隻腕の提督が着任しました   作:F.ヴィンケル

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令和おめでとうございます。


2章-6 受け継ぐ思い 中編

「その二年後に彼女は軍隊に入隊したのだがな」

陸奥の話を聞いた長門は、なんとも言えない気持ちになる。

 

「今まで都合が悪く出逢えないでいたんだ。しかし…」

 

嬉しそうに語る陸奥。

 

「しかし、来月ようやく逢える」

 

楽しそうに話す彼女の横顔を見て、長門は心臓が刃物で刺されたような痛みを感じた。

 

「陸奥は、彼女が好きなの?」

 

長門の質問に、陸奥は一瞬丸くする。

少し考えて後、直ぐに笑顔に戻ると長門の質問に答える。

 

「そうだな。私は彼女が好きだ」

「・・・・・・」

「それを言ったら、長門。私は君の事も好きだよ」

「え?」

 

唐突の陸奥の言葉に、長門は赤面しながら困惑の声を出す。

しかし、次の一言でピシリと硬直する。

 

「それに、ここの鎮守府の仲間も、この国もみんな好きさ」

 

陸奥は身体ごと長門に向き合う。

 

「だから私は戦えるんだ。艦娘としての使命ではなく、誰かに言われたからでもない。私は私の意思で、私の大好きなモノたちを壊そうとする敵と戦うんだ」

 

陸奥の強い瞳に、長門は引き込まれて言葉を失う。

 

「だから長門、君も私が必ず守ってやる。君が無理に戦わないで良い様に、私が必ず護ってやる。だから、そんなに悲しそうな顔をするな」

 

長門が悲しい表情になったのは別なのだが、

陸奥の言葉に少しだけ心の変化が現れる。

長門は彼女の事が好きだ。

そんな彼女を失う怖さと、戦う怖さ。

果たしてどちらが怖いだろう。

 

(そんなの決まっている)

 

彼女が全てを守ると言うのなら、私は全てから彼女を守れるようになろう。

だから、私も強くなろう。

もっともっと、彼女を守れるくらいに。

彼女と一緒に歩める為に。

 

(手始めに空手でも、教えてもらおうかな)

 

自分がそんな事を言い出したら彼女はどんな顔をするだろうか。

クスリと、微笑みながら長門は陸奥に口を開くのだった。

 

ーーーー

 

「そういえば陸奥の顔の傷って、先程の話を聞く限りその時のものではないのね」

「ん?これか?」

 

部屋に入ると、長門は先ほどの話を思い出して陸奥に問う。

陸奥は自分の顔の傷をなぞりながら答える。

 

「この傷は意外と新しいよ。長門と会う一ヶ月前に、深海棲艦とやりあってな。その時についた傷だ」

 

傷跡をなぞりながら、陸奥は答える。

 

「ここ半年くらい前から深海棲艦の動きが活発になってるのは知ってるよな?」

 

陸奥は首を縦に降る。

今年に入ってから突如、各地で深海棲艦の襲撃が多発していた。

しかも鬼や姫クラスといった大物の襲撃で、戦火はどんどん拡大していた。

九州方面は比較的に落ち着いたが、北方面は襲撃が酷く、今だに戦闘が続いてるとの事だ。

陸奥と剣姫が会えなかったのはこのせいもある。

 

「ええ、だから私の進水式も行われなかったと聞いてる」

「そうだな。それもあるが、ここ数年は『白』の行動も活発になっていてな。極力狙われやすい状況を行わない様にしているのさ」

「たしか、あの正体不明のゲリラ集団だよね」

「そうだ。今年に入ってからの深海棲艦の動きがかなり活発になっており、それに便乗し

てか奴らの動きも活発になっている」

 

腕を組むと、窓から外を覗きながら独り言の様につぶやく。

 

「何かの前触れかもしれない。もしくはもう始まっているのか」

 

難しい顔をしながら長門に顔を再び戻す。

 

