ムース1/2   作:残月

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体質改善抗水香鹸

 

 

 

体質改善抗水香鹸とはこの石鹸で体を洗えば呪泉郷の呪いを受けた体を改善出来る……とされているが実際の所は、この石鹸で体を洗うと薄い膜が張られ、水を弾くので体質が改善される訳ではない。

 

 

「まあ、インチキ商品だよな……さて、さしあたり今回は良牙に石鹸が渡らない様にしなければ」

「ムース兄様、それは何ですか?」

 

 

店の中で休憩していた俺は石鹸の箱を指先で回していた。すると、リンスが学校から帰って来た。

 

 

「ああ、シャンプーが呪泉郷の通信販売で買った石鹸だ」

「石鹸ですか……」

 

 

そもそも呪泉郷で通信販売なんてもんが、ある段階で謎なもんだが。

 

 

「これを使えば呪泉郷の体質が治る……って触れ込みだけど完全には治らないんだ。一時的な処置だよ」

「そうなんですか?残念です」

 

 

俺が体質改善抗水香鹸の説明をするとリンスは残念そうな顔をしていた。

 

 

「なんで残念なんだ?」

「シャンプー姉様がムース兄様とプールに行きたいって言ってました。海じゃムース兄様も女性になっていましたから、女同士ではなく男女で遊びたいと……」

 

 

リンスの説明に俺は自分の顔を手で覆う。つまりシャンプーがこの体質改善抗水香鹸を取り寄せたのは俺とのデートの為って事だ……俺の婚約者、マジで尊い……

 

 

「まあ、一度くらい体質改善抗水香鹸で体質を誤魔化してからプールに行くのも悪くないな」

「ニヤけた顔をして言っても説得力が無いぞ、ムース」

 

 

こほん、と咳払いをするが俺は相当、ニヤけた顔をしていたらしい。振り返れば婆さんが立っていた。

 

 

「ムースよ、シャンプーとのデートの話も良いが、店のガスの調子が悪い様なんじゃ。少し、見てくれんか」

「ガスが?最近、調子悪かったからな」

 

 

婆さんから頼まれて店の裏に回り、ガス管の様子を見に行く事に。

 

 

「つーか、ボイラー使ってるのも珍しいよな。中古物件で買った店だから今一設備が古いんだよな」

 

 

 

オレはボイラーの様子を見ようと腰を下ろす。って言ってもボイラーの修理をするのも本来はちゃんとした免許が必要なんだがな。俺も知識があるってだけだしな……まあ、少し見てから業者に頼んで……ん、なんかボイラーが変に熱を持って……ヤバい、このパターンは!

 

 

そう思った直後、猫飯店の裏口に設置されていたボイラーが爆発した。至近距離に居た俺は爆風に吹き飛ばされて打ち身&火傷を負う結果となった。

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「ううむ……安売りの中古ボイラーを使っておったのが敗因か」

「頼むからマトモな物に変えてくれ。ドリフだったらアフロになる程の爆発だったぞ」

 

 

猫飯店は臨時休業。俺は自分の部屋で身体中に包帯を巻いて眠っていた。本来なら医者に行くレベルの怪我の筈だが、中国3000年の歴史を誇る薬草を体に塗ってから包帯を巻いたのだが、ちょっと怖い位に痛みが引いた。

 

 

「シャンプーとリンスは?」

「ボイラーが駄目になったからの。今日は銭湯に行っておるぞ」

 

 

シャンプーとリンスは銭湯か……って事は其処で石鹸を失くすな。どの道、この体じゃ手助け出来んわな。

 

 

 

この翌日。聞いた話だが、やはりシャンプーは体質改善抗水香鹸を銭湯で失くし、それを良牙が拾っていたらしい。そして石鹸奪還の為に、あかねの名を騙り良牙を健康レジャーランドに誘い出したシャンプーと乱馬だったが、運悪く、あかねも健康レジャーランドに来ていた。

すったもんだで良牙が石鹸の効果と価値に気付いてしまう。更にあかねが勝手に名を語られた事に怒り、良牙とデートに行こうとしてしまう。そしてデートの最中、良牙が暴走し、あかねを本気で抱き締めようとするが良牙のパワーはコンクリートや鉄柱を破壊するなど人が抱き締められたら一溜まりもない代物だったりする。

結局乱馬が変装し、あかねの身代わりになる形で抱き締められ、危機は脱した。良牙も体質改善抗水香鹸で一時的に水を弾く体になっていたものの長時間水に浸かっていた為に、石鹸の効果を上回った為に良牙は豚になってしまい、体質改善抗水香鹸が不完全な物と分かってしまい事件は解決した。これが本当の水の泡ってか。

 

これ等の話を健康レジャーランドから帰ったシャンプーから聞かされた俺だったが、シャンプーが顔を俯かせている事に気付く。

 

 

「どうした、シャンプー?」

「ムースと……プールでデートしたかったネ」

 

 

シャンプーが悔しそうに呟いたのを見て俺は察した。シャンプーは俺とのデートの為に態々、体質改善抗水香鹸を取り寄せたのに良牙に盗まれた上に、その効果が完全な物じゃないと知ってしまったのだ。そりゃ、ショックだよな。

 

 

「シャンプー、俺の怪我が治ったらデートに行こうか」

「ムース……うん」

 

 

シャンプーは俺の言葉を聞いて少し、表情が明るくなった。これで俺の体が治れば平和な日常が……って思ってたんだけど……

 

 

 

体質改善抗水香鹸の騒動の日から一週間後。未だに猫飯店は休業中だ。シャンプーは一時的に里帰りをしていた。俺の火傷に効く薬草を村に取りに戻ると言ってくれた。シャンプーも居ないし、俺もまだマトモに動けない為に猫飯店は休業中だ。まあ、最近バタバタしてたし長期の休みだと思えば……

 

 

「ムース兄様、大変です!こんなチラシが町内中に撒かれていました!」

「…………マジか」

 

 

学校から帰ってきたリンスが手にしていたチラシを見て俺は何が起きているか察した。恐ろしく下手な字で書かれた『乱馬、弱くなったよ』の文字。

 

 

「まったく……大人しく寝てる事も叶わないのかよ」

 

 

これは間違いなく貧力虚脱灸の話だ。

そして、このチラシが撒かれている事を考えれば乱馬が九能や校長、五寸釘にリンチされてる筈。原作と違い、俺は居ないが乱馬がリンチされてるのを見過ごす訳にはいかない。俺はまだ痛む火傷を我慢しながら、暗器を仕込んだ普段着を着ると風林館高校へと急いだ。

 

 


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