隻腕の提督が着任しました   作:F.ヴィンケル

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1章-2 舞鶴鎮守府奪還戦

私は笑ってなければならない。

私が笑顔でないと、皆んなが壊れてしまうから。

 

私は笑ってなければならない。

私自身も壊れないために。

 

私は笑っていなければならない。

2人の想いをこの胸に……

 

ーーーー

 

舞鶴鎮守府。

建設されて間もない真新しい鎮守府だが、その建物は異様な空気に包まれていた。

この鎮守府は北とか西の門が2つあり、各門は固く封鎖されていた。

門の近くには殺された警衛兵の死体が転がっており、殺した警衛から奪ったであろう小銃を持ったテロリスト達が警備に当たっていた。

大元帥の読み通り、施設は武装した『白』の軍団に占拠されていたのだ。

ふと、北門警衛所の上から周りを警戒していた1人のテロリストが、双眼鏡越しに鎮守府に近づく1人の人間を発見した。

白い軍服に制帽。格好から察するに何処かの提督だろうか。

しかし綺麗に着込んだ制服の左袖側はなぜか棚引いており、腰には左右2本ずつ、計4本の軍刀を差していた。

警備の男は無線機のスイッチを入れ、鎮守府内にいる本隊に連絡を入れる。

 

「こちら北門、中央、聞こえるか」

『こちら中央。北門どうした?』

「提督の様な人物が1人、こちらに向かっている。周囲に他に人影は見受けられない」

『1人だと?交渉か?構うな、撃ち殺せ。見せしめにしろ』

「了解した」

 

男は通信を切ると、一緒に警備に当たっている下で門を守っている他の2名に合図を出す。

見張りの男からの合図に2人は銃を構えて、男が示した方へと銃線を向ける。

それを確認すると、再び監視の男は双眼鏡に目を当てて、再び同じ場所を見た。

しかし、其処には先程の人影が無くなっていた。

 

「なっ!?」

 

男は慌ててて周りを見渡す。目を離したのはほんの1、2秒程度。

しかし、姿形すら見当たらない。

監視の男は仲間に異常事態を伝えようと、叫ぼうとした瞬間ーー

 

「遅い」

 

男の命はその言葉を耳にすると共に事切れた。

上空から降りてきた提督の手によって。

正確には400m先からの距離をここまでジャンプして、監視の男を唐竹割りにしたのだ。

 

「さて、後は頼むぞ」

「御意に」

 

血糊すらついてない軍刀を器用に右手のみで納刀しながら呟くと、提督の側にはいつのまにか忍者風の少女が2人立っており、頷くや否や影の様に消えていった。

 

「始めるか」

 

今だにこちらに気づいてない下の2人に向かって跳躍すると、2人のちょうど間あたりに着地する。

前方を警戒していた2人は、突如現れた謎の人影に驚愕して銃を向けるも、弾が出ない。

 

「「は?」」

 

2人揃って自分の腕を見ると、其処には肘から下が何もなかった。

理解が追いつかずに2人は謎の人物を見ると、既にこちら背を向けて歩いていた。

 

「開戦の合図だ。派手に喚いて逝け」

 

その呟きと共に2人は両腕を切り落とされた激痛に、獣の様な悲鳴を上げながらのたうち回った。

鎮守府全域に響き渡る様な絶叫に、閉ざされた鎮守府のドアからは、武装したテロリスト達が、飛び出してきた。

 

ーーーー

 

提督と別れた後、川内と神通は提督の開始の合図と共に舞鶴鎮守府の中に侵入していた。

彼女達の使命は2つ。

1つは鎮守府内の脱出用隠し通路の破壊。

もう1つは監禁されているであろう、艦娘達の救助である。

 

「姉さん」

「ああ、いるね」

 

皆まで言わずとも川内は感じ取っていた。

ここで監禁されているであろう、那珂の気配を。

川内と神通、那珂はもともと同じ部隊であった。

しかし、2年前の海域奪還作戦の戦闘時に、那珂を守るために川内と神通は特攻を仕掛けて轟沈寸前まで戦い続け、奇跡的に生き延びたが、航海不能でただ死を待つだけで彷徨ってるところ、今の提督に発見され救助してもらい、1年間地獄の様なリハビリを行って動けるようになり、そのまま一緒に行動をしていた。

