病弱な末妹   作:貧弱弱者

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姉として

 剣を振るう。彼女、篠ノ之箒にとってそれは日常であり、人生であり、自身の証明に他ならなかった。

 一振りするごとに自身の中の何かが研ぎ澄まされていき鋭さを増していく。その感覚がたまらなく彼女は好きであった。

 振るうのは木刀ではなく、竹刀だ。実戦を加味するのであれば、木刀の方が都合が良いのだが箒はあえて竹刀を振るっていた。

 念頭にあるのは安全性。そして、彼女の最愛にして最上位に位置する大切な大切な妹である繋からの贈り物であるから。

 本当ならば飾りたかった。だが、その気持ちは贈ってきた妹の残念そうな目に断念せざるを得なかったのだ。

 

 道具というのは使われてこそ意味がある。

 

 そんな目を向けられてしまえば、箒としても振るわざるを得ない。

 そして、この竹刀。彼女の手によく馴染んだ。

 重さ、重心、長さ等々、その全てが丁度いい。数時間連続で振るったとしても、その疲労は他の竹刀や木刀などを振るった時と比べて半分以下であった。

 何より、

 

「お姉ちゃん」

「ああ、繋」

 

 箒が竹刀を振るっていた道場の入口。既に部員がいないこの場には、二人しかいない。

 

「あんまり無理しちゃダメだよ?倒れちゃうから」

「ああ、そうだな。だがな、繋。私としてはお前が倒れないか、の方が心配だぞ?」

「むっ、大丈夫だよ。私だってちょっとは強くなったもん」

「ふふっ、ああそうだったな。では、部屋に戻ろう」

「むぅ…………」

 

 綺麗な女性と言えるほどに成長した繋であるが、頬を膨らませる今の彼女は少女のように幼い。

 こんな面は、滅多に表には出さない―――――のだが、こと姉である箒の前では話は別だ。

 

 そんな幼い様子を見せる妹の姿に、内心で悶えながらしかし外面はキッチリ整えた箒は余裕の笑みを持って更衣室へと向かい、手品師もびっくりの早着替えを終えてすぐさま愛し子の下へ。

 

「さあ、戻ろう」

「……うん」

 

 帰りを促す箒と不貞腐れた繋。

 だが、二人はどちらともなく右手と左手をそれぞれ出してその手をつないでいた。

 昔からだ。箒が手を伸ばし、繋が手を伸ばし、二人が互いに手を伸ばして繋がれる手。

 手を引くのが姉で、手を引かれるのが妹で。これは、この先何があっても変わらないものであった。

 

 

 

 

 篠ノ之箒という少女にとって、双子の妹は護るべきモノであり、同時に半身の様であり、愛の全てを注いでも足りないと言えるほどに愛しい存在であった。

 

 IS学園の学生寮。1025室は、そんな世界的にも重要人物になりうる姉妹の城である。

 

「……………んむぅ…………」

 

 スヤスヤと穏やかな寝息を立てる彼女、繋の寝顔は実に穏やかだ。

 そんな妹と同じ布団(・・・・)に収まった姉、箒はまだまだ朝としては早い時間に目を覚まし指通りの良い黒髪を撫でていた。

 

「ふふっ…………」

 

 向かい合うように、抱き合うように眠る二人。見方によっては疚しさを感じさせるかもしれないが、これにはちゃんと理由がある。

 

 繋は体が弱い。そして、就寝というのは代謝が下がり体の機能が落ちてしまう。休もうとしているのだから当然なのだが、彼女の場合は少しでも体が冷えてしまうと体調を悪くしてしまうのだ。

 実家に居た時ならば、部屋その物を暖かくして眠ることが出来ていた。彼女の部屋は長女の束直々に改造が施されており、床下暖房完備でその上で布団を敷いて寝れば冷える事は無かった。

 だが、一家離散となってからそれほど時間をおかずに繋は体調を崩してしまう。原因は、眠っている際に体が冷えてしまったことにある。

 姉である箒は焦った。このままでは、妹の体調は悪くなる一方であると。

 

 そして、彼女はある事を思い出す。

 

