転生したら『やぶれたせかい』の主だった件   作:名無しの転生者

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スライムとの邂逅

「ヴっ……ヴ〜ン……」

 

 あれ、俺死んだんじゃあ……あっ、ここ地獄か。

 

 あの時身体を打ち付けた痛みは何故か消えていた。

もしここが閻魔様の御前であるならば不敬にもほどがあるというものだろう。

そんな心象とは裏腹に俺はゆっくりとまぶたを上げ、のっそりと身体を起こして周囲を見回していた。

 

 ざっくり表現すれば水晶の洞窟、といったところか。

 地獄と言えばもっとマグマが溢れた地下世界みたいなところを想像していたけど……そんなことはないのかな。

 

 しかし妙に自分の視点が高いような……身体も大きいよ、う……な?

 

ふと、俺は水晶に映る自分を見てしまった。その現実を直視出来ず、直ぐに目を背けて深呼吸を始める。

 

「スオォォォォォゴオォオォ」

 

息が荒いというか、到底人が出せるような呼吸の音ではなかった。

 

 意を決してスっと視線を下に移せばそこにあるのは灰色の身体。

 後ろを振り向けば下半身はムカデじみた6本脚。それに繋がるのは薙ぎ払いをしたら強そうな尻尾。いけっ!ドラゴンテールだ!

 

 

「ギゴガゴーゴーッ!!!?」

 

 

 うえええええええぇぇぇぇええ!!!?俺ってばギラティナになってるぅぅうううぅぅぅう!!

 

 

 いや、落ち着け落ち着け。素数は数えなくてもいいが……あぁそうだ、死ぬ前の走馬音みたいなのを聞いていたよな。

 

 確か転生がどうとか獲得がどうとか言っていたような気がする。

 その全てを思い出すことは叶わないが、この惨状を見る限り俺はギラティナとして新たに生を受けたとして間違いないだろう。

 

 恐らく、きっと、maybe.

 

 ……そういえば俺のレベルは幾つくらいなのだろう?

 

 

(HGSSみたいにLv.1からスタートではないよな……?)

 

 

「ギゴッ?」

 

 

 ん?何か気配を感じたな。そりゃあポケモンになれば人より五感とかは強化されていると思うが……視認すらしてないのに気配だけを感じるのは何だか怖い……。

 

 

 いや待て、この気配なんか強くないか?

 もし俺を「ポケモン、ゲットだぜ!!」とかいうノリで捕まえようとするスーパーマサラ人だったら──

 

「ギゴガゴーゴーッ!(とりあえず逃げの一手だぜ!)」

 

 何故か俺の頭の中に『やぶれたせかい』への扉を開く方法が急に浮かんできたのでその直感に従うことにした。

 

 自分の足元で渦が巻くような感じをイメージして……

 

 

 ズゾゾゾゾゾゾ、と周りのジャリンコや鉱物が巻き込まれる音がする。『やぶれたせかい』への門が開いたのだ。

 その門の流れに身を任せて俺は洞窟を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大賢者、本当にここなんだよな?」

 

 

 ――解。肯定します。しかし現在は膨大な魔素をこの場に残した以外、対象の痕跡は確認出来ません。

 

 ジュラの森大同盟の盟主であるリムル=テンペストは顎に手を当てて思案していた。

 豚頭魔王(オーク・ディザスター)による戦乱から数週間が経過した。先程までリムルは今回生き残った約15万人のオーク達の名付けを行っていたのだ。

 

 もう少しで14万人かな、そう思っていた矢先に突如ヴェルドラよりかはやや劣るがとんでもなく禍々しい妖気(オーラ)の反応を確認した。

 

 ベニマル、ソウエイ、シオン、ハクロウらが自分が一番槍を!と言ったがここは俺に任せてくれとリムルは十数分の説得の末に御することが出来た。

 

 

 わざわざリムル自ら出向いたのには理由がある。

 

 まずヴェルドラがいた封印の洞窟に易々とソウエイらの包囲網を掻い潜って辿り着くことが出来る可能性が低いこと(他の魔王とか俺以上の実力者だったらなくはないが)。

 

