隻腕の提督が着任しました   作:F.ヴィンケル

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表現がきつい場所があります。
苦手な方は艦娘達が救出されたのかと思って飛ばしていただければ幸いです。


1章-3 牢獄解放

殺してやる

 

殺してやる

 

殺してやる

 

コロシテヤル

 

ーーーー

 

腐臭と悪臭が漂う地下通路に連れ、川内の心はどんどん暗くなっていった。

通路は少しずつ広くなり、今は最初の四倍ほどの広さだ。

 

(なんって広さなの…)

 

あまりにも嫌な予感がする。今目の前にあるのは、恐らく最期の扉であろう。

ここまで階段を降りてすぐと、広さがある変わるあたり、南京錠付きの分厚い扉があったが、全て提督が破壊して進んだ。

トラップの類は、龍驤により解除されていたのだろうか、全く無かった。

というか、陰陽型は壁抜けが出来るのかと思ったが、提督に質問したところ、違ったようだ。彼女が特別らしい。

なんでも少しでも隙間があれば侵入出来るそうだ。

心底味方で良かったと、川内は心の中で溜息を吐いた。

 

「川内」

「はい」

「此処からは、恐らく本当の地獄だ。気をしっかり持て」

「…はい」

 

提督の言葉に、川内は身を奮わせる。

そうだ。此処に監禁された艦娘達がどんな状態からわからない。

 

「何があっても自分の身を優先しろ。同じ艦娘であるお前は恐らく危険性は少ないと思うが、鎖を外す時は気をつけろ。場合によっては襲われかねん」

「…了解です」

「しかし」

「…しかし?」

 

川内の疑問に、提督はたっぷり一息置いて付け加えた。

 

「お前を頼りにしている。頼んだぞ」

「ッ…はい!!」

 

提督の激励に、川内は声を押し殺しながらも、気合いの入った敬礼を返す。

提督は腰の軍刀に手をかけると、目に見えぬ速さで扉を斬り伏せる。

地獄の扉が開くと共に、魍魎のような呻き声と悪臭が中から解き放たれた。

 

ーーーー

 

「ごめ…さ…ぃ」

「いたい……いたぃ…」

「…………」

「ぁ…ぁ…あ゛ぁ…あ゛あ゛ァァァァァァァァ!!」

「やだやだやだやだやだやだやだやだ」

 

扉が開くと同時に無数の声が聞こえてくる。

川内は周りを見渡して檻に繋がれた艦娘を確認する。

どの艦も大破状態。手首と足首と首を鎖に繋がれており、破れた制服から覗く肌は青痣になっていた。

この状態でかなりの間幽閉されていたのだろう。

身体は汚物まみれになっていた。

見える範囲で顔は痣だらけ。既に焦点が合ってなく、虚空を見つめている艦娘や頭を抱えて蹲り、ガタガタ震えている艦娘もいる。

それぞれの艦娘の目の前には、わざわざペット用の食事皿に『道具用』と書かれている。

 

(…なんなんだ…なんなんだなんなんだこれはッ!!)

 

川内は目眩と吐き気を抑えながらも、何とか脚とお腹に力を入れて踏ん張る。

この状況でこの子達は、何ヶ月この地獄を味わったのだ。

轟沈しかけて、死にかけてたかだか一週間漂流した自分達なんぞ足下にも及ばない。

川内が唇を噛み締めて、涙をこらえていると、その呻き声の中に聴きたくて聞きたくて仕方なかった声を拾った。

 

「みん…な……が…ばれ……ゴホッ…えが…ゴホッゴホッ」

 

川内はばっと顔を上げて、もう一度周りを見渡す。

薄暗い、奥の方に。見慣れたシルエットが見える。

 

「ゴホッゴホッ…わた…がぁ…まも…る…ゴホッ……」

「ッ!?」

 

叫びしそうになった所を、提督に口を塞がれる。

ほとんど八つ当たりに提督を睨め付けるが、その冷めた、いや怒りを抑えながらも静かに自分を見つめる提督を見て、川内は気持ちを持ち直す。

 

「いま大声を上げれば、他の艦娘が怯える。堪えろ。それに見た限り那珂が1番の重傷だ。上に恐らく衛生兵と救護隊が来ているはずだ。一度那珂を連れて上に上がれ」

 

口を抑えたまま、耳元で一気に捲し立てる提督に、川内は頷いて答える。

提督は川内の頭を軽く撫でながら続けた。

 

「お前はお姉ちゃんだ。恐らく今の那珂の状態を見たら神通が止まらない。しっかり止めてやってくれ。それと、救護班を連れて他の艦娘も頼む」

「りょ…了解しました。提督はあの奥に?」

 

さらにあるもう1つ奥の部屋。冷静になった今だから分かるが、怒り、苦しみ、殺意の入り混じったもの凄い負の感情が流れてきていた。

 

「ああ。それが私の仕事だ。私が出てくるまで入ってくるな」

「了解です」

「頼んだぞ」

 

そう言うと、提督は川内の頭から手を離し、扉に向かって行った。

川内はそれを見届けると、中の方に静かに歩いて行った。

 

 

ーーーー

 

(動揺するな。冷静になれ。私は1番艦だぞ)

 

近くに連れて那珂の状態がはっきりみえてくる。

その瞬間、川内は自分の手を噛んだ。

そうでなければ、怒りのあまりに狂ってしまいそうだった。

 

(これが…ッ)

 

那珂の両腕は掌から纏めて杭で打ち付けられていた。

 

(これが……ッ)

 

さらに両足も杭で地面に縫い付けてあり、髪の毛は滅茶苦茶に切られて、一糸纏わぬ姿であった。

 

(これがこれがこれがこれがこれがこれがこれがァァァァァァァァ!!!!)

