隻腕の提督が着任しました   作:F.ヴィンケル

4 / 12
1章–4 吹雪

事件から一週間後、特型駆逐艦・吹雪は目を覚ます。

見知らぬ天井。まず最初に溢れ出した感情は絶望。

 

(私は…死にぞこなったのか…)

 

ふと身体を動かこそうとした時に、視界がダブり、枕に再び頭が戻る。

 

(上手く…動かない)

 

鉛のように重い腕を動かして、立ち上がろうとした時に、ふと横から声が聞こえる。

 

「まだ動かない方がいいよぉ〜。傷は完全に完治してるけどねぇ」

 

頭を動かして自分の横を見ると、そこにる久しぶりに見る顔に、吹雪は目を見開く。

 

「それ以上に心がズタボロだねー。流石に私は管轄外だわー」

 

怠そうに喋る艦娘。

吹雪は彼女が喋るまで全く気配を感じなかった。

たった50cmほどの距離なのに。

 

「まぁ、でも起きたなら悪いけど、鎮守府の出来事を話してもらうよぉ。辛いかもしれないけど、状況確認が必要だからねぇー。あ、喋れる?」

「北…上さん…」

 

 

そこに座っているのは、軽巡艦北上。

 

「お?大丈夫そうだねー。意識問題なし。んじゃ、書記ちゃん呼んでくるからちょっと待っててぇー」

 

彼女は立ち上がると、立て掛けてあった松葉杖を手に取り、膝から下がない右脚がわりに杖をついて部屋を出て行く。

吹雪はそれを見送ることしか出来なかった。

 

(みんなは…)

 

少しすると、カツンカツンと松葉杖の音と、2人分の足音が近づいてくる。

その音がドアの前で止まると、ノックと共に返事を待たずに扉が開く。

1人は先ほど出ていった北上。もう1人は、長身で、腰まである綺麗な黒髪を揺らしながら綺麗な動作で礼をする大淀であった。

 

「おまたせぇ」

「失礼します」

 

北上は先ほどと一緒の椅子に座り、大淀は立て掛けてあった、折りたたみ式のパイプ椅子と机を拡げて、机の上に持ってきた書類と筆記具を置き座る。

 

「月並みの事を言うけどー、思い出すだけでも辛いと思うけど、吐き出すだけでも楽になるからさぁー。ま、報告すべきではない事は書面上は伏せとくから、気楽に話して」

「あ、あの…他のみんなは…?」

「あ、伝えていなかったねぇー、ごめんごめん」

 

北上は優しげな顔を吹雪に向けた。

 

「みんな無事だよ。誰一人かける事なく、私の元提督がみんな無事に救出したから。安心して良いよ」

 

そっと寝たままの吹雪の頭に手を置き、壊れ物を扱うかの様に優しく撫でる。

 

「がんばったね」

 

その一言で、吹雪の目からはポロポロと涙が溢れ始めた。

大淀はそっと立ち上がり、静かに部屋を立ち去る。

静かに涙を流す吹雪の頭を、北上は涙が止まるまで頭を優しく撫で続けた。

 

ーーーー

 

しばらくして、ポットとお茶のセットを持った大淀が戻ってくる。

北上はベッドの横のボタンを押して、吹雪の上半身の部分だけを起こす。

少し驚いた顔をした吹雪に、北上は悪戯に成功した様な顔で話しかける。

 

「凄いでしょー?最新式の介護ベッドなんだよぉー。あ、お茶自分で飲める?」

「は、はい。大丈夫です」

「それは良かった。ちなみに足下のここを前に移動させたら机になるんだよぉー。ここは手動なんだけどねー」

 

言いながら机を前にスライドさせて、その上に大淀が淹れたてのお茶を置く。

 

「さて、落ち着いた所で申し訳ないけど、話してもらえるかな?」

「…はい」

 

大淀が座るのを見て、吹雪は舞鶴鎮守府で起きたことを語り始めた。

 

