二人だけが知る   作:不思議ちゃん

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七話

 何故、こんなにも胸の内を混ぜられたような形容しがたい感情を抱いているのだろうか。

 恋愛なんてものは私にとって一番無縁なものだと思っていたのに。

 

 ……ううん。この感情が恋愛だなんて認めるのはなんだか癪に触るからまだ認めない。

 それに、将来の相手を私が決める事なんて出来ないだろうし。

 

 今はそんな事よりも先輩を問い詰める方がさきだった。

 きちんと話を聞いてもらうため、先輩の本は私の手元へと寄せてある。

 

 事の発端はたまたま先輩の教室前を通り、たまたま教室の中に目を向けた時。女の先輩と話している姿を見たのだ。

 会話の内容は聞こえなかったけれど、流れはなんとなく分かる。

 重要なのは先輩から話を振ったという事のみ。

 

 事前に仕入れていた先輩についての話だと、昼休みに話していた女の先輩は毎日めげずに話しかけていたらしい。

 先輩は今までそれをスルーし、たまに相槌を返すぐらいだったとか。

 

 それがここ最近ではクラスメイトに挨拶をしたり、まともな返事をしたりする変化を見せていた。

 そして今日、ついには先輩から話を振るまでに至ったのだとか。

 

 どんな心境の変化があったのかを聞いたのに、質問の意図を理解していないのか。何を言っているのか分からないといったふうに首を傾げている。

 

 さっきの返事だって簡単なものだった。

 自惚れでなければ先輩と濃い時間を過ごしているのは私だと思っていたのだが。

 ……いや、この考え自体がすでに自惚れているか。

 

 けれども、少なからず私に対して思うところは何かあるはずだと思っている。

 その部分についてどう思っているか聞こうとした時。

 

 ただ先輩がコーヒーを飲んだだけだというのに不思議と目が離せなくなり、開いていた口を閉じる。

 すぐに気を持ち直して目を逸らすけれど、先ほどの光景が強く頭に残り、チラチラと横目に先輩の姿を見てしまう。

 

 気を抜いていたからあっさりと手元に寄せていた先輩の本は取り返され、栞の挟んであったページを開いて文字を目で追っている。

 

「むむむ……」

 

 今日はこれ以上の収穫を見込むことは無理だろうか。

 結局、モヤっとした気持ちはスッキリせず。残ったコーヒーを空にするまでの間、先輩を見ているしかなかった。

 

 

 

「ただいまー」

「お帰りなさい、姉さん」

「あれ? 雪乃ちゃんが出迎えてくれるなんて珍しいね」

「いくら好きでない相手でも挨拶はきちんとするわ」

「そんな事を言われるとお姉ちゃんは悲しいなー」

「ちょっ、抱きつかないでくれるかしらっ」

 

 釣れない事を言う我が最愛の妹へ愛情を表現しようと抱きついたわけだが、全力で拒否されてしまった。

 

「ん? どうかしたのかな?」

 

 泣く泣く離れた私はとりあえず着替えようと部屋へ戻ろうとしたのだが、雪乃ちゃんが私を見ていることに気づいて声をかける。

 

「いえ……別に」

「聞きたい事があるなら言ってごらんよ。お姉ちゃん、何でも答えちゃう」

「大した事じゃないわ。……最近、姉さんから豆の香りがするなと思っただけよ」

 

 そう言われて制服の匂いを嗅いでみるけれど、やっぱり自分じゃよく分からなかった。

 

「最近よく喫茶店に寄ってるからかな?」

「一人なんて珍しいのね。取り巻きはいいのかしら?」

「まあ、そこら辺は上手くね。……ただ、一人で行ってるわけじゃないよ?」

「姉さんに目を付けられるなんてその人も可哀想ね」

「むっ、雪乃ちゃんは私のことをどう思ってるのかな」

 

 その質問に対して雪乃ちゃんは私を一瞥しただけで、自分用に紅茶を淹れ始める。

 

「姉さんは姉さんとしか思っていないわ。……はい」

「ん、ありがと」

 

 私の分も用意してくれたらしく、着替えるタイミングを逃してしまったが、ありがたく頂くことにしよう。

 荷物はソファーに放り、雪乃ちゃんと向かい合う形でイスに座る。

 

「今回のお気に入りになったオモチャはどれだけ持つのかしらね」

「んー、今までもオモチャにしているつもりはないんだけどねー。……そのたとえで言うなら、どちらかといえば今回は私がオモチャにされてるかもね」

「……姉さんが?」

 

 冷ややかな目から一転、驚いたように目を少し見開いて真っ直ぐに私を見つめる。

 

「その人はどういった?」

「私の一つ上の先輩だよ。関係は……なんだろうね。学校の先輩後輩、になるのかな?」

「ここまで姉さんが曖昧な表現をするなんて珍しいこともあるのね」

「そりゃ、私だって人間だもの」

「……下らない事はやめなさい」

 

 テーブルの下で雪乃ちゃんの足に私の足を絡ませたら一言、叱られてしまった。

 足を離したわけだが、こんな事でめげる私ではない。

 もう一度足を伸ばし、足に触れるというところで雪乃ちゃんに睨まれたので、行き場を失った足をプラプラとさせる。

 

「……その人のおかげなのかは分からないけれど」

「ん?」

「姉さん、少し変わったような気がするわ」

「そうかな?」

「ええ。……少し、柔らかくなった」

 

 そう言われても、自分自身の事は案外分からないものである。

 私は私のまま生きてきたつもりだけれど、変わったというなら雪乃ちゃんの言う通り、先輩が関係あるのかもしれない。

 

 ……確かにどこかつまらない生き方をしていたけれど、先輩と出会ってからは彩りを感じるようになったと思う。

 仮面は被ったままだけれど、先輩だけは素でいられるような。

 

「……また、こうしてお話ししよっか」

 

 空になったコップから雪乃ちゃんへと視線を移し、そう口にした時。

 自然に笑えていたと、鏡を見なくても分かった。

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