 

身体と顔には殴打や切り傷の数え切れないほどの無数の傷。

さらに身体のあらゆる場所に落書きまでされており、顔には『お笑い担当』と殴り書きされていた。

 

(人間がする事がァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!)

 

怒りで歯が掌に食い込んでいく。その血が掌を伝い、那珂の頬に当たると、那珂は一瞬びくっと身体を震わせて、顔を上げる。

その顔を見て川内は一瞬にして冷静になった。

那珂の目は死んでいなかったのだ。

 

「…ぁ……せ…だ…ねぇ…ん?」

「痛いよ、噛んでて」

「はふ」

 

川内は頭の中を即座に切り替え、自分の服を破ると、有無を言わさずに那珂の口に咥えさせる。

 

(私はお姉ちゃんだから)

 

そして一気に両腕の杭を抜く。

すまないと思いながら那珂を見ると、もう感覚がないのか、キョトンとした顔をしていた。

那珂が痛がってないのでホッとすると、更に脚の杭も抜く。

 

「直ぐに迎えにくるよ。みんな、申し訳ないけど…少し待ってて…」

 

聞こえてるかどうか分からないが、川内は那珂を抱えると、急いで出口に向かった。

那珂は持ち上げた時点で、安心したのか、眠るように意識を失っていた。

腕に抱いた妹に気を使いながら、元来た道を最速で戻ると、隠し通路の入り口にいる神通と目が合う。

 

「姉さん!!それに…な、那珂ちゃん?」

「神通、直ぐに何かかけるものを持ってきて」

「ね、姉さん…?な、那珂ちゃんのその姿は…?な、何を!?あいづッ!?!?」

 

神通が叫び出す前に、川内は神通の顔面に渾身の平手打ちを入れた。

神通は壁に激突して、混乱した顔を川内に向ける。

 

「落ち着いた?それなら早くかけるものを持ってきて。その後に門の前に来てるであろう救護班と衛生兵を」

「…了解しました」

 

神通は川内の血の流れる手を見て、直ぐに落ち着きを取り戻した。

 

「姉さん…ありがとう」

 

神通はそう言うと直ぐに行動に移る。

立ち去る瞬間、神通の唇からは赤い血が滴っていた。

そんな神通を見て、川内は寝息をたてる那珂を抱く手に力を入れるのだった。

 

もう、離すまいと。

 

ーーーー

 

重いドアが閉まる音が深淵と化した部屋に響き渡ると、微かに鎖が擦れる音が聞こえた。

提督は入り口直ぐ横にあったランタンを付ける。

其処は、先程の場所よりも更に地獄とかしていた。

鎖の付け位置は変わらないが、ほとんどの艦娘は杭で固定されていた。

それでも、衰えぬ殺気の渦。

 

「……助け…か?」

 

微かな呟きを聞き取り、そちらに顔を向けると、其処にいたのは戦艦長門。

かなりひどい状態だが、長門はしっかりと意識をもっていた。

 

「そうだ。遅くなってすまない」

「…いや、ありがたい。貴君に礼を…っ」

 

其処まで言うと、長門は言葉を詰まらせる。

どうしたのかと視線の先を追うと、提督の左腕に視線が注がれていた。

 

「貴君…隻腕か……」

「ああ、前の大戦でな。抜くぞ」

「ああ、頼む…ぐっ!!」

 

長門が倒れそうになるのを右手で支えるが、長門はふらふらとどうにか一人で立ち上がる。

 

「私は…大丈夫だ。他のものに手を…貸してやってくれ」

「流石はビッグセブンだ」

 

提督の言葉に、壁に寄りかかった長門は目を見開くと、ふわりと笑って返した。

 

「手厳しい提督のようだ」

「すまないな」

「いや、久々に心地良いな。すまないが…他の者も鎖と杭を外してやってくれないか」

「当たり前だ。お前の鎖も直ぐに外す」

 

言うや否や、カチンっと空間に音が響く。

それと同時に、全ての鎖が切断された。

長門は驚きに目を見開くが、何か納得したのか、提督に警告する。

 

「貴女なら…大丈夫だと思うが…杭を抜くときは気をつけてくれ。何人かは修羅と化している。私の声も聞こえない」

 

困ったように笑う長門に、提督は落ちてるパイプを拾い上げて長門に渡した。

 

