「以上が今回の騒動の状況報告となります」
「なるほど、それでそこにいる九澄 大賀くんが、当校敷地内に入ってしまい、この騒動がおきたということですね」
「極端に言っちゃうとそういうことになりますね」
「はぁ~~~~~~~~。困りましたね~」
校長室で八代が状況を説明すると、校長が盛大な溜息をつく。
「おおおいばあちゃん!言っとけど俺は被害者なんだかんな!このおっさんに無理やりこの敷地に連れ込まれたんだよ!あの爆発だって・・・!」
九澄が最後の抵抗とばかりに、校長に詰め寄りながらそう言う。
すると柊先生が九澄の後ろに回り込み、磁石を取り出して素早く九澄の頭へプレートとともに突っ込む。
----ギュンッ!!
「ぬぁあああああーーーー!!」
----ガチンッ!!
「はうっ!」
九澄の身体が急に宙を浮き、室内の銅像にくっついたのだ。
(なるほど、大賀の頭を強力な磁石にして銅像に張りつけにしたってわけか)
「校長に向かってばあちゃんとは何事だ!そして俺もおっさんじゃない!」
「まあまあ、落ち着いてください柊先生」
九澄の「おっさん」発言に怒っている柊先生を校長が宥める。
「この学校に入って随分と驚かれたことでしょう。魔法という言葉自体は知っていても、本当に実在するなんて思ってもみなかったでしょうからね」
「そうだぜ!敷地外から覗いてみようとしたら、このおっさんは宙に浮いてるし、中に入ったら体をネジで分解させられるし、別世界にでも迷い込んだ気分だったんだぞ!」
「おっさんじゃない!聞いてねぇのかこのクソガキ!」
「柊先生、落ち着いてください」
校長と九澄が会話をはじめ、再度「おっさん」発言が飛び交ったため柊先生が怒り、今度は八代がそれを宥める
「簡単に説明しましょうか。この聖凪高校が建っている山「聖凪山」が特別な力をもっており、その力を我々は魔法磁場と呼んでいます。まあ、簡単に言ってしまえば『魔力』ですね。ここでの『魔法』はそんな『魔力』を『魔法』として使用でき、この土地『魔法特区』内で生まれる『魔法現象』をコントロールする技術のことを言います。なので、『魔法使い』という特殊な存在がいるわけではないのです。それに技術ですから、特区内であれば訓練次第では誰でも扱えるようになりますよ」
「え、それじゃあ俺もその『魔法』ってやつを使えるのか?」
「ええ、もちろん。ただ短期で身につけるには才能が必要です。そのため、当校では入試の時に魔法の資質が大きな判断基準となっているわけです」
「入試!?」
校長が淡々と説明する中、入試という単語に九澄は過剰に反応する。
「ええ、当校に入ってからでないと浮かび上がりませんが、入試案内書の最後のページに予め魔法で各自異なる答えが書かれていて、資質の高い人にはその文が読めるというわけです」
「なんだって!?そんなもんみてねぇぞ!?」
「あらあら本校を受験されていたのですね。でも残念ですが、魔法文字が読めない場合は本校の合格は出来ないようになっているのですよ」
「な、なんてこった・・・」
校長から事実を突き付けられ、九澄はこの世の終わりのように気を落としていた。
(まあしかたないだろうな。こればっかりはどうしようもないからな)
「校長、もういいでしょう。彼も観念したようですし、記憶を消して帰しましょう」
「・・・残念です」
柊先生も九澄の状態を察し、校長に言う。
「ええ、僕も残念です。大賀、会えて嬉しかったよ。また会えるといいな。あと柊先生、短い間でしたが、今日までご指導いただきありがとうございました」
「柊先生、今まで本当にご苦労様でした。第2の人生頑張ってください」
「・・・は?」
八代と校長が並んで一緒にそう言うと、柊先生が鳩が豆鉄砲くらったような表情になる。
「校則『本校に関わりのない者に魔法の存在が知れてしまった場合、原因となった者は本校に関わる一切の記憶と籍を失うものとする』」
「それが、当校の絶対厳守の規則です」
「なっ!?ちょっと待ってください!それは生徒の規則では・・・」
八代と校長が規則である内容を読み上げると柊先生が焦りながらこちらに詰め寄ってくる。
「やっぱり気づいてなかったんですね・・・。この内容ですが、生徒だけなんてどこにも書かれてませんよ」
