東国戦遊志~紅~(東国幻想郷シリーズ)   作:JAFW500/ma183(関ケ原雅之)

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自らを犠牲に弟の孫悟空たちを守ったラディッツ(if)、不思議な流れに導かれ彼がたどり着いた場所は幻想郷の『あの世』、裁ききれない罪を背負いつつ彼は新たな道を行く。
サイヤ同士の誇りをかけた死闘は終わった。ターレスは消え、ラディッツが残った。
朦朧とする意識の中、ラディッツは限界の体のまま一人里を目指すが、途中で倒れてしまい…。
あれから1300年、妹紅はついに宿敵と会うことなく今に至った。しかし先日、止まっていたその時もまた動き出した。変わってしまった心を前にその宿敵とどう向き合うのか…。
【注意】
この作品は『ドラゴンボール』、『東方プロジェクト』の二つの作品を主に元ネタとしたクロスオーバーものです。
(注)今回は前半が、バーダックがドドリアと戦った当日の夜(レイム戦)。後半が、バーダック修行へ出発後(フリーザ戦の後)となります。
このシリーズでも、本編同様に「オリジナルキャラクター」・「オリジナル設定」が出ます。
ドラゴンボールZ本編のラディッツとは「別の道」を歩んだ「このラディッツ」の過去は『紅の第零話』となりますので、新鮮な気持ちで見てもらえると嬉しいです。
最後に、どこかでこのシリーズは動画化まで行けるかはまだわかりませんが、動画版のお便りこコーナーやこの話に彼やその仲間たちが出たときは、是非頑張っている彼らを応援してもらえると嬉しいです。



東国戦遊志~紅~#5 千歳の炎

[chapter:哀しき決着]

<???>

視界がかすむ中、ラディッツは里を目指して飛び続ける。決着はついた。

「…。」

視界がかすみゆくが、どうってことは無い。目指すべき里の明かりは見え始めているのだから。だが、どこか空しさというものがこみ上げてくる。最後にあいつが残したあの言葉が。

 

 

この世界に残るのは…………この俺じゃあねぇ…、誇り高き心を受け継ぐ…………ラディッツ……貴様の……方…………だった…………。

最期にその言葉を残すと彼の体は灰に還り、吹雪と共に消えていった。

 

 

「……。」

月の光が虚しさを込み上げさせてくる。忘れかけようとしていた同じ時を生きた同胞への思い、そして去り際にあいつが気づかせたサイヤの誇り…。あの鬼と戦った時もそうだった。やはりこの俺はサイヤの血を引く者だった…。

「ぐっ!?」

突如ラディッツの体を激痛が襲った。痛みを軽くするため解かずにいた魔力が底をついてしまったのだ。

 

ラディッツは、バランスを崩しスピードがついたまま全身を強くその地に叩きつけた。

 

「ま…まだ…。」

ラディッツは、膝をつき何とか立とうとするも力が入らずまた倒れてしまう。

「……っ。」

ここで死んではならぬ。必ず生きて戻ると杯を交わしたあいつが信じて待っているのだ。

「俺は、…生…きる…………ぞ…。」

 

[chapter:過去の追憶]

あれから、どれぐらい時がたったのだろうか。気が付いた時には、見知らぬ部屋で寝かされていた。そして、体中あちこちに包帯が丁寧に巻かれている。どうやら、この処置を施した者はかなり医学系に精通した者だろう。

「……。」

まだ、ぼんやりする頭を持ち上げつつ辺りを見回す。

周りには誰もいないらしいが、足音が一つ、誰かひとりこっちに向かって来ている。

「……。」

ラディッツは、横を向いた。相手が切りかかったときすぐに迎え撃てるようにするためである。

足音がふすまの前で止まった。

「もう起きているぞ。」

あちら側にいる者に向かって言った。そして、ゆっくりとふすまが開いた。

「気分はどう?」

白衣を羽織り、眼鏡をかけた長髪の女性だった。手に持っているのは盆と水。そして白衣から漂うツンとくる薬品の香。どうやら、この方が自分が受けた傷の処置をしてくれたらしい。

