隻腕の提督が着任しました   作:F.ヴィンケル

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1章−6 舞鶴鎮守府防衛戦

時間は一週間前の奪還作戦に戻る。

川内たちが舞鶴鎮守府に侵入した同時刻。

舞鶴鎮守府より少し離れた海岸に、おっとりと優しい顔つきをした、和服姿で後ろで髪を縛った長髪の女性が立っていた。

その女性の耳元では陰陽式と呼ばれる艦載機が浮遊しており、そこから音声が聞こえる。

 

『鳳翔聴こえるか?』

「ええ、感度は流行です。龍驤さん」

『いま、提督達が地下に侵入。他の2人も配置完了や。うちらもお仕事始めよか』

「かしこまりました」

 

すっと鳳翔が左手を上げると、まっすぐ伸ばした左手に1メートル程の航空甲板が現れ、更に大弓が現れる。

鳳翔は右手で矢を番える。

 

「龍驤さん。指揮は任せます」

『指揮何っていらんやろに…まぁ、ええか。さぁ仕切るで! 攻撃隊、発進!』

「了解しました。風向き、よし。航空部隊、発艦!」

 

言葉と共に矢を放つと、空中で弓矢は艦上爆撃機へと変わる。

更に3本の矢を間隔をあけて空へと放つ。

鳳翔の思考が全ての爆撃機へとリンクする。

 

『さて、お手並み拝見と行こか?』

「ふふ…良い風ですね」

『せやなー。終わったら司令官連れて海沿いで一杯しよか?』

「申し訳ありません。この後は救出作戦に向かいますので」

『あらら、仕事熱心やなぁ。ならさっさと終わらせよか』

「そうですね」

 

リンクした視界の中で、龍驤の陰陽式艦載機が合流する。

 

『それでは、蹂躙を始めよか』

 

龍驤の楽しそうな声に、鳳翔の唇も少しだけ釣り上がるのだった。

 

 

ーーーー

 

駆逐型20隻

潜水艦10隻

軽巡型10隻

重巡型10隻

軽空母5隻

正規空母3隻

戦艦2隻

合計60隻もの深海棲艦を5つに分けて潜伏させ、指揮するのは一隻の鬼。

深い白の髪と肌。その身体は華奢な女性のものであるが、身に纏うはその身体にあまりにも不釣り合いな鋼の殺意。

足の途中から下は上と打って変わって、巨大な白い手と脚で支えられた黒鉄の異形となっており、その鋼鉄の巨大な口からは白い蒸気が漏れる。

鬼の瞳は死を連想させるほど紅に光り輝く。

人類の敵。

海を蹂躙する者達。

深海棲艦の上位種である『姫』の次に恐れられる脅威である『鬼』。

泊地棲鬼は静かに前を見据えていた。

正確には他の手下の深海棲艦とリンクして舞鶴鎮守府からの合図を待っていた。

深海棲艦には無線機のような物は無いが、一定の範囲内にいる仲間と感覚を共有、また脳内に直接指示を出すことができる。

 

「イマイマシイ…」

 

静かに合図を待ちながら、泊地棲鬼は静かに呟く。

諜報として潜伏している人間たち。

『白』と呼ばれる彼らは、昔とある『姫』により、協力すれば深海棲艦として転生させ永遠の命を約束するとの約束を信じ、味方を裏切った。

何処までも強欲。何処までも傲慢。何処までも何処までも何処までも……。

 

「イマイマシイ…ホントウニ…」

 

昂ぶる心を抑えながら、泊地棲鬼は紅に輝く瞳を閉じる。

ふと、違和感を感じる。空気が揺らいでいる。

泊地棲鬼は目を開きあたりを見渡すが、特に何も見当たらない。しかし、違和感は次第に強くなる。

 

「…ッ!?全軍対空防御隊形!!敵ダ!!」

 

言うよりも早く、泊地棲鬼は左を向き主砲を発射。

怒号と共に空気が震え、何も見え水面に砲弾が直撃して水飛沫があがる。

着弾と同時に、着地地点の空間がわずかにブレ、超低空飛行をしている敵機が見える。

姿が見えた瞬間、魚雷が発射された。

 

(バカナ!?陰陽式ノ攻撃機ダト!?)

