魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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九校戦九日目①~本戦四日目~

 新人戦モノリス・コードの優勝で、文句なしに第一高校が新人戦優勝となった。第一高校の代表メンバー、特に1年生も即席チームの件などで思うところはあるだろうが、とりあえず総合優勝につなげる大きな弾みとなった。

 だが、そんな喜びとは裏腹に、先日達也を呼び出した同じ部屋にて、真由美と克人、そして悠元の3人が集まっていた。真由美も克人もその表情は決して宜しいものとは言えなかった。

 

「悠君たちが優勝してくれたことには感謝するわ。けどね……」

「何か問題が?」

「あの後、臨時で師族会議が開かれることになった。お前が悪いというよりも、威力制御を誤った一条の甘さが要因とも言えるが」

 

 悠元が決勝で将輝との撃ち合いを選択したのは単純明快。モノリス・コードは団体戦であって個人戦ではないが、敢えて悪目立ちに近いパフォーマンスで、相手を引き付けるのも立派な戦術。

 アイス・ピラーズ・ブレイクのような短期決戦ではなく、魔法の撃ち合いによる砲撃の持久戦もこなせるという力の誇示。これには克人と真由美も理解して納得した。試合開始直後に放った圧縮空気弾はその挑発みたいなもの。これも力を制御しきっているという見せ方であり、見事効果覿面だった。

 

 決勝戦の後、克人は十文字家当主代行として急遽開かれることになった臨時の師族会議に参加した。そのことを真由美が知っているのは、真由美の父親もとい七草家現当主からの暗号メールに他ならない。三矢家では従来よりも遥かに高度化した暗号メールを使用しているため、その辺の事情は言わずとも理解できた。

 

「加えて、悠君がピラーズ・ブレイクで、古式魔法と現代魔法の複合術式を披露したでしょ? それが九島家現当主の琴線に触れたようなのよ」

「教える気は更々ありませんよ。下手すれば修得している古式魔法の秘密にも触れかねないのですから」

 

 教えるにしても相手との信頼関係が大前提。その意味で九島家とはあまり良い関係とは言えないかもしれない。何せ、試しとはいえ先代当主から殺気を向けられたことを、良いことだと開き直れるほうが凄いと言わざるを得ない。

 同年代である烈の孫とは交友関係を持つが、現当主に対してあまりいい印象は抱いていない。古式魔法に関わるということは、その辺の柵にも配慮せねばならないという面倒さが付きまとう。その点で言えば神楽坂家と上泉家は、九島家ほどの諍いを持っていない。

 悠元の言葉は既定路線だったようで、これには克人も静かに頷いた。

 

「それは無論承知している。三矢には本当に感謝している立場だ」

「で、自分がこれ以上何かをやれというのはおかしいですから……会頭がその役割を負う羽目になったというところですか?」

「その通りだ。で、三矢を呼んだのはもう一つ理由がある。お前が今後どのような立場に立つのか、ということだ」

 

 克人が出場する本戦モノリス・コード。少なくとも決勝トーナメントに行くことは確定事項に近く、その場において十師族たる力を見せろという流れになった。新人戦モノリス・コードの決着自体があっけない幕切れになってしまったのがその要因だが、これに関しては、アイス・ピラーズ・ブレイクよりも魔法のレギュレーションが厳しく制限されている範囲内だと、魔法の派手さは落ちてしまうのも無理はない。

 

「父には尋ねなかったのですか?」

「無論問いかけはしている。その時に返ってきた答えは『三矢の家督を継ぐ立場ではないため、息子には自分で決めるよう言い含めている』だけだった」

 

 加えて、臨時の師族会議の中で、克人は今年の春に悠元と克人が対戦した非公開の試合のことを弘一に尋ねられ、隠せることでもないと判断して正直に話した。それを聞いた他の十師族の当主の面々は、驚きを隠せなかった。同年代の十師族において、現状トップに等しい実力を備えている状況となったからだ。

 違う反応を見せたのは、平然としている三矢家当主、笑みを浮かべた四葉家当主、やはりといった感じで納得していた七草家当主だったと克人は述べた。これには真由美が頭を抱えた。彼女もその試合の目撃者だが、父親の狡猾さを考慮して隠していたようだ。

 

「あのタヌキオヤジ……そんなことを十師族の当主たちが聞いたら、間違いなく悠君を囲い込もうと各々画策するに決まってるじゃない。三矢殿に喧嘩でも吹っかけるつもりにしか聞こえないわ。どうして十文字君は試合のことを話したの?」

「拒否できる状況ではなかったからな。只でさえ一条を下した三矢が、俺とどれぐらいの実力差があるのかと……加えて三矢、お前の姉である佳奈殿の試合のことも、七草殿は掴んでいたようだ」

「はあ、悠君に養ってもらいたい」

「寝言は寝てから言ってください」

 

 つまり佳奈との試合のことを持ち出された以上は、そこで発言を拒否することもできないと判断したのだろう。元がそれに対して諌めたり止めようとしなかったのは、話しても問題ないと判断したまでのこと。なお、その辺の展開については、元からの暗号メールですべて知らされている。

