病弱な末妹   作:貧弱弱者

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初めての―――

 クラス代表決定戦が行われて暫く。翌日に休日を臨むその日、

 

「繋さん」

「ん?なあに、セシリアさん」

 

 セシリア・オルコットは新たなる一歩を踏み出すべく勝負をかけていた。

 

「明日、御暇でしょうか?」

「え?……うん、特に用事はないよ?」

「でしたら、その…………わ、私とお出かけしてはいけないでしょうか?」

「「!?」」

 

 何の事は無い遊びへのお誘い。しかし、ある二人にとってはその限りではなかった。

 一人は、実の妹に対するシスコンを拗らせ捲っている(セコム)。もう一人は数年単位で片思いが最早拗れそうなほどに募らせている少年。

 動こうとしたのは実姉。これ幸いと席の近さを活用して割り込もうと口を開き、

 

「うん、良いよ。どこに行くの?」

 

 その前に、実妹の言葉によって遮られてしまった。

 まさしく絶句と言う外ない二人であるが、当人である繋からすれば内心で結構舞い上がっているというか、興奮していたりする。

 病弱な彼女だ。これまで、友達との買い物などした事は無いし、第一誘われたことも無かった。

 であるから、落ち着いたように見せつつもその瞳は常にない程にキラキラと輝き、そわそわとその体は左右に小さく揺れていた。

 本人は気づいていない。だが、その周りで見ていたものは気が付いていた。

 ほっこりとする者や、微笑ましいと見守る者など様々なのだが中には、

 

「「「ンッ!」」」

 

 “愛”が溢れそうな者たちも、居たりする。

 

 

 

 

 

 

「~♪」

 

 鼻歌を歌いながら、繋は自室において私服を選んでいた。

 季節的にも風が吹けば寒く成れども、基本的には温暖。日の下に出ていれば、若干の汗がにじむ程度の気温は出る事だろう。

 とすると、体の弱い彼女は温度調整がしやすい格好を選ぶのがベスト。

 

「繋」

「なあに、お姉ちゃん」

「いや、その…………」

 

 妹の一人ファッションショーを見ていた箒は、気まずそうに言い淀む。

 彼女が憂うのはこれまでの事。

 籠の鳥として閉じ込め続けた事に対する負い目であった。

 理由はある。誰よりもか弱かった妹を守りたかったのだ。だからこそ、全ての善意も悪意も弾いてきた。

 しかしながら今思えば、自分もまた誰かに頼ればよかったのではないだろうかと思うのだ。少なくとも、善意に関しては許容してしかるべきであったはず。

 

 黙り込んでしまった姉に、繋は決めた私服をしわにならない様に一式ハンガーにかけて戻すと、さっさと寝間着に着替えて、いつも眠るベッドへと向かった。

 そして、

 

「お姉…………ちゃん!」

「むっ!?つ、繋っ!?」

 

 流れるような動作で、ベッドの掛け布団を退かしてその上に箒を押し倒すではないか。そのままいそいそと布団を自分たちを覆うように被る。

 目を白黒させる箒は、困惑した目を胸元に抱き着きすり寄る繋へと向けるしかない。

 

「―――――大丈夫だよ、お姉ちゃん」

 

 姉の視線を感じ取ったのか、小さくしかし耳に確りと届く声で繋はそう呟く。

 

「お姉ちゃんは、私の事を考えてくれてるって分かってるから。感謝してるし、嬉しいもん」

「…………ッ」

「むしろ、私がお姉ちゃんの時間を浪費しちゃって申し訳ないな、って思うんだ…………ごめんね、お姉ちゃん」

「そんな事は無い!!」

 

 謝る繋を、箒は力強く抱きしめる。

 

「お前は私の、大切な、大切な、妹なんだ!迷惑だなんて思っていない!お前が大切だから…………!」

 

 誰よりも大切な己の半身。失いたくないと思いながらも、同時に彼女が一人で何かを成す様を最も近くで見届けたいと思う、そんな二つの感情が入り混じり、箒の目より一筋の涙として零れ落ちていた。

 そんな姉を、繋は抱き返す。互いが互いに己の存在を刻みつけるようにして。

 

 

 

 

 

 

 何の変哲もない休日。

 その日もまたいつもと変わらず、待ちゆく人々は休息であったり、はたまた課題や仕事に追われながらもそんな時間を過ごしていた。

 

「楽しそうだね、セシリアさん」

「ふふっ、勿論ですわ。貴女とお出かけが出来るんですもの」

 

