ムース1/2   作:残月

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登場!ものまね格闘技③

 

 

 

婆さんの指示により久し振りにスフレになった俺は乱馬が山籠りをすると言っていた山に到着した。

さて、修行に励んでいるのかな?と思って探してみたのだが……

 

 

「この野郎、本気でやりやがったな!」

「本気でやらずに稽古になるか!」

「この九能帯刀を愚弄するとは許せん!」

 

 

乱馬、良牙、九能兄が乱闘をしていた。その姿は修行と言うよりは子供のじゃれあい喧嘩の様だった。 さーて、どうやって話し掛けるべきか……俺はそんな事を思いながらバレない様に木の上に登り、太い枝に腰を下ろす。

乱闘を見ると乱馬と良牙が殴りあいをしている最中、九能兄が木刀で良牙の頭を叩く。

 

 

「この勘違い恋愛野郎!」

「お前が言うな、良牙!」

「天道あかねとおさげの女を一人占めしおって!」

 

 

頭を殴られた良牙が九能兄を蹴り飛ばそうとして乱馬にエルボーを落とされ、その隙を狙って九能兄が乱馬の腹を木刀で突く。

 

 

「痛った……舐めやがって!」

「チェス、どぅはっ!?」

「爆砕点穴!」

 

 

乱馬が九能兄を蹴り返し、怯んだ瞬間に良牙が九能兄の足下を爆砕点穴で爆破して吹き飛ばす。あ、やべ……九能兄がこっちに飛んできた。俺は腰の帯に挟んでいた鉄扇を持ち、飛んできた九能兄を叩き落とす。

 

 

「誰だ、この九能帯刀を愚弄しおって!」

「女……何者だ!?」

 

 

九能兄を叩き落とした事で俺の事がバレてしまう。もう少し、この乱闘を見ておきたかったが仕方ないな。起き上がった九能兄は俺を睨み、良牙も突然現れた(風に見える)俺を警戒していた。

 

 

「スフレ!?なんで、お前が?」

「お久しぶりですね、乱馬さん」

 

 

すると、俺に気付いた乱馬が歩み寄ってくる。

 

 

「乱馬、知り合いか?」

「前に天道道場に道場破りに来た女だ。俺とあかねはスフレとの勝負に勝てなかった」

「ふん、女子に負けるとは情けない奴だ」

 

 

良牙と九能兄はスフレとは初対面だから俺の事を疑い眼差しを向けている。乱馬からスフレの話を聞いた九能兄は乱馬の事を鼻で笑う。

 

 

 

「初めましてですね響良牙さん、九能帯刀さん。私はスフレ、武道家です。それと九能帯刀さんは以前から、あかねさんに何度も負けているでしょう?それと、おさげの少女にも。それを考えれば乱馬さんを笑えない筈ですが?」

「ふん、僕は女子には手加減をしているだけだ」

「ああ、女の子に本気になるとは情けない奴だな乱馬」

 

 

 

俺の発言に言い訳をする九能兄。そして、それに乗る良牙。見事なまでに棚上げ発言だな、おい。ついでを言うなら良牙は、あかねに対して本気の恋をしてるだろうが。

 

 

「そんな言い訳をするから真似っこけんちゃんに負けてしまうんですよ」

「なんだと!」

「この九能帯刀を愚弄するか、貴様!」

「………言い訳のしようもねーな」

 

 

俺の発言に噛み付いてきたのは良牙と九能兄。意外にも乱馬は俯いてしまった。俺は口元を鉄扇で隠しながら乱馬に話し掛ける。

 

 

「乱馬さん、珍しく沈んでいる様ですね」

「俺は真似っこけんちゃんに負けて……ムースに助けられた。悔しくてどうしようもないんだ……」

 

 

ギリッと拳を握る乱馬。口先だけの負けず嫌いじゃなくて、本当に悔しい時の顔だなコレは。

 

 

「真似っこけんちゃんに負けたのは九能さんも良牙さんも同じでしょう?なら、条件は同じで……」

「同じじゃねーんだ!俺はムースと同じじゃない!俺はムースの隣に立てるくらいの武道家に成りたいのに俺が強くなってもムースはもっと強くなってるんだ!そんな時に俺は真似っこけんちゃんに負けてムースに助けられた!」

 

 

この場に居る者は同じなんだと、言おうとしたが乱馬は自分自身を責めていた。乱馬は思ってた以上に気にしていた模様。地雷踏んだかな、これは。乱馬はかなりの負けず嫌いで根に持つ性格、粗忽で無神経、自信過剰でナルシスト。それがこんな風に落ち込んで思考の沼に沈むとは思わなかった。

 

 

「おい、乱馬!それはムースを一番のライバルとしているって事か!?お前のライバルはこの響良牙だ!」

「違う、この九能帯刀だ!」

 

 

 

と、言うか……口元を鉄扇で隠してて正解だった。聞いててニヤけるのが止まらない。だって、乱馬が俺を一番のライバルと公言して他のライバルが嫉妬してるんだもの。

 

 

「ま、まあ乱馬さんのライバルの件は兎も角……今は真似っこけんちゃんでしょう?私が練習相手になっても良いですよ?」

「どういう事だ?アンタは天道道場の看板を狙ったんだろう?だったら乱馬を鍛えるのは天道道場の看板を狙うのが困難になる筈だ。乱馬を手助けする理由が分からないんだが?」

 

 

俺の言葉に良牙が反論してくる。目先の欲に駆られてないと冷静で常識的なんだよな良牙。

 

 

「天道道場の看板を狙うのが最終的な目標ではないのですよ。私は武道家として強き者と戦いたいのと、若者が道を外そうとしていれば導くのが大人の使命ですから」

 

 

これは本音だ。原作キャラが沈んだままなのは辛いし、今の年齢に精神が馴染んでいるのは否めないが悩む若者を助けるのは大人の教示ってものだ。

 

 

「大人の使命って……アンタ、何歳へぶっ!?」

「女性に年齢を尋ねるのは御法度ですよ」

 

 

スフレの年齢を聞こうとした乱馬の頬を畳んだ鉄扇で叩く。これはスフレの正体を隠す為の一芝居でやろうと思っていた事で、こんなに早く実現するとは思わなかった。

 

 

「少なくともアナタ達よりも年上とだけ言っておきましょう。さ、修行を始めましょうか?」

 

 

俺は有無を言わさぬ笑顔をしながら乱馬達に修行を促す。おっと、さっきの鉄扇ビンタが効いているのか乱馬達の顔がひきつったな。

 


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