「まだぼんやりするが、問題ないだろう…。」

そう答えるとラディッツはまた仰向けに戻った。

「最悪だな…。」

ふと、その言葉が流れ出てしまった。

「……?」

彼女は、不思議そうな顔でこっちを向いた。

「体調じゃねえ…。こっちの身の上話だ…。」

普通の医者ならそのまま聞き流すだろう。だがその者は、心配そうな顔をして耳を傾けた。

「顔色良くないわね…。その話、少し聞いても…?」

「まあいいだろう…。」

分かってもらえるか、微妙な話だ。だが、患者であるこの身を心配し、耳を傾けようとする者が目の前にいるのだ、ここで言わなければこの人に申し訳がないと思いその口を開いた。

「久しぶりに同じ故郷から来た奴と戦った。そいつもかつての俺と同じく帰る場所のない奴だった。最初は分かち合い、共にこの地で生きていける奴かもしれん、そう思ったがあいつは違う。あいつはかつての俺が持っていたのと同じ『純粋な心』しか持っていなかった。この幻想郷で生きていくことはできん。俺はそいつを倒し、別の場所へ行くように言った。だが、彼はどこかへ行くことを断り自分の生涯をその手で断ち切った。この俺に誇りを託してな…。」

その言葉を耳にした医師はこう返した。

「貴方は、もともとこの地上の住人ではなかった…。」

「そうだ、俺は人間でも妖怪でもない。帰るべき場所がなかった宇宙人みたいなものだ。」

「宇宙人ねぇ…。」

なぜか、ため息交じりにその言葉を返された。やはり、『宇宙人』と言ってしまったのは現実味がなかったのだろうか。だが、この尻尾がある以上『人間だ』と言うのも無理なものかもしれない。包帯が巻かれている以上もうこの尻尾も見られたはずだからだ。逆に『妖怪だ』と言ったとしてもこの場から追い出され、『退治』されるかもしれない。そもそも、『地上の住人』と言われてしまった以上バレているのかもしれない。

「貴方の正体はもうどうでもいいわ。それより、貴方、何か仕事でもやっているのかしら…?」

ラディッツは、この目の前にいる医者の鋭さに感服するしかなかった。やはり、この医者体だけでなく心まで診ているのではないだろうか。

「その通りだ…、だが仕事といっても人助けに近いのかもしれん。」

「例えば…?」

「すこし前だったが、千年近く宿敵に会えず心が死んでいた奴を助けようと立ち上がった奴に手を貸した。言葉で言い尽くせんほど悲しい奴だ…、死ぬにも死ぬことが出来ず、かつて犯した罪から逃れることもできず、そして殺してやろうと思う相手にも会う事も出来ない。だが、そんなあいつにも手を差し伸べる者が現れた。今も人間の里というところで寺子屋をやっているが、不老不死の呪いから這い上がることのできん彼女に寄り添い、その苦しみを背負ってやろうと戦っている…。結局、あいつは罪と向き合いつつ罪と戦い、『隠れずに生きる』ということを選んだ。もっとも、俺はその傍観者として、邪魔する奴を蹴散らすことしかやってないがな。」

 

ここは幻想郷、常識だけでは理解できない世界に俺たちはいる。おそらくこの目の前にいる医者もそんな感じを持っているのかもしれない。

「分かったわ…。」

「理解できたのか…。」

ちょっと驚きだった。こんな抽象的な話を信じてくれたのだから。やはり、その国に住む者がこの世界を作っているのかもしれない。

「ええ、『分からない』ことが分かったのよ。」

そんなことは無かった…。

「でもこれで一つ片付いたわ…。貴方は、体調が戻るまでそこで寝てなさい。」

そう言うと、持ってきた盆を下げ、そそくさと部屋を出ていった。

「寝るもなにも…、目が覚めてしまっただろうが…。」

さっきまでぼんやりとしていた意識が戻ってきた。ふと、光が映る障子の方を見てみる。風に揺れる葉のこすれる音、かすかに聞こえる鳥のさえずり、穏やかに照り付ける日差し。昨日と打って変わって温かい春の風が吹いている。障子は締まっているが、なんとなく心地の良い風が吹いている感じがする。よく考えれば、らしくないことばかり言ってしまった。三途の川を超えた時も、あのサイヤ人と戦うか迷っていた時も。

「……。」

気が付くと温かい一縷の涙が頬を伝っていた。純粋なサイヤ人のままならこんなものを流すはずがなかったのに、帰る場所なんて気にする必要もなかったはずのに…。孫悟空と会ってオレの全ては変わってしまった。あいつと過ごすうちに忘れかけていた『情』がまた湧き出してきた。そして、幻想郷に来て今度は『帰る場所』が出来てしまった…。もう過去の俺には戻れない。だが、オレはここまで進んできた。そして、受け継いできた『心』というものがある。

