隻腕の提督が着任しました   作:F.ヴィンケル

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初投稿です。拙い所もありますが、皆様に楽しんでいただけたら幸いです。
少々きつい表現がありますので、苦手な方はバックしてもらえると幸いです。


1章-1 はじまり

私はなんだろう。

数え切れないほど問答しても答えは出ない。

私は誰なんだろう。

考える度に擦り切れる心。

私は何故生まれたのだろう。

心は腐り落ちていく。

私は死ぬべきなのだろう。

あの人が言うのだから、それは正しいのだろう。

その答えの場所を目指し、冷えきった心と身体を引き摺りながら前に進む。

 

声が…。

 

声が聞こえる。

 

たくさんの声が……。

 

私の処刑を望んでいる。

 

答えなきゃ…応えなきゃ…

 

私は彼等に応えるために…

 

 

ーーーー

 

「とんだ失態だ…」

 

横須賀海軍参謀本部。作戦会議室に大元帥の淡々とした口調からは考えられないほどの怒気が発せられる。

集められた幹部達は皆一様に口を閉ざしていた。

 

「貴様らは…いや、我らは一体何をやっていたのだ…!!」

 

大元帥は静かな口調とは裏腹に、握り込んだ拳で机を殴打する。

軍で使われるかなり丈夫な机なのだか、その机に軽く亀裂が入り、何人かの者は目を見開き、震え上がる。

それでも怒りは収まらないのか、歯を食いしばりながら周りを見渡す。

 

「何故…、何故…奴らの侵入を許した…人選は徹底していたはずだ…」

 

海軍の頭である大元帥の問いに、その場に居る幹部達は応えることが出来なかった。

大元帥も解っている。彼等は悪くは無い。

『敵』が自分達よりも一枚も二枚も上手であったのだ。

頭では解っていたが、その怒りを抑えることが出来ない。

それ程までに今回の事件は最悪のモノ。

一先ずは沈静化させたが、後は状況の収集に向かった『彼女』の報告を待つことしか出来なかった。

彼女からの報告次第、これからの対応を練るべく、会議室は静寂から喧騒に呑まれた。

 

ーーーー

 

時刻は遡る。

事の発端は先週行われた、全鎮守府から抜粋された艦娘達による総合火力演習。

毎年富士が見える沼津の港にある、海軍演習領域で実施されており、入場券は毎年完売という絶大な人気を誇っていた。

また、演習後のパレードにて艦娘達への触れ合いにより、国民達への艦娘への理解、もっては国の団結を強化するための大事な行事であった。

年に一度のお祭り。その様子はラジオやテレビを通して日本全土にに配信され、老若男女問わず、皆が楽しみにしていた。

更に、半年前より建設された新しい鎮守府、舞鶴鎮守府の艦娘達のお披露目である。

国民達の期待は最高潮に達していた。

 

開会式が終わり、音楽隊の壮大な演奏と共に会場の全員一丸となって国歌斉唱を歌う。

大元帥の訓示を終えて、いざ大本命である各鎮守府の艦娘達による総合火力演習が始まろうとていた。

それぞれ鎮守府毎に提督を筆頭として艦娘が入場し、その度に国民達から黄色い声援が起こる。

提督も艦娘達も各々、笑顔で手を振り観客達に返事を返していた。

 

「入場の最後を飾るのは新しく建設されました!!舞鶴鎮守府の艦娘達です!!皆様、盛大な拍手でお迎えください!!」

 

司会の紹介に会場の熱気が最高潮に達する。

舞鶴鎮守府はサプライズとして、参加する艦娘は他の鎮守府や国民には内緒にされていたので、誰も彼もが入場口に注目した。

入り口に人影が見え、観客達の歓声と万雷の拍手が鳴り響く。

しかし、そこで異変が起きた。

最初に現れたのは特型駆逐艦『吹雪』。

提督が先頭の決まりなはずなのに、何故か最初に出て来たのは吹雪であった。

正確に言えば、吹雪以外の姿が見えなかったのだ。

また、唯一入場した吹雪さえも異常であった。

その姿は幽鬼の様な顔立ちに、今にも倒れそうな、しかし確かな歩調。そして名を表したように透き通るような美しさの純白の着物を着ていた。

着物というよりも、それはどこから見ても死装束にしか見えない。

吹雪の姿を見た者達はみな不思議に思い首を傾げ、また不吉な姿に言葉を失っていた。

それもそうであろう。

吹雪のその異様な姿は、遠目から見たらその姿は、深海棲艦にしか見えないのだ。

かろうじで、『吹雪だ』と認識できるぐらいだ。そのぐらい吹雪の雰囲気であった。

動揺を隠せない人々に変わって、吹雪の近くにいた他の鎮守府の艦娘が声をかけようと近づいた時に、悲劇は起きた。

 

「私達は…人ですっ!!」

 

そう叫ぶと、吹雪は艤装を展開し、砲身を自身の頭部に向け発砲。

自決をしたのだ。

至近距離の発砲に大きく頭部を仰け反り、小さな身体は吹き飛んで、派手に地面にぶつかる。

静寂の中に気持ちの悪い重々しい音が鳴り響く。

いきなりの出来事に誰も彼もが理解が追いつかず、呆然とする。

 

「呆けてる場合かッ!!支給衛生兵を呼べ!!急げ!!」

 

いち早く正気に戻った大元帥の怒号に、止まっていた時が動き出した。

まず最初に動き出したのは現場近くにいた他の鎮守府の艦娘達であった。

凶行をした吹雪に走り寄り、安否を確認し何人かは衛生兵を呼びに走る。

「一般人の方々は慌てずに避難をお願いします!!近場の警備員は一般人の方々の誘導を!!

