「…………はっ!?」
「あら、目が覚めましたか乱馬さん?」
気絶させた乱馬が漸く目覚める。気絶させた後に地面に寝かせて置いたのだが目覚めが遅かった。疲れもあったのかグッスリと眠りについていた。もしも女乱馬の状態だったら眠り姫と言いたいが乱馬の柄じゃないしなぁ……分離した方の乱馬ちゃんなら有りだろうけど。
「おい、スフレ!俺を気絶させてなんのつもりだ!」
「さっきまでの状態だと実力を出しきれなかったでしょう?強制的に眠らせて体力を回復させてから行った方が良いと判断したまでです。焦りは禁物ですよ、頭も冷えたでしょう」
俺はやれやれと思いながら起き上がりながら怒ってくる乱馬を嗜める。油断や満身は禁物って分かっただろうに焦って町に降りようとすれば負けるっての。
「落ち着いたなら、お行きなさい。あかねさんも待っていますよ」
「へっ……誰があんな色気のない女の事なんか……」
俺の言葉に乱馬はそっぽを向いてしまうが、照れて思ってる事と反対の事を言っている様だ。
「はいはい、思春期特有の照れ隠しはいいですから早く帰ってあげなさい」
「ちぇ……子供扱いすんなよ」
男の時だと俺の方が背が高いがスフレになった時でも背が高く、男の乱馬よりも女の俺の背は同じくらいの背の高さだ。俺が乱馬の頭を撫でると拗ねた様に俺の手を払い除ける。
こうして乱馬はあかねに会いに……じゃなくて真似っ子けんちゃんを倒しに町へと帰って行った。
さて、本当なら俺も真似っ子けんちゃんとの戦いを見学したいのだが……
「さ、さあ……次の特訓はなんだ……」
「こ、この九能帯刀……この程度の修行ではへこたれんぞ……」
乱馬に触発されて良牙と九能兄がやる気だしてるんだよなぁ。まあ、やる気があるのは結構だ。
「急にやる気が出ていますね。修行に意欲的なのは結構な事ですが」
「乱馬が言っていただろう……目標としているのは……ライバルはムースだと!乱馬のライバルはこの響良牙だ!」
「この九能帯刀を差し置いて好敵手をムースと言うとは許しがたし……」
なんか対真似っ子けんちゃんって言うか俺を目の敵にしている様だ。
「だったら私の施した対真似っ子けんちゃん対策の修行は止めますか?」
「ふん、この響良牙……そもそも人に何かを教わるのは性に合わん!」
「今までの修行ではこの九能帯刀は無敵となった!待っていろ、早乙女乱馬!」
良牙も九能兄も荷物を纏めて山を降りていく。それは良いが、良牙。そっちは天道道場の方角とは逆だ。
まあ、体よく山を降りる理由が出来たから良いか。急げば、乱馬と真似っ子けんちゃんの戦いに間に合うかも。俺は纏めておいた荷物を掴んで走って山を降りた。
山を駆け降り、天道道場に到着すると女乱馬が火中天津甘栗拳で真似っ子けんちゃんをぶっ飛ばした所だった。
どうやら勝ったようだな。良かった、良かった。
「乱馬さん、勝てた様ですね。お見事です」
「スフレさん!」
「見たか、スフレ!勝ったぜ!」
俺が拍手をしながら天道家の庭に入ると、あかねと乱馬が出迎えてくれる。
「特訓の成果が出たなら何よりです。私も指導した甲斐があると言うものです」
「乱馬……山籠りでスフレさんと一緒だったのね」
俺の一言であかねの視線がキツい物となり乱馬を睨む。おっと、面倒な考えに思考が行ったな。
「あかねさん。乱馬さんは早くあかねさんに会いたいから山籠りの修行を頑張っていたんですよ」
「え、そうなの……乱馬」
「そ、その……あかねの前で真似っ子けんちゃんに負けっぱなしも悔しいからよ……スフレに修行を付けてもらった……」
俺の発言とあかねに見詰められて乱馬は照れながら頬を掻く。まったく、世話の焼ける奴等だ。
「人は自分の為よりも誰かを思う事で強くなれます。乱馬さんの場合、あかねさんを思う気持ちが強かった様ですね」
「ば、馬鹿!そんな事、あるわけねーだろ!こんな貧乳の寸胴女なんかに!」
「なんですって!」
乱馬は案の定、照れ隠しであかねの事を照れ隠しで悪口を言う。もう、いい加減に懲りろよ。
「そうでしょうか?同年代と比べても、あかねさんの体つきは悪いものではないと思いますが……ああ、そ・れ・と・も……乱馬さんはあかねさんの体を直接確かめたんですか?」
「え、いや、その……」
「ら、乱馬……その……えっち……」
俺が鉄扇で口元を隠しながらクスクスと笑うと、乱馬とあかねは意味を察したのか顔を真っ赤にし始めた。乱馬は狼狽し、あかねは両腕で胸を隠しながら乱馬をジト目で睨む。
「次に会う時までにもう少し、関係が進展している事を祈りますね。では、再見」
「あ、待てよ!このまま帰るな!」
そう言い残して俺は天道道場を後にした。悩むが良いわ思春期共め。さて、俺も変装を解いてから猫飯店に帰るか。
疲れて帰ると猫飯店宛に小包が届いていた。中身は……石鹸?あ、これ体質改善抗水香鹸だ。