「ッ!!」

ラディッツは、しまっていた障子に手をかけると一気にそれを開いた。

「…。」

温かい春の風が部屋を満たしていく。そして、今まで背負い続けていた肩の荷が少し降りたような気がした。

「新しい季節の始まりか…。」

「私もそう思います。」

障子をあけ放った縁側の奥から綺麗な服をこしらえた少女が一人ゆっくりとこちらへ歩いてきた。

「それぞれの冬を超えて新たな世界へと進む…。永遠に続く輪廻のはずなのになぜ新しく感じるのか、不思議ですねこの国は。」

「『不思議』か…、俺たちにとって見慣れた景色かもしれんが、立ち止まり視点を変えると意外なことが見えるものだ…。」

「ここは、ときを忘れ生きることのできる場所か…?」

「生きる者は皆時を刻み続ける。ときを忘れることはできても時は刻み続けるものですから…。」

その少女も外を見つめこう告げた。

「ここは、永遠亭。静かに時を過ごそうとする者たちが集まった場所です。どうか他の方には…。」

「わかった。口は堅いほうだ…。」

「ありがとうございます。それと…、一つ手紙を頼んでも…?」

「構わん、だがあまり長居はできんぞ。」

「すぐ持ってきますわ。」

ラディッツは、そう約束すると服装を整え、敷いてもらっていた布団を一か所に綺麗にまとめ出ていく準備を整えた。そして、支度が終わった頃、ラディッツは手紙とあるものを受け取った。

 

<迷いの竹林>

「私宛のお便りか。」

「そうらしいな…。」

あれから一週間後、ラディッツは一人妹紅の家を訪ねた。あの時受け取った手紙を持って。

「…………。」

妹紅は、開封されてないその封を切ると中から一つ手紙が出てきた。四つ折りになったそれを開き、ゆっくりと読んでいく。

「…………。」

最初は普通に読んでいた彼女だが読み進むにつれ徐々に厳しい顔になっていくのが見える。そして、一番下に書かれた差出人の名を以てすべて読み終わった。

「ラディッツ、正直に言ってほしい…。今日なぜここに来た。」

湧き上がるものを必死で抑え、ラディッツに問いかける妹紅。手紙にはおそらく自分のことも書かれている。本当のことを言わないと殺されるだろう。

「わかった…、知っている限りだが、すべてを話そう……。」

 

[chapter:千歳の炎]

<迷いの竹林(開けた場所)>

平安から1300年、止まっていた私の『時』はつい最近になって動き出したばかりだった。上白沢慧音、彼女は私の愚かな過去の話を受け止め、寄り添ってくれている。愚かな人間ほど、他の人間の愚かな行動を嫌うというのに…。さらに不思議なことに、手紙を持ってきた『あいつ』はまた私の所を訪れに来た。かつてコテンパンに叩きのめしてしまったというのに、恨むことも復讐しようとも思っていない。そして、先日修行に出ていったあの『流浪人』、どこかかつての『私』を見ているような気持ちだった。輝夜に対して復讐の心が強かったあの時の自分を。

 

「ここだな…。」

ラディッツは、妹紅を約束された場所に連れてきた。日没から数刻、持ってきた提灯を消し、妖術の灯に変える。

「ここから先は…分かっているね…。」

「手出しはせん。俺は一旦引く。だが、戦いが終わるころにはまた戻ってくるだろう。」

そう言い残すと、ラディッツは来た道の方へ向かい暗闇の中へ消えていった。

彼が離れたのを見切ると、妹紅は手元を照らす炎をかざし、広場の中央へ向かった。

「…。」

広場の真ん中に木が組まれて置いてあった。彼女は、持っていたその炎を投げ入れるとたちまち大きな炎が上がり辺り一面を照らす。

「1300年、待たせた。」

その炎の彼方に見える一つの影に向かって妹紅は言った。

「やっと一つ、過去の清算をする気になったのかしら。」

「ケジメってやつだ。不老不死を選んでしまった私とお前の…。」

妹紅は、ポケットからその手紙を取り出すと燃え上がる炎にくべて、その仇敵の顔をしっかりととらえた。あの時と何一つ変わらぬ顔だった。

「始めようか、殺し合いを。」

 