 

心で悪態をつきながらも味方を散開させようとするが、あまりにも近過ぎる。

泊地棲鬼とその周囲にいた深海棲艦は魚雷の爆発に飲み込まれた。

 

ーーーー

 

『こちら龍驤。大物がおるとは思ったが、えらいこっちゃ、鬼さんがおるわ。とりあえず魚雷を叩き込んだわ』

「了解です。こちらも掃討します」

 

敵の指揮官への奇襲の成功を確認するや、鳳翔は超低空で飛行中の爆雷機の高度を上げ、近づいていた敵艦隊に爆撃を叩き込む。

爆撃は寸分の狂いもなく、敵艦全てに直撃。

全ての深海棲艦は轟沈した。

 

『相変わらず清々しい精確さやなぁ。恐ろしいわ』

「貴女に言われても…もう1艦隊も潰しました」

『ウチのも合わせて今ので15は逝ったか?とりあえずウチは引き継ぎ鬼さんの妨害に移るわ』

「了解です。潜水艦が居るところにはあの2人が向かっているでしょうから、私も終わり次第合流します」

『了解やー艦載機のみんな!お仕事、お仕事!』

 

会話しながらも鳳翔等に深海棲艦を轟沈させる。

敵の弱いところを的確に爆撃し、良くて大破。残りは全て轟沈に終わる。

通常の艦娘では1人1小隊の制御が限界である。

それを鳳翔は3小隊もの航空機を制御、さらに的確な攻撃。

才能だけでは無く、恐ろしい程の集中力、情報処理力、判断力がそれを可能にしていた。

ふと、リンクした視界の端に艦娘を捉える。

 

「それじゃ、そちらはお願いします」

 

鳳翔は呟くと、龍驤の元へと向かった。

 

ーーーー

 

突如泊地棲鬼からのリンクが切れた深海棲艦は、その場から動くのことが出来ず困惑をしていた。

そのせいで、側面より物凄い勢いで接近する艦娘に対して反応が遅れてまった。

 

「遅い」

 

気付いた時には、時遅し。

指揮を取っていたル級はすれ違いざまに高速接近した艦娘に叩き斬られる。

艦娘はその勢いのまま、横をすり抜けホ級2隻を超至近距離射撃で轟沈させる。

更に、進行方向にいるリ級を蹴り飛ばして、反対側に跳躍。

水面に着地するや否や、刀を海中に差して爆雷を放ちながら勢いを殺して止まり、立ち上がりながら魚雷を掃射する。

すると艦娘が爆雷を放ちながら通った場所から水飛沫が上がった。

そこにはカ級が2隻、潜航していたのだ。

更に立ち上がろうとしたリ級に放った魚雷が命中、リ級は何が起きたかわからぬまま、絶叫を上げて轟沈する。

 

「弱すぎる」

 

正に疾風迅雷。

一瞬にして1個小隊の深海棲艦を殲滅した。

眼帯を付けた艦娘はマントを翻しながら、その場を後にする。

 

「いやぁー流石だねぇー」

 

突如かけられた声に、艦娘は動揺した様子も無く、自分の隣を見て答える。

 

「北上姉さんこそ。もう2つ潰してきたのか?」

「うん。鳳翔さんが2つ潰してくれてたから、木曾の今ので雑魚は全滅。後は大将の所だねー」

「流石だな。しかし、私達が行く必要はあるのか?」

「今回龍驤さんが火力不足だから念のためにねー。鳳翔さんもいるから大丈夫だと思うけど、ほら、駄目押しってやつー?」

「そうか。まぁ、相手は鬼だしな。姉さん、足の具合は大丈夫か?」

 

木曾はちらりと、銀色に輝く北上の右脚の義足を見る。

北上は何事もない様にひらひらと手を振りながら答える。

 

「大丈夫大丈夫ー。むしろ前より強くなった感じー?武装も増えて、スーパー北上さまだよー」

「ふっ、戦闘面で姉さんの心配はしてないさ。むしろ右脚が持つかが心配でな」

「あー、人を化け物みたいに辞めてよねー」

 

全く気にしてない様子で北上は木曾を指でツンツンと刺す。

木曾は軽く笑いながら謝ると、北上もにへらと笑い返した。

 

「んじゃ、さっさと片付けて戻りますかー」

「そうだな、向かうとしよう」

 

2人はスピードを上げると、最後の場所へと向かうのであった。

 

ーーーー

 

「グッ…!!」

 

何度も魚雷と爆撃を受けながらも泊地棲鬼は対空攻撃を行うが、1つとして落とすことが出来ないでいた。

 

(…何ト言ウ捜査技術ダ…イマイマシイ…)

 

陰陽式の航空機に翻弄され、更に実機型の爆撃機に的確に攻撃される。

しかし、航空機の武器の搭載数は少ないはず。弾切れまで凌ぎきれば奥の手を使い逃げる事は容易だ。

そう考えて今は守る事だけに集中しようと、泊地棲鬼は急所への攻撃だけをどうにか凌いでいた。

そして、遂に敵の攻撃が止む。航空機の弾薬が尽きたのだ。

泊地棲鬼は好機と、ボロボロになった下半身の異形を切り離し着水する。

 

「ワタシハ…ホロビヌゾ…!」

 

泊地棲『鬼』は泊地棲姫『姫』と昇華する。

力が漲り、また、重装を脱いだ事によりスピードも上がる。

 

(コレナラ!)

