かすみさんに周囲の世話を頼んでいるので、俺は寝た切りになれるのだが、かすみさんは天道家の家事を一手に引き受けているのだから俺とリンスの世話をさせているのは心苦しい。早く、体を治したいものだ。
とは言っても通常よりも体の回復速度が違っていた。婆さんが調合した火傷の薬を塗っているのだが、怖いくらいに痛みと火傷の跡が消えていく。
前に『中国3000年の歴史を誇る薬草で作った薬じゃよ』と婆さんは言っていたが、怪しげな材料がチラッと見えていたから気が気じゃない。
しかし、今の俺には『安静に寝る』以外の行動が取れない。下手に動こうとすると悪化する可能性が高いからだ。しかも一度、無理をして乱馬を助けに行って悪化させてるから二度目は無しにしたい。
寝て暇を持て余していたら東風先生が見舞いに来てくれた。聞くと婆さんが事前に頼んでいたのと、かすみさんに言われてきたらしい。名医に診て貰えるのはありがたい。そして、かすみさんが不在で助かった。東風先生、かすみさんの前だと名医からヤブ医者に変わるから。
火傷に効くツボを押して貰った。火傷に効くツボなんかあるのだろうかと思ったのだがツボを押されると痛みが引いた。思えば、らんまワールドには『江戸っ子爺さんのツボ』なんてツボがあるくらいだから不思議なツボがあっても可笑しくはないか。
翌日、小太刀が謝罪に来た。乱馬を倒したと吹聴している九能兄から乱馬を倒したついでに俺も倒したと聞いて謝罪に来たのだと言う。本当に原作と違ってマトモと言うか……まあ、話し方とか基本的な考え方は同じなのだが、こう言った気遣いが出来るようになったんだよなぁ。クッキーと紅茶の詰め合わせを受け取った後に事情を説明。
貧力虚脱灸と俺の火傷の話をすると小太刀は芝居がかった動きで「ああ……なんて、お可哀想な乱馬様……」とヨヨヨと指で涙を拭う仕草をしていた。いや、俺も被害者なんだけど。
「でも、納得しましたわ。お兄様が乱馬様とムースさんを倒すなんてあり得ませんもの」
「実の兄の評価が低いのは……まあ、仕方ないとして。乱馬はその貧力虚脱灸改善の為、特訓中だ。帰りは何時になるか不明だな」
原作通りなら三日後には帰ってくるが断定は出来ないし。迂闊な事は言えないな。
「かくなる上は私がその爺様を倒し、乱馬様のお体を治すお灸を示した秘伝書を奪いましょう!」
「それは止めとけ。セクハラされて泣くだけだぞ。俺は動けないし、乱馬が帰って来て爺さん倒すのを待つしかないな」
小太刀がやる気に満ち溢れた顔でリボンを取り出し、立ち上がるが止めた。行った所で爺さんにセクハラされて泣く姿しか思い浮かべられない。
この後、小太刀に紅茶を淹れて貰い、雑談に花を咲かせた。前にも思ったけど、小太刀って色恋とかが絡んでなければマトモなんだよなぁ……この世界だけの話かも知れないが実際に小太刀と話してるとそんな風に思わされた。
一頻り話をし、リンスも学校から帰ってきたので小太刀は帰って行った。にこやかに挨拶を交わした小太刀とリンスだったが小太刀が帰った後にリンスは俺に詰め寄り、慌てた様子で「シャンプー姉様から小太刀さんに乗り換えですか!?」等と勘違いしてきたのでデコピンしてやった。
オレがシャンプーから他の娘に乗り換えなんて、あり得ないっての。
そんな日々を過ごして三日後、乱馬が飛竜昇天破を会得して帰って来た。さて、エロ爺退治といきますか。とは言ってもろくに手助けも出来ない状態なんだけどね。