魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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九校戦八日目④

 新人戦モノリス・コード決勝。本部席近くのスタンドはざわめきが起こっていた。その理由は十師族の当主やその直系、そして烈が座っていたからだ。

 確かに決勝ではそれぞれ十師族の直系が対戦することになる。とはいえ、本部席ではなく直接見に来るということ自体、その試合が注目されているということ。その空気に耐えかねて香澄が言葉を零した。

 

「……なに、この状況」

「今回ばかりは私も同じですよ、香澄ちゃん……」

 

 香澄と泉美は周りに迷惑が掛からないようにこの場所で観戦しようと先に来ていたのだが、次々と来る十師族の面々に対して挨拶をする羽目となり、加えてその中に自分の父親がいるという現実に緊張しがちであった。

 

「これってさ、多分悠元兄を見に来たってことだよね」

「そうでしょうね。それに、十師族の直系同士の対決ですから」

 

 一条、三矢、四葉、五輪、六塚、七草、九島と十師族の半分以上がこのスタンド席にいる。それだけの家の人間を集めたのは一条の御曹司の力とは思えない、と香澄や泉美は薄々感付いていた。

 2人は新人戦アイス・ピラーズ・ブレイク決勝の試合も観戦していた。一瞬で決着をつけた悠元の実力は恐らくモノリス・コードでも発揮されるのだろう。そう考えると、それを見に来たというのは分からなくもない話であった。

 

「ていうか、厚かましいって思わないのかな」

「そんなことを一々思っていたら務まらないのでしょう」

 

 周りの目もあるので相手を伏せつつ小声で話しているが、香澄は自分の父親のことをそう酷評し、これには泉美も苦笑を漏らしつつ容赦ない言葉を呟く。双子の妹のこの一言には香澄も引き攣った笑みを漏らした。

 その背景には自分の婚約を潰した父親への恨みも込められているのかもしれない。すると、その言葉を聞いていた一人の人物が声を掛けてきた。

 

「あらあら、七草のお嬢さん達は中々に苛烈ですね」

「え? えっと……」

「どちら様でしょうか?」

 

 社交的な七草家の令嬢である香澄と泉美でも見知らぬ女性。見るからに現代風のファッションを身に纏ったモデル体型の20歳代ぐらいの女性。その女性は手に持っている扇子を指で器用に回しながら自己紹介した。

 

「神楽坂家現当主、神楽坂千姫と言います。名前は聞いたことぐらいあるかもしれませんが」

「神楽坂家……確か、古式魔法の大家と剛三さんからお聞きしたことがあります」

「えと、先ほどの発言は……」

「周りには聞こえていませんよ」

 

 千姫はこの時天神魔法を使用して2人の会話を周囲に聞こえないようにしていた。発動兆候を一切感じさせない発動方法は現代魔法では到底無理である。

 そう言って千姫は香澄の隣に座った。すると、2人を値踏みするように見た上でこう問いかけた。

 

「2人はモノリス・コードを見に来てるみたいだけど、だれかお目当てでもいるの?」

「私は妹の泉美がどうしても観戦したいと言いましたので、その付き添いです」

「香澄ちゃん! ……まあ、悠元お兄様が心配なのは否定しませんけど」

 

 千姫は無論香澄と泉美のことは事前に調べている。泉美が以前悠元と婚約関係にあったことも無論知っている。それが十山家の絡みで破談となったことも。それも含めて千姫は尋ねた。

 香澄は相手の格式の高さを考慮して丁寧な言葉遣いを使った。その事実に泉美が声を少し荒げるも、周囲の人たちのことを思い出してハッと我に返った。

 

「泉美ちゃんと言ったね。貴女は悠元君って人のことが好きなのかな?」

「えっと、その……はい。お父様が四葉家に変な欲を出さなければ、婚約は解消されなくて済んだのです……あのタヌキオヤジは……」

「泉美、お姉様みたいになってるから落ち着こう、ね?」

 

 暴走しがちな香澄を泉美が窘める筈が、この時ばかりは香澄が泉美を窘める役に回っていた。なお、2人の姉である長女も最近は悠元に対してスキンシップが積極的になっており、それに比例して泉美の嫉妬具合も上がっていくという有様に香澄は内心で溜息を吐きたくなるほどだった。

