龍を信奉する異端者達。この世に生れ落ちた瞬間より穢れし者。
事実、私達は何処へ行っても歓迎されることは無い。遠巻きに白い目で見られたり、ひそひそと陰口を叩かれたりする程度ならまだ良いほうで、酷い時には石を投げられたり、物々交換でぼったくられることもある。
だが私達はそれらに対して争いを起こすつもりは無かった。もし暴力でやり返したりすれば、彼らの悪評が事実であると認めることになる。それに長い年月をかけて築き上げた郷の平穏は暖かく、何にも代え難いものだった。だから私は龍血の一族に生まれたことを恥じたことは無かったし、郷の者達もそうだったはずだ。
それなのに……。
全てを失ったその日。
私の右腕には、もう誰かの手を握る掌も、指輪を嵌める薬指も無い。だが故郷も家族も仲間も、そして許婚をも永遠に喪ったこの世界で、そんな柔らかい手などもう必要ない。
むしろそれらと引き換えに得た強靭な牙と咬合力を備える龍の
そしてゆくゆくは郷を滅ぼすよう命じた張本人、
……そういえば、
考えながら歩いていると、私はいつの間にか郷の中心にやって来ていた。
滝から水を汲めるだけでろくな栄養も無い痩せた土地にも関わらず、私が郷に居た最後の季節には花々は誇らしげに咲いていた。まるで自分達がこの場所で懸命に生きているのだと、それを踏み荒らすことは誰にも出来ないのだと出張しているかのように。アミカはそんな花の様子を一族と重ねているようだった。
(姫様、見てください! こんなに沢山花が咲きましたよ!)
(凄いな、満開じゃないか。何ぶんこんな土地だから、種を植えた時はてっきり枯れてしまうとばかり思っていたのに。……ああいや、アミカには済まないんだが)
(いいえ、
(……そうか。そうだな。花達もきっと、そんなアミカを見ていたから咲いたのだろうな。それに水と一緒に愛情も貰った)
(ふふ、でしたら今後も愛する心を忘れないよう、そして他の誰かにも伝えられるよう精進してまいりますわ)
だがアミカはもうここには居ない。彼女が支えとしていた花々も、聖騎士団によって他の田畑もろとも焼き払われてしまった。
『祈れ、罪深き龍血の一族の姫よ! 汝の怨恨の炎を我がここで消し去ってくれよう!』
アミカの痕跡を探す私の思考を断ち切る咆哮が響く。
かつて花畑だった地面を踏みつけながら吼えるのは、馬の頭と四脚に人間の如き腕を持つ異形の者。大勢の龍血の者が死んだこの場所で、その魂を掠め取りにやってきた忌まわしき
黄金色の三本角を光らせながら、私目掛けて突進してくる
甲高い悲鳴と共に噴き出した血が私の顔と胸とを打ち、纏ったばかりの戦装束をドス黒く汚した。以前の、まだ平和しか知らなかった頃の私であればその感触と臭いに吐き気を催していたところだろうが、今の私は心地良さすら覚えた。何故ならそれは
血を流すのであれば恐らく心臓もあるだろう。より深く刃を穿つべく剣を捻ったその瞬間、
『無駄ぞ、龍血の皇女! 汝の剣で我を討つことは叶わぬ!』
先の刺突はさほどのダメージではなかったようで、
再び突進するべく体勢を整えた
「剣だけでは不満だというのなら、これはどうだ?」
その直後、龍の口内から轟音と共に
だがこれで終わらせるつもりはない。火達磨となった顔を両手を抑えながら仰け反る
胴を真っ二つにされ、自らが撒き散らした血溜まりの中に倒れ伏しながらも、
「貴様、
『……そう、穢れた
「……ふざけるな」
昂ぶる私の感情に呼応してか、めきめきと音を立てて腕の龍が肥大化し、ついには主である私自身の体躯よりも大きくなった。がばりと開かれた顎の奥に炎が灯り、膨れ上がる。
メディウスが聖王家に恭順しない龍血の一族を疎んでいることは、とうの昔から知っていた。だからといってここまでの仕打ちを受けるに足る理由があるというのか。
龍血の一族として生まれてきたこと、そのものが罪だというのか。
龍血の一族として生きていること、そのものが罪だというのか。
龍血の一族として幸福を願うこと、そのものが罪だというのか。
そうだというのであれば、私は咎人で構わない。
「あの世で
龍の口の中で凝縮された熱と光を解放する。紅蓮の業火はあっという間に
月から大地と人々の営みを見守っているという
見ているならば目に焼きつけよ。
見ていないのであれば今に思い知れ。
これが、全てを奪われた
読みづらかったらすみません。