その間、長期発見できない事で、発見できなかった2人が轟沈寸前だったのもあり、軍では轟沈扱いになっていた。

那珂が塞ぎ込んでないかと事を心配していたが、提督が配慮して情報を流してくれた情報によると、那珂はまだ2人が生きていると信じており、自分を逃がしてくれた川内達意思を次いで元気に奮闘していると聞いて、号泣して喜んでいた。

提督は、直ぐにでも現場に復帰することが出来ると提案をしてくれて、川内は那珂を安心させたく早々に復帰をと考えていたが、特に神通が「何か恩返ししない事には」と一点張りで、今回の作戦に参加させてもらったのだ。

何よりもこの鎮守府に那珂が所属していると聞いたのも大きい。

正直、作戦概要を聞いた時には怒髪天を衝いた。

恩返しと言うよりも、また借りを作ってしまう形になったが。

慌ただしく『白』の組員達が動き回ってる中、2人は巧みに死角に潜り、見つからない様に奥に進んでいく。

やがて、提督室であろう、赤の大きな扉が見えてきた。

扉の前には武装した警備が2人。

直ぐに動いたのは川内。自分達と反対側の通路の曲がり角に向かい、警備の頭の上を通る様に苦無を投入し窓ガラスを破壊する。

 

「「っ!?」」

 

警備が驚いてそちらを向いた瞬間、神通が目にも留まらぬ速さで接近し、言葉を発する前に強烈な当身で失神させた。

 

「し、死んでない?」

「殺したい所ですが、大丈夫です」

 

川内も同じ気持ちだが、空間を歪めそうな怒気を目の当たりにして、逆に落ち着いていた。

気絶して倒れる前に支えていた警備を、音を立てない様にそっと地面に下ろす。

2人の親指を後ろで縛り付け、両足を縛り、口を布で塞ぐと、川内は扉に向かって耳を当てる。

妙だ。人の気配がしない。

しかし、那珂がいる様な気がする。

川内は神通を見るが、神通も同じ感覚の様だ。

トラップの可能性も考慮して、慎重に扉を少しだけ開けるも、何もなく扉は開いた。

先に川内が安全化の為に中に踏み込む。

しかし、そこは何処にでもあるような変哲のない提督室であった。

 

「神通、壁を確認して。私は床を」

「わかったわ。姉さん」

 

事前に確認した舞鶴鎮守府の地図と、ここに来るまでに確認した実際の空間、部屋や面積には違いは無かった。

隠し部屋があるならば、最後に確認したここであろうと踏んでいたが、ここも問題はなかったのだ。

 

「駄目、姉さん。壁もクローゼットの中も異常ないわ」

「こっちも。隠し通路があるとしたら、天井かと思ったけど…何もなかった」

「図面と確認しても間違いない作り…しかし、姉さんも感じてるとは思うけど、那珂ちゃんの気配はこの鎮守府に内に…」

 

神通の言葉に再びフロアを見渡す川内。

確かに、なんの違和感もない。提督の机と秘書官の机があり、本棚、クローゼット。

そこまで何も…何も?

あまりにも殺風景すぎて逆に違和感を感じる。

 

「…神通。ちょっといい?」

「この部屋は…本当に使われていたのかしら?」

「え?」

 

そう、あまりにも綺麗すぎるのだ。まるで未使用の様に。

そして、恐らく本当にここには何もなく、外の警備もダミー。

そこまでして敵が求めているものは。

 

「…時間稼ぎ」

「姉さん、囚われた艦娘達が危ないのでは…!?」

 

落ち着け。考えろ。

良く考えろ。居なくなった艦娘のリストを思い出す。

居なくなった艦娘達の艦種は多々あった。それこそ駆逐から戦艦まで。

駆逐艦はともかくとして、戦艦クラスの捕縛は容易ではないはずだ。

1番艦娘達が無防備になり、尚且つ気を抜いてしまう場所。

そんなもの1つしかない。

 

「入渠場所が入り口か。しかし那珂の気配は鎮守府からする…という事は」

 

地下室か。

考えに至るや否や、神通は二階から飛び降りていた。

恐らく地下室にタイマー式の爆弾かトラップが仕掛けられているのだろう。

あとどれくらいで起動するかわからない。

しかし、これだけは分かる。

恐らくは捨て身。『白』の集団はここで艦娘もろとも死ぬつもりだ。

そこまでの考えに至り、神通の後ろを追う川内は寒気を覚えた。

何故、彼らはそこまで狂信的になれるのか。

何故、艦娘をそこまでして艦娘を恨めるのか。

時間にして、2分もかからずに入渠場に到着するが、神通が急停止した為に、川内も慌てて止まる。

 

