隻腕の提督が着任しました   作:F.ヴィンケル

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2章−4 弱さ

同室の摩耶が出て行った後、羽黒はベットの上で丸くなっていた。

羽黒はあの事件以来、部屋に引きこもっている。

彼女が救出されたのは比較的にまともだと言われた部屋だったのだが、それでも地獄には変わりなかった。

もともと気が弱く荒事が苦手な彼女は、襲い来る暴力にただ丸まって震えることしか出来ないでいた。

そんな中、彼女を…いや彼女達を救ってくれたのが那珂であった。

那珂は必死に奴らの目を自分に注意を引き付けていた。

周りの艦娘に被害が及ばぬように自分の身を呈して。

自分の方が酷い状態なのにも関わらず、決して弱音を吐かずに笑顔を作って励ましていてくれた。

羽黒は那珂よりも年上であり、しかも自分は重巡艦。

本来ならば自分が彼女達を護らなければならない立場なのに、羽黒は自分の事で精一杯で震え謝ることしか出来なかった。

救出されてから日に日に積もる自責の念に、羽黒は部屋に閉じ篭ってしまう。

いまだに那珂の顔が見れずに、お礼さえも言えないでいた。

 

(何で、何で私なんかが…艦娘に…)

 

もう何度目かわからない自問自答。

羽黒は自分が艦娘として覚醒した時に絶望した。

物心ついた頃から艦娘になるまで、喧嘩はもちろん、口論さえもやったことの無い大人しい性格であった。

だが暗いというわけでもなく、他人の顔色を見ながら話を合わせ、付かず離れずの距離をいつも保っていた。

よく言えば社交的で、悪く言えば八方美人な生活であった。

そんな性格を羽黒自身も自覚しいたし、それが悪いとは思ってはいなかった。

そうすれば、他人と争わなくても良いし、巻き込まれる事もほとんどない。

だが、艦娘となればそういう訳にも行かない。

争わらなければならいのだ。

敵の命を奪わなければならない。

敵に命を狙わられなければならない。

植物の様な人生を望む羽黒には絶望であった。

羽黒は反対したかった。

絶対に、なんとしても避けたかった。

しかし、両親と周りの人々が大喜びして羽黒に過度な期待をしてしい、羽黒の心を追い詰める。

また、軍艦として名高い【幸運の艦羽黒】である。

完全に四面楚歌状態で断るに断れず、流されるまま艦娘になってしまった。

軍での団体生活はもちろん、戦闘を、殺し合いをしなければならないのだ。

羽黒は見送られる中、笑顔の下で絶望に涙を流していた。

軍に入隊し、半年ある基礎課程でどうにか的には当てれるようになったが、実践式の演習では完全に足手まといになっていた。

しかし、戦いたくない一心で学業に専念したお陰で事務仕事はかなり優秀になり、艦娘達の面倒見も良いことから、戦闘面は鎮守府に配置してから鍛えていく事に決定されて、そのまま鎮守府配置となった。

羽黒の計画通り、あまり戦闘に参加しない提督達の事務仕事の補佐を優先的にと配置されたのであった。

そして初めて山風、霰と共に着任した鎮守府が、この舞鶴鎮守であった。

緊張と不安を抱えて着任した羽黒達を、前提督は快く迎えてくれた。

 

「私も争い事が苦手なんだ。暫くは事務仕事だから安心してくれ」

「なに情けない事を言ってんのよクソ提督!!」

「あはは…」

 

情けなく頭を掻く提督にツッコミを入れる曙。

その様子を困った様に笑う吹雪を見て、羽黒は安心感を覚える。

ここならやっていけそうだと。

 

ーーーー

 

「新装備の試験ですか?」

 

書類に目を通していた羽黒は、提督の言葉に顔を上げる。

 

「ああ。戦力強化の為の装備が明日本部開発部から送られてくるんだ。羽黒、お願いできるか?」

 

羽黒は明日の業務日程に目を落とす。

 

