午前四時
酔い潰れて布団に潜り込んでいた太郎坊兼光を起こさないようにそっと起床。
床下から聞こえてくる「おはようございます」との控え目な鳥飼来国次の挨拶に「おはよう」と返し身支度を整える。
午前四時一五分
洗顔、歯磨き、髭剃り等を洗面所で終える。
そこから出ると風呂へ向かう途中の鬼神丸国重と星月夜正宗に遭遇した。
諜報活動が一段落したらしい。
鬼神丸国重からは「ご褒美にデートして欲しいな」とテレながら言われ、薄笑いの星月夜正宗からは「報告がてら、夜にお酌させてくれなんし」と圧をかけられたので頷いておいた。
俺はまだ死にたくない。
新撰組仲間である長曾祢虎徹に用があったので鬼神丸国重へ行方を訪ねる。
本来ならめいじ館の下拵に精を出している時間のはず。
けれど八文字長義、瓶割刀、同田貫正国、大和守安定とますだ屋で朝方まで飲み、今日は一人だけ二日酔いで今も寝ているとのこと。
禍憑との大規模戦闘に備えて作戦を立てたのだが、参考意見を賜るのはあとにして水を届けておこう、大和守安定に。
午前五時
紅葉狩兼光、歌仙兼定、五虎退吉光、朝から何かと世話を焼こうとしてくるにっこり青江と共に、めいじ館周辺の掃除をする。
玄関周辺にいつものように多数の空き箱が設置されていたので、そのうちの一つへ納まっている厚藤四郎を回収がてら片付けておいた。
厚藤四郎の対処に困っていた五虎退吉光の手を煩わせてはいけない。
「猫じゃないにゃ!」と抗議してくる厚藤四郎を博多藤四郎がマタタビで黙らせていた。
猫じゃねーか。
なお清掃活動の最中、彼女達巫剣はやたらと自分達の汗を気にしていた。
安心してください、汗は大好物です。
午前六時
汗を流すべく風呂場へ直行する。
途中、城和泉正宗の「寝ながら歩いたらダメよ! 布団で寝ないと風邪を引くわよ!」と叫ぶ声が聞こえてきた。
蛍丸国俊の妙技'歩き寝’が発動中のようだ。
あれ、俺にも教えて欲しい。
「お婿さんお婿さん、この辺りに月へ帰る手掛かりはありませんか?」
ナチュラルに全裸で混浴してくる笹貫が怖い。
午前六時三〇分
朝食はめいじ館の喫茶スペースで賄いをいただく。
嬉々とした義元左文字が、何度も何度も窘める石田切込正宗に、何度も何度も「あ~ん」を敢行していた。
おっぱいとおっぱいが押し合い圧し合いしている。
羨まけしからん、俺にもしてくれ。
隣では童子切安綱、紅葉狩兼光、稲葉郷、太郎太刀が一〇〇合炊きの大米釜を物凄い速度で平らげていた。
客に出す分は大丈夫なのだろうか。
心配もそこそこに、次郎太刀の用意してくれた握り飯と玉子焼き、味噌汁を食す。美味し。
「あ、兄さーー主様、お茶のお代わりはいかがですか?」
「いつもありがとう。いただくよ、いちご」
給仕服姿の一期一振の笑顔と兜装飾が眩しい。
あと余り前のめりになっちゃいけない。
飾りの先端が目に刺さりそうだから。
「やられたっちゃ!」
「Damn!」
「次はうちのだからね!」
気のせいか、博多藤四郎、水心子正秀、数珠丸恒次の声が四方から聞こえてくる。
食事の最中、茶碗、汁碗が空になった瞬間、彼女達から即追加を注がれていたので、こちらの動向を見張られていたのかもしれない。怖い。
喫茶スペースを出ながらお布施の朝ガチャを回す。
なんと金色の竜巻発生。
陣羽織じゃねーか。
午前七時
本日の執務開始。
巫剣を各依頼任務へ送り出し、今日付けの送検書類を優先して片付ける。
合間に不動行光がやってきて、俺の労いを兼ねたきんつば試食会なるものが催された。
暇を作っては例のおばあちゃんのところへ通い、一緒にきんつばを作っているらしい。
不動行光と入れ替わるように執務室へ大量のパンツが飛び込んできた。
風に舞う書類とパンツ。
中には見覚えのあるパンツも。
以前俺が購入して獅子王に渡した物だ。
八宵と桑名江と獅子王が飛び込んできて瞬く間に回収していった。
「くせ者でしたか!?」
天井から鳥飼来国次の声。
さては寝てたな?