 

「正直に言わせてもらえば、そんな下らない三文芝居に力を使うほうが無駄です。3年前の沖縄や、佐渡の一件を軽んじてるとしか思えないですよ。そんなことを続けてたら、船頭多くして船山に登るどころか船諸共海底に沈みかねないです。そんな見え見えの泥船に乗る気なんてありません」

 

 自身が関わったことは伏せたが、どの道七草家あたりはその可能性に気付いていると考えていい。国防軍は特殊な状況を除いて、17歳以下の魔法師の軍事行動参加を認めていない。悠元と達也が別の名で軍人として登録されているのは、その辺の事情も含んでいる。未成年の軍事行動参加は他の国でもやっていることなので、別段おかしいというわけではない。

 

 このことを把握しているのは、推測も含めれば三矢、四葉、七草あたりだろう。九島家については、剛三から沖縄のことについて「烈なら言わんでも勘付くから言っておらん」という答えが返ってきた。

 先代当主に思うところはなくとも、今代に関しては快く思っていない一面が出た形だ。そうでなくとも、係累の藤林家―――響子が独立魔装大隊に所属しているため、そこから聞き及んでいたとしても不思議ではないと判断した。

 

「問いかけの答えですが、自分から進んで面倒事は御免です。されど、相手の一方的な論理で邪魔されることを許すつもりもない。それが今の自分に言える範囲内での答えです」

「……そのことを元殿はご存知か?」

「ええ。父は苦笑を浮かべていましたが、理解してもらえました」

 

 自分は三矢家の三男なので、このまま家内でどう足掻いても予備扱いでしかない。それに上泉家と神楽坂家のことも聞き及んでいる。この九校戦後に、恐らく自身の立ち位置も大きく変化することになるのだろう。そうでなければ、自分の婚姻を「護人」の家ぐるみで面倒を見ることにはならない。

 今の発言には「場合によっては十師族の立場も捨てる」とは言わなかったが、ある意味含みを持たせるような発言に聞こえたようで、克人と真由美は揃って渋い表情を浮かべた。

 

 相手自体の明言は避けたが、これは別に他の師族や百家などの魔法使いだけを指して言ったわけではない。この中には諸外国―――大亜連合、新ソ連、旧EU諸国、そしてUSNAも含んでいる。個人的にUSNAの現大統領と知り合っていても、それはそれというだけの話だ。第二次大戦のように、向こうの勝手な言い分でこちらが損害を受けることに、黙っていられるほどお人よしと呼べる時期はとうに過ぎたのだから。

 

 これでも自分の魔法力は戦略級クラスだと自覚はしている。この前、新しい戦略級魔法を組もうとしたら、CADなしで展開完了速度が200msを切った……FAE理論とかそういったものに平気で喧嘩を売っているかもしれないと思い、一人落ち込んだことは記憶に新しい。終了条件を展開後10ms、威力変数をゼロに設定していたので、展開はしても周囲に被害は及ぼしてない……この技術は以前使った『流星雪景色(ミーティア・スノーライト)』で確立したものを流用している。

 その時に協力して貰っていた八雲からは「達也君を一発の大陸間弾道ミサイルに例えるなら、君はひとつの恒星レベルだね」と言われてしまった。納得いかねえ。

 

「はぁ、何だか悠君に一歩先を越されたような気分がするのだけれど」

「会長は仕方ないかと思いますけれど」

「……」

「ちょっと、どういう意味!? って、十文字君も妙に納得したような表情をしないでよ!!」

 

 別に貶すつもりはないのだが、容姿に加えて父親に反抗したい年頃の娘の心情も相まって、年齢よりも幼く見えることがある真由美に対して放った悠元の一言に、克人は瞼を閉じて腕を組みつつ黙った。これを肯定の意と受け取った真由美が、声を荒げて反論するということになったのだった。

 切っ掛けは将輝が原因なのに、自分がその被害を受けるのは遺憾としか言いようがない、とまでは言わなかった悠元だった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 新人戦優勝パーティーは達也の耳の負傷のこともあって、総合順位の結果が出るまでお預けとなった。

 九校戦も今日を含めて残り2日。本戦ミラージ・バットの結果次第では総合優勝が決まるかもしれないという大一番のため、ほかのメンバーも手伝いに回ることとなった。達也がこれを幸いと見たのかどうかは不明だが……悠元は深い溜息を吐いた。

 

「で、何でこうなるんだかなぁ……」

「諦めろ」

「真顔で言うなよ……まあ、真顔になる意味は理解してるけどさ」

 

 スピード・シューティングの時とは異なり、悠元は深雪が使うことになる“とっておき”のほうの調整をやらされる羽目になった。達也曰く「重力制御術式自体の調整はそれを使いこなしている人間がいいだろう」ということだ。なので、達也は深雪の予選用のCAD調整をしている。

 隠すほどではないが、その隠し玉は無論飛行魔法である。

 

「軽い冗談だけれど、少しは休ませてほしいわ」

「それも今日が終われば楽になると思うがな」

 

