転生したら『やぶれたせかい』の主だった件 作:名無しの転生者
シテ…ユルシテ……マイニチフデウゴカシテルカラ……ユルシテ……
追記:アンケート新調しました。
ジュラの森大同盟の盟主であるリムル=テンペストと武装国家ドワルゴンの王であるガゼル・ドワルゴの果し合いから数時間後のことである。
この街の誇る食事や酒を堪能したガゼル王はギラティナと話し合いをしていた。
現在地は街にある野外宴会場だ。
内容は「シス湖とカナート山脈の間に突如現れたあの山は何か」と「ギラティナの来歴」の2つ。
一つ目についてギラティナは「私のスキルによるものだ」と回答。
説明したところでギラティナにとって不利益はないのでスキル内容も解説した。
ポケモンについては「既存法則から外れた魔物が現れる可能性がある」とだけ言っておいた。ギラティナ自身どう説明すればいいかは分からないからだ。元の世界と同じような性質をこの世界のポケモンが持っているとも限らない。
そこは出現してからじっくり検証していけばいいや、と結論づけてギラティナは考えることをやめた。
重要なのは二つ目である。
馬鹿正直に「俺っち転生してこっちに来たら竜種になってたんすよねぇ〜」とか言う訳にもいかない。
だがいずれこうなることはギラティナも分かっていた。
なので事前にリムルに自分の来歴をどんなふうにしておけば整合性が保てるか相談していたのである。
「なぁリムル」
「おわっ!……鏡の中から話しかけてくるなよ!」
リムルは自宅で日向ぼっこをしていたようだ。
私はというと近くにある無駄にでかい姿見からニョキリとオリジンフォルムの頭を出している。
自分が『やぶれたせかい』がどのようなものなのか理解していなかったので、何かないだろうかと中に入り浸っていた私はとあることに気がついた。
何とこの世界、ゲーム版の設定とアニメ版の設定が入り乱れていたのだ。
ゲーム版とアニメ版で最も異なる点は『泡』の存在だ。その泡は現実世界を映し出していて、それを壊すと映っている現実世界の場所に衝撃が加えられ、何らかの影響が及ぼされるのだ。
そして私の『
ような、と言っているからには『泡』ではない。鏡のような景色を映す板(これからは『鏡』と呼称する)が『泡』の代わりに存在しているのだ。
『鏡』は私が念じれば行ったことのある場所周辺の景色を映し出しているものが目の前に出現する。
イメージとしてはパソコンとかテレビの画面に何台もの監視カメラの映像が映っているものを想像してもらえれば分かりやすいだろう。
『泡』と『鏡』の類似性を察した私は後が怖いので『鏡』を壊すことはしなかった。万が一ということもある、当分はやめておこう。
だがそれでも気になるというのが男に生まれた(今は無性だけど)性というものだろう。
ちょっとくらい触ってみても……そんな出来心で触ってみたところ、不思議なことが起こった。
『鏡』が映し出している景色と『やぶれたせかい』が繋がってしまったのだ。
私は大慌てでどうにかしようとしたが、触れることをやめることでその現象は解消された。
この時の私の頭に「これアニメ版みたいなこと出来るんじゃね?」と新人類よろしく閃いたのだ。
そして第一被験者にリムル=テンペストを抜擢。現在に至る、というわけで。
「『鏡』、ねぇ……。それって出現時の法則性とかあるのか?」
「指向性は私が念じればどうにかなる部分もあるが、ピンポイントは難しいな。今回も3回くらいやってリムルを見つけたわけだし」
「へぇ、まぁないよりあった方がいいんじゃないか?それで何か用か?」
「ちょっと相談があってだな」
「お前の来歴かぁ」
「さすがに「私転生したら竜種になってました」とか言ったらダメだよな」
「ダメだろ。俺は自分が転生者なんだってみんなには言ってないけど、ギラティナは竜種だし今までどこにいたんだ、くらいは聞かれるかもしれないしな」
『やぶれたせかい』の中で二人の男(現在無性)は話し合いを進める。
議題は「俺の来歴を決めようぜ!」というもの。
議会(二人だけ)は白熱し様々な案が生まれては消えていく。
『やぶれたせかい』の要素やこの世界での竜種の法則、ポケモン図鑑でのギラティナの説明やシンオウ地方での伝承などをまとめあげ、違和感のないストーリーをでっち上げることに心血を注ぐ……。
そして数時間が経過し、「これなら誰にも分かんないでしょ!」という最っ高の案が完成した。
「私が今の今までこの世界に現れていなかったのは、自分自身のスキルを制御出来なかったからだ」
ポツリと空を見ながら私は呟く。今から