午前一〇時
執務に一区切りをつける。
書類を届けてもらうため燭台切光忠と大倶利伽羅を呼んだ。
「お呼びですか」
「なんだ主君!」
「おみつ、大倶利伽羅、これを本部の副司令へ届けてほしい」
「え? 大倶利伽羅とですか?」
「オレは二重の意味で嫌だぞ!」
ライバル関係二振の不満をスルーして部屋から追い出す。
お前らが実はラブラブだって俺知ってるから。
午前一〇時一五分
部屋の外で揉めていた声が鳴りを潜める。
廊下に出ると、燭台切光忠の服の裾を摘まみながら後ろをついていく大倶利伽羅の可愛い姿を目撃。
尻目にめいじ館の巡回を開始する。
工房手前で九戸来国行、青木兼元、明石国行、稲葉郷が頭を抱えていた。
理由を訊ねると桑名江への贈り物とのこと。
日頃の感謝を形にしたいそうだ。
桑名江と稲葉郷は姉妹関係にあるはず、悩むことはないだろう。
「それがこやつ、『お米をあげたら喜んでくれるよね!』しか言わぬのじゃ」
九戸来国行が天を仰ぎ、明石国行と青木兼元が頷いている。
「だってさ! 桑名江に直接聞いたら隊長様のことしか言わないんだもん!」
嫌な予感がする。
明石よ、獲物を見つけた猛禽類の目をするな。
「もういっそのこと隊長を包んで桑名江にあげようか?」
「そうしますか……」
諦めんなよ青江兼元!
「あ、逃げたぞあやつ! 待つのじゃ!」
誰が待つか、のじゃろり!
午前一〇時三〇分
明石国行達を中庭の植え込み群に隠れてやり過ごす。
直上を旋回していた小烏丸に怪訝な顔をされた。変な顔。
「なーなーにーちゃん、厚を背中に乗せてなにしとるん?」
こらこら津田越前守助廣、服を引っ張るのはやめなさい。
隙あらば背中に乗ってくる厚藤四郎を津田越前守助廣に預けて厨房へ移動する。
「やあ隊長くん、惚れ薬でも飲みに来たのかい?」
桃色に輝く小瓶を片手に迫ってくる牛王吉光。
それを掠めとり、近くで小麦粉を練っていた江雪左文字と眠そうな蛍丸国俊に飲ませてみた。
「……しゅわしゅわする」
「しゅわしゅわします」
江雪左文字、蛍丸国俊ともに変化なし。
「なんだ、惚れ薬は偽物か」
「いや、あの二人は既に相愛だから利き目が薄いだけだよ」
失敗したやつはみんなそういうんだ、俺は詳しいんだぞ。
午前一〇時四五分
執務室に戻って緊急性の高いものから処理を済ませる。
隊長本来の仕事ってなんだろうな。
疑問はさておき、時折工房方面から絶叫や悲鳴が聞こえてくるもスルーだ。
間を置かず息を切らした七香が飛び込んできた。
「隊長さん隊長さん! 八丁念仏さんが『うぼあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!』『左手の封印があああああああああ!?』と叫びながら工房を破壊しています! 助けてください!」
仕事させて?