 次にこの状況はリムルにも既視感がある。異世界転移してヴェルドラを捕食してから初めて洞窟の外に出た時のことだ。

 リムルは妖気(オーラ)を隠しもせずにそこら辺をうろついていたためにゴブリン達や他の魔物達を怖がらせてしまっていたのだ。

 

 もしかしたら転生者なんじゃないかな、とちょっとの期待を込めてやって来たが……結果はもぬけの殻である。

 

 

「また出てくるまで待とうかな……いやでも同じところに出てくるとは限らないし」

 

 とヴェルドラとの思い出の洞窟を去ろうとしたところで彼の大賢者が待ったをかける。

 

 ――告。時空の歪みを検知しました。早急に30m程離れることを推奨します。

 

「ほお、そっちから来てくれたのか」

 

 

 リムルがその場から少し離れるとヴェルドラが鎮座していた場所の地面に深淵が渦を巻いた。

 

 ここら一帯が水になったのかと錯覚するように地面に黒い波紋が現れる。

 雨が降っているのでも水たまりが出来たわけでもない。

 これは虚空が口を開く合図、そして反転世界の主を現し世に送り出すためのプロセスである。

 

 渦の中からバサリ、と翼が飛び出した。

 虫に食われたようにボロボロのソレを翼と形容するには少々心許ないが、不思議と威圧的な妖気(オーラ)を醸し出している。

 両翼の頂には赤い三本の棘が顔を覗かせた。平面的な翼から突起が生えるというのは些か理解がし難いだろう。

 

 渦の中から浮かび出てきた影に包まれたソレはゆっくりとリムルに赤い眼光を向けた。

 

 リムルの頬に一筋の汗が滑り落ちる。ヴェルドラ並、とは言わないがあまりにも妖気(オーラ)が強大過ぎる。

 可能な限り敵対は避けたいが、今の今まで一言も発していないソレと意思疎通が出来るかも怪しい。

 

「ハ、Hello ?」

 

 何故かリムルの口をついて出たのが英語だった。ましてや相手はドラゴン、竜だ。言ってから言葉が通じないんじゃと思ったが……。

 

 なんとその竜は翼の鉤爪(のような赤い突起)を使って洞窟の壁に何かを書き始める。

 

 ゴーリゴーリとした音がなり続けて数分後、翼で頭部の汗を拭うような仕草をした竜が出来たてホヤホヤのソレを翼で指し示した。

 

『ボクはわるいドラゴンじゃないです。ただ、しゃべれないしこのばしょのことがよくわかりません』

 

 無駄に達筆で書かれた日本語だったが、この竜の意図することをリムルに伝えるには十分なものだ。

 

「お、おう……」

 

 とりあえず目の前の竜が明確な意思を持っていることにリムルはひたすら安堵するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しゃ、写生持っててよかった……!!

 

 なんで持ってるかは十中八九あの天の声(これからそう呼称することにした)のせいだ。ギラティナが写生を嗜むとか聞いたことないぞ俺は。というか写生で字が描けるとはこれ如何に。

 

 ここで「ギゴガゴーゴーッ!」って叫んでたらギラティナ戦のBGMが流れて俺はマスターボールかなんかでゲットだぜ!!ってされていたか彼……彼女?の経験値要因にされていただろう。

 

 声があの鳴き声のままとか不便すぎだろぉ!!なんか映画アニポケの伝説のポケモンみたいに思念伝達する方法があれば……。

 

「なぁ、君はもしかしなくても喋れないんだよな?」

 

 そ、そうだ!そうなんだよ!!

 俺は渡りに船とばかりに首を振った。しかしこれが首を振るように見えたかは疑問だが。

 この身体(ギラティナ)ってどこまでが首なんだろうな?