艦娘達は艤装を展開して上空及び海域の警戒を!!

他の隊員は2人1組で速やかに警戒警備に当たってください!!

怪しい人物を発見したら速やかに捕縛を!!誰何の必要はありません!!」

 

先程叫んだ艦娘の横にいた別の艦娘が、大声で的確に指示を出す。

それを聞いた艦娘や隊員達は、困惑した様子から一変して速やかに行動に移る。

流石は軍隊という事だろうか、急遽の出来事にも即時に対応していた。

また、命令を出した艦娘のおかげでもあるだろう。

命令を出したのは、大元帥の護衛に当たっていた2人の艦娘。

最初に叫んだのは大和型戦艦の2番艦『武蔵』。

次に指示を出したのは、大和型戦艦の1番艦である『大和』であった。

彼女達は艦娘の中でもかなりの古参である。

民間人がまだ状況把握できず、騒動が起こる前に団員達は的確に避難誘導を始める。

 

「閣下、ここは私達に任せ、事後処理の準備を。恐らく彼女は生きています」

「な、何だと!?模擬弾とは言え、至近距離で12.7の威力があるんだぞ…いや、まて」

 

大元帥は担架で運ばれている自決を…いや、自決未遂を行った艦娘を見た。

冷静さを取り戻した今なら解るが、確かに。

いくら艦娘でも、至近距離で発砲したならば顔から上は木っ端微塵になっているはずだ。

しかし、ひどい損傷は見受けられるが、彼女の頭部は確かにある。

ならば、あの爆風は何だだったのだ。空砲だったかのか。いや、しかし艤装は爆発していた。

そこで大元帥ははっと顔を上げる。

 

『艤装が爆発した』…だと?

 

「彼女が発砲する直前、12.7にナイフが刺さるのが見えました。火薬が入ってる場所に当たっていたので、それで爆発したと思われます」

 

大和が何でも無いように報告するが、周りの幹部達は驚愕に顔を歪める。

恐らくは、この会場でその瞬間を目視出来たのはこの2人だけであろう。

更にその様な化け物の様な事を仕出かしたのは、大元帥が知る限り1人しかいない。

 

「ま、まさか…生きているのか…アイツが」

「はい。私達もお会いするのはお久しぶりですが」

「殺そうとしても死ぬ玉ではないですよ。私の相棒は」

 

2人の艦娘はある人物を思い出してくすりと笑った。

そんな2人を見て大元帥は、人々が忘れたことの無い1人の人間を思い浮かべる。

それは、彼等の元司令官。

10年前の大規模侵略防衛戦の大英雄。

人類の守護神と言われた人間であった。

 

ーーーー

 

誰もいない通路を、2人の兵士が歩いていた。

精悍な顔立ちに、制服の上からもわかるよく鍛えられた体つき。

先ほどの大和の命令を受けて、通路を巡回していた。

 

「チャーリー、エコー。チャーリー、エコー。こちらチャーリー聞こえるか」

《チャーリー、チャーリー。こちらエコー。送れ》

「こちらチャーリー、こちらチャーリー。4B通路異常なし。引き続き警戒当たる」

《了解。引き続き警戒怠るな。通信終わり》

 

通信を終えると同時に、彼等は背後に気配を感じ、即座に銃を構えながら後ろを向く。

 

「誰だッ!?」

 

銃口を向けた其処には、同じ白の軍服を身にまとった軍人であった。

更に見知った顔だったので、彼等は安心して一息つきつつ銃口を外し、笑顔を作り敬礼をする。

 

「お疲れ様です。申し訳ありません、気づきませんでした。提督殿」

「お疲れ様です。この辺は異常なしですか?」

「はい。今のところは異常等はありません」

 

提督が笑顔で返礼したところで、彼等はふと違和感を抱いた。

目の前の提督は自分達も知ってるかなり優秀な提督だ。おおらかな性格だが、任務には忠実で、かなり真面目な部類に入る。軍での信頼もかなりのものだ。

 

そんな提督が、1人でいるのだ。

 

ちらりと提督の肩に下がっている無線に目をやる。先程の大和の命令は無線を使い全ての隊員に行き渡っているはずだ。

 

「提督…お一人で?」

「ん?ああ、そうだよ」

「…先程の発令は聞こえてましたか?」

「先程の…あぁ、大和のかな?」

 

嫌な汗を流しながら、提督から見えないように後ろの相方に左手で合図をしながら、自分も小銃の引金に指をかける。

 