午前一一時
にっかり青江、博多藤四郎、数珠丸恒次、三ツ鱗兼若、三日月宗近ーー対暴走者無力化部隊ーー通称ママみ隊を八丁念仏の元に手配する。
執務に戻ると、うぐいす餅片手に鶯丸友成が来訪していた。
決済以外の書類を渡して共同作業の開始だ。
「僕は隊長とのお茶を楽しみに来たんだけど……まあ、良いか。あなたの横顔を独り占め出来ると思えば、これ以上の役得はないよね」
恥ずかしいことを真顔で宣うのはやめていただきたい。
午後一二時三〇分
鶯丸友成の二秒に一回こちらを眺めてくるチラ見に耐えられなくなる。
連れ立って昼食を供にするかを問うと、弾むような声音で「光栄だね」と返ってきた。
なんだそのこちらまでテレそうな笑みは。
いつもは手の空いている巫剣の誰かが執務室まで食膳を運んでくれるのだが、今日は事情が事情なので是非もなし。
途中、五虎退吉光、後藤藤四郎、骨喰藤四郎、鬼切安綱と出会い昼食の内容を教えてもらった。
馬肉と牛肉の合挽’はんばーぐ’らしい。
五虎退吉光の周囲を取り巻く五匹の虎さんは満足げにがうがう鳴いている。
美味かったようだ。
「ご主人様あああああああああああああああああ!」
弾丸よろしく、水神切兼光が俺の腹にめり込み二人して転倒。
用件はゴシュジンサマニウムの補給とのこと。
火急的案件ではないらしい。
俺の平穏はどこかな?
午後一二時四〇分
鬼切安綱と骨喰藤四郎が「だいじょ~ぶ?」とクスクス笑みながら起こしてくれた。
ちゃっかり逃げていた鶯丸友成がスススッと俺の隣へ戻る。
あとで覚えてろ。
反対側を埋めた水神切兼光は、俺の腕をもぎ取らんばかりの勢いで抱き締めた。
実に楽しそうで結構だ。
けど腕に罪はないので千切らないでね?
午後一三時
なんやかんやありつつ厨房へ到着。
厨房とはこんなにも遠く険しい道のりだっただろうか?
おしぼりを渡してくれた陸奥守吉行が女神に見えた。
真紫に変色している腕を水神切兼光から返してもらいつつ、鯵の天ぷら定食とおっきいわたちパイ、珈琲の載った膳を山鳥毛一文字からいただく。
給仕している師匠が可愛い。
なんとはなしに厨房を見渡せば、小夜左文字と小豆長光、膝丸と安芸国佐伯荘藤原貞安らが控えめに談笑しながら、あんぱんと三色団子を作っていた。
不意に小夜左文字と視線が重なる。
頬を赤く染めた彼女は口パクで「復讐されたい?」と伝えてきた。
なんでだ!
午後一三時三〇分
すみやかに執務室へ戻って鶯丸友成と食事を済ませる。
午後から依頼のある鶯丸友成は、食事を終えると、俺の膳を回収しつつ、名残惜しげに部屋をあとにした。
「あなたにとって午後も良い日であるよう、心から祈ってるよ」
去り際にこれである。
この麗人、いちいち動作が王子様っぽくて困る。
キュンキュンして惚れてまうやろ。
執務の合間に微塵丸や骨喰藤四郎、鬼切安綱がやってきた。
おっぱいを押し付けてきたり、凭れかかってきたりと、暇潰しに利用されているが、気にしてはいけない。
『うぼあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!』
これは八丁念仏!
対暴走者無力化部隊ーーママみ隊再出撃だ!
午後一四時一〇分
お忍びで執務室にやって来た副司令こと丙子椒林剣。
出会ってから間もなくして、猫可愛がりと言うか妙になつかれていて今にいたる。
ともあれ、丙子椒林剣にイチャつかれながら書類処理のラストスパートだ。
「そういえば……」と俺。
「はい?」
毎度謎なのだが、丙子椒林剣と執務室でイチャついている時に、誰かが訪ねてきたことはない。
彼女はどのような手を使っているのだろうか。
聞いてみろ? バカを言うな。命が惜しい。
俺は誰としゃべってるのカナ?