「生まれた時から私があの世界にいたのかどうかは今となっては分からない。だが、過去の記憶を辿っても全てあの景色しか思い出せなかった」
「気の遠くなるような年月を過ごしたよ。『鏡』から外の景色を見れるが私には外に出ることも、それに触れることも叶わない。ただただ虚しい時間が過ぎていくだけだった」
「そして何を思ったのか、ある時に私は自分を消滅させたのだ。それが同じ景色をずっと見続けたことによって狂ってしまったのか、こんな生活とも言えぬ生活に飽き飽きしたのか……ともかく私は長い長い竜生に終止符を打った」
「そして、復活したのだ。ヴェルドラのいた封印の洞窟で。死んだ拍子にスキルもしっかり使えるようになってな……復活が外の世界でよかったと心底思っているよ」
この世界の竜種というものは長い長い生の中で復活と消滅を繰り返すらしい。
消滅の度に記憶は一部リセットされるようなので、その設定をうまい具合に使わせてもらった。これで私がこの世界に突然顕現した理由にもなるだろう。
「記憶もロクにない状態の私にリムルは本当に良くしてくれたよ。今はこの程度しか思い出せないが……ガゼル王のお眼鏡にかなう回答だったか?」
と視点を空からガゼル王に映すと────
「えっ」
思わず声が漏れてしまった。
いやなんでって、そりゃあ……。
「貴殿が永遠にも近い時を過ごし、そのような気持ちを抱えていたとも知らずに私は──っ」
ガゼル王が静かに泣いているのである。
焦って周りを見ればそこにいた(リムルを除く)全員がボタボタと滂沱の涙を流している。
重い内容かなぁ。リムルと二人で推敲していた時はそんなことを思っていたが、まさかまさか大号泣されるとは思わなかった。
おい誰かリムルを見てくれよ。
すっげぇ微妙な表情で「やっちまった」って顔をしてるぞ。
「いいさ。私もずっとひた隠しにしていくのは、少々辛いものがあるからな。聞いてもらっただけでも充分なのだ」
「ギラティナ様、ずっとそんな思いを抱えていたのですね」
シュナが振袖で涙を拭い、私の足にピタリと抱き着いた。私の心は猛烈に申し訳ない気分と自責の念でいっぱいになる。
「でも、もう大丈夫です。これからは私たちがいます。リムル様も、ベニマルも、シオンも、ハクロウも、ソウエイも……みんないます。います、からっ──」
黒翼でゆっくりとシュナの背をさする。
いつもの凛とした彼女ではなく見た目相応の彼女を見ることができ、少しばかりの喜びを感じつつも「何故今なのか」という思いが私の頭をグルグルと回り続ける。
「そんなお気持ちを推し量れずに我輩は……」
「ギラティナ様……ひっく」
「こんなにもお優しい方なのに……」
「然り。我らの不徳と致す処なり」
あぁ、ガビル達も心配してくれている。
ガビル本人にいたっては叫びながらこちらに擦り寄ってきそうな気配もしてくる。
すまない、シュナだけで私は手一杯だ。
その後その場にいた全員に様々な暖かい言葉をかけられたが正直覚えていない。
リムルがすっごい申し訳なさそうな顔をしているのは覚えているが。
久しく感じていなかった腹痛と頭痛に精神をやられながら、私は『やりのはしら』に帰った。
※タイトルに深い意味はございません。ギラティナがいつかこの語り口で自分の来歴(捏造)を話し始めるかもしれませんが。
『泡』:『劇場版ポケットモンスター ギラティナと氷空の花束 シェイミ』内の『反転世界』なる場所にある現実世界を映す泡。
これを壊すと泡に映る現実世界と同じ地点で衝撃が発生する。
今回の『鏡』は『泡』が板状になったものだと思ってください。
『鏡』:『やぶれたせかい』にある前述の『泡』のようなもの。性質としては
・外の世界が見える。
・表示されるものは自分が一度行った場所の近くのみ。
・現実世界の鏡と繋がりやすい
というものがある。
ギラティナの来歴(捏造)
気の遠くなるほど長い年月を『やぶれたせかい』の中で過ごす。自らのスキルによって作られている世界だが、自分の意思で制御することが出来なかった。
↓
『鏡』から外の世界は見えるがそちら側に行けることは叶わず、ただただ虚しい日々が続いていく。
↓
何を思ったか自分を消滅させた。発狂か飽き飽きしたかと推測。
↓
復活場所が外の世界だった。ついでに何故かスキルもしっかり使えるようになった。
↓
今に至る。
大まかな流れとしてはこんな感じです。これを聞いた魔物達やドワーフの皆様は感極まって涙しました。
あ、投票はレアコイルくんが1位でした。というわけで次回を乞うご期待!
ちなみに今回前書きのキャプション芸は「デビルマンのうた」を使って作ろうかと思ったんですが、動画ネタを文字に反映出来そうになかったので諦めました。