「長門も知っている通り、我々は『船』から『人』になったおかげで、物資および戦術面でかなり楽になった。まぁ、その分出現も増えたが」

 

陸奥の呟きに、長門は苦笑いしながら頷く。

長門にとってはただの不運にしか思えない。

 

「人型のお陰で船では数ヶ月、下手したら数年かけて修理しなければならないものが、たった数日で完治する。物資量も陰陽式との複合なので手間暇はかかるが、圧倒的に少なくて済む。だが、圧倒的に不利なものが3つ出来た」

 

椅子に座りながら話をする陸奥に合わせて、長門も椅子に座る。

 

「1つは経験。船の場合は人さえ無事ならどうにかなるし、それを専門として訓練された兵士がいるから問題ない。しかし、艦娘の場合はそうではない。また1からの育成となる」

 

実を言うと、艦娘の8割近くは元民間人なのである。

もともと軍人で艦娘になったものは少ない。

あくまでも艦娘に引き継がれるのは『船』だった時の記憶のみ。

それ以上は今の技術では、脳に対する負荷を抑える事が不可能であった。

 

「そして、2つ目は感情だ。我々は感情が生まれたことによって、行動がそれに左右されやすくなった。これはどちらとも言えないが、任務を遂行するには不要の産物だ」

 

多少の負傷であれ、たとえ航海可能であれ恐怖心が生まれたら動けなる艦娘は少なくない。

当たり前のことだ。

平凡な日常から突如戦争に駆り出されて、まともに戦える方がおかしいのだ。

また、激情により命令を聞かずに行動を起こしてしまう者もいる。

よって、やはり任務の失敗率も多い。

未だ巫女としての素質を見分ける方法は不明。

なってからではないと解らないのだ。

非科学で生まれた奇跡は分析のしようがない。

しかし、そんな奇跡に縋らないと、人は戦うことすらできない。

 

「そして、最後の1つ。これはまぁ、2つ目に関与する。どちらかと言えば相手の問題だ」

 

陸奥の神妙な面持ちに長門は息を飲む。

 

「敵も『人型』と言うことだ」

 

深海棲艦。

敵の素性は戦争が始まってかなりの時が経つが、未だに不明。

鹵獲に成功した例はあるが、直ぐに自滅してしまい、情報を得ることができないままであった。

これが異形の形や、まだ人型以外なら戦いやすい。

しかし、なぜか奴らは人型なのだ。

こちらの言葉を理解し、言葉を話し、感情までも備えている敵。

どうしよもなく『人』に近い存在を殺さなければならないのだ。

それは嫌でも『人殺し』を連想させてしまう。

 

「だから、長門。君は何もおかしくはないんだ。まぁ、私も武道の心得があったから多少はマシだったが、最初は私も割り切れなかった」

「…陸奥はどうやって切り替えられたの?」

「私には守るべきものがある。守りたい人達がいる。先ほどそう話したね?」

「うん」

 

長門が頷くと、陸奥は真剣な顔から笑顔に変わる。

長門はその笑顔に寒気を覚えた。

 

「その私が守るべきものを壊そうとするものは全て敵なのさ。例えそれが『人型』であっても『人』であっても関係ない。敵は人ではない。人でないなら、私は殺せる」

 

陸奥は長門の瞳を捉えながら話す。

長門は陸奥の瞳から逃げられずに、ただ見つめ返すことしかできない。

 

「大切なものを守る為、私はそう思うことにしている。先程は守ると言ったが、出来たら長門、君にもそう思えるようになってほしい」

「私、にも?」

 

陸奥の言葉に長門は息を呑む。

目の前の愛しい人に対して、脳が本能的に警告する。

 

「そうだ。大切なものを守るやり方は何も戦う事だけではない。後方での仲間の支援や基地防衛でも一緒さ。ただ、後悔がないように全力を尽くしてほしい」

 

陸奥は膝の上にある長門の手を自分の両手で包み込む。

 

「私達は艦娘になった以上、戦いに身を置かなければならないのは確実だ。これは呪いと言っても良い」

 

世間一般には公開されていないが、暗黙の了解となった事実。

艦娘の殉職率は100パーセントなのだ。

同じ船の艦娘は出現しない。

その船の艦娘が死なない限りは、同じ船の艦娘は現れないのだ。

 

「だから、私は、『俺』は、この命続く限り、大切なものを守ると決めたんだ。頭の悪い『私』には、作ってもらった『俺』にはそんな事しかできない」

 

長門は眼が離せない。

先程から現れた、ダイヤの様な陸奥の瞳に群青の炎の様な色。

 

(これは、誰?)