 原作だと本戦ミラージ・バットは妖精をイメージしたコスチュームなのだが、ここでも変化が生じている。何というか、具体的にはフィギュアスケートに出場でもするかのような衣装に近い。無論全ての選手がそうではなく、従来通りに妖精のようなコスチュームで挑む選手もいたりする。

 

 CADのレギュレーションチェックは魔法大学と防衛大学校の学生で担当することとなり、それに反発した委員もいたが、烈の言葉で全員沈黙を余儀なくされた。その委員はこぞって「無頭龍」の息が掛かった者らだった……その当該組織はすでに壊滅したが。

 その情報提供の一環ということで、遥を含めた公安の捜査官にも動いてもらった。「無頭龍」と繋がりのある組織や企業、個人などを虱潰しに炙り出すというもので、ここには意図的に中華街の面々は除外されている。

 

 話を戻すが、深雪の場合は予選ということで、赤を基調としたコスチュームを纏っている。彼女自身の魅力も相まって、観客席にいる他校の男子の視線は釘付けであった。

 今回は新人戦から急遽変更ということで、衣装の面で不安はあった(最悪妖精のコスチュームでも問題はなかった)が、その辺は達也というか、正確には深夜が一肌脱いだそうだ。そこにどんな意図を含ませているのかは分からない、と呟いた達也の意見に思わず肯定してしまった。

 

 第1試合に出場した小早川は、想定以上の動きを見せて予選通過。原作では途中で落下事故が起きていたので、それがなくなった変化がどうなるかは今後次第といったところである。

 

 続いての第2試合。深雪が出場する組には第三高校の水尾佐保がいる。

 原作ならばともかく、今の深雪は新陰流の体術を習っている。類稀なる想子保有量とそれを支える強靭でしなやかな肉体。他選手の妨害も何のその、といった感じで着実に得点を重ねている。これには達也も妹の成長を喜んでいるような表情が見られた。

 

「そんなに嬉しいか?」

「まあな。ここまで効果覿面なら俺も学びたいと思うが……」

「あのエロ坊主か」

「……ああ」

 

 達也に八雲を紹介したのは風間。彼とて体術だけを目的として紹介したわけではないことは無論知っているし、悠元も時折魔法の練習の一環で九重寺を訪れている。

 新陰流剣武術の総本山がある箕輪山の麓には天台宗系列の寺があり、そこの住職(厳密には“忍術使い”)が八雲と同じ師を持つ兄弟弟子の間柄に当たる。なので、剛三と八雲が知り合っていてもおかしくはないし、剛三自身も八雲に稽古をつけたことがあると答えた。

 なお、そこの住職も八雲のことを「世俗に沈んだ生臭坊主」と断言するほどに、彼の気質は筋金入りであった。魔法使いに普通とか一般常識という概念を求めるほうが間違いかもしれないが。

 

 そんな事情はおいといて、第二ピリオドが終了。ここまでの点数差を考えれば、このまま深雪が無理をせずとも決勝進出は堅いだろう。だが、それに追い縋る形で三高の選手も得点を伸ばしている。十分に逆転は狙えるという形だ。

 この状況に甘えるという選択肢は深雪に存在しない。なればこそ、と深雪は達也に提案をした。

 

「お兄様、“アレ”を使わせてください」

「ああ、分かった。頑張ってくるといい」

 

 本来決勝戦用にと温存していたもの。悠元はその判断を達也に委ねた。彼の気質からすれば妹のコンディションを考えた上で判断する……言い方を悪く言えばシスコンになってしまうが。

 深雪の想子保有量からして、ここで使用したとしても決勝戦に大きな影響は及ぼさない。一番影響が及ぶのは深雪以外の選手やエンジニアといった面々だろう。最終ピリオドが始まり、一斉に跳んでいく選手の中で一人空中に浮かぶ深雪。

 常駐型重力制御術式―――『飛行魔法』の初お披露目である。

 

「あれって、まさか飛行魔法…!?」

「先月トーラス・シルバーが発表したばかりの術式じゃないか!」

「それをこの九校戦で……」

 

 観客席にいる面々が完全に面食らっている状況。他の選手たちも何とか追い縋ろうとするが、光のエフェクトに対する相対距離で言えば、深雪に圧倒的なアドバンテージがある。例えて言うなら、徒競走の中で1人だけ馬術をやるようなものだ。

 それに、焦りは集中力を欠く要因となって想子制御も甘くなる。というか、CADありきで魔法を使うという手段は便利だが、「弘法筆を選ばず」という諺のようにいかないのか、と思わなくもない。

 

(……早めに手を打っておく必要はあるかもしれないな)

 

 そんなことを考える悠元を他所に、深雪は飛行魔法で着実にポイントを重ね、最終ピリオドを終えて深雪が大差をつける形で決勝進出を果たした。

 




若干駆け足気味なのは否定できない。

あっけない幕引きになった為、その責を克人が負う形になった感じです。

ミラージ・バットの衣装関連は優等生より流用。
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