「はい」

「ははっ、聴こえてたとも。どうしてだい?」

「発令では2人1組でしろと命でした」

 

慎重に話しながら、こちらに笑顔を向けている提督に警戒度を高める。

 

「舞鶴鎮守提督は何故お一人で?」

 

今ならわかる。この人の良い笑顔に隠された薄気味悪さ。2人は軽く寒気すら感じていた。

 

「決まっているだろ?」

 

悪魔のような笑顔を浮かべる。

2人はその表情を見た瞬間、小銃の安全装置を解除して、提督に標準を合わせる。

 

「道具の言うことなど聞けるか」

「ガッ!?」

 

言うと同時に提督は抜刀し正面の隊員の首を跳ねる。余りの速さに、後ろの隊員が一瞬動揺してしまう。

 

「遅いね?」

「キサッ」

 

言い終わる前に返す刀で首を切り落とされる。

切り落とされた首は2つ同時にどさりと廊下に落下した。

 

「まったく、嘆かわしいですね。物の言う事なぞ聞くからだ」

 

舞鶴鎮守府提督はそう吐き捨てると、人の居なくなった廊下を進んでいった。

 

ーーーー

 

『人類至上主義』

 

名前の通り、人類こそが至高とするテロリスト組織である。

彼等は絶対的な差別者であり、人間の様な艦娘の存在を認めることができなかった。

 

『兵器は人に使われる道具だ。兵器に自我がいるものか。奴らはいずれ、侵略者同様に我等を侵略するであろう。その前に奴ら共々に消し去る必要がある』

 

彼等はその発表とともに、15年前に動き出す。

その勢力は未知数であり、艦娘に被害を与えるということ以外に統一性は無く、様々な場所で暴動を起こし混乱を招いていたが、雲隠れが早く、ようやくの思いで捕縛しても即自害。

トカゲの尻尾切り状態で、組織の全貌が全く見えてこなかった。

そこからは、まさに忍びの『草』の様に命令があるまで、何年もの間周りの信頼を得ながら潜伏し、突如行動を起こすため発見がかなり難しいかった。

それは、友人だったり、愛する者だったり、自分の家族や上司だったりと様々であった。

彼らは、世間では『白』と隠語で呼ばれていた。

今回の舞鶴の提督も恐らくそうであろう。

彼は普通の家庭の出身で自衛隊学校に入隊。

勤勉で人間関係も良好。

学科実技共に優秀で今年より提督任務に就き、半年前に訓練実習を終了し、新しく建設中の舞鶴鎮守府に着任した。

最初の2ヶ月ほどは初めての着任との事もあり、数人ほど視察官や他の提督が通っていたが、艦娘との関係も良好であり、問題なしとの事でその後は彼に一任していた。

それから、定時連絡はあるものも、鎮守府の現状がどうなっているかは不明であった。

恐らく定期連絡も虚構であり、舞鶴鎮守にまだ『白』が隠れている可能性がある。

彼らの軍への侵入は長年の行動の中初である。

厳重な軍の管理のなか、二度の機会は無い。

恐らく今回が奴らにして最大で最期の行動であるだろう。

それ故に舞鶴鎮守府の現状がかなり深刻だと予測される。

 

「閣下、進言をよろしいですか」

「む、聞こうか」

 

大和の言葉に、大元帥は思考の中から意識を浮上させる。

 

「閣下は現状の火消しのみ考えて頂いて大丈夫です。舞鶴はあの方にお任せを」

「…そうだな。現状を打破できるのは奴だけだろう。とりあえずはこの場だ。中将!!」

「はっ!!」

「先程の件は、擬装した深海棲艦の自爆による撹乱作戦と言うことにしろ。また、見つからないと思うが舞鶴鎮守府提督を探し出せ。生死は問わん」

「舞鶴鎮守府への増援は?」

「周辺警備のみで大丈夫だ。あまり近づき過ぎるな。」

「警備、のみですか?」

 

中将が疑問に返すのも当然だ。『白』が何人潜伏しているかは不明。さらに舞鶴鎮守府の艦娘たちもどの様な状態か不明なのだ。

先程の吹雪の行動を見ると、本当になにが起こるかはわからない。

 

「ああ、警備だけで大丈夫だ。奴のことだからそれも無用かもしれないがな。恐らくヤツが動いた時点でこの件はもう解決している。

しかし、今後の事を考えると軍を向かわせた方が事後処理に動きやすいからな」

「成る程、了解しました」

 

しかし、この歴代最高の元帥と言われる方からの信頼に、中将はそれ以上の疑問を抱く事をやめて行動に移る。

 

「さて、大和、武蔵。君たちはどうするのだ?」

「私たちの今の役目は閣下の護衛です」

「先程閣下が仰った通りだ。私たちがいなくとも大丈夫ですよ」

 

中将の質問に対して歴戦の艦娘2人は笑顔で即答した。

その信頼に、大元帥も少し頬を綻ばしたが、直ぐに表情を引き締めると、観覧室を後にした。

 

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