前提督と吹雪は一年程の付き合いであった。

前提督が舞鶴鎮守府に着任するという事で、吹雪が初期艦としてつけられたのだ。

前提督は真面目ながらも人当たりが良く、吹雪にも優しく接してくれていた。

お互いの関係もかなり良好であった。

舞鶴鎮守府の開設日の3ヶ月前、吹雪と提督は鎮守府に着任、開設日までに事務仕事、新しい艦娘たちの着任式、開設日にある式典準備なのどに追われて慌ただしい毎日だった。

でも、その毎日が楽しく、充実した日々であった。

式典が終わり、艦娘達とも打ち解けあい、監査官や教育していた他の鎮守府の提督もいなくなったとき、変化が起きた。

最初の変化は、本当にわからないものであった。

少しずつ、本当に少しずつ、戦果が悪くなっていたのだ。

正確には、戦果ではなく損傷が増えていった。

それまでは問題なく行なえていた遠征任務や海域の警戒任務等で、たまたま練度の弱い艦娘がいる時に限り、強い敵に遭遇する様になっていた。

そしてある時、仲間をかばうために重巡艦や戦艦が大破。火力の高い艦娘達の修復時間が長い為、まだ練度の低い艦娘で安全海域を見回りをさせていた。

しかし、見回り中の艦娘が、はぐれの重巡型の深海棲艦に襲われ、探索中の艦娘が大破し、どうにか逃げ帰ってきた。。

安全区域での敵艦との遭遇、また入渠が主戦力の艦娘が入渠中のため、直ぐには使えないと吹雪は提督に報告する。

提督は少し思考したのちに、何処かに電話を入れて、吹雪に指示を出した。

 

「時間のかかる艦娘たちを一旦他所の鎮守府に送って、入渠させてもらおう。今、車両の手配はしておいた。」

 

そこまで伝えると一旦言葉を区切り、艦娘名簿と海域を見比べる。

 

「報告によると重巡型が2隻か…吹雪はすまないが、今出撃できる練度の高い艦娘を連れ、安全海域に出たはぐれの撃破に向かってくれ。入渠の件は私が手続きしておく。また一度海域の見回りをしてくれ、何か可笑しい…一応こちらからも本部に増援要請を送るよ」

 

吹雪は命令を伝達すると敬礼をして、直ぐに自分を含めた練度の高い艦娘達と海域に出た。

鎮守府で始まった悪意の渦に気づく事なく…

 

ーーーー

 

問題の海域に到着する。

吹雪を旗艦として続くのは、天龍、龍田、初雪、叢雲そして那珂であった。

 

「…妙だな」

 

天龍の言葉に、吹雪は心の中で同意した。

海が静かすぎる。

さらに言うと、近辺には何も見当たらない。

一度地図を広げて場所を確認するも、報告にあった場所に間違いない。

 

「…逃げた…かな?」

「とりあえず、警戒しつつ周辺を分散警戒しましょう。北方向を私と那珂さんと初雪ちゃん。南方向を天龍さんと龍田さんと叢雲さんで」

 

全員が頷き、左右に分かれる。

その瞬間、龍田の背後を追走しようとした叢雲の足元が爆発した。

 

「きゃあっ!」

「なっ!?」

「叢雲ちゃん!?」

 

直ぐ様に天龍は反転し、大破した叢雲の前に。龍田は叢雲を支える。

 

「や、やだ…ありえない…」

「皆さん!!分散してください!!」

「クソがっ!」

「天龍ちゃん!!」

 

波状攻撃を警戒した吹雪が叫ぶが、直ぐ様に間に天龍が被弾。

直ぐ様に吹雪、那珂、初雪は天龍の被弾箇所から予測して魚雷を撃つが、牽制程度。

続けて来た魚雷に、天龍が大破。更に天龍を庇った龍田が中破する。

 

「対潜装備がないこの状況は不利です!!天龍さん達を護衛して撤退します!!」

「了解っ!!殿は那珂ちゃんに任せてっ!!どっかぁーん!!」

「ん、いきます」

 

那珂が天龍達の前に移動し魚雷を発射、初雪も牽制しながら叢雲に近づき、吹雪は天龍お龍田のフォローに入る。

吹雪達の命懸けの逃走劇が幕を上げた。

 

ーーーー

 

吹雪、小破。

初雪、中破。

叢雲、大破。

天龍、大破。

龍田、大破。

那珂、中破。

命からがら逃げ延びた吹雪は、他の艦娘に直ぐに入渠場へ向かう用に支持すると、足早に提督室へと向かった。

今回の一件、完全にこちらの行動を先読みされている。全てにおいて。

ありえない。あまりにも完璧すぎて、ありえない話だ。

まるでこちらの行動が全て筒抜けではないか。

いや、違う。

筒抜けなのだ。

吹雪は提督室の前まで行くと、ノックもせずに部屋の中に入る。

真面目な吹雪の行動に、執務中の提督は驚いた顔をするが、真面目な表情を見るや否や直ぐに顔を引き締める。

吹雪は一度辺りを見回し、盗聴の可能性を考えて提督の手を取り、バルコニーへと出る。

 

「司令官、緊急事態です」

「どうした、吹雪」

「お耳をお借りしても?」

 

吹雪の言葉に提督は少し姿勢を落とす。

吹雪は、提督の耳元に顔を近づける。

 

