日本で姫が撃破されたという報道は瞬く間に全世界に報道された。
さらに、撃破したのはたった4人の艦娘。艦娘達の要望と言う名目で名前は伏せられていたが、恐らく日本軍が情報統制をしたのだろう。
しかし、とてもじゃないがありえない話だ。
たった4人で『姫』を撃破など。
各国はどの艦娘が作戦に参加したのか、手練れの諜報部隊を使い調べ上げたが、その情報の尻尾も掴む事が出来なかった。
ただ、1つだけ。関係性は不明だが、途轍もなく重要な情報を入手する。
10年前の英雄である提督が生きていると。
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《これは意図的に摑まされた情報だろうね》
《やはり、君もそう思うかい?》
とある国の軍隊基地作戦会議室。
1人の将官の質問に対し、その場に場違いな少女は答える。
《そっちに少しでも気をそらし、艦娘への関心を無くすためだと思う》
《ならば最初から4人で姫を倒した等と公表べきではないのでは?》
別の将官の質問に、少女は少しだけ思考し、答える。
《恐らくそれは牽制だと思う》
《牽制だと?》
《そう》
《誰に対しての牽制なんだい?》
《確信ではない》
《構わない。言ってくれ》
《『白』に対しての》
少女の答えにその場にいた将官達は驚く。
『白』と言えば深海棲艦に続く艦娘の、いや全世界の軍隊の敵のゲリラ集団である。
《ここからは私の憶測になる》
《構わない》
《恐らくは、今回日本で行われた総合火力演中による深海棲艦のゲリラ攻撃は『白』の手引きによるものだと思われる。そして舞鶴鎮守の防衛戦。これは1度敵の手に鎮守府が落ちている。そうとしか思えない》
《何故だ?》
《海域の地図と敵の撃破ポイントを見て》
プロジェクターに、日本から公開された交戦図が映し出される。
その交戦位置をみて、改めて彼らは気づく。
《そう、近過ぎる。海域防衛で巡回の艦娘や偵察機が飛んでいるはずなのに、その内側に悠々と侵入されて、交戦している。そんな事はありえない》
基地防衛には艦娘以外にも見張りの兵隊がいるのだ。
これだけの数を1度に見落とすなどあるはずもない。
《と言うことは、舞鶴鎮守府は総火演の時には既に落ちており、艦娘達も監禁状態にあった》
《さらに、その時には深海棲艦は基地近辺海域まで侵入し、内通者の手引き待ちと》
《そうなる》
《しかし、それで何故『白』の牽制に?》
《これが彼らにとっての最後の可能性だったからと考える》
《最後の可能性?》
《彼らのこれまでの行動でここまでの大きな作戦はなかった》
襲撃や拉致監禁等はあったが、基地を丸々占領される事など本来は不可能である。
ここまでの大規模な作戦。
例えやれたとしても成功率等相当低く、成功したとしても被害は甚大で長くは持たない。
それは何に対してもそうだが、一回行えば対策は取られる。
それでも行ったと言う事は、後が無かったと言う事だ。
《なるほど、10年間も身を潜めていた彼女が出てきたと言うのは》
《『白』の重要拠点を潰し終わったから》
《さらに彼らが繋がっているであろう深海棲艦のましてや姫がたった4人に潰されたとなると》
《残り少なくなった彼らは迂闊には動けなくなる…か》
《しかし殲滅した訳ではない》
《そう、だから作戦を潰した艦娘に被害がいかないように名前を伏せていると思われる》
《しかし、名前を公表した方が罠を貼りやすいのでは?》
確かにそうだ。見張る対象を絞った方が対処しやすい。
その言葉を聞いた少女は、言いづらそうに少し目を逸らす。
その挙動に、男達は首を傾げる。
《何かあるなら言ってもらっても構わないよ?あくまで憶測なのだから》
《その…恐らくだけど》
《ふむ》
《単に目立ちたくなかっただけかもしれない…》
会議室に沈黙が流れる。
少女は恥ずかしそう顔を伏せる。
その場合、彼女が語った半分の話が無駄になる。
《まぁ…確かに…》
《恥ずかしがり屋の艦娘とか居るしな》