「何を以て〆とするの…。同じ永遠を持つ者同士じゃあ決着つかないのよ…。」

 

「夜明けが見えるまで。」

 

互いの命を懸けた死闘の開幕は、妹紅の出す炎の弾幕から始まった。容赦のない炎の雨が輝夜を襲う。だが、彼女はその炎の中に突っ込むとすれ違いざまに妹紅の首筋に線を一つつけた。

「…っ。」

妹紅の首から血がしたたり落ちる。だが、かすったぐらいだったので致命的でもない。

「…。」

輝夜は妹紅の方を向いた。今度は色鮮やかな弾幕を一斉にあたりにちりばめ、妹紅にその矛先を向けた。

妹紅に向かって一斉にその弾が襲い掛かる。よく見るとその七色に彩られた弾々は父が彼女から与えられたといわれる難題、蓬莱の玉の枝を思い出させた。だが、避けようと思っても密に組まれ、避ける幅が一切ないため全弾くらわなければならない。

「くそっ!!」

妹紅は咄嗟に炎を使い周りの弾幕を焼き払ったが、彼方から無限に迫りくる弾々を迎え撃つにはとても儚いものだった。

轟音と共に無数の弾が妹紅を貫く。耐え難い激痛にたまらず彼女は叫び声を上げた。その声は彼女が繰り出す不死鳥のようにどこか哀しく、切ないものだった。

だが、そんなことにもお構いなしに七色の弾が打ち付ける。美しいはずなのにどこか無慈悲なものが滲み出ているようにラディッツの目には映った。

 

そして、妹紅の叫び声が消えてしばらくたつと輝夜はその弾を止めた。

 

妹紅の着ている服はあちこち破れ、肩から先の部分はちぎれている。

「…。」

輝夜は、絶命している妹紅のそばに近寄り、見つめた。どこか哀しいような虚しいような目をしている。

「まだ…、勝負はついてないんじゃあないか…?」

「!?」

突然、輝夜の体が炎に包まれた。

「………くっ。」

輝夜は何とか炎を振り払おうとするも取れない。妹紅は、既に背後を取っている。目の前にあったのは抜け殻だったのだ。妹紅はすぐに何かを唱え始め、不死鳥を繰り出した。

「こっちも死んだんだ…。お前にも死んでもらう。」

そう言い切るとその不死鳥を輝夜に向かって突撃させ、一気にその身を灰へと還した。

当たりに焦げくさいにおいが立ち込める。輝夜を消し炭にした際周りの草も共に燃やしてしまったのだ。

だが、妹紅にとってそんなことはどうでもよかった。やっと長年背負い続けてきた苦しみをあの憎き相手に味合わせてやることができたのだから。だが、不老不死になって以来背負い続けたものはまだまだ尽きることが無い。

「この程度で白旗上げるなよ、輝夜。まだまだこの苦しみを味わってもらうからな。」

まだ、あいつの姿は見えてないが自分から逃げるはずはないと妹紅は考えていた。客人を招いた主が宴会の最中勝手に出ていかないのと同じように、この戦いを仕掛けた以上、彼女から退くはずがない。そして、自分が倒れてもあいつは容赦なく弾幕を打ち続けた。間違いなく命を懸けた真剣勝負をしているのだ。

「そう焦らなくても…、じっくり味わうつもりよ。」

突如、辺りをまぶしい光が包んだ。それは、離れて見ていたラディッツにも届いた。近くにあった竹の筋一つ一つがはっきりと見えてしまう程ほど明るい光なのだ。

「なら、次は前菜にしてやろうか。」

「どんな味の効いた料理を出してくれるのかしら。」

「長年味わってきた辛酸ってやつをお前にも舐めさせてやる!」

 

それからは、容赦のない技のフルコースをお見舞いし合う戦いになった。

輝夜の放つ弾はただ美しいだけではない。詫び・寂び、無常、儚さを描いた単調けれども精巧に組まれた技が繰り出されたと思えば、今度は竜宮城やかげりなき満月の月のように明るく、様々な色に満ちた豪華絢爛、煌びやかかつ華々しき無数の弾が放たれる。

妹紅もまた、ただ技を放っているだけではない。輝夜が先の技を出せば、優しい光の弾を以て返し、輝夜が後の技を出せば、不死鳥を降ろして紅き炎を一斉に放ち迎え撃つ。

命を懸けた真剣勝負でありながら、互いに『粋』を以て殺し合いをしている。そして、遠く離れてそれを見ると一つの美しい花火を次々に見ているように思われる。これまでラディッツの生きてきた世界では決して見ることのできないものであった。そして、その殺し合いを見守るうちにラディッツは、殺しあう仲のその先の世界を見出しているように感じてきた。

