二人だけが知る   作:不思議ちゃん

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五話

 そして勉強を教えるグループが分けられたのだが……。

 

「よろしくお願いしますね、神宮先輩」

 

 俺は雪ノ下陽乃の補佐という立ち位置になっていた。

 彼女と近づきたいからこの勉強会を開いたんじゃなかったか?

 これこそ絶好の機会だというのに……とちって格好悪いところを見られたくないと怯んだのか。

 

 雪ノ下陽乃、そして教える一年生によろしくと声をかけ、今後教えていく内容を口にする。

 そして一時間ほどかけている基礎を教えて今日は解散となった。

 

 ただ、他のグループとは違い俺のところはキッチリやっているからか、楽しそうではない。

 大半が雪ノ下陽乃に近づくためであるから、ここまで真面目にやるとは思っていなかったのだろう。

 

「次からは言ってくれれば他のグループに入っても大丈夫だよ。この勉強会自体強制じゃないし、好きなときに来てくれたらいいから。……今日はお疲れ様」

 

 こう言ったのは受け持つ子が居なくなれば俺のお役は御免だからである。

 いくら雪ノ下陽乃も一緒にいて教えてもらえるとあっても、この調子ならこないだろう。

 

 他のグループもぼちぼち片付けに入っているし、俺は一足先に教室を出ていく。

 早ければ明日からまた自分の時間ができる。

 雪ノ下陽乃も大人しかったし、これでデザートを貰えるのは美味しいな。

 

 

 

 

 

 教室を出て行った神宮先輩の背中が見えなくなり、視線を前に戻して同級生に目を向ければ。

 私のことが眼中にないくらいやる気に満ち溢れている姿が映った。

 

 勉強は他のグループを羨ましそうにしながらも一応真面目にやっていた。

 私目当てであったとしても他のグループにいくかもう来ないと思っていたけれど、最後の労いでその可能性はなくなったように感じる。

 

 既にほとんど人の言葉で心動かされなくなった私でさえも『お疲れ様』と言われたとき、嬉しいと感じてしまった。

 

 教えてるとき、近くにいた神宮先輩を観察していたけれど……一瞬見たときに感じた不思議な印象はなく、どこまでも普通に思える。

 いままで見たこともないタイプであるし、色々と興味が尽きない。

 

 一緒に帰らないかと声をかけられたが、用事があると断り、神宮先輩を追いかけるため教室を出て行った。

 けれど昇降口に姿はなく、見回しても校門に影すら見えない。

 ……仕方がないけれどまた明日に出直すしかないか。

 

 けれどこのまま家に帰っても暇になってしまうわけだし。

 どこかで暇つぶしでもしていこうかな。

 

 普段は通らないような路地を歩いているとお洒落な喫茶店を見つけた。

 外観の雰囲気よし。そして内装の雰囲気もグッド。豆のいい香りが鼻をくすぐる。

 知り合いでここにくるような人なんていないだろうし、味も良ければお気に入りかな。

 

「いらっしゃいませ。カウンターとテーブル、どちらがいいですか?」

「んー……あ、待ち合わせです」

 

 どちらにするか店内を見回していたら、見つけてしまった。

 店員の案内を断り、そこを目指して向かっていく。

 

「こんにちは、先輩。相席いいですか? あ、アイスコーヒーをお願いします」

「…………許可出す前に座って注文している人のセリフじゃないな」

 

 ノックをしても返事がある前にドアを開けるように、一応声はかけるものの返事がある前に座り、飲み物を注文する。

 

 読んでいた本から顔を上げた先輩はあまり表情が変わっていないように見えるが、安寧の地を脅かされているように感じがした。

 私がきているというのに、失礼な先輩だ。

 

「先輩はここで何を?」

「読書」

「毎日ここで?」

「たまに」

 

 私が話しかけているというのに、先輩は再び本へと目を落とす。

 返事も会話を続ける気がない淡白なもので、ページをめくる音が耳に届く。

 