「ちょっ、いきなり危ないでしょ!?」

 

文句を言いつつ前を見ると、川内も驚きに目を開く。

其処には既に一緒に来た提督が居たのだ。

 

ーーーー

 

「来たか」

 

提督の言葉に、2人は我に帰る。

 

「て、提督!?どうしてここ…に」

 

いいながら、川内は気がついた。

先程まで感じていた殺伐とした空気が無くなっている。

 

「…もう、片付いたのですか」

「ああ」

神通の震えながらの質問に、何事もない様に頷く。

川内も先程とは違う冷や汗をかいた。

テロリスト集団約50名を、ほぼ一人で殲滅したというのか。10分足らずで…!!

提督の実力はかなりの物だとはわかってはいたが、それは間違えだと認識せざるおえなかった。

むしろ、本当に自分達は要らなかったのだろう。

神通は、恐ろしく無力であった自分に対して、羞恥と悔しさで震えていた。

 

「お前達が突入してから、合図がなかったので、そっちの建物内には通路がないと判断した。無駄足をさせてすまない」

「い、いえ!?そんな事はっ!!」

「お前達がこっちに来たと言うことは恐らく私と一緒の考えだと思うが違うか?」

「ま、間違いないかとっ!!」

 

ブンブンと手を振ったり、頭を縦に振ったりと忙しい神通に川内は少し和む。

 

「そうか。こちらからは何も言ってないのに流石の判断力だ。助かる」

「そ、そんな!!あ、ありがとうございます!!」

 

顔を真っ赤にして深々とお辞儀する神通に苦笑いしながら、川内は先を促す。

 

「という事はやはり、時限式のトラップがあるって事ですね。急ぎましょう」

『そいつは大丈夫やで』

 

唐突の声に、川内と神通は驚き構える。

そこには飛行機の形をした紙型の『式』が浮いていた。

 

『おっと、警戒せんでな。驚かしてしもうたか。ウチはそこの提督の昔馴染みやねん。式越しにすまんな。初めまして、龍驤や。よろしゅうな』

「川内型の1番艦、川内だよ。よろしく」

「川内型2番艦、神通です。よろしくお願い申し上げます」

「それで、大丈夫というのは?」

 

川内の質問に対して、『式』が空中でぴょんぴょん動きながら説明する。

 

『言葉の通りやで。あんさんらが察しの通り、中には時限式の爆発式が設置されとったわ』

「『式型』ですか?」

『せやな。今時古臭いが『陰陽型の式』は発見されづらいからなぁ。時間稼ぎにはもってこいやねん。今ウチが使ってる陰陽式の艦載機もめっきり減ってもうからなぁ。自分らも初めて見るんちゃう?』

「た、確かに初めて見るわね。なんか普通の艦載機より使えそうな…」

『せやなぁ。隠密やらこう言った行動にはすごく使えるんやけど、火力や射程範囲はめっぽう弱くてなぁ…』

「な、なるほど…」

 

龍驤のため息に、神通は戸惑いながらも相槌を打つ。

川内は興味深そうに「ふむふむ」と頷いていた。

 

『さて、講習はまた会うた時にして、お互い急ぎの仕事があるから行こうかね。ほんなら、またな、お二人さん。提督もまた後ほど』

「ああ」

 

提督が短く呟くと入渠場の入り口に入っていき、龍驤の艦載機は空高く飛んで行った。

川内と神通もその後に続く。

入渠場に入ると、神通と川内は即座に中を探索。すると、ロッカーの1つの底に地下へと続くであろう厳重な扉が見つかった。

下の状況がわからないので、砲撃するわけにもいかず、どうするかと2人が提督を見ると、何も言わずに軍刀を抜き、一閃の元に斬り開いた。

 

「私が先に行く。神通はここで警戒。川内は付いて来い」

「「了解しました」」

 

敬礼すると、神通は武装を展開。川内は脚に付けた苦無を抜くと、提督の後ろに続く。

 

「…那珂ちゃんを頼みます」

 

神通の呟きに、川内は振り向く事なく片手を上げて答え、地獄へと歩を進めた。

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