「なかなかやるじゃあないの、妹紅。」

「厳しい難題をまた吹っ掛けてきやがって、本当に憎らしい奴だな。」

両者とも普段ではあまり見ることのない生き生きとした顔をしている。服はボロボロになっていくのに心はますます蘇っていく。生きている世界観は違えども、同じ時を二人、それぞれ感じているのだ。

「夜明けが…。」

「近くなってきたな…。」

殺し合いが始まって数刻、東の空の彼方が青く染まりかけている。そろそろ、この殺し合いも幕を下ろさないといけない。

「ならば、次の一撃で決着をつけようか。」

「よろこんで。」

二人は互いに距離を取ると、大技を繰り出す準備をした。

そして、互いに構えたのを確かめると、同時に叫んだ。

 

凱風快晴 ――――フジヤマヴォルケイノ――――

 

蓬莱の玉の枝 ――――夢色の郷――――

 

 

「決着は…?」

「もう着いたわ。」

あれからしばらく経ち、ラディッツはさっきの場所に戻った。

「随分派手にやったものだな…。」

辺りは一面焼け野原になっていた。だが、問題ないだろう。またしばらくすれば新たな芽が出て、ここも自然へと還るはずだから。

「妹紅ったら全然容赦ないんだもの。」

一つ分かったかもしれない。やはりこの二人は殺し合いというより『殺し愛い』といったものをしていたのではないのだろうか。。

「それより、一々この俺に頼まんでも、矢かなんかで届ければいいんじゃないか?」

「私もそう思ったのよ。でも永琳がなかなか難しい顔のままで…。」

「永琳…。あの白い服を着た奴か…。」

「そう。それで、行き詰っていたところに。」

「俺が落ちてきた…。」

「最初はいろいろと大変だったわ。でも、永琳があなたの話を聞きにいったとき、この手を思いついたということなの。」

「そして、手紙を渡して妹紅を来させた。」

「永琳は、約束を守れるか心配していたわ。でも、貴方は約束を守った。」

「それぐらい当然のことだ。依頼人から来た約束を手伝うのがこの俺の仕事だからな。」

「これで、彼女も少しは貴方のことを信頼してくれると思うでしょう。」

「また何かあったら駆け付けよう。もっとも行くのは俺一人だがな。」

「お力添えの程よろしくお願いしますわ。」

「よろしく。」

「それから…。」

輝夜は一つ付け足した。

「あのウサギは、今回のお礼です。どうか、大切に預かってもらえると嬉しいのですが…。」

「いいだろう。こっちもこれぐらい可愛いのが一匹欲しかったからな。」

そう返すと、ラディッツはゆっくりと宙に浮いた。

「では、さらばだ。」

「お気をつけて。」

朝日が昇りゆく中、一気に北を目指しラディッツは戻ってゆくのであった。

 

[chapter:触媒]

<永遠亭>

「ただいま。」

少し部屋が騒がしくなりゆく中、輝夜は永遠亭に戻った。

「おかえりなさい、輝夜。」

まず初めに出迎えたのは永琳だった。

「鈴仙を通じて、確かめたわ。」

「私が言った通りでしょう。」

「今回はその通りでした。しかし、月の使者が追っている以上慎重になることにこしたことはないと思います。」

 

今回の騒動は、私にとっても永琳たちにとっても想定外の事だった。そもそもここは迷いの竹林。簡単にこの場所を見つけることはできないはずなのだ。そして、永琳が張った幾重にもわたる結界。生きる者がこの中に入ってこれるはずがないのだ。しかし、あの夜、轟音と共に何かが突っ込んできた音が聞こえた。その音を聞いて、皆飛び起き、焦った。満月から二日後のはずなのに月の民が攻めに来たと思ったのだから。

あのとき、一番焦っていたのは永琳だった。かつて起こった蓬莱の薬の一件以来、彼女は些細なことでも気を付けるようになった。この前の満月の時に張ってあった結界をもう一度かけなおすほどの慎重さである。その分、結界を突き抜けてきた彼を見た時は、何が起こったのか分からず固まっていたのだ。