「心得た。そんな状態ですまないが、隣の部屋の艦娘を頼む。時期に救助が来る」

「了解だ。すまな…いや、ありがとう。後は頼む」

「ああ、頼まれた」

 

扉が閉まる音を背に、隻腕の提督は艦娘達の解放に向かった。

 

ーーーー

 

かなりの怒気を感じ取っていたが、どの艦娘も動けるほどの体力は無いようで、特に問題なく一通りの艦娘から杭を抜き終わる。

しかし、それは最後の艦娘に手を助けようとした時に起きた。

獣の様な咆哮と、共に1人の艦娘が襲いかかってきた。

提督は直ぐさま振り返り、襲いかかってきた艦娘の手首を掴み、その勢いのまま反対側に放り投げる。

投げつけられた艦娘は、受け身が取れずそのまま地面に激突する。

 

「っ…めろ…」

 

提督が助けようとした艦娘が、辛うじで聞き取れる声で呟く。

しかし、我を失った彼女にはその声は聞こえなかった。

 

「アァァAAああァぁ嗚呼ァァAaァァァアアああぁ嗚゛ぁ呼嗚呼゛アア゛ア゛ァ゛A゛!!!!」

 

声にならない咆哮をあげると直ぐさま四つん這いになり、再び超低空で提督に飛びかかる。

 

「ざわる゛ぅなァ゛ァ゛ァ゛ァァ゛ァァァ!!!!」

「ッ…メロォ!!」

 

提督に回避され、そのまま壁に突っ込み、鈍い音が部屋に響き渡る。

頭から血を流しながらも、再び提督に飛びかかろうと低姿勢になる。

 

「ゎ、だ…じ、のぉ……」

「もう…ぃい…」

「天龍ちゃんにざわるアアアアアァアアアア!!!!!!」

「ダヅダァァァァァァァァ!!!!」

 

再び低姿勢で飛び込もうとした瞬間、龍田の目の前に一瞬にして提督が移動する。

いきなりの事に龍田の身体は一瞬動きが止まる、その瞬間に見えない提督の下段蹴りが龍田の顎に入り、龍田の意識を奪った。

瞬間、左右から別の艦娘が飛びかかって来た。

左側は鉄パイプを振りかぶった叢雲、反対側は拳を振り上げだ摩耶だった。

大破状態で精神力も擦り切れ寸前でこの気迫、不謹慎ながら軽く感嘆し、鉄パイプを軽く上体を動かすことで躱し、摩耶の拳を右手で軽くいなすと、2人はそのまま地面に倒れこんだ。

本当に最後の気力だったのだろう。

改めて天龍のところに行き杭を抜く。

天龍は少し顔を歪めたが、声を出さずに耐え切っていた。

 

「ず、ずまっ…ガハッ、…ねぇ」

「無理に喋るな、後は休め」

 

提督は、天龍に軽く当て身をすると、すんなりと意識は闇に落ちた。

この状態では、気が気でないだろかいと思い、半端強制的に意識をたったのだ。

 

「こないのか?」

 

天龍を優しく抱きながら、死角の机に隠れている艦娘に声をかける。

そこから出てきたのは、自分の足に刺さった杭を手に持った曙だった。

 

「……あん、たじゃない」

 

ふらつきながらも、曙は確固たる意志で、隻腕の提督を見据えて続けた。

 

「ぁんだ、じゃ…ない。わた…ぐっ……じは、アイヅら…に…だがら…」

 

言いながらも限界がきたのか、倒れこむ曙を正面から抱き込む。

 

「さわ…んなぁ…クソてぃ…」

 

そのまま曙の意識が飛ぶと同時に、隣部屋から川内の声が聞こえる。

提督は片手で曙を抱えると、隣の部屋に移る。

其処には川内を筆頭に、艦娘だけで構成された救護班が、囚われた艦娘達を救出しているところであった。

どの艦娘も険しい顔をしていたが、一生懸命に被害者を励ましながら、一歩でも早くここから連れ出そうと動いていた。

 

「提督、終わりましたか」

「ああ、こちらも頼む」

「了解しました」

 

川内は提督から曙を受け取ると、近くの救護班の艦娘に声をかける。

声をかけられた艦娘は軽くうなづくと、提督の向かって歩いてくた。

 

「お久しぶりです」

「久しぶりだな、鳳翔」

「そちらの部屋の艦娘達、かなり酷い状態ですね?」

「ああ。早急に頼む」

「任せてください。治療班に北上さんもおりますので」

「そいつは頼もしい」

 

鳳翔はふわりと笑うが、提督の右腕を見て少し悲しそうな表情を作るが、直ぐに表情を引き締めて、他の救護班の艦娘に声をかける。

 

「翔鶴さん、筑摩さん、神威さん、明石ちゃん、不知火ちゃんはこちらをお願い」

 

呼ばれた艦娘達は返事をすると、奥の部屋に入っていく。

 

「それでは、後ほど」

 

鳳翔も敬礼をすると、奥の部屋に消えていった。

 

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