 本来、こういったことを窘める役割を担う彼女らの母親もとい七草家当主夫人は滅多に家にいない。それは社交的な一面を担う七草家の交渉役として全国各地を忙しなく動いているからだ。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「ぷぷっ、あはははっ! な、なによアレ……」

「気持ちはわからんでもねえが、あまり笑ってやらないほうがいいんじゃねえのか?」

 

 それとは対照的に、一般の観客席にいるエリカは腹を抱えて笑っていた。これには隣に座っているレオが已む無く窘めることになった。それに対するエリカの弁解が意味を成しておらず、美月もフォローする羽目となった。

 その理由は、フード付きマントを身に纏っている幹比古と同じような素材で出来たマントを身に着けている達也にあった。

 

「いやー、分かっちゃいるんだけどね。達也君のことだから、何かしらの策だとは思うんだけれど」

「エリカちゃんたら……凄い数の精霊が飛び交ってます」

 

 美月は眼鏡を外してその様子を観察すると、精霊が悠元と幹比古の周囲に群がっていることに気付く。無論魔法を発動しているというわけではないのは当然のこと。幹比古のほうは身に着けているマントのお蔭だろうが、装備の補助なしでもそれ以上の精霊が群がっている悠元に驚きを隠せなかった。

 

 とはいえ、精霊を認識できる人間は極めて少ない。いくら十師族の当主でもそこまでを見抜けている人間はほぼ皆無だろう。

 その数少ない一人である佳奈はCADチェックが一段落したところでモニターに映る第一高校の面々を見ていた。悠元に群がる精霊を見て、感嘆に近い吐息が漏れた。

 

(あれだけの精霊を制御下に置いている……本当に凄いね、悠元は) 

 

 魔法を発動させているわけではなく、むしろ魔法が暴発しないように制御している形なのでルール違反に当たらない。精霊の動きを感知できる人間は現代魔法の使い手において数えられるレベルに入る。それこそ佳奈のように特異的な感知力でも持たない限り。

 佳奈も天神魔法に関しては習得半ばといったところだが、それすらも越えた領域にいる弟に正直感心していた。 

 

 精霊を感知できない人間からすれば、決勝になって身に纏ってきた達也と幹比古のマントに注目してしまう。それは対戦相手である第三高校の面々にも言えたことだ。

 

「あれは……ジョージ、どういうことか分かるか?」

「そうだね。多分『不可視の弾丸(インビジブル・ブリット)』対策だとは思うけれど。単なるパフォーマンスのために用意したとは思えない」

 

 チームメイトの問いかけに真紅郎はそう返した。単なるパフォーマンス程度でこの決勝に持ち込んだとは思えない。その意見には将輝も同意見だったが、もっと気になるのはそれを身に着けていない悠元であった。

 

(司波達也が態々動きにくいマントを身に着け、三矢悠元が何も身に着けていない……どういうことなんだ)

 

 ともあれ、第一高校と第三高校の試合開始を告げるサイレンが草原フィールドに鳴り響く。将輝は機先を制するために特化型CADを構えるが、それよりも早く圧縮空気の弾丸が第一高校側から飛んできた。無論、フライング判定は出されていないので将輝よりも早く魔法を発動させたということになる。

 

(なっ……!?)

 

 それも、一度に複数の圧縮空気の弾丸が第三高校側に飛んでくるが、そのどれもが将輝たちを避ける形で16発撃ち込まれた。これには第三高校のチームメイトが強気になった。

 

「……なんだよ、当たらなきゃ意味ないじゃないか」

「……(いや、違う……単に外しただけじゃない)」

 

 だが、真紅郎はその空気弾が着弾した場所を見て、冷や汗を流した。何せ、その空気弾は第三高校のモノリスを中心点として四方に4発ずつ、目視で2メートルという均等な間隔で放射状に撃ち込まれた。空気弾自体は雑草を吹き飛ばして土が露出するぐらいの威力に抑えられているが、間違いなく射程内に収められているということ。

 そして、そんな芸当が司波達也にできるとは思えない……それを示すかのように、第一高校のモノリスから両手に銃形状CADを持ってゆっくりと前進する悠元の姿があった。

 これには将輝も真剣な表情を浮かべて特化型CADを構えつつ前進を開始した。

 