二番目は鈴仙。彼女はもともと月の都で起きた戦争が始まる前にこの地上に逃げてきた。生まれ持ってのものであろう臆病さ。戦おうとする永琳とは対照的にかなり後ろの方で青くなって怯えつつもこっそり見守る方を選んでいた。

三番目はおそらく私。

そして、四番目がてゐだったと思う。

 

最初は皆、月の使者が攻めてきたと思っていたが。その疑いは一旦晴れた。普通、人間ではありえない尻尾があったこと、そして死にかけているにもかかわらず人の容貌を保っていること、そして体のあちこちから出血していること。永琳はかなり悩み一つ選択肢を取った。それは、一旦死にかけている彼を救護しつつ、自白剤を飲ませ素性を聞き出すというものだった。もし、月の使者であるならここで抹殺し、人間であるなら記憶をあいまいにさせ、ここから締め出す。

だが、ある一言ですべては変わった。『藤原妹紅』、かつて私が月から地上に流されたときに押しかけてきた庫持の皇子の娘、宿敵の名前だった。それを聞いた永琳は、一つ妙案を思いついた。この男を『触媒』にして、私と妹紅で一対一の決着をつける。それなら、私の退屈も少しは何とかなるかもしれないと思ったのだ。しかし、この男が月の民の手先である可能性がある以上そのまま信じることはできない。

ならば、その男にてゐの配下の普通のウサギを持たせ、彼が寝静まった頃にそのウサギが抜け出し、新しい仲間とこっそり変わってその情報をリレー方式で伝えるというものであった。そして、約1週間彼を監視し続けて分かった。彼は白。そして、何かあったとき何かしらの力になれることが。

「ただ――――」

僅かだが、彼女の考えが変わった瞬間だったのかもしれない。

「『触媒』として動く彼だからこそ、『月の民であった』私たちでは見えない『勘違い』の真実があるのかもしれない。」

 

「お師匠様、支度できましたよ。」

奥の方から、イナバの明るい声が聞こえる。どうやら、彼女も落ち着きを取り戻したらしい。

「わかったわ。」

「今行きます。」

永琳と共に朝食の準備ができた広間に戻る。ただ、これはまだはっきり言えないのだが、ちょっと彼らが生きている幻想郷に憧れたのかもしれない。彼らは私たちとは違い地上という世界でそれぞれ自分の道を歩んでいる気がするのだ。また今度てゐから彼らの活躍を聞いてみよう。この退屈な世界が少しでも楽しい世界になるように。

 

[chapter:おかえりなさい]

<中有の道>

ラディッツは、一人お気に入りの腰掛に座ってくつろいだ。

「この数か月でいろいろと変わるものだな。」

新しく増えた部下たちを見ているうちに、ふと、あの日の思い出がよみがえった。

 

出発から5日、ラディッツは紆余曲折を経てやっと仕事をやり切り無事戻ってくることができた。企画の日でもないのに小町をはじめ多くの人々が彼の帰りを温かく迎えてくれた。

「待たせたな。」

「「「「おかえりなさい!ラディッツ!!」」」」

長年喫茶店をやってきたが、これほど心に来た日は無かった。そして、もう一度気づいた。自分の帰るべき場所はここにある、誰だって帰りを待つ者はいるのだと。

「随分派手に戦ったんだねぇ…。」

「俺は一度死にかけた。だが、受け継いだ言葉があったからまたここに帰ってこれた…。」

「お前さんのことを待っていたんだ。最初だから、主役がいないと終われないって。私もここにいる皆もそして…。」

「久しぶり、ラディッツ。」

ラディッツは言葉を失った。そして、じわじわと心の奥底から温かいものが湧き上がっていくのを感じていた。

「第一回放送記念のサプライズとして呼んだんだ。あと、この前の酒代返してなかったはずだろう?」

その言葉を聞いた時、ラディッツはその場に倒れそうな気持ちになった。だが、情けない姿は見せまいと踏みとどまり体だけは持ちこたえる。しかし、この頬を伝わる温かいものは止めることはできず、ただ一言「ありがとう。」というのが精一杯だった。

 

「おい、ラディッツ!次の回のお便りが届いているぞ!」

予言魚の言葉ではっと我に返る。どうやら、少し顧みすぎていたようだ。

「あ…ああ、わかった。今行くから待ってろ。」

ちょっと間の抜けた返事だったが、今日はいいだろう。やっと、掛かっていた霧も晴れてきた頃だから。


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