 道行く人々が老若男女問わずに振り返りそうな美少女二人も、またこの日を謳歌している。

 手入れの行き届いた金髪を春風の中で揺らし、淡い色合いのワンピースに白のブラウスを合わせたセシリアと、そんな彼女と手をつなぐデニム生地の上着に、シャツ、ひざ丈のスカートを穿いた繋の二人は、通りの視線を一身に集めていた。

 中には、そんな彼女たちに下心から声を掛けようとする不埒者が居なくも無いのだが、

 

「「…………」」

 

 ストーカー、もといセコムによってその尽くが撃滅されている。

 そんな後ろの事など知る由もなく、二人が向かうのは大型複合商業施設であるレゾナンス。

 未だに地理に疎いセシリアと、長く歩き回り過ぎれば体調を崩しかねない繋であるからこそ、室内で尚且つ様々なモノが見れるこの場所を選んでいた。

 

「これなんてどうでしょうか?」

「よく似合ってるよ、セシリアさん!かわいい!」

「そ、そうでしょうか?」(貴女のほうが何倍も可愛いですわ、繋さん!)

 

 己に宛がった服を戻しながら、セシリアは内心でそう叫ぶ。私の友達がこんなに可愛い!と。

 一方で、繋もまた服へと手を伸ばしていた。ただ、その表情は少し残念そうであり、セシリアはすぐにその変化に気が付く。

 

「ど、どうなさったんですの、繋さん?」

「えっと……この服可愛いな、って思ったんだけど………その」

「白のワンピースですね……ええ、繋さんによくお似合いになると思います」

「そ、そうかな?……えへへ…………でも……」

 

 ハニカム繋が見せるのは、服の値段、ではなくサイズの方。

 

「私って、ふ、太ってるから……」

 

 それは、一部の人にとってはある種の絶望的な、しかし本人は本気の悩み。因みに、ワンピースのサイズが合わないのは一部分のみであるとここに記す。

 示された服のサイズと、それから繋の主張の激しい部分を見比べたセシリアもまた、その頬に赤みがさす。

 成程、と。彼女の興味の示したワンピースはどちらかというと通常体系、もしくはスレンダーな女性向けのもの。一方で、繋自身の体系はスレンダーというよりはグラマラス。出るところは出ていて、引っ込むところは引っ込んでいる、世の女性陣が羨むようなプロポーションを誇っていた。

 ただ、そんな肢体を持つ当人は、自分の体型を正確に認識していないのだ。

 

「繋さん」

「ん?なあに?」

「貴女は綺麗です、私が保証いたしますわ」

「……ふぇ?」

「ですので、そう自分を卑下なさらないでくださいまし」

 

 言いながら、セシリアは繋の両手を取りその目をまっすぐに見つめる。

 彼女にとって篠ノ之繋という少女は、光そのものであり、同時に救いの神でもあり、大切な友人であると同時に、蓋をする気持ちを向ける相手でもある。

 そんな彼女が表情を曇らせる姿など、セシリアは見たくはない。故に、その行動には一切の邪な気持ちなどはないし、その言葉にも裏はない。

 

「あぅぅ…………え、えっと、ありがと、セシリアさん……」

 

 まっすぐに見つめてくるサファイアの瞳から赤い顔をそむける繋には、詰まりながらもそう返すことしかできない。

 真っすぐな好意というのは、言う方もそうだが言われる側も照れるもの。

 繋とてその例に漏れることはない。それも、生まれて初めての同性の友達となれば、その喜びは一入であるというもの。

 握られた手を握り返す、繋。一方でセシリアも一種のハイな状態から降りてきて自分の状況を認識し、そして耳を赤くする。

 

(あ、ああ手…!手ぇ!や、やわらか……あ、いい匂いが……!)

 

 内心の語彙力が完全に溶け切っていた。どこぞの限界オタクもかくやといわんばかりの早口で連ね、体温も高くなる。

 しかし、その手を振り払う事だけは絶対にしなかった。出来るはずもなかった。

 天井からスポットライトが降り注ぎ、彼女らの周りには百合の花が咲き誇り、その花弁が風に舞う幻覚すら見せるそんな光景。

 

((((甘い…………))))

 

 店員と客の内心が一致し、ごく一部では砂糖を吐きそうになる。

 ついでに、ストーカー(箒と一夏)が飛び出しそうになるのを互いが互いに妨害することで抑制しあっていたことをここに記す。

 

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