「八代、お前知ってたならなんで教えてくれなかったんだ!」
「ことがことだからですよ。そもそもここまで大きくなると思ってませんでしたし、先生と大賀だけで済ませて貰いたかったので、俺は関わらないようにしたんです(本当は俺も関わったら巻き込まれそうだったからだけど)」
「ぐぬぬ!!」
柊先生が詰め寄るが八代の正論により押し黙る。
「そうですね。八代くんの言う通り、本件に関してはこの学校のほとんどが知っていることになりますからね。私としても優秀な教師がいなくなってしまうことは痛手ですが、この規則を教師が破っておいて処罰をしないとなると生徒たちに示しがつかないですし」
「バカな!こいつのせいで私は辞任しなければならないというのですか!!」」
校長の言葉に柊先生が九澄を指差しながら先ほどの九澄と同様にどうにかしてくれと言わんばかりに詰め寄る。
「あのさぁ、話聞いてる限りじゃさ、俺が聖凪の生徒だったら丸く治まるんじゃね?」
「「「・・・は?」」」
九澄がそういうと校長室にいるほか3名の目が点になる。
「いやさ、実は俺スベリ止めで入った高校通ってたんだけど、つい最近合わなくて辞めたばっかでさ。だからここに今日来たのも暇もてあましてたからなんだよな」
「「「・・・・・・」」」
「・・・なんてねェ・・・ハハハ」
「それだっ!!」
「うぉわっ!ビックリしたー!」
「校長!!それしかないですよ!!」
九澄の発言に柊先生は食いつくように校長に進言する
「まぁまぁどうしましょう・・・;」
「大賀、お前よくそんなこと思いついたな。ただのバカだと思ってたわ」
「バカは余計だってのっ!てか早く降ろせよおっさん!」
「おっさんじゃない!校長、なにを迷っているんですか!?それとも私を失っても構わないとおっしゃるんですか!?」
「そ~~~・・・ですねぇ・・・;」
こうして、混沌とする話し合いの末、九澄大賀はこの学校への編入、先ほどの騒動は抜き打ちテストという形となり、柊先生も辞任を免れることとなったのであった。
「・・・で、どうするつもりなんですか?」
「なにがですか?」
九澄と柊先生が手続きのため校長室を出て行ったあと、八代が校長に聞くとニコニコしながらとぼけた様に言う。
「・・・正式にこの学校に入れたとしても、魔法を使えないのであれば、直ぐにボロが出てしまうと思いますが」
「そうですねぇ~、困りましたねぇ~」
「・・・校長先生、わかってて言ってますよね?」
「あら、心当たりでもあるのかしら?」
八代の問いかけに少しも動じずに校長は笑顔で逆に聞いてくる。
「・・・はぁ、あんまり厄介ごとに巻き込まれたくないんですがねぇ。・・・大賀の正体がバレないよう、自分が出来る限りでフォローすればいいんですね?」
「ええ、八代くんならそう言ってくれると思ってました。頼みましたよ」
「自分も偽っている方なんですけどね」
満足のいく答えだったのか、嬉しそうに頷く校長に対し、苦笑しながら八代はそう答える。
「しかし、改めて状況を整理すると、九澄くんはあなたとちょうど逆のような状態ですね」
「・・・まあ、大賀の場合はあの状況下で目撃していた生徒が多い以上、Gプレートであったほうが辻褄も合いますしなにかと都合がいいですからね。その分デメリットも多いですが、そこはあいつに何とかしてもらいましょう」
そう、九澄の持たされたプレートは来客用でこの校舎に入ることができる以外何の魔法も使えないプレートであるが、外側はGプレートに見えるようになっているのである。
なぜそのような状況になっているのかというと理由は2つある。
一つ目は当然騒動による辻褄合わせである。
あの騒動の場には少なからず何十名の生徒が九澄を目撃しており、その際に九澄が持っていたプレートは柊先生のGプレートだった。
そんな者が違うプレートを持っていれば、まず間違いなく不審に思われるであろう。
そのため、騒動通りの情報であれば、目立ちこそすれど九澄への不信感は「本当にGプレートなのか」という点に持っていけるということだ。
二つ目はハッタリをより大きく見せるためである。
魔法が使用できない以上、九澄にとって天敵は授業であり、授業ではその魔法を実践してみせなければいけない場合がある。