「明日は摩耶さんが警備で出撃でしたからね。畏まりました」

「ありがとう。では明日の昼一で軽くお願いするよ」

「軽くって…ふふ、了解しました」

 

提督の適当な言葉に羽黒は笑いながら了承すると、提督から企画書を受け取り確認する。

20.3cm(2号)連装砲。元の20.3cm連装砲よりも火力が少し高いが、安定性を重視して上げた物になっている様だ。

企画書に自分の名前を記入すると、提督に書類を返す。

 

(書類整理ばっかりで、久しぶりに射撃訓練だな。上手くできるかな。まぁ、動作確認だから問題はないか)

 

少し気楽に考えながら、再び書類業務に戻るのであった。

 

ーーーー

 

翌日の朝、鎮守府こ工房に新装備が届いた。

羽黒は装備に不良がないか軽くチェックする。

特に問題がなかったので、艤装を展開して今装備中の主砲と新しい主砲を換装する。

一度艤装を戻して再び展開すると、問題なく換装できている事を確認した。

あまり見た目は変わりないが、やはり新しい物の為か若干違和感を感じる。

少し動作試験を行う。

 

(若干感度に違和感があるかな。まぁ、新しい装備だし、慣れ次第って感じかな)

 

 

感覚は誤差範囲内だった為、装備の受領手続きを行って午前は終了した。

午後からは新装備の試験運用を行う為、提督と秘書官の吹雪と一緒に演習場に向かう。

 

 

『準備は良いか、羽黒』

「はい、大丈夫です。司令官さん」

『ではタイミングは任せる』

「了解しました」

 

羽黒は大きく一回深呼吸すると、標的に向かって連装砲を構える。

 

(距離、射角、問題なし。風も無いいい天気だ。一発目で当てられたら、司令官さん驚いてくれるかな?)

 

内心余計な事を考えつつもしっかりと目標に向けて照準を合わせる。

 

(が、がんばるぞ…)

 

キュッと体に力を入れて、連装砲を発射をした瞬間、羽黒の視界は真っ白な光に包まれた。

 

「きゃあぁっ!?」

『羽黒!!』

『羽黒さん!!』

 

突如、連装砲が大爆発したのだ。

至近距離での爆発に羽黒は吹き飛ばされて、水面を転がる。

羽黒の意識はそこで途絶えた。

 

ーーーー

 

ふと目が醒めると、羽黒は知らない場所にいた。

知らない、と言うかあたり一帯闇でなにも見えない。

 

「…っ!?」

 

立ち上がるた為に身体を動かそうとすると、全身に激痛が走る。

ぼんやりとした頭に、一気に電流が走り、少しだけだ頭が冴えてくる。

 

(そういえば…連装砲のテストで…私…)

 

引き金を引いた瞬間に連装砲が至近距離で爆発したのを思い出す。

かなり痛みはあるが、腕は日本とも感覚があるので、どうにか五体満足の様だ。

しかし、手首足首と首の辺りに何か違和感を感じる。

 

「す、すみません…だ、誰かいませんか…」

 

羽黒はどうにか声を出すが、何の反応も返ってこない。

何度か声を出してみるが、結果は同じであった。

 

(い、一体ここは何処なの…?何で誰もいないの…?)

 

少し間を置いて再び声を出すが、全く返事はなく、困惑と不安だけが募っていく。

 

「司令官…吹雪ちゃん…」

 

最後に見た二人の事を思い出す。

きっと心配している。

私を探している筈だ。

ここが何処なのかわからないが、意識があるという事は、轟沈していないのは確かだ。

誰かが助けに来てくれると他人任せな希望を持ちながら、痛む身体に耐えきれず再び意識を手放した。

 

ーーーー

 

それから何度も覚醒と睡眠を繰り返したが、一向に状況は変わらなかった。

もう何週間、何ヶ月ここにいるのか解らない。

お腹が減った。寂しい。動けない。

誰か、誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か誰か。

羽黒の思考がひどく乱れ出した時、不意に音が聞こえた。

微かに、本当に小さな音だが、羽黒は状況の変化に歓喜した。

 

