龍血の一族の若者達   作:タコのスパイ

1 / 2
葬られし一族:皇女の咆哮

 龍を信奉する異端者達。この世に生れ落ちた瞬間より穢れし者。

 白神(プリマテス)を信仰する人々は貧富に関わらず皆、私達、龍血の一族をそう呼ぶ。

 事実、私達は何処へ行っても歓迎されることは無い。遠巻きに白い目で見られたり、ひそひそと陰口を叩かれたりする程度ならまだ良いほうで、酷い時には石を投げられたり、物々交換でぼったくられることもある。

 だが私達はそれらに対して争いを起こすつもりは無かった。もし暴力でやり返したりすれば、彼らの悪評が事実であると認めることになる。それに長い年月をかけて築き上げた郷の平穏は暖かく、何にも代え難いものだった。だから私は龍血の一族に生まれたことを恥じたことは無かったし、郷の者達もそうだったはずだ。

 それなのに……。

 

 

 全てを失ったその日。

 古龍(アトゥルム)との契約は、「人間らしい」右腕を代償として私に絶大な力をもたらした。

 私の右腕には、もう誰かの手を握る掌も、指輪を嵌める薬指も無い。だが故郷も家族も仲間も、そして許婚をも永遠に喪ったこの世界で、そんな柔らかい手などもう必要ない。

 むしろそれらと引き換えに得た強靭な牙と咬合力を備える龍の(あぎと)と、鋼鉄をも溶かす龍の炎のほうが余程大事だ。この力さえあれば並みの魔物や人間の兵士になど遅れは取らない。さらに鍛えれば中央国家(メディウス)の聖騎士団とも渡り合えるようになるだろう。

 そしてゆくゆくは郷を滅ぼすよう命じた張本人、中央国家(メディウス)聖王と聖騎士団長バシスを討ち取るのだ。

 ……そういえば、古龍(アトゥルム)の巫女であり、また親友でもあるアミカはどうなったのだろう。少なくとも郷の中では亡骸を見かけなかったが、もしかすると彼女は無事に逃げおおせたのだろうか。

 

 考えながら歩いていると、私はいつの間にか郷の中心にやって来ていた。古龍(アトゥルム)の石像を奉る(ほこら)がぽっかりと口を開いている。そこでアミカは多くの時間を過ごし、古龍(アトゥルム)に捧ぐ歌と花畑への水遣りを日課としていた。

 滝から水を汲めるだけでろくな栄養も無い痩せた土地にも関わらず、私が郷に居た最後の季節には花々は誇らしげに咲いていた。まるで自分達がこの場所で懸命に生きているのだと、それを踏み荒らすことは誰にも出来ないのだと出張しているかのように。アミカはそんな花の様子を一族と重ねているようだった。

 

(姫様、見てください! こんなに沢山花が咲きましたよ!)

(凄いな、満開じゃないか。何ぶんこんな土地だから、種を植えた時はてっきり枯れてしまうとばかり思っていたのに。……ああいや、アミカには済まないんだが)

(いいえ、古龍(アトゥルム)様もそう仰いましたから。でも、例えどんなに辛くて長い冬だったとしても、何れ春はやって来ます。今の私達もそう。雪に埋もれてしまっても、大輪の花を咲かせられる時が来るようにと、何時もここで願っているのです。姫様もそうでしょう?)

(……そうか。そうだな。花達もきっと、そんなアミカを見ていたから咲いたのだろうな。それに水と一緒に愛情も貰った)

(ふふ、でしたら今後も愛する心を忘れないよう、そして他の誰かにも伝えられるよう精進してまいりますわ)

 

 だがアミカはもうここには居ない。彼女が支えとしていた花々も、聖騎士団によって他の田畑もろとも焼き払われてしまった。

 

『祈れ、罪深き龍血の一族の姫よ! 汝の怨恨の炎を我がここで消し去ってくれよう!』

 

 アミカの痕跡を探す私の思考を断ち切る咆哮が響く。

 かつて花畑だった地面を踏みつけながら吼えるのは、馬の頭と四脚に人間の如き腕を持つ異形の者。大勢の龍血の者が死んだこの場所で、その魂を掠め取りにやってきた忌まわしき白神(プリマテス)の使い。即ち私の敵だ。

 古龍(アトゥルム)の御告げによれば、私の腕に宿った龍の力は、魂を食わせれば食わせるほどに強くなるのだという。ならば最初の生贄にはちょうど良い。

 黄金色の三本角を光らせながら、私目掛けて突進してくる白神(プリマテス)の使い。地上の馬をも凌ぐ脚力を有しているのは目に見えて分かったが、今の私にとってその動きを見切るのは容易だった。以前であれば考えられなかった脚力でその頭上を飛び越え、晒されている白磁の背に、恐らく聖騎士が持ち込んだものであろうショートソードを突き立てる。