「頑張っている隊長さんにご褒美をあげたいと思いまーす♪」
課せられている執務業を片付けた俺のふとももに腰かける丙子椒林剣。
頭を撫でられる。心地よい。
関係を持って二年になるが、まだまだ子供扱い。
重ねてきた月日の差を思えば当然か。
「いてっ」
「今、失礼なことを考えませんでしたか~?」
つねられた耳を撫でつつ首を左右に振る。
「悪い子は体を巫魂化して純粋な菊華刀にしますよ~?」
「この人サラッと怖いこと言った!」
冗談です♪ と口にする丙子椒林剣の瞳は笑ってなかった。
午後一五時二〇分
めいじ館の裏手から立ち去る丙子椒林剣を見送る。
他の巫剣に靡いちゃダメですよ? と笑顔で告げる副司令が怖かった。
裏庭に戻ると長椅子に長曾祢虎徹が腰掛けていた。
頭を抱えていることから二日酔い継続中なのだろう。
案の定、大和守安定に陶器の碗で何かを飲まされていた。
おそらく水だ。
それ以外の可能性は考えたくない。
「虎徹、調子はどうだ?」
「おう、隊長……もう少ししたら快復する予定だ……多分……」
「治ったら執務室まで来てくれ。大規模戦闘についての兵糧に言及してもらいたい」
「……了解」
終始大和守安定の視線が怖かったのでこの場をさっさと逃げ出す。
とーー
「げふっ」
「あ、わりい」
前方不注意だった俺は廊下の曲がり角で鉋切長光と衝突して一方的にこけた。
手を借りて起き上がる。
「にしてもな、わざわざオレの、む、胸にぶつかることはねーだろっ」
……嘘だろ?
「す、すまない、かんな。いろいろとすまない」
「ちょっと待て、いろいろってなんだっ!」
いろいろは……いろいろですわ!
午後一五時三〇分
中庭の植え込み群に潜み、質疑を迫ってくる鉋切長光をやり過ごす。
直上を旋回していた小烏丸に再び怪訝な顔をされた。変な顔。
「なーなーにーちゃん、また厚を背中に乗せてなにしとるん?」
こらこら津田越前守助廣、また服を引っ張るのはやめなさい。
隙あらば背中に乗ってくる厚藤四郎を再度津田越前守助廣に預けて執務室へ移動する。
「あるちゃんあるちゃん、うちら今日非番やん? 朝から時間もて余してんねやけど、なんかすることない?」
獅子貞宗、亀甲貞宗、物吉貞宗、徳善院貞宗、太鼓鐘貞宗らが執務室にて思い思いの場所で寛いでいた。
「休める時に休んでおくのも仕事のうちだぞ」
「そういうのええから」
一蹴された。
「や、本当に休暇は休暇としてーー」
「あんま聞き分け悪いこと抜かすと、血眼になってあるちゃんのこと探しとる明石国行達に、その身柄引き渡すで?」
泣くぞ?
午後一五時五〇分
長曾祢虎徹宛に一筆したため、めいじ館の外へ。
貞宗姉妹達同伴で市中巡回だ。
「あるちゃんあるちゃん、どこかで脱いでもええかなっ!?」
やめて!?
「これは高貴な感じがしますわ! 財布を貸しなさい! 買いですわ!」
ポケットまさぐらないで!?
「はあ……はあ……もっと強く引っ張ってくださっても平気ですよ……?」
白昼堂々荒縄を渡さないで!?
「カレー食べたいわ……」
エネルギー切れ起こしてる巫剣がいるよ!?
「たいっちょさん♪ がんばればれ♪」
君だけが俺の癒しだ!
午後一八時二〇分
逢魔ヶ刻時に遭遇した多数の禍憑を貞宗姉妹達は華麗な連携で討伐する。
手際は見事という他ない。
あれで露出癖や緊縛癖等々が無ければ満点なのだが。
「あるちゃんあるちゃん、うち腹減ったわ。ますだ屋辺りで茶していかへん?」
夕食時なので色好い返答をしたかったが、長曾祢虎徹と会う約束をしている。
「悪い、先約がある。これでなにか食べてくれ」
財布から金を抜いて獅子貞宗に渡した。
「ゴチになるわ! あるちゃんおおきに!」
遠慮して断ろうとした太鼓鐘貞宗と亀甲貞宗をよそに、渡した五〇銭(めいじ三二年当時の価値で約五〇〇〇円)を獅子貞宗が素早く懐へしまう。凄くいい笑顔で。
謙遜して断られるよりも、笑顔で受け取って貰える方が気楽だ。
「たいっちょさんとご飯をご一緒したかったなー」
俺もだよかねっち!