(誰か…誰か…誰か…)

 

次第に音は大きくなり、何かが開く様な重い音が聞こえて、薄っすらと光が差し込む。

どうにか光の方向に顔を向けると、よく見えないが人影が見えた。

人影はゆっくりとこちらに向かってくる。

 

「まだ二日しかたっていないのに、酷い有様だな」

「…ぇ?」

 

羽黒は有り得ない声に辛うじて顔を上げる。

視線が、自分を見下ろす視線と目が合う。

まるで、道端のゴミを見る様な不快感を隠そうともしない視線。

 

「本当にお前は無能だよ、羽黒」

 

そんな提督の言葉を、羽黒には理解することが出来なかった。

 

ーーーー

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

襲いくる理不尽な暴力の中、羽黒は丸まりながら謝るしか出来なかった。

それでも止む事のない理不尽な暴力。

ここに来てから毎日毎日、殴られ、蹴られ、踏みにじられる日々。

羽黒の心は磨り減っていった。

しかし、ある日を境に羽黒への暴力は激変した。

 

「わたしがっ!わたしが皆さんを笑顔にしますからっ!!」

 

那珂が大声で叫ぶ。

それまで羽黒を嬲っていた連中や他の艦娘で遊んでいた連中は那珂に集まり、ゲスな笑顔を浮かべて、新しいおもちゃを取り囲む。

しかし、那珂はどんなに辛い目にあっても、何度も何度も叫んで、他の艦娘達から自分へと関心を向けさせた。

他の艦娘へ手を出すなと、自分が身代わりになると。

当時は自分の事でいっぱいいっぱいになっていた羽黒は、その事に気付かずただ震えているだけであった。

 

(いや…私は気づいていた)

 

拷問の時間が終わっても、那珂は周りの艦娘達に必死に声をかけていた。

自分の方が辛いのに、涙も出さずに。

 

(私は…私は目を背けていたんだ)

 

羽黒は怖かった。

全てを知っていて彼女一人に擦りつけていた。

そんな自分が、彼女に許してもらえるはずないと。

顔を合わせるのが怖かった。

周りの目を見るのが怖かった。

だからずっと、部屋から出ずに引きこもっていた。

幸い、同室の摩耶は何も言ってこなかった。

それどころか、もともと面倒見がよいのか、食事を運んでくれたり、洗濯物や着替えを用意してくれた。

その優しさが余計に羽黒を惨めにしていっていた。

ぼんやりと窓の外を眺める。

 

(私は…どうしたらいいの…)

 

その時、不意にドアを叩く音が鳴り、羽黒は怯えて布団を被り丸々が、聞こえてきた声に少し安堵する。

 

「羽黒、良いか?長門だ。入るぞ」

「は、はい…どうぞ」

 

返事をしながら急いで布団を脱ぎ去り立ち上がると、長門が扉をあけて部屋に入ってきた。

怯える羽黒を見た長門は少し微笑むと、椅子に座るように促した。

羽黒は遠慮がちに椅子に座ると、摩耶の机の椅子を持った長門が、羽黒の正面に座った。

 

「調子はどうだ?」

「は、はい…大丈夫…です」

「そうか、なら良かった」

「あ、あの…」

「ん?どうした?」

「そ、その…申し訳、ありません…新しい司令官の、出迎えに立ち会えず…」

 

おどおどと頭を下げる羽黒に、長門は少し笑いながら頭を上げるように促す。

 

「私に言うのではなく、それは提督に伝えてくれ。きっと許してくれるぞ」

「……はい」

「心配するな、私が保証する」

「善処、します」

 

小さくなる羽黒の頭を撫でながら、長門は唐突に話を変えてきた。

 

「報告には聞いていたが、良ければそちらの部屋であった事を教えてくれないか?」

「えっ?」

 