 甲高い悲鳴と共に噴き出した血が私の顔と胸とを打ち、纏ったばかりの戦装束をドス黒く汚した。以前の、まだ平和しか知らなかった頃の私であればその感触と臭いに吐き気を催していたところだろうが、今の私は心地良さすら覚えた。何故ならそれは白神(プリマテス)の使いを傷つけ、殺すことが可能であるという証明に他ならないからだ。

 血を流すのであれば恐らく心臓もあるだろう。より深く刃を穿つべく剣を捻ったその瞬間、白神(プリマテス)の使いの後ろ足の蹄が青く光るのが見えた。悪寒が背筋を走り、すぐさま飛びのく。その直後に虚空から現れた巨大な氷柱が、数瞬前まで私が立っていた地面に突き刺さった。あと少し反応が遅れていたら串刺しだった。

 

『無駄ぞ、龍血の皇女! 汝の剣で我を討つことは叶わぬ!』

 

 先の刺突はさほどのダメージではなかったようで、白神(プリマテス)の使いはそう吼えながら振り返る。その拍子に振るわれた角が私の左肩を掠める。切り裂かれた肩から血が溢れ、痛みと熱さを同時に感じる。しかし骨や神経を切られたわけではないようだ。であれば問題ない、まだ戦える。

 再び突進するべく体勢を整えた白神(プリマテス)の使いの鼻先に右腕の龍頭を突きつけ、その眼前で牙をずらりと並べた顎を開く。

 

「剣だけでは不満だというのなら、これはどうだ?」

 

 その直後、龍の口内から轟音と共に火球(ドラゴンキャノン)が吐き出され、白神(プリマテス)の使いの顔をもろに焼いた。黒煙と共に肉と金属の焼け焦げる臭いが辺りに立ち込め、油の弾ける音に負けない絶叫が郷中に響き渡った。白神(プリマテス)と対となる古龍(アトゥルム)の力は、奴にはさぞかし堪えることだろう。

 だがこれで終わらせるつもりはない。火達磨となった顔を両手を抑えながら仰け反る白神(プリマテス)の使い目掛けて、振り上げた右腕を叩き付ける。私の殺意を明確に感じ取った龍頭は下顎を鋭く研ぎ澄まし、岩すら断ち切れそうな巨大な(ドラゴンソード)となって白神(プリマテス)の使いを袈裟(けさ)に斬り裂く。名も知れぬ臓物や骨と共に血の滝がどっと溢れ出た。

 胴を真っ二つにされ、自らが撒き散らした血溜まりの中に倒れ伏しながらも、白神(プリマテス)の使いはまだ生きていた。もはや立ち上がることも叶わず上半身だけでもがく敵の首を、空いた左手で掴む。そのまま強引に上半身ごと引っ張り上げ、白目や瞳の区別が無いガラス玉のような青い目をぐっと覗き込む。

 

「貴様、私達(龍血の一族)を咎人と言ったな。滅ぼされて当然の咎人だと」

『……そう、穢れた 古龍(アトゥルム)の血を受け継ぐ、お前達は、生まれながらの咎人……増してや 古龍(アトゥルム)の力でもって聖王家に仇なすなど、許しがたき大罪だ。死をもってしか、その罪を償う道は無い……』

「……ふざけるな」

 

 昂ぶる私の感情に呼応してか、めきめきと音を立てて腕の龍が肥大化し、ついには主である私自身の体躯よりも大きくなった。がばりと開かれた顎の奥に炎が灯り、膨れ上がる。

 メディウスが聖王家に恭順しない龍血の一族を疎んでいることは、とうの昔から知っていた。だからといってここまでの仕打ちを受けるに足る理由があるというのか。

 龍血の一族として生まれてきたこと、そのものが罪だというのか。

 龍血の一族として生きていること、そのものが罪だというのか。

 龍血の一族として幸福を願うこと、そのものが罪だというのか。

 そうだというのであれば、私は咎人で構わない。

 

「あの世で白神(プリマテス)に伝えろ、貴様の気に入りの聖王家の奴らをその御許に送ってやるとな!」

 

 龍の口の中で凝縮された熱と光を解放する。紅蓮の業火はあっという間に白神(プリマテス)の使いを呑みこみ、空をも焦がすような火柱となって郷を包んでいた朝霧を吹き飛ばした。

 

 月から大地と人々の営みを見守っているという白神(プリマテス)は、この様子も見ているのだろうか。

 見ているならば目に焼きつけよ。

 見ていないのであれば今に思い知れ。

 これが、全てを奪われた私達(龍血の一族)が灯す復讐の篝火だ。




 白神(プリマテス)の使いはゲーム中では「エクウス」という正式名があるのですが、この時点で皇女がそれを知っているのは不自然かなと思いこのような表記にさせていただきました。
 読みづらかったらすみません。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。