 

「だから、長門。君にもそうあってほしい。それが『俺達』の、『私達』の願いなのだ」

「貴女は、貴方は誰なの?」

「何をいってるんだ?」

 

陸奥は手を離すと、すっと立ち上がり長門に笑顔を向ける。

 

「『私』は、陸奥だよ」

 

その瞳の色は元の色に戻っていた。

 

ーーーー

 

「索敵、異常無しです」

「了解、千代田」

「了解」

 

偵察機を格納した千歳と交代で、千代田が偵察機を飛ばす。

今長門達は、海域での補給物資受け取り、戦闘中海域への輸送任務を行なっていた。

先週、四国付近で呉鎮守府の警戒中の艦娘達が深海棲艦の襲撃を受けた。

直ぐに呉鎮守府提督は援軍を出すが、敵の総力が多く、艦娘の修復と補給物資の供給が間に合わなくなっていた。

呉鎮守府の提督からその通信を受けた佐世保鎮守府提督は、すぐ様に援軍部隊を編成して、補給部隊を向かわせる。

しかし、呉鎮守府へ航行中に道中で別の深海棲艦から攻撃を受けてしまう。

速さを求めた駆逐艦だけの編成、また補給物資を詰め込んでいた為に、艦隊は成すすべなく蹂躙された。

どうにか轟沈せずに、命からがら撤退するも、物資は海の藻屑になってしまう。

あまり物資を割くことも出来ないので、苦肉の策として民間業者から直接物資を受け取り、そのまま道中の深海棲艦を撃破して前線へと補給物資を送る事にした。

陸奥を旗艦とした、長門、村雨、五月雨、春雨、千歳、千代田で編成される佐世保鎮守府の第一艦隊がこの任務に当たることになった。

 

「もう少しで深海棲艦が襲ってきた海域だな。千代田どうだ?」

「今のところは異常なしね。もう1小隊念の為に飛ばしとく?距離は狭まるけど、範囲のフォローは出来るわ」

 

偵察機は武装がない為に、攻撃機と違い操作がかなり楽の為、少し無理をすれば2小隊ほど飛ばすことが可能だ。

しかし、視界が感覚的に二つに別れるし、単純に負荷が二倍になる為に、使いどころは限られる。

陸奥は少し考え、千代田に大丈夫だと伝える。

現在、物資は長門と陸奥で半分ずつ格納している。

もしもの場合はどちらかが何かあっても、もう片方が物資の輸送を担う為だ。

その為装備を少し減らしているので、なるべく体力は温存しておきたい。

しばらくして、千代田の偵察機が戻ってくると、再び千歳が偵察機を発刊させる。

 

「ん?」

「どうしたの?千歳お姉?」

「少し先に…島のような…ッ!?」

 

突然偵察機とのリンクが切れて、千歳は大声をあげた。

 

「前方14時の方向、距離約80キロ!!敵艦発見!!偵察機が落とされました!!」

 

千歳の言葉に、分散警戒中の駆逐艦達はすぐ様に陸奥達の元へと向かってくる。

 

「敵は確認できたか?」

「ごめんなさい、いきなり落とされたから確認は出来なかったの。でもとても小さな島のようなものが見えたわ」

「了解、千歳は爆撃機に装備を変更。千代田、敵発見位置まで偵察機を飛ばしてくれ。対空戦力に気をつけて」

 

「了解!!千代田艦載機!!」

「五月雨、ソナー頼む」

「お任せください!!」

 