午後一九時二〇分
執務室内に人の気配を感じる。
長曾祢虎徹に違いない。
「戻ったか大殿」
「待ちくたびれたぞぬしー」
違った。
入室したそこには三日月宗近と小狐丸の姿。
部屋の隅にはあざ丸と千子村正もいた。
二振は会話を交わしているようだが、互いに四つ角の最端の壁へ背を預け、膝を立てて床にじか座りしている。
声は届くのだろうか。
ともあれ「待たせたみたいだな。すまなかった。火急の用件か?」とコートを脱ぐ俺。
この巫剣達との約束は結んでなかったはず。
「明石国行達が桑名江へ日頃の感謝をする、と小耳に挟んでのー。みーが星月夜に何かを贈りたいと相談してきたのだ。ぬしは知らぬかー? 星月夜の最近の好みを」
またそれか。
「千子とあざ丸も同様に日頃の恩返しか?」
二振は首を左右に振っている。
「部屋で暇そうにしていてのー、こんが巻き込んだのだ」
やめたげてよ!
千子村正もあざ丸も居心地悪そうにしてるよ!
「すまない。二人は私が巻き込んだようなものだ」
俺の手から掠め取ったコートに顔を埋めながら三日月宗近。
くんくんしないでください。
「……これは貞宗姉妹の香りか」
こちらをジッと見ながら確信的口調で言わないでください。
「私だって大殿と巡回デートしたいのに……」
あえて皆に聞こえるような声量で口走らないでください。
「こんも……」
「私も」
「私もだ……」
不穏な空気が流れ始めましたよ?
なおコートをクローゼットへ収納する際、三日月宗近が名残惜しそうに頬擦りしたのは見なかったことにする。
午後二〇時
星月夜正宗への贈り物に煙管と火打ち石を提案する。
「ぬしよ、それは安直すぎぬか?」
あーでもないこーでもないと話し込むも、誰もが納得する案はでない。
「発想の転換をしてみてはどうだろうか?」
あざ丸の声音に「と言うと?」と千子村正。
「物がダメならば人ではどうだろうか? 例えば……私達の敬愛する隊長を、1日自由にできる権利、とか」
俺は誕生日の肩叩き券かなにかかな?
「あざ丸お主……天才か?」と小狐丸。
「鬼才現る!」と三日月宗近。
「その権利は私にも貰えるのだろうか?」と千子村正。
皆落ち着け、と俺は掌を前に突き出す。
「そんなものを貰っても星月夜は迷惑なだけだろう」
「わかっておらんなー、ぬしはー」
俺の掌に自分の掌を重ねてくる小狐丸。
三日月宗近も横から重ねてきた。
反対側からは千子村正が。
一人だけあぶれたあざ丸が涙目になってるじゃねーか。どうにかしてやれよ。
「じゃなくて! この状態は何!?」
「ぬしにうむの補給時間だぞー?」
◯◯ニウムのバリエーションが豊富だね!?
午後二〇時三〇分
星月夜正宗への人身御供を強引に了承させられる。
気が済んだ小狐丸達一行は執務室をあとにした。
入れ替わりに長曾祢虎徹、大和守安定、加州清光、菊一文字則宗、鬼神丸国重、和泉守兼定ら新撰組巫剣がやってくる。
「待たせたな隊長殿」
「もう大丈夫なのか虎徹?」
「お陰さまでな。このあとやま達を連れて飲みに行くんだが、隊長殿も一緒にどうだ?」
「すまない、今夜は先約があるんだ」
「なんだよ連れねーな」
今度また飲みに行くことを確約して本題に入る。
近頃勢力を増しつつある禍憑についてだ。
小一時間意見を交わし、時に討論となったが、ここが意義のある場となったのは、皆の顔をみればわかる。
書記をしていた加州清光がぶはぁっとなったのを皮切りに本日の会議は終了。
休憩へ突入だ。
「菊一さん! 口元を拭いてくださるふりをしながら私の頬に血で落書きしないでくださいよ! なんですか! 『隊長好き好きかしゅーさん』って!」
「あれ? 違いましたか? ボクは真実を書いたつもりでしたが」
「答えにくいことを皆さんの前で問わないでくださいよぐはぁっ!?」
加州清光本人は毎度吐血を大丈夫と言い張るが、だからこそ余計に体調が気になる。気にならない?
