二人だけが知る   作:不思議ちゃん

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三話

 中間テストの勉強会をやるから、先生としてきてくれと頼まれた。

 こういった頼み事は珍しくないのだが、話を聞くに同級生だけでなく1年生の子たちもいるらしい。

 普段ならば大して労力もないため、受けても構わないのだが。1年生も含めた勉強会となると、ほぼ高確率で雪ノ下陽乃がいるだろう。

 そもそも、この勉強会だって彼女が発案の可能性すらあるのだ。

 

 おそらく、彼女の好感度でも稼ごうと勉強云々の話をしてこうなったのだろう。

 …………。

 

「……まあ、いいよ」

「本当かっ!? 助かる!」

 

 コンビニのスイーツ奢るな〜と、声を残して彼は去っていった。

 今までも手伝う代わりに献上品みたいな形で貰っていたが、今回はなぁ……。

 

 特典のせいで失った彩りは欲しいが、面倒ごとはあまり好きではない。

 だが、好きではない面倒ごとが彩りを与えてくれているのもまた事実。

 

 まだ直接会っておらず、間接的にしか関わっていないのに、いつもの退屈な日常とは少し違った日々を送っている気がする。

 それ程までに感情というものは大切なのだ。

 

 これから先訪れるであろう自身の変化に少しの怯えと、期待を抱いていた。

 これを機に少しは周りと関わってみようと1歩踏み出してみようか。

 

 次の授業の準備を終え、窓の外に目を向ける。

 学年が上がって窓から見える景色が少しだけ変わったが、それらにも見慣れてきた頃。

 風に揺られた木の葉たちがいつもよりも少しだけ青く見えるような気がした。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 翌日。

 先生を頼まれたわけなので、去年作ったプリントを聞いた人数分プラス予備を学校でコピーし、頼んできた男子生徒に渡しておく。

 彼の名前は……なんていったかな。覚える努力をしてこなかったが、これからはもう1歩踏み出してみようと思うから、今のところは猫くんで。

 名前がまだないわけじゃないのは分かっている。

 

 やる場所をまだ聞いていないけど……うん、もし伝えられなかったら今日は帰ろう。

 

 

 

 なんて考えはやっぱり甘いよな。

 忘れられずに連絡がきたため、こうしてきちんと放課後に残っている。

 勉強会が始まらないのは猫くんがきていないから。なんでも朝に渡したプリントを汚したらしいので刷っている。

 

 教室の隅っこに腰掛け、本を開く前に1度見回してみる。

 今日集まったのは同級生含めて20人ぐらいか。

 大体が雪ノ下陽乃が目当てなのだろう。カースト上位にいるような人たちしかいない。これだと本当に勉強したい人は来れないだろうな。

 

 件の雪ノ下陽乃は人に囲まれているため、その姿は見えない。

 個人的に俺はいらないと思うのだが、勝手に帰ってもいいだろうか。

 1歩踏み出そうと決めた手前、色々とダメな気がするけど。

 

 息を吐き、続きを読もうと本を開いて栞を取ったところで猫くんがやってきた。

 もう少し時間がかかると思っていたのに……まあ、どちらにせよ最初は俺が関わることなんてないし、彼らに任せておこう。

 

 

 

 

 

「今から30分で渡したプリントの問題を解いてくれ。分からなかったら飛ばしても大丈夫だから。それじゃ、始め!」

 

 猫井先輩の声を合図に皆は問題を解きにかかる。思っていた勉強会と違ったのか、やる気が見るからに下がっているが、問題は一応まじめに解いているようだ。

 結果によってグループ分けされるようだし、それでまじめに解いているのかもしれないけど。

 

 このテストで現状の苦手分野が分かるらしいけど……果たして、誰が作ったのやら。

 

 目を向ければ周りにも気付かれるから出来ないけど、一番後ろで本を読んでいる先輩。

 名前は確か……神宮(じんぐう)(さくら)、だったかな。

 2年生どころか、3年生の先輩でさえも彼のことを呼ぶときは『神宮さん』と言っていた。

 

 一瞬しか見ることができなかったけど、不思議な印象を受けたのは確か。

 

 何故こう思ったのか分からないけれど、あの先輩はきっとこれまで私が見たことない景色を見せてくれるだろう。

 この予感は絶対だと断言できるほど確信めいたものだった。


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