五月雨は少し先行すると目を瞑る。

その横を春雨と村雨が護衛する。

 

「正体不明の物体確認…なにこれ?何かたこ焼きのようなものが飛んでる…」

「たこ焼き?」

 

千代田の呟きに、長門が頭を傾げる。

千代田は警戒しながらも、偵察機の機能を使い、確認できるギリギリのラインからそれを確認する。

 

「これは…嘘でしょ…」

「どうしたの?千代田?」

 

千代田は急ぎ偵察機を戻す。

彼女が見たものは、真っ白な球体の前に座り込んだ、海面に君臨する異質な白い存在。

 

「敵は単騎…【姫】よ…」

 

ーーーー

 

「ソナー、反応ありません」

 

少し前にいる五月雨から通信が入る。

深海棲艦を目視で確認できる位置まで接近したが、潜水艦等の反応無し。

本当に姫以外は何もいない様だ。

その姫も今は目を閉じた状態で微動だにしない。

 

(事前の情報では、重巡二隻と戦艦一隻のはずだったが…おびき寄せられたか?しかし…)

 

陸奥は見たことのない、今だ微動だにしない姫へと視線を送る。

 

(まるで眠り姫の様だ)

 

眠りにつく姫の周りを、小人の様に球体型の物がふよふよと浮遊している。

恐らくはあれが、千歳の艦載機を落としたものだと予想する。

 

「千代田、もう一度艦載機を飛ばしてくれないか?敵の反応が見たい。何か動きがあれば直ぐに回避撤退出来るように」

「了解、千代田艦載機発艦!!」

 

千代田は偵察機を発艦させると、姫の近くまで近接させる。

それを合図に、五月雨達も警戒しながら少しだけ前に出て、ソナーの探知をする。

偵察機が、姫の距離1キロほどに達したところで球体が反応した。

白い球体についている穴に赤い炎の様な光が灯ると、亀裂が入り、裂け、そこから獰猛な牙と長い舌が出現する。

 

「ギギギギ」

 

不気味な声と共にソレが口を大きく開けると、中から黒い砲身の様なものが出現する。

 

「撤退して!!」

 

その不気味な光景に戸惑っていた千代田は、我に返り、急いで偵察を反転させる。

叫ぶと同時に砲身から閃光が光り、偵察機に死の雨が降り注ぐ。

千代田は意識を集中させどうにか回避行動をとるが、何機かは撃墜されてしまう。

 

「くっそ!」

 

悪態をつきながらも、どうにか銃弾を避け離れると、途中球体はピタリと動きを止めて姫の元へと戻っていった。

 

「やられたわ…」

「約三キロほど…一定範囲内の自動防御なのでしょうか…」

 

千代田が悪態を吐き、千歳は冷静に分析する。

圧倒的有利な状況で迎撃を行わずに戻っていった球体を見るに、間違い無いだろうと陸奥は頷く。

 

(ならば)

 

「全砲門、開け!」

 

言葉と共に背中の艤装が動き、照準を合わせる。

陸奥は深海棲艦の眠り姫に向かって射撃体勢に入った。

 

(先手を打たせて貰う!!)

 

主砲を発砲しようとした時、異変が起きた。

今まで人形の様に微動だにしなかった姫が、ゆっくりと目を開けた。

開かれた瞼の下から現れたのは、揺らめく炎の如き紅い瞳。

赤よりも紅い瞳がこちらを見つめる。

瞬間、陸奥は全身に危険信号が流れる。

世界が減速し、脳が本能的に行動を止めようとするが、発射寸前の主砲を止めることはできない。

 

カチリ

 

振動、衝撃、熱、痛み、轟音。

突如、陸奥の体中に響く感覚。

 

「!!!!」

 

遅れてやってくる激痛に声も出せずに蹂躙される。

 

「ユウバクシテ……シズンデイケ……!」

 

不敵に笑う中間棲姫の顔を最後に、陸奥の意識は暗闇に沈んだ。

 

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