「やはり、彼が前に出ることになったか……大丈夫かね?」

「彼は魔法の引き出しが多いでしょうから、下手を打つ可能性は低いかと。加えて古式魔法にも精通していますから、達也君が前に出るより苦戦はしないでしょう」

「それは分かっているが……相手の手札を平気で潰せる彼にはさしたる問題でもないか」

 

 そう零したのは観客席に座る山中と響子の二人。独立魔装大隊において、彼の実力は折り紙付きと言ってもいい。実家で磨かれた体術に加えて類稀なる魔法の才能を併せ持っている。元々達也が衆人環視の中で軍事機密に触れるような魔法を使わないか監視の意味も含んでの観戦だが、悠元が前に出たことでその危険性は大分減ったといっていい。

 

「一条君の『爆裂』はルール上使えませんが、それ未満の威力の魔法となると彼には意味が無いでしょう。何せ、例のデモ戦闘を無傷でこなして、真田さんや柳さんと手合わせをしたのですから」

「……正直な疑問だが、彼を倒せる手段はあるのかね?」

 

 山中の発言は分からなくもない、と響子は苦笑を漏らした。独立魔装大隊で新陰流の道場を訪れることは度々あるが、上段クラスとなれば屈指の実力を持つ柳でも苦戦を余儀なくされるほどだ。その中で叩き上げられて師範クラスにいる悠元を倒せる手段があるのなら是非教授してほしいと思わなくもない。

 

 将輝は前進しながら特化型CADを右手に持って攻撃魔法を仕掛けるが、それが発動する前に悠元が右手に持ったCAD―――『術式解体(グラム・デモリッション)』で撃ち落とし、同時に左手で持ったCADで将輝に向けて魔法を放つ。それも将輝の干渉装甲を破らない程度の威力に抑えた状態だった。

 魔法の撃ち合いという光景に観客席は沸き立ち、第一高校の応援席も優勝できるのでは、という期待に満ち溢れていた。その一方、第一高校の天幕では真由美と克人、鈴音が悠元のやっていることに驚きを隠せなかった。

 

「ねえ、あれってCADを同時に使用しているのよね?」

「……恐らくは」

 

 サイオン波を完全制御するという技術は現代魔法において確立していない。その為に複数のCADを使用することは高等技術の一つであり、安定的に使うのは難しいとされている。だが、モニターに映る悠元は2つのCADを同時に連続発動までこなしている。それはつまり、CADを使用する際に発生するサイオン波を何らかの形で遮断しているということを意味する。

 それを軽々とやってのけている悠元の実力は十師族の名に恥じぬものと言えよう。加えて彼が『術式解体(グラム・デモリッション)』を使ったことも驚きはしたが、アイス・ピラーズ・ブレイクの活躍に比べれば控えめだったのは言うまでもない。

 そもそも、モノリス・コードのルールにおいて殺傷性Aランク以上の魔法は使用禁止となっている。派手さがあまりないのは仕方のない話だ。

 

「でも、一条君に対しては攻撃が通っていないわね。悠君が力加減を間違えているとは思えないけれど……十文字君はどう思う?」

「攻撃の手数は減っていないどころか増えているところを見ると、三矢は何かを狙っている。単に一条を釘付けにしたいというわけではなさそうだ」

 

 悠元は極力振り返ることなく、周囲に展開している将輝の魔法式を破壊していく。九校戦は魔法の可視化処理が施されているため、魔法式が砕けるという光景は一種の幻想的な光景を描き出している。それでいて将輝への魔法の威力を少しずつ、段階を踏んだ上で高めていく。将輝は表情に見せなかったものの、内心は正直焦りを感じつつあった。

 

(ここにきて特化型を持ってきたのが悪手になってるな……くそっ、司波を誘き寄せるつもりが三矢を引っ張り出すとは……)

 

 悠元が動かないという確証はなかった。だが、準決勝まで彼がモノリスのディフェンスを担っていたことが将輝に対して慢心を生んでいたのは確かだった。真紅郎もあのビル崩落がなければ悠元が前面に出てくることも考えたのだろう。試合中に愚痴ることではない、と将輝は障壁魔法を展開して防御を高めた。