「隊長、私は先にお暇させていただくぞ」
「わかった。付き合い感謝する」
なんとなくソワソワしている雰囲気の和泉守兼定が、腰掛けていたソファーから立ち上がる。
「和泉さん、このあと何かありましたっけ?」
「菊、わかっていて訊ねるのはやめろっ」
足早に退出した和泉守兼定の背中をニヤニヤしながら菊一文字則宗。
飴玉切れかな?
「さてと、飲みに行くか! じゃあな隊長殿!」
「ほどほどにな」
「わーったわーった!」
「局長、私はあとで合流するね」と鬼神丸国重。
「おう」
長曾祢虎徹、加州清光、菊一文字則宗、大和守安定を執務室から見送った。
「話しに出ていた先約とは、星月夜ですか?」
傍らに残っていた鬼神丸国重が拗ねたような表情を向けてくる。
「そうだ」
「ご一緒して良いですか?」
「虎徹との飲み会はどうするんだ?」
「局長達とはいつでも飲めるからっ」
「んー……それなら星月夜に確認を取ってくれ。彼女が許可したら良いぞ」
「この人悪魔だ!?」
刀の精霊(?)に悪魔って言われた!
午後二一時四〇分
用件ができた鬼神丸国重と別れ、閉店した喫茶スペースにて夕食をとる。
食事を口に運びながら、ふと粟田口一門を眺めた。
仲良く揃って食事をしている風景に癒される。
なにくれとなく鯰尾藤四郎が乱藤四郎や五虎退吉光、後藤藤四郎の世話を焼いている。
幸せそうな笑顔で。
「厚ちゃんもどうぞ♪」
「にゃ~♪」
厚藤四郎へ食べさせるさまはどうみても猫の餌やりだ。
と、こちらへ厚藤四郎が振り返った。
「猫じゃないにゃ!」
「なにも言ってないぞ?」
「え? あ、言わなきゃいけない気がして……」
なにそれこわい。
そうこうしていると、背中に柔らかい感触を押し付けられた。
「隊長く~ん? ちゃんと食べてる~? お姉ちゃんが食べさせてあげよっか?」
後ろから俺を抱き締めた鬼切安綱が楽しげに囁いてくる。
脳がとろけそう。
「あー! アンちゃんずるいんだー! 主さまに食べさせてあげるのはあたしなんだからー!」
言うやいなや、椅子へ腰かけている俺の足に、骨喰藤四郎の荷重がかかる。
厳密にいうと、もちもちした柔らかなふとももが乗る。
なんで厳密に言ったのかな?
「うちも旦那様にたべさせたいっちゃ」
「隊長くん、私も加わって良いかな?」
「あ、兄さーー主様! いちごも! いちごも主様に食べさせてあげたいです!」
気づけば正面に回り込んだ博多藤四郎と牛王吉光と一期一振が、机に横並びとなっていた。
そこに掌と顔だけ置いてジト目になっている姿が非常に可愛い。
間もなくというか、あれよあれよという間に、喫茶店内に居た全巫剣が俺達を取り囲んだ。
「ほらほら、隊長くんが困ってるから、順番に、だよ? ならんでならんで~♪」
列になるよう促した鬼切安綱がちゃっかり先頭に立っていた。
「アン、要領が良すぎだぞ」
「でしょでしょ?」
誉めてないから!
