沖縄―――司波家別荘での休養も終わり、三矢家へと戻ってきた悠元はすぐさま元に呼ばれていた。いくら国防陸軍の特務士官とはいえ、自分の判断だけで軍事行動に参加したことからすれば流石に説教もあるだろうな、と思った。だが、実際に元から放たれた言葉は説教でなく謝罪も含んだ感謝の言葉であった。
「お前が自発的に戦闘へ参加し、非公式とはいえ戦略級魔法師になった……すまないな、悠元。十山家のこともそうだが、お前には何かと迷惑を掛けてしまっているな。本来ならば大人である我々が出張らねばならなかった」
「いえ、以前地下室を勝手に作った自分も迷惑をかけた側ですから」
「それは度肝を抜かれたが、今では家の者全員が便利だと言って利用している。今更捨てるわけにもいくまい。さて、ここからが本題だ」
元の説明によると、四葉家現当主である四葉真夜と会談をするということが決まった。日時は3日後で場所は都内にある四葉系列(表向きは四葉を連想させない名前になっている)のホテルとのこと。その場には元治と悠元も参加してほしい、と言われた。この時点で何を話すかは簡単に察することができた。
「自分と元治兄さんも含めてとなると、間違いなく先日の沖縄の一件ですか」
「そうだな。何はともあれ、これで三矢家は四葉家と縁を結ぶことができる。師族会議のこともあるので、あくまでも顔合わせや手打ちのようなものだ」
元から今回のことについての詳細な事情を説明された。
悠元は図らずも達也の秘密を知り、達也も悠元という異才を知った。実は元も元治と悠元の見送りのためお忍びで空港にいた。その際、偶然にも深夜と深雪、達也とすれ違ったと話す。
「もしやと思い、慌てて乗客名簿を調べた。司波という名字を見てすぐに四葉の縁者だと分かった……実は、深夜さんや四葉殿とは義父の繋がりで面識があってな。向こうもプライベートだったから声をかけなかったのだろうと思う」
三矢家は偶然気付いたが、諜報を担う七草家も調査して達也と深雪を四葉家の人間と疑うのではないかと考えた。高校に入って公衆の面前に立てば、自ずと目立ってしまうのは明白だろうとも推測した。
「お互いの魔法については詮索しない―――魔法師としての暗黙の了解だな。二人の素性についても四葉家が公表するまで秘匿する。無論、三矢家もだ。元々うちも高校入学まで素性を明かさないルールがある以上、認めないわけにもいくまい」
下手に刺激して家を潰されるぐらいなら誼を持つのが賢明と元は判断した。穂波のことも既に聞いているようで、元治の嫁選びという仕事が減るのならそのほうがいいと安堵しているようだ。
「……表面上は元治兄さんの嫁に家の格は求めない、と見られますが」
「それで構わない。ただでさえ元継に詩鶴、佳奈に美嘉の実績が一高の学業や