二人だけが知る   作:不思議ちゃん

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おまけエンディング(HAPPYEND)

 昨日の盛り上がりがあったからか、口コミで広がってさらに人が増えた気がする。

 その中でも彼の雰囲気が分かるってのもすごいと思う。

 約束通り来てくれて少し嬉しい。

 

 演奏が始まれば盛り上がりはすごいことになり、時間だというのにアンコールが止まらないのは素人ながら興奮が高まり鳥肌がたった。

 

 と言っても演奏するために練習した曲は二つしかなく、アンコールに応えられる曲をどうするかといったところだ。

 盛り上がる曲で、全員が弾ける曲。

 

 俺と平塚先生は少し前に流行ったアニメを語るのだが、雪ノ下姉妹が分からない。

 

「一度聴けばいけるよ」

「私は譜面さえ用意してもらえるなら何とか」

 

 陽乃は言わずもがな、雪乃ちゃんも十分に天才の部類だと思う。

 

 未だ興奮冷めやらぬステージには俺が立ち、時間稼ぎをすることに。

 平塚先生には譜面の印刷を頼み、雪ノ下姉妹には曲を聴いていてもらう。

 

 何もプランがないまま俺が姿を表せば、さらに声が大きくなる。

 先ほどまではそれがとても心地よかったが、今では少し怖い気もする。

 久しぶりに特防を使いそうになるが、今こうして俺があるのにそうするのは何か違う気がした。

 

 中央に立ち、マイクを前に何を話すか考えていれば。

 先ほどまで騒がしかったのが嘘のように馬が静まり返る。

 

「……あー、今、急遽三曲目を準備してるから、それまでは少し俺の話に付き合ってもらおうと思う」

 

 ……やっぱり、特防少しだけ使っちゃダメですかね。

 ダメですか。

 

 

 

 約四分も話すのはきつかったが、舞台袖で三人がスタンばってるのでもう終わりにしてもいいだろう。

 

「──ってわけで、俺の独り言みたいなものに付き合わせて悪かった。おかわりが用意できたみたいだからあと少しだけ待っててくれ」

 

 話を切り、ステージ中央からベースとしての立ち位置に移動するわずかな間。

 三人から意味ありげにニヤニヤとした表情をしながら肩を叩かれた。

 

 その意味を今は理解できなかったが、その混乱は置いて目の前の演奏に集中しなければ。

 

 

 

 

 

 屋上の柵にもたれかかりながら、深く息を吐き出す。

 陽も傾き、空は夕暮れに染まっている。

 お祭りの時間も終わり、本格的な撤収は明日だが簡単な片付けを行なっていた。

 俺はクラスメイトからのご厚意で片付けを免除されている。

 

「お疲れ、桜くん」

「陽乃もな。それに雪乃ちゃんや平塚先生もお疲れ」

「お疲れ様です」

「おう」

 

 みんな疲れた様子だが、どこか満たされているようにも見える。

 

「そういえば、俺の話が終わった後にニヤニヤしてたのは?」

「あー、あれね……」

「まあ……」

 

 気まずそうに目をそらす雪ノ下姉妹だが、さすがは平塚先生だった。

 

「そりゃ、真っ赤な顔で惚気話を始めるんだからああなるだろうよ」

「…………惚気話」

 

 俺は公開告白をしていたのか?

 思い返してもどこがそうなるのか全く分からない。

 陽乃が顔を真っ赤にして俺と目を合わせようとしないから、平塚先生が言ったこと正しいのか……。

 

「俺は知らないうちに黒歴史を刻んでいたのか……」

「その、悪くなかったと思いますよ?」

「暫くは揶揄われるだろうけど、悪い気はしなかったよ?」

「いやー、まだまだ青いな。いい傾向だ」

 

 一人だけ大笑いをしている人は置いておき、そろそろ約束の時間か。

 

 タイミングよくドアが開き、恐る恐るといった様子の兄妹がやってきた。

 昨日の帰り際にベースを譲ると話した例の兄妹だ。

 

「ほんとごめんね、わざわざここまできてもらって」

「いやほんと、居心地が悪かったですよ」

「いやー! ライブ、とても良かったですよ! 特にアンコール入る前にあった先輩の語りとか!」

 

 兄の発言を隠すように声を張る妹ちゃんに悪気はないのだろう。

 けれど俺は気づいたら手で顔を覆っていた。

 

「小町、それ以上言うのはやめてあげろって」

「へ? どうして?」

「どうしてもだ」

 

 彼の方は自身も体験があるのか、なんとも言えない目で見てくる。

 あ、これはこれでダメージあるわ。

 

 側で三人が笑ってるの忘れないからな。

 絶対に仕返ししてやる。

 

 気を取りなおすために咳払いをし、本来の目的をさっさと済ませてしまおう。

 

「それじゃ、約束通りこれを君に譲ろう」

「今更ですけど、本当にいいんすか?」

「いいから言ってるんだよ。その代わり、上手くなって俺に聞かせてくれ」

 

 こう言ってしまえば彼は嫌でも上手くならざるを得ない。

 一方的にある程度知っているとは言え、ズルイ言い方をしてるのは自覚している。

 

 それに気づいているから、彼も微妙な表情で受け取っているのだろう。

 

 それでも、もしかしたらの可能性で彼と雪乃ちゃんが同じステージに立ってる姿を思ってしまう。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 あれから十数年が過ぎた。

 俺と陽乃どころか、雪乃ちゃんや八幡も大学を出て働いている。

 

 本当、陽乃と出会ってから月日が経つの早く感じる。

 けれどそれだけ、毎日が新鮮でいられていることなのだろう。

 

 今では小学校になろうとしている娘がいる。

 その下にはようやく少し話せるようになった息子も。

 

「お父さんとお母さんはいつもラブラブだね」

 

 ある日の休日、娘からの唐突な発言に俺と陽乃は少し驚いて顔を見合わせる。

 そしてどちらからと言うわけもなくクスリと笑みをこぼす。

 

「そうね。お母さんはお父さんのこと大好きよ。それと同じぐらい夏美のこともね」

「あははっ。お母さん、くすぐったいよ」

 

 陽乃に抱きしめられて頬ずりをされている夏美はくすぐったそうに身をよじるが、それ以上に嬉しそうだ。

 

 僕は? と言った感じで俺の膝の上に座っている息子の秋斗が見上げてくるが、安心させるように頭を撫で。

 

「俺もお母さんも、秋斗の事大好きだからな」

「えへへ」

 

 嬉しそうに笑う姿を見て、胸の内に温かいものが広がる。

 

 これからもこういった日常の一ページが増えていく幸せをくれた陽乃に感謝を込め、頰に口づけをした。

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