《ど、どっちにしても日本にアプローチしない限りは分からぬか》
《しかし有り得るのか?数も規模も解らぬゲリラ集団の拠点を全て潰した等と》
《それが本当だとしたら、我が国も日本に多大な貸しが出来てしまったと言う訳だしな》
《恐らく残党の件もあり、こちらからの信頼できる人材を待ってるかもしれんしな》
《そうだな。何にしろ一度日本に使者を送るか》
男達のフォローにさらに縮こまりながらも、少女は手を挙げて答える。
《その役目、私がやっても良いだろうか》
《そうか…確かに一番は君が適任だな》
《私も彼女以外に適任はいないと思うよ》
全員が同意しながら頷く。
《それと、もう一つ。みんなにお願いがある》
少女の言葉に、室内の男達の目が見開く。
彼女との付き合いは長いが、彼女からお願い事をされる事など、今までなかったからだ。
《なんだ、君が願い事何って珍しい》
《はっはっはっ!何でも言ってくれて構わんぞ》
《欲しいものでもあるのか?言ってみなさい》
真剣な空気だった会議室は一気に孫をあやかしモードの和やかな雰囲気に変わる。
さっきまでの会議の内容などすっ飛んだように、彼女の頼み事をワクワクしながら待つ初老の男達。
しかしそれも一瞬の事だった。
《私を日本に移籍させてほしい》
一瞬にして会議室は凍りついた。
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「久しぶりだな」
「ああ、久しぶりだ。今日からよろしく頼む」
提督が右手を出すと、長門は快く握手を返した。
本日より舞鶴鎮守府に着任になり、こちらに一報を入れた時も彼女が対応したのだ。
「すまない。一応全員に声をかけたのだが」
「構わない。身体の調子は?」
「ああ、絶好調だ。背後の艦娘達は貴方の連れか?」
「ああ、紹介しよう」
すっと提督が横に横に避けると、背後にいた艦娘達は分かりやすいように横隊に並ぶ。
「私たちは面識ありますが、改めまして、大和型戦艦一番艦、大和です」
「大和型戦艦二番艦、武蔵だ」
「改めまして、航空母艦、鳳翔と申します」
「うちは初めましてやな!軽空母、龍驤や!よろしゅうな!」
「私も面識あるけどねー。軽巡、北上。まーよろしく」
「球磨型の木曾だ。よろしくな」
「なんだが新鮮で気恥ずかしいですね。大淀です。よろしくお願いします」
「戦艦長門だ。よろしく頼むぞ」
挨拶が終わると、武蔵が一歩踏み出し笑顔で右手を差し出す。
それに対して、長門も右手を差し出して握手する。
瞬間、とんでもない轟音とともにお互いの顔面が弾け飛ぶ。
「きゃあ!?」
大淀だけが驚き尻餅をつき、龍驤と北上はニヤニヤと笑い大和は笑顔のまま。
鳳翔は頭を抑えてため息をつき木曾は長門に対して小さく感嘆の声をあげた。
2人は
「ぐっおお、流石はビッグセブンだ。頭に響く」
「っ…長門型の装甲は伊達ではないよ」
武蔵と長門はお互いに大声で笑う。
「な、何してるのですかこの脳筋共ー!!」
大淀のツッコミに、周りの者達は噴き出すのだった。
ーーーー
「何なんですか…この書類は…」
「あっはっは!不正ないの見つける方が難しいんちゃうか」
長門に提督室に案内された大淀は頭を抱え、龍驤はけらけらと笑い、大和は顎に手を当てながら書類に目を通す。
「まぁ、半年もの間ですからね。吹雪ちゃんが来たら可能な限り整合性をとりましょう」
「こりゃ、武蔵達が確認に行った備蓄も全部あちらさんに行っとるやろなぁ」
「考えないようにしていたのに言わないでくださいよ…本部支給の準備が出来るまでは本当にギリギリの運営ですね…しかし設備は無事どころかしっかりと手入れされていたのは何故でしょう」
「恐らく深海棲艦の拠点にでもするつもりやなかったんか?」
「実際そうでしょうね。姫が出たと言うことは、そこから侵攻するつもりだったのでしょう」
実際にそんな事になれば、日本は終わっていただろう。
大淀はその話に、もしもを考えてゾッとする。
しばらくすると、ドアをノックする音が聞こえ、入室を促すと補給庫に向かっていた武蔵、木曾、そして吹雪が入ってくる。