 生まれてこの方、箒は風邪の一つも引いたことが無い。それどころか、病気一つ、大怪我一つした事は無い。

 これを利用しない手は無い。彼女はすぐさま行動に移し、その結果妹が寝冷えを起こす事も無くなり、徐々に体調も回復していった。

 今では、恐らく一人で寝てもそこまで体調を壊さないであろうことは二人も分かっている。

 ただ、この五年間で常に一緒に寝ていたという事実が癖として沁みついてしまった。それだけの事だ。

 

 繋はこの寝方を気に入っているし、姉に甘えられるこの時間が大好きであった。

 そしてそれは箒もまた、同じこと。

 しかし、

 

「ああ……お前はどんどん綺麗になっていくな…………」

 

 愛おし気に繋の髪を梳いて、頬を撫でる箒の表情は家族の愛情というよりも、異性に向ける好意の様な色が見て取れる。

 親愛、ではなく恋愛。親しいゆえの愛情ではなく、恋しい気持ちからの愛情。

 いつからそんな気持ちを抱いていたのか、箒としても分からない。

 あえて挙げるのならば、いつの間にか。

 自分に向けてくる微笑みに胸が高鳴り、弱る姿を見て泣きそうになり――――――――誰かに優しい笑顔を見せる姿を見て、黒い感情が胸の内側を焼いた。

 そう、箒の試練というのは何も繋を守るだけの意図ではない。

 自分自身を納得させるだけの理由を持たせるための儀式でもあった。

 

 箒は自覚している。自分の恋愛感情が歪み、禁忌に触れている事を。その上で、止めることが出来ない愛しさがある事を。

 故にライバルへと試練と称して接触し、自分の愛を確かめるのだ。

 十人が十人振り返るイケメンも、不良としての喧嘩の強さも、学年トップの頭の良さも、その全てが箒にとっては塵芥に他ならない。

 彼女の基準は、何よりも妹に対する愛なのだから。強弱に関しても見るが、本当に好きならば諦めないだろうというのが彼女の持論。負けた程度で諦めるのならば、その程度と切り捨ててきた。

 幼馴染の彼が心配していたが、そもそも彼ほどに繋の事を考えてひたむきに努力してきた者は他に居なかったのだ。

 イケメンはその面を見れないものへと変えられ、不良はチームごと竹刀一本で叩き潰され、学年一位は挑んだが最後二度と学年一位を取る事は出来なかった。

 一夏とて同じだ。剣道で挑むたびに叩き潰され、それでもはいつくばってでも前に進んできた。

 彼の事を箒も認めている。認めているが、それを受け入れるかはまた別の事。

 

「…………私のこの心を知れば、お前は離れるだろうか?」

 

 ぽつりと呟き、それはとても恐ろしい事だと箒は背を震わせる。

 このか弱い妹が自身の側を離れて独り立ちする。そんな未来が、彼女にはとても恐ろしかった。

 只の妄想であろうとも、その胸の中にポッカリと穴が開いたような気になりどうしようもない虚無感が襲ってくるからだ。

 傍に居てほしい愛しい()

 愛しさが胸の中に溢れて―――――

 

「おねえ、ちゃん…………?」

 

 感情が振り切れそうであった箒を現実に引き戻したのは舌ったらずな幼い声だった。

 慌てて箒が前を見れば、そこには寝ぼけ眼でボーっと見返してくる繋が居る。

 

「ど、どうした?まだ起きる時間には早いだろう?」

「んー…………」

 

 箒が問えども、繋は何も言わずに姉の豊満な胸の中に顔を埋めて猫のようにすり寄ってくるばかり。

 ほとんど反射的に抱き寄せれば腕の中から見上げてきた。

 

「えへへ~…………おねえちゃん、あったかいねぇ………………」

 

 ふにゃり、とそんな音が付きそうな笑みを浮かべて再び寝始める繋。

 明らかに寝惚けている。寝惚けているが、今の箒にはそんな事は些事でしかない。

 

(私の妹がこんなにも可愛い!!!!)

 

 起こさないようにしながらも、内心でお祭り騒ぎのカーニバルが巻き起こっていた彼女は、それから起床時間ギリギリになるまで興奮冷めやらぬままに理性とのデスゲームを敢行する事となるのだった。

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