実行委員であるし、今頃は二人にからかわれている事だろう。手痛い反撃を二人が受ける流れまで読めた。

 

 校門を出ようかというところで見覚えがあるようなアホ毛をはやした猫背の男の子を見つけた。

 隣には可愛らしい女の子が一緒にいる。

 

 演奏している時も一番奥で見られている事に気づいていたが、こんな形で接点ができるとは。

 

「ねえ、君」

「はぁ……俺っすか?」

「ちょっとお兄ちゃん。さっきバンドで演奏していた人だよ!」

 

 この兄弟のやり取りを目の前で見られる事に少し感動を覚えている。

 そんな事より要件を早く言わなければ彼が警戒を強めてしまうな。

 

「君、明日も見にきてくれたのなら……このベースを譲ろうかと思うんだけど」

 

 背負っているケースを少し動かして見せれば、少しの間黙っていたのち、口を開く。

 

「…………妹は渡しませんよ?」

「ちょ、ゴミいちゃん!」

 

 ……本当にそう呼ばれているんだね。

 そして斜め下の返事にどこからか疲れが押し寄せてきた気がした。

 

「いや、演奏をしている時に君からの視線に気づいてね。きっと手をつけるだろうって思ったからさ」

「…………はぁ」

「妹さんかな? 彼、明日も連れてきてくれない?」

「もちろんです! 首輪つけてでも引きずって来ます!」

「お兄ちゃん、首輪つけられて街中歩くのは嫌だからね? トラウマになって家に引きこもっちゃうよ?」

「うん、ありがとう。それじゃまた明日」

 

 何か言っていた彼のことは俺も妹ちゃんも無視して話を終わらせた。

 

 校門を出て角を曲がるまで手を振ってくれる妹ちゃんに、完全に警戒を解いていないながらも最後に一度頭を下げてくれた彼にクスリと笑みをこぼす。

 

 これから何度でも思うだろう。

 こうして自分から関わりを持とうとするなんて。

 

 そしてこれからも今まで無下にして来たものを体験して、大切なものへとなっていき、その側には陽乃がいつもいて笑っているのだろう。

 

 ふと道の真ん中で立ち止まり、空を見上げる。

 秋にしては少し暑い今日の空は何だかいつもより色鮮やかに、透き通って見えた気がした。




これにて完結となります。
どこかのあとがきで書いていたヤンデレは……たぶん書かないです。
4話で止まってるオリジナルで書いていく予定です。

本編は終わりですが、気が向けばおまけを1、2話ほど書くかもしれません。
書かないかもしれません。
完結まで間が空きましたが、ご付き合い下さった皆様、ありがとうございます。
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