午後二二時
別件で離れていた鬼神丸国重と廊下で偶然合流する。
どうやら俺を待ち伏せしていたらしい。
星月夜正宗の件は……顔を見れば、首尾は上々と書いてあった。
浴場へ向かう準備をするべく自室へ移動する。
いつまで鬼神丸国重はついてくるのかな?
「隊長ってさ」
鬼神丸国重の囁くような声音。
「ん?」
「うちの子達……巫剣の中に好きな子って居る?」
それはもちろん。
「みんなのこと、好きだぞ?」
「そういうのいいから」
おこなの? まるさんおこなの?
「どういう答えなら満足するんだ?」
怒りのオーラを鬼神丸国重が纏った。ちびりそう。
「だ、だから、一人の女の子として、誰のことが好きなのかって話!」
「あー、そっちか、なるほど。こいつは一本取られたな」
「取ってないから! 取られたのはむしろ私だから!」
ま、まるさん! 踏み抜かんばかりの勢いで床を攻撃するのはヤメルンダ!
「で!? 居るの!? 居ないの!? 隊長に結構尽くしてる私なの!? 私だよね!?」
ダイマだ!?
さて困ったぞ。
「……本当にみんなのことが好きというか、特別な人は居ないというか」
ここで露呈したら丙子椒林剣がどう動くかわからないからバラせない。
わかって! まるさん!
「建前は良いから! 答えてよ!」
鬼神丸国重に抱擁される。
あれ? 思っていたよりもまるさんの胸部装甲は大きい!?
「鬼神丸国重、やめなんし」
やせい の なんしー が あらわれた。
「主様は今からわっちとお風呂でありんす」
「お風呂!? 隊長と一緒にお風呂!? 星月夜恥ずかしくないの!?」
何を想像したのか、鬼神丸国重は真っ赤になって俺から飛び退く。
「おぼこいわらべは巣に戻りなんし。ここからは大人の時間でありんす」
こういう星月夜正宗もかなりおぼこい。
俺は詳しいんだ。
「本当に入っちゃうの!?」
あわあわしながら鬼神丸国重が俺を見つめる。
悪乗りしてみた。
「ああ。星月夜を湯船で抱くよ」
「「そうなの!?」」
星月夜正宗まで釣れた。
午後二二時三〇分
図らずも笹貫と再び混浴を済ませた。
最強の存在はああいう娘さんな気がする。
自室に戻ると浴衣姿の星月夜正宗と鬼神丸国重が取っ組みあっていた。
ところどころ髪や服装が乱れている。
俺の姿を確認すると、
「ちっ」と星月夜正宗。
「ふんっ」と鬼神丸国重。
どちらからともなく離れた。
険悪な雰囲気だ。
二人の顔に出来たばかりの引っ掻き傷があることからも察することができる。
「喧嘩の原因は?」
「「あんただよ!」」
知ってた。
俺は鈍感系でも難聴系でもないのだ。
「話は変わるがーー」
「「変えないでよ!」」
さーせん。
「とりあえず一杯飲みな。話はそれからさ」
青地に水仙があしらわれた浴衣を纏う星月夜正宗が、猪口と徳利を手に寄ってくる。
「あ、待ってよ! 隊長にお酌するのは私なんだから!」
それ食堂でばみちゃんから聞いた台詞だ。
「がっついて、はしたない。やめなんし」
「そう思うなら素直にそれを私に寄越してよ!」
眼前で猪口と徳利の猛烈な奪い合いが始まった。
かたや疾風タイプ、かたや突撃タイプ。
猪口と徳利が陸に打ち上げられた魚よろしく、二振の間を跳ねている。
眼前で行き交う高速手刀が隣の大陸のカンフー京劇みたいだ。
「帰りたい。自室にいるんだけど帰りたい」
午後二三時
対暴走者無力化部隊ーーママみ隊を鳥飼来国次に呼んでもらい、鬼神丸国重と星月夜正宗の二振を室内から閉め出す。
そこから小一時間程物書き。
廊下からの控え目な戸を叩く音に筆を止めた。
「蛍です」
「今行く」