その際に、Gプレートならそのレベルはもう使えるであろうから他の人に実践してもらうなど、自然に他の人に誘導することができるからだ。
また、Gプレートということであれば、現学年の生徒ではレベルが違いすぎるため、不信感を持っていたとしても無暗に手を出してこないという利点もある。
「問題は魔法の実践を強制させられたときですかね。まあ、あの様子からして大賀は不良とまでは言いませんがガン飛ばすタイプでしょうから、その態度をどうにかしようと思う人は柊先生くらいしかいないでしょうし、恐らく強制はされないでしょう」
「そこまで考えてるんですか、さすが八代くんですね」
「これくらい誰でも考えられますよ。俺のほうが知っている情報が多いだけです」
校長の感嘆の言葉に八代は肩をすくめながらそう答える。
「ああ、そうそう。柊先生が言っていた魔法ポイントの追加に関しては八代くん、あなたに付与されることになりました」
「え?いいんですか?」
「ええ、もちろんです。このように協力してもらっていますし、聞けば九澄くんをあの教室に誘導したのは八代くんだと柊先生からも伺っていますから」
「それはたまたまなんですけどね。でも、そういうことであればありがたく頂いておきます」
魔法ポイントに関して校長がそういうと八代も嬉しそうに承諾する。
(ラッキーだったな。魔法ポイントはもともと欲しいと思っていたし、今の話であれば広まったとしてもそこまで怪しまれることはないだろうからな)
その後、プレートを出して校長からポイントをもらった後、八代は自分の教室へ帰っていった
「あ、八代おかえりー!」
教室に着くと桃瀬が八代に気づきこちらに手を振ってくる。
すると、それに気づいたクラスの連中がこちらに集まってくる。
「よう八代、お前凄いな!Gプレートを捕まえちまうなんてよ!」
「どれぐらいポイント貰ったの?やっぱり抜き打ちテストだったみたいだから結構もらえたりした?」
「どうやってGプレートのやつを捕まえたんだ?魔法つかったのか?」
「あー、一旦待ってくれ。一度に全部は喋れない・・・」
こちらが黙っていると絶え間なく質問が飛んでくるため、八代は一旦話を切るために手を上にあげながらそう言う。
「まずはじめに、どういう尾ひれがついたか知らないが、俺はほぼ何もしてないってことを伝えておく。侵入した生徒が勝手に家庭科室に入ってきたからちょっと話して足止めしただけで、その後直ぐに柊先生が来たから先生がそう勘違いしただけ。ただラッキーだっただけなんだよ」
「えー、本当にそれだけなのか?そもそもなんでお前が家庭科室にいるんだよ」
「今日の日直は俺と柊さんだろ?先生に言われたし、事前準備をしに教室を開けて中に入ったら、その後にそいつが身を隠すために入ってきたってわけだ。だから特別なことなんてしてないし、たまたまそうなったってだけで俺がどうこうしたってわけじゃないんだわ」
「なんだー、そうだったのか。でも魔法ポイントはもらったんだろ?」
「それはもらったよ。けどもらったのはたかだか授業一回分のポイントだよ。さっきも言った通り俺がどうこうやったってわけじゃないんだし、まだ学年も1年なんだからそこまで優遇はできないだろうからね」
「なるほどねー」
八代が話し始めるとそれぞれ質問が飛んできたが、嘘も混ぜつつ一人ひとり答えてやると、納得して野次馬も徐々に消えていった。
「ふぅ、やっと解放された・・・」
「お疲れ~、八代。いやー情報って伝わるのはえーなー。うちのクラスでこれだし、お前しばらくは時の人になるんじゃね?」
「・・・勘弁してくれ」
説明に疲れ切った八代が席に戻ると孝司がニヤニヤしながらそう言う。
「でもそうね。雪比良くんの言う通り、抜き打ちテストで唯一貢献したのは八代くんだけになるから、真実がどうであれしばらく噂は続くんじゃないかしらね」
「そだねー、まあ人の噂も75日って言うじゃん。気にせず生活するしかないんじゃない?」
「なげぇ・・・。まあ、悪いことばっかじゃないから素直に受け止めるしかないかな」
孝司の言葉に出雲と桃瀬も頷きながら肯定し、八代は諦めたようにそう言うのであった。