 それでいて将輝の攻撃の手は緩めないが、発動するよりも早く悠元の『術式解体』で魔法式が砕けていく。

 

 将輝の魔法技能は確かなものである。なので、悠元が考えた対抗策は今まで秘匿していた複数のCADの同時行使であった。正直『相転移装甲(フェイズシフト)』を使うことも考えたが、防衛大の学生や教官が見ていることを考えるとそれは控えるべきだと判断した。

 

 この技術自体別に難しくはない。というか、その前提条件となる魔法力制御―――創作物でよく語られる魔力制御がしっかり出来ていないと難しい。現代魔法において魔法力制御はそれなりに研究が進んでいるが、どうしても発動速度ありきになる現代魔法の性質に加え、CADという魔法発動のツールがある以上、制御自体あまり重視されていないのも事実。

 確かに制御の鍛錬自体は地味な作業の積み重ねなので、速度や規模、強度を求める現代魔法とは肌が合わない。だが、これが出来ていないと天神魔法は習得できない。

 

 古式魔法にはそういった想子制御の技術がいくつか残っているが、ハッキリとした習得法がない。あくまでも「効果がある」程度のもの。

 これを、知らず知らずの内に昇華させて確立したということを悠元自身気付いていなかった。三矢家でやっていたことに加えて、上泉家にある想子制御の技法や自身の抱いていた制御イメージなどを組み合わせて昇華させた鍛練法を作り上げたが、これは今のところ悠元しかやっていない。

 そこまで至った切っ掛けが金沢魔法理学研究所での魔法訓練ということから察してほしいと思う。

 

 話を戻すが、想子制御の訓練によってサイオン波の制御が可能になったことで、干渉を起こすことなく複数のCADの同時使用も可能となった。それを平気で使うという意味を悠元自身は理解している。

 

(ここまでは予定通り……達也と幹比古も動いているな)

 

 『視覚同調』で味方の動き―――達也と幹比古が真紅郎の動きを止めるために動いていた。幹比古の纏っているフード付きマントには精霊魔法が掛かりやすくなる魔法陣が編み込んであり、幻影魔法で真紅郎の『インビジブル・ブリット』が必要となる作用点の視認を封じる。ならばと真紅郎は達也に照準を向けるが、無論達也のほうにも対策はされている。

 達也の纏っているローブにも魔法陣が編み込んであるが、これは達也の姿をずらす認識阻害の魔法陣である。確かに達也の魔法構築速度は二科生レベルだが、想子保有量は頭一つ以上抜けている。ならば刻印型術式のように想子を流し込むだけで発動できるほうが達也にとってはしっくり来るのだ。

 加えて四葉本家と八雲仕込みの体術があり、真紅郎の『インビジブル・ブリット』の発動条件を熟知している以上は普通の魔法使いのように立ち止まる必要もない。

 

 ここまではよかったのだが……真紅郎が二人に倒されそうになった時、将輝が仲間を助けようという気持ちが先行したのだろう。その結果、加減を考えないレギュレーションオーバーの圧縮空気の魔法を達也と幹比古に向けて放ったのだ。空中に展開している魔法式からして数は16発。対人魔法としての威力は洒落になってないレベルだと直ぐに察した。

 

「達也に幹比古! その場を動くなよ!!」

 

 『聴覚強化』は何も聞くだけの能力ではない。自分から発する声もその対象に含まれる。今回は拡散する自分の声に指向性を持たせて達也と幹比古にだけ聞こえるように言い放った。その上で右手に持ったCADで9個の起動式を同時読込、そして魔法式を達也と幹比古に向けて投射する。

 そして、その魔法が放たれた直後に撃ち込まれた将輝の空気弾が二人に着弾したように見えた瞬間、草原フィールド全域が着弾予想地点を中心に吹き出すかのように発生した“霧”に包まれた。

 

「……いったい、何が起きたんだ……」

 

 将輝は茫然としていた。

 悠元からの攻撃に耐えつつ、真紅郎を助けようとして加減を考えずに圧縮空気弾を撃ち込んでしまった。だが、その次の瞬間には草原フィールド全域が霧に包まれていた。将輝自身、そういった魔法を使った覚えはない。試合中だというのに、先ほど自分がやってしまったことへの後悔と疑問……だが、それを知る暇は今の将輝に与えられていなかった。