 

「あー、じゃあなんだ。俺が教えてやるよ」

 

 ウェッ!?ホントですか!!?ならお言葉に甘えて……

 

「分かった!肯定の意思は分かったから!ちょっと無理やりかもしれないけど我慢してくれよ?」

 

 そう言うと彼or彼女は自分の周りで何かを練り上げ始めた。なんだろう、こういうのって魔力っていうのかな。

 

 

『おーい、聴こえるか?』

 

(え?あ、はい!聴こえますよ!)

 

 

 こいつ、直接脳内に……!

 

 

『よかった。今お前から溢れ出てる妖気(オーラ)を通じて会話してるんだ。別に俺だったらこれで事足りるんだが……ほら、この世界に来たってことは他の人とも接触する可能性があるだろ?』

 

 

 この世界ってことは……あ、元々俺がいた世界じゃないのねココ。ということはこの人も……なんだ、転生者ってやつなのかな。

 

 

(それはありがたいんですけど……一体どうやって?)

 

『なに、痛みは一瞬だ。君の体に俺がスキルを使うことを許可してもらえばいい』

 

(そんなんでいいなら……どうぞ、よろしくお願いします)

 

『了解!許可も貰ったことだし……大賢者、後はよろしく!』

 

 

 ――了。認可により個体名『 』への領域への侵入に成功。個体名『リムル』とのパスを接続・・・成功しました。続けてスキル『思念伝達』の同期を開始します。

 

 

(同期……?)

 

『本来ならこんな形ではスキルを得ることは出来ないんだけどな。君の中にある『携帯獣(ポケモン)』っていうユニークスキルが教わったスキルを覚えることに特化しているみたいでな……』

 

 

 そんなことを天の声が最初の方に言っていたような気もする。携帯獣(ポケモン)か、俺がやってたのはサンムーンまでなんだけど……。

 

 

(あ痛ぁッ!)

 

 突然電流のような痛みが頭に襲いかかってきた。焼け付くような感じがじんわりと頭部に広がっていく。

 頭を翼でゆっくりとさすって彼をキッと見つめた。

 

(痛いじゃないですか!)

 

『スマン!あんまりにも無反応だから痛覚無効でも持ってんのかなって思ってたけど……』

 

 

 彼曰く無理やり人様の領域に侵入することは本来すごい危険を伴うらしい。

 だが俺の身体が『竜』っていうめちゃくちゃ頑丈なものであり、スキルに教わった技を覚えることに特化したものがあったため、本人の了承を得て実行したらしい。

 

 こんなに痛いとは思わなかったよ……。

 まぁ過ぎ去ったことはヨシとしよう。

 

 

「これで恙無く会話が出来ますね」

 

「おう、そうだな!……そういえば名乗ってなかったな、俺はリムル=テンペスト。この森、ジュラの大森林の盟主をやらせてもらってる。多分君と同じ転生者だ」

 

 やっぱ転生者かぁ。

 というか盟主をやらせてもらってるってどんな大立ち回りすればそんな役職に付けるんですかねぇ?

 

「俺の名前は反道……いや、ギラティナです。『反骨竜ギラティナ』。ご想像の通り俺は転生者です」

 

 前世の名前に未練がないわけじゃあないが、せっかくのこの姿なんだしギラティナさんの名前を騙ってもいいよね?姿もまんまだし……いいよね?

 

「ギラティナ……?あぁーっ!!?」

 

 怪訝な表示をした後ポンっとリムルさんは手を叩いた。

 

「どうかしたんですか?」

 

「携帯獣って『ポケモン』のことか!!いや〜紳士の嗜みとしてラノベやらマンガやらは読んでたんだけどポケモンは小さい頃にやったきりだったからなぁ……確かギラティナってポケットモンスター プラチナの伝説のポケモンだったよな?」

 

「おぉ、よくご存知で!!そうです、死ぬ前にプラチナを思い出していたらまさかこんな姿になるなんて……」

 

「俺なんか血のない身体を願ったらしいのか身体がスライムになっちまってさ〜」

 

 

 この後俺とリムルさんは彼の仲間が心配してやってくるまで現在の状況のすり合わせや前世のことで盛り上がった。

 


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