羽黒は俯いていた顔を上げて長門瞳をみる。

じっと、自分の瞳を正面から見つめる長門に、羽黒はぽつりぽつりと話し始めた。

 

ーーーー

 

報告は途中から懺悔に変わっていた。

黙って聞いてくれている長門に、羽黒は全部吐き出した。

吐き出して吐き出して、最後は言葉にならずに嗚咽を流すだけであった。

それでも、長門は黙ってそこにいてくれた。

暫くして、落ち着いた羽黒は長門の瞳を再びみた。

 

「長門さん…私は、どうしたら、いいのですか…。私はただ…ただただ静かに…生きていたいだけなのに…」

「……」

「争いなんってしたくない…痛いのも嫌だ…なんで私が…」

「……」

「私は…私はどうしたら…」

 

最後は消えるように呟き、再び視線を落とす羽黒。

 

「私はな、羽黒」

「……」

「いや、私もだな。私も艦娘になるまでは、争い事等した事のない、文学少女だったんだよ」

「……え?」

「なんだその反応は。失礼だな」

 

驚いた顔を見せる羽黒に、長門はくつくつと笑いながら抗議する。

 

「ご、ごめんなさい!」

「いや、構わんさ。今の私を見ても想像できないからな」

「長門さんは…艦娘になったのは結構昔と伺っておりますが」

「ああ、そうだな。まぁ、武蔵達よりは遅いがな。私が艦娘になったのは10年前だ」

「10年前…10年前って…」

「ああ、そうだ」

 

思い立った羽黒に、長門は同意しながら答える。

 

「私はあの大戦中に艦娘になったのさ」

 

懐かしそうに思い出しながら長門は話した。

 

「当時は余裕がなくてな。艦娘に目覚めたばかりの私はろくな教育もなく、いきなり戦場におっぽり出されたよ」

「えっ!?」

 

驚いて声をあげた羽黒に、長門は笑いながら説明する。

 

「当時は艦娘の人数も少なく、しかし敵の猛攻が凄かったからな。今みたいにちゃんとした教育をする時間など無かったんだよ。殆どの艦娘は、いきなりの実戦で生きるか死ぬかの戦いを強いられていた」

「そんな…」

「酷いだろ。でも、そうでもしなければ日本は滅んでいた」

 

それ程までに酷い状態だったのかと、羽黒は息を飲む。

当時は羽黒は幼く、ましてや戦争等理解できるはずもなかった。

政府の意図的な情報操作により、暗い話が表立って出ていなかったと言うのもあるが。

 

「自分で言うのもなんだが、当時羽黒の様だった私には本当に地獄だった」

「……」

「怖くて怖くて毎日泣いてたもんさ」

「どうして」

「ん?」

「どうして、長門さんは変われたのですか?」

「そうだな…」

 

どこか遠くを見る彼女の横顔に、羽黒は見惚れてしまう。

 

「託された…からかな」

「託された…?」

「そう」

 

長門はゆっくりと頷くと、羽黒に困った様な笑顔を向けて答えた。

 

「私の姉であり、妹である。大切な人にね」




艦これ6周年おめでとうございます。
久しぶりに起動して秘書艦誰だっけと思ったら、MITSUKOSHIの袋を持った黒髪ストレートなべっぴんさんが出てきたので、起動するゲーム間違えたと、取り敢えずFGO周回しつつ(推しは北斎)素数を数えながら更新したら間違っておりませんでした。
榛名さんでした。ふつくしい……。
その後に曙ちゃんをひたすらたっぷして遊んでましたひゃっほい。
更新遅れて大変申し訳ないです。
気持ち的には「あくしろや」っと免許書をチラつかせながら急いだのですが、大幅な書き直しをした為大変時間がかかってしまいました。
あと悪いのは五等分の花嫁の9巻です。(読んどる場合か)
気長に待って頂けると幸いです。
少しでも皆さんに楽しんで頂ける様に頑張ります。
ちなみに私は四葉ちゃんが好きです。チェキ


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