夜行性である蛍丸国俊との巡回時間だ。
行灯の火を消して廊下にでる。
天井から「午前零時半、主様は今日もほたるんとでぇと……と」と鳥飼来国次の声音。
そこ、メモらない。
「蛍、今日はどこへ向かうんだ?」
「鳥を祀ってある神社です」
ガタッと天井から音がした。
めいじ館を出立するまでに琉球三宝刀から絡まれたり、明石国行達を隠れてやり過ごした。
健康と規律に厳しい天光丸と大天狗正家に遭遇した際は小言を言われた。
夜間巡回は適材な巫剣にやらせるべきです。体調を崩す原因は摘み取るべきです。早く寝てください、と。
怒られることはあっても、歳を経るごとに叱られる機会は少なくなる。
あの二振を含め、めいじ館の巫剣は俺の体をよく気遣ってくれる。ありがたいことだ。
さておき、ほたるんとの夜間巡回時間は俺の癒しなのでやめるつもりはない。
「今日はここのお掃除をします」
「了解」
ほたるんと伴に辿り着いたのは守り人が居なくなって久しい神社。
このような場所は、放置し続けると、禍憑の湧くスポットと化す。よって荒れる前に清掃を行っているのだ。
「主様、わたくしもお手伝いしてよろしいでしょうか?」
影の中からニュッと現れた鳥飼来国次に内心でビビる。
「ひ、人手が多いと早く済む。頼んだ」
「御意」
他愛もない話をしながら本堂を片付ける。
掃いても拭いても一向に掃除は進まない。
広大な敷地を有する神社なので当然だ。
ほたるんとのやり取りの結果、一ヶ月かけてじっくり清掃しよう、ということになった。
「明日も、明後日も、一緒に掃除ができて嬉しいです」
「俺もだよ」
ほたるんと俺は微笑み合う。
傍らでは「あの空間に入り込めない……」と顔を両腕で防御している鳥飼来国次の姿が。
あれはなにをやってるんだろう?
午前二時
神社の片付に一区切りをつけてめいじ館へ戻る。
ほたるんとは風呂の入口前で別れた。
埃と汗を流すべく体を洗っていたら、背後から人の気配が。
これ笹貫でしょ? 知ってる知ってる。
「お婿さんお婿さん、大典太光世さんの光子砲を背に受けたなら、わたくしは月まで届くでしょうか?」
「月へ届く前に死ぬわっ!」
「もぉ~! どうしてそんな酷いことを言うんですか~!」
「え、待って!? これ俺が責められる流れ!?」
「こうなったらお婿さんを食べちゃいますから~!」
「え、待って!? きみ唯一の安全牌ポジションだよね!?」
「安全牌?」
「ちょっ尻をやらしく触らないで!?」
「いただきま~す♪」
助けてほたるん! 助けてちゅんちゅん!
午前二時三〇分
天井のシミは四〇七個だった。
自室に戻ると室内干ししてあった布団が畳に敷いてある。
鳥飼来国次かほたるんか、はたまた噂で耳にした「隊長を甘やかし隊」なる存在の手筈かもしれない。
あとね? 最近私物がよくなくなるんだけどね? もしかしてその人達の出入りが原因カナ?
「主様、本日もお疲れ様でした」
行灯の火を消して布団の中へ潜り込むと、鳥飼来国次の労いが聞こえる。
「鳥飼もお疲れ様。いつもありがとう」
「わ、わたくしには勿体きお言葉です!」
ちゅんちゅんのテレ声を聞きながら眠りに落ちていーーにいちゃんにいちゃんと太郎坊兼光の声音が飛び込んでくる。
「ボク、今日も頑張ったよ! 喫茶店で給仕でしょ? 夜の巡回の時には禍憑退治でしょ? あとねあとねーー」
酒の入った太郎坊兼光はその日にあったことを速射砲よろしく喋り続ける。
かと思えば突然糸が切れたようにコテッと布団へ倒れ込んだ。
「おやすみ、太郎坊」
布団の中に太郎坊兼光を収めた俺は、ふとももを堪能しつつ今度こそ眠りについた。