「内通者がいます。しかも恐らく深い場所に」

「なに?」

「先程の出撃、重巡艦2隻との報告でしたが、私達が現場に向かうと、潜水艦による待ち伏せの奇襲を受けました。対潜装備がない我々は一方的に攻撃されましたが、どうにか撤退することが出来ました。しかし、私以外は中破、大破です」

 

そこまで報告すると、一呼吸置き、吹雪は確信をもって、提督に進言する。

 

「偶然にしては出来すぎています。内通者がいます。隊員か艦娘か、もしくは偽装した深海棲艦か。盗聴の可能性もあります至急調査隊を要請しましょう」

 

そこまで伝えると、吹雪は一歩下がり、提督の顔を見る。

普段優しい真面目な提督の顔は怒りに歪んでいた。

正義感が強い彼の事だ。当然の反応である。

 

「吹雪、1つだけ訂正させてくれ」

「…はい」

「艦娘達の中に内通者はいない。それだけは確実だ」

「っ…はい!」

 

提督の信頼に吹雪は感動に震えながらも、力強く頷く。

そんな吹雪を見て、提督は吹雪に微笑み返す。

 

「とりあえずは吹雪も入渠場に向かって傷を直してきてくれ。それから今後の話をしよう」

「了解しました、司令官。ちょっとだけ、お休みします」

 

吹雪は提督に敬礼すると、入渠場に向かった。

 

ーーーー

 

「あれ?」

 

入渠場に入った吹雪は、更衣室を見渡す。

先に行ったはずの艦娘達が誰も居ないのだ。

人が居た形跡はあるも、誰も居ない。

吹雪は疑問に思い、更衣室の奥側を覗くと、1番奥に開いているロッカーを見つける。

 

(誰かの閉め忘れかな…っ!?)

 

ロッカーを閉めようと近づいて、中を覗き込み、吹雪は驚愕した。

 

開いたロッカーの下に、地下へと続く階段があった。

 

(な、なにこれ…?)

 

吹雪の中に困惑と恐怖感が生まれる。

この階段は何だ。何故今まで気づかなかった。この先には一体何が。

居なくなった艦娘達はこの先にいるのか。

生唾を飲み込むと、吹雪は決心して、足音を立てないように恐る恐る階段を下って行く。

直ぐに提督に報告すべきだが、何があるかわからない。

もしかしたら提督の身に危険が及ぶ可能性がある。

安全性を確認してから報告するべきだと、一歩ずつ一歩ずつ慎重に進んで行く。

階段を降りると直ぐに扉があり、そこの扉は開け放たれていた。

その後もいくつか扉があったが全て開いており、扉を抜ける度に空間は広がっていった。

 

(い、一体何なの…)

 

積もり続ける恐怖感を必死に抑えながら、吹雪は進む。

震えながらも一歩ずつ進むと、大きな鉄の扉の前にたどり着く。

ここが最後なのだろうか。今までと違い、その扉は閉ざされていた。

しかし、鍵はかかってないようだ。

吹雪は、その扉にふれようとして、身体を膠着させた。

 

(な、何の音…?)

 

奥から聞こえてくる微かな音。扉に耳を当てるが、何なのかは全くわからない。

吹雪は右手にのみ艦装を展開して、強く握りしめる。

何度が深呼吸をして心を落ち着けると、汗ばんだ左手でドアノブに手をかける。

分厚く重いドアを少しずつ開いて行く。

微かに聞こえていた音の正体が明らかになり、吹雪は蒼白になり、勢いよく扉を開け放つ。

悪臭、鳴咽、鎖の音、苦悶…

壁に繋がれてるのは仲間の艦娘達。

理解不能理解不能理解不能。

吹雪の思考は停止し、身体に力が入らずに膝から座り込んでしまう。

しかし、更に奥にある部屋からの音で直ぐに意識を取り戻し、歯を食いしばりドアに駆け寄り開けはなつ。

 

其処には白い頭巾を被った人間達が、天龍と龍田を壁に縫い付けているところであった。

2人は意識が無いのか、壊れた人形の様に動かない。

 

「う、うわぁぁぁぁああああ!!」

 

絶叫とともに、握りしめた12.7cm連装砲A型

を白い頭巾の人間達に向ける。

しかし、咄嗟に出されたものを見た瞬間に吹雪は止まってしまう。

あろうことか、初雪と那珂を盾として吹雪の前に出したのだ。

 

「あっ、あ…あああ!!」

「ダメじゃ無いか吹雪?人に武器を向けては」

「……………え?」

 

今ここに居ないはずの声。ありえない。そんな、そんな事。あってはならない。

吹雪はゆっくりと背後を振り向く。

其処にはいつもの優しい笑顔を浮かべた提督が立っていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。