 

最大速度で戦線を離脱しようと、目眩しに自分の至近距離を主砲で撃ち、水飛沫を隠れ蓑にしてその場を離れる。

 

「それで逃げたつもりなのか?」

「!?」

 

突然の殺気に、ほぼ反射で泊地棲姫は主砲を振るうと、金属同士がぶつかる音が響く。

 

「ほう、流石は姫だな」

「貴様ァ…イツノマニ…!?」

「単装砲って、何気にわびさびよね~」

「ナッ!?グゥッ!?」

 

至近距離からの発砲に、泊地棲姫は吹っ飛ばされるが、どうにか踏ん張って倒れるのを阻止する。

 

「まあ…主砲は…そう…まあ…そうねぇ…」

「姉さん…」

 

泊地棲姫は歯を食いしばりながら、敵を睨みつける。

 

「オノレ…イマイマシイカンムスドモメ…」

 

泊地棲姫が腰についていた球場の物を分離させると、それは重力に逆らい浮上し、泊地棲姫の周りを浮遊する。

敵は軽巡型2隻。これなら潰せると泊地棲姫は決断する。

 

「イマイチド……ミナゾコニカエルガイイワ…」

 

球体の浮遊物の口が開くと、そこから砲身が生え、北上たちを襲おうと飛来する。

 

「いいねぇ」

「ギッタギッタにしてあげましょうかね!」

 

2人は不敵に笑うと木曾は軍刀を抜きながら前に突っ込み、北上は魚雷を掃射して、横に迂回する。

木曾は飛んでくる球体の射撃を交わしながら右手の軍刀をぶん投げて、串刺しにする。

更に、背後に回り込んだ球体に対して視認せずに、背後の艤装で射撃して落とす。

そこで正面に来た球体を踏んで跳躍。

踏まれた球体は海に落下し、北上の放った魚雷に当たり爆発する。

そして、空中にいた球体を左手の軍刀で斬り捨てて着水する。

 

「バ、バカナッガァッッ!!」

「まあ私はやっぱ、基本雷撃よね~」

 

驚いていた泊地棲姫の横から魚雷が直撃する。

直ぐさまに離脱するも、心が見透かされてるかの如く移動する場所場所へと魚雷が放たれ、被弾する。

 

「40門の酸素魚雷は伊達じゃないからねっと」

「合わせるぜ」

 

足が止まったところに、木曾と北上による魚雷の一斉掃射が放たれ、泊地棲姫は成すすべなく魚雷の雨に蹂躙される。

 

「ワタシモ…モドレルノカ? アオイウミノウエニ…」

 

爆発の中、蒼天に手を伸ばしたまま、泊地棲姫は海中に沈んでいく。

 

「まぁ、縁があればまた逢おう。願わくば今度はこっちでね」

 

北上はそう呟くと、木曾とともに陸へと向かうのであった。

 

ーーーー

 

大淀の話に、吹雪は驚きを隠せない顔で北上を見ると、呑気に茶菓子をつついていた北上は吹雪の視線に気づくと、「いぇい」っとVサインを作った。

 

「き、北上さん。出撃できたのですか」

「そだよー?」

「で、でも足が…」

「ああ。疑問だよねー。ぶっきーは艦娘の艤装ってどこまで理解してる?」

「ぶっ、いいえ!えと、艦娘として深海棲艦と戦うために巫女だけが使える武装…でしょうか」

「まぁ、大雑把としてはそうだねー」

 

うんうん、と頷く北上に吹雪は首を傾げる。

北上は大淀の方を向くと、大淀は吹雪に向き直り、疑問に答えた。

 

「より正確に言いますと、艤装とは『深海棲艦に立ち向かう為に、巫女を補う武装』なのですよ、吹雪さん」

「艤装とは、戦う為に与えられた装備ではなく、戦えるように補う装備なのです」

「と…いう事は…」

「はい。例え脚が無かろうが、腕が捥げようが、艤装を展開すれば、そこを補うように装備が展開されるのです」

 

大淀の説明に、吹雪は黙り込む。

腕を失っても、足を失っても、私たちは戦い続けなければならないのか。

それはーー。

それはもう呪いではないか。

吹雪はその言葉を出せずに飲み込むことしか出来なかった。

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