「どうでしたか?」
「案の定空っぽだ。殆ど備蓄はないな」
「あれ?他のメンツはどないしたん?」
一緒に行った筈の提督がおらず、龍驤は武蔵に問ひ返す。
「提督は鳳翔と間宮の方に向かったよ」
「北上姉さんは営内に向かった。艦娘達の状態を見てくるらしい」
「あっちには今香取さんと川内さん達三姉妹がいますので、話を伺いに行くそうです」
「わかりました。あ、吹雪さん。申し訳ないですが、書類の整合と確認一緒にお願いできますか?」
「あ、はい…」
吹雪は暗く俯いて、申し訳なそうに大淀の方に向かう。
この不正書類の殆どは吹雪が前提特に命令されて作ったものだった。
横を通り抜けようとした罪悪感で押しつぶされそうな吹雪の背中を、龍驤は力一杯叩いた。
「気合いいれんかい!!」
「っぴゃい!?」
突然の事に吹雪は情けない声を出して涙目になりながら背中を摩る。
吹雪の声に提督室の面子は大笑いし、吹雪は軽く頬を赤らめる。
「暗い気分で仕事してもはかどらんで!!自分がようわかるんやから頼むで!!」
「は、はい」
「声ちっさ!!」
「はっ、はい!!」
龍驤はにししと笑いながら、今度は軽く吹雪の背中を叩く。
そんな吹雪の右肩を大和が、左型を大淀が軽くてを乗せる。
「頼みましたよ」
「書類仕事、逃げれると思ったら大間違えですからね」
笑いかける笑顔に、吹雪も少しだけ笑顔になるのだった。
ただ、大淀の笑顔は本当に獲物を逃さない笑みだったので、少し引いてしまうのだった。
ーーーー
どうしてこうなった。
なぜか龍田はいま天龍と一緒に厨房の手伝いをしていた。
最初は長門から今日から提督が着任すると聞き、天龍が提督に礼を行くと言いだしたので、必死に止めていた。
また私たちを騙しているかも知れない。
また裏切られて酷い目にあうかもしれない。
だから辞めろ。
行くだけ無駄だ。
何が何でも行かせないと腕を引っ張る龍田に向かい合い、天龍は困ったように笑いながら答えたのだ。
「アイツなら大丈夫さ」
何が大丈夫なのだろう。
その根拠は一体どこから出てくるのだ。
見た目によらずどこまでもお人好し。
その左眼を完全に失ってしまったのもヤツと同じ人間のせいだと言うのに。
それでもチビ達を助けてくれた義理を果たすと言う天龍の言葉に反論出来ず、しかし一人にするわけにも行かずと渋々と付いてきていた。
営内から出て、提督室のある隊舎に向かう途中、こちらに向かってくる長門と松葉杖をついた北上に出くわした。
「おお、北上。久しぶりだな」
「やぁー天龍に龍田、久しぶりぃ〜」
「あら〜お久しぶりね〜」
「2人とも何処かに行くのか?」
長門の質問に一気に不機嫌になる龍田の様子を見て、長門は笑いながら答える。
「提督なら鳳翔と一緒に食堂に向かったぞ。食事の手伝いが必要か見てくるそうだ」
「そうか、ありがとよ」
「ところで、営内はどんな状況なのさ?」
北上の質問に、若干天龍の顔が曇る。
「比較的に那珂のお陰でだいぶマシだが、羽黒と霰、山風がヤバイ。特に山風に至ってはやっとさっき落ち着いたところだ。叢雲もまぁ大丈夫だが、摩耶はダメだな。多分提督と顔を合わせた瞬間に殴りかかる」
天龍は一度言葉を止め、真剣な表情になり北上に質問する。
「俺たちは隣に閉じ込められれていたから知らなかったが、那珂が羽黒やチビ達の身代わりになっていたって本当か?」
「うん、吹雪の話によるとねー。一生懸命自分に注意を引いて、自分以外は最小限の被害にしていたみたい」
おかげで本人は酷い有様だったけどと続ける北上の言葉に、天龍は頭を抱え、隣の龍田からはものすごい怒気が放たれる。
「那珂は凄い。そんな状態でも他の艦娘を気にかけて、今もその子達の為に世話を焼いている。我々の自慢の仲間だ」
長門言葉に、天龍は少し微笑みながら頷き、龍田も少し落ち着く。
「それに、助けてくれたアイツにも礼を言わないとな。それじゃあな2人とも」
片手を上げて別れを告げると、天龍と龍田は食堂へ向かうのだった。