「…………」

 

 けれど思い返してみればこんな反応は今までになく新鮮で、不思議と居心地の悪くない雰囲気だ。

 アイスコーヒーを半分ほどまで飲み進め、私もカバンから本を取り出して読み進めていく。

 

 一瞬だけ視線を感じたような気がしたけれど、それもすぐになくなり。

 あとは互いの本をめくるページの音が時折聞こえてくるだけとなっていた。

 

 

 

 

 

 初めは雪ノ下陽乃がきたとき、新しい場所を探すかなと考えていたが。

 本を読んでしばらくしたら大人しくなり、彼女も静かに本を読み始めた。

 

 ここには知り合いなんてこないし、雰囲気も良く、味もいい。

 好条件が揃っているこの場所を逃すのは嫌だったので、大人しくしてくれる分にはとても助かるのだが。

 

 もし雪ノ下陽乃もここを気に入ったのだとしたら、毎回大人しくしているとも限らない。

 

「…………」

 

 でも、モノクロとなった世界。そこに彩りを与えるキッカケとなってくれたのは雪ノ下陽乃だ。

 そして一歩踏み出してみようとも思ったわけだ。

 ならば暫くはこうしているのも悪くはないかもしれない。

 

 家に帰ろうとカバンを肩にかけ直し……一度店を振り返り見る。

 なんだかこの場所で雪ノ下陽乃と過ごす時間が増えていくのだろうといった予感があった。

 

☆☆☆

 

 中間テストが終わり、テストも返ってきたのだが。

 テストが始まるまでずっと、教師役が解かれることはなかった。

 教えている子みんなは二日目以降からずっとやる気に満ち溢れており、いい点が取れたと報告に来たほどだ。

 

 もう教えなくても済むよう、復習が大事だよ、分からないところは先生に聞きなとアドバイスしておいた。

 

 次は期末テストが控えているわけだが、コンビニのスイーツだけじゃ割に合わなかったのでもう勘弁願いたい。

 

 何かと絡んでくるかと思っていた雪ノ下陽乃だったが、案外おとなしいもので。

 喫茶店でも俺と同じように本を読むだけであった。

 何を考えてるのか分からないが、わざわざ藪をつついてやる必要もないし放っておいたのだが。

 

「先輩、聞いていますか?」

「聞いてない」

「なら今度こそ聞いてくださいね」

 

 急に騒がしくなり、本を読んでいてもお構いなしにこうして声をかけられていた。

 雪ノ下陽乃も本を持ってきているのだが、それは開かれることなくテーブルに置かれたままである。

 

 本があるのならいつもと同じように読んでいればいいものの、何があったのだろうか。

 

「ここしばらく、先輩のことについて情報を集めていたんですよ」

「大人しかったのはそういうわけね」

 

 所詮は嵐の前の静けさだったというわけだ。

 相手するのも悪くはないが、なんとなく、ただなんとなくといった理由だけで素直に相手をしない。

 

「雪ノ下陽乃……大したものだ」

「急にどうしたんですか?」

 

 首を傾げて尋ねてはいるものの、内心で『何言ってるんだコイツ』と思っているのはきっと誰でも分かることだろう。

 

「いんや。……きっとそのうち理解するだろうさ」

「はぁ……」

 

 自分自身は《特攻》《特防》と認識しているが、それを知らない周りの人たちの反応はだいたい二つに分かれる。

 俺のことを聞いているのなら、聡明な雪ノ下陽乃のことだ。近いうちに気付くだろう。

 そして俺の言った意味についても。

 

 雪ノ下陽乃が俺と過ごしてどうなるのかは分からないけど。

 

「話とやらはすぐに終わるのかな?」

「やっと聞く気になってくれました? 先輩について調べてたわけなんですけど──」

 

 少しは一緒に過ごしてもいいかな、と思い始めていた。




……もしかしたらちょいちょい飛ばすかもしれません
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