 次の瞬間、サイオンの波の合成と思しき激しい酔いが襲い、将輝の意識は暗転したのだった。

 

「……まずは一人」

 

 倒れこんだ将輝を見やりつつ、悠元は警戒をしたまま呟く。

 悠元はあの時、達也と幹比古に半球状の『ファランクス』を撃ち込んだ。ビル崩落の時にこれを使っていれば森崎と鷹輔も助かったと反省し、今回は躊躇いなく使用した。『ファランクス』に加えて悠元は天神魔法の水属性魔法で細かい水滴を発生させ、それを将輝の放った圧縮空気に乗せる形でフィールド全体の空気を急激に冷やして霧を発生させた。

 

 それに加えて保険として認識阻害の意味で天神魔法の『八卦遁甲(はっけとんこう)』を使用している。原理自体は九島家の『仮装行列(パレード)』に似通っているが、『八卦遁甲』は相手の行動全般を術者のいる場所とは別の座標にずらしてしまうというもの。

 前者の場合は幻影を生み出すことで相手の意識をそちらに向けるものであり、後者の場合は相手を視認していてもその座標が書き換わっているという形だ。加えて敵味方の識別も出来るようになっているため、今回の場合は達也と幹比古を味方として設定している。

 

 将輝を倒した魔法は達也が服部に向けて使った振動系・基礎単一系術式の多変数化発動による波の合成を応用した方法で強制的に気絶させた。

 というか、動揺のあまり対戦相手に接近を許すというのはどうなのかと思う。いくら実戦を経験していたとしても、想定外の事態には対応しきれない甘さが出たのだろう。それを自分が言うのはどうかというツッコミは勘弁だが。

 

(うお、派手にやるな……で、達也は……やばっ!)

 

 悠元が味方のほうに意識を向けた次の瞬間、雷が落ちて『視覚同調』で真紅郎が戦闘不能になったことを確認する。間違いなく幹比古の『雷童子(らいどうじ)』によるものだろう。さて、ここで残る達也はどこにいるのかといえば……その場所を確認した瞬間、悠元は反射的に『聴覚強化』を遮断して耳を塞いだ。

 次の瞬間、増幅された単一系振動魔法がフィールドはおろか観客席にまで響き渡り、漂っていた霧もその振動で一気に晴れた。一体何が起きたのかと困惑している観客たちであったが、戦闘不能になっている第三高校と対照的に健在である第一高校。そして、試合終了のサイレンが鳴り響いたことで漸く第一高校が勝ったのだと察し、歓声を上げたのだった。

 

「―――で、自分の鼓膜を破るほどに振動系魔法を増幅させた理由は?」

「お前たちが『プリンス』と『カーディナル』を倒したから……かもしれないな」

「いや、鼓膜が破れてて平然としているのはおかしくない?」

 

 聞く限りにおいては、どうやら深雪からの励ましに兄として応えたいような気持ちが含まれていた。加えて悠元が将輝を倒したことに対して負けたくないようなニュアンスも含まれていた。

 そんな風に話す達也とは対照的に、幹比古は鼓膜を負傷している達也を心配していた。というか、これが普通の反応だろうと思うとそんな風に反応できなくなっている自分も埒外だな、と悠元は苦笑を漏らした。

 

「幹比古。言いたいことは分かるが、達也はこういう風な奴だから諦めろ。ごく一般的な人間のカテゴリに当て嵌めようとする方が労力を使う羽目になる」

「悠元、お前がそれを言うのか?」

「あはは……(類は友を呼ぶ、ってやつなのかな)」 

 

 幹比古は口にしなかったが、現代魔法と古式魔法を併用する悠元と、二科生とは思えないほどの実戦力とCAD関連の技術力を有する達也が思わず同類のように思えた。とはいえ、精霊魔法を使っている幹比古がそれを言えた義理はないのだが。

 




主人公限定で入れ替わる力関係。

主人公が手加減しているのはナメプではなく、意図があっての行動です。
その辺は次の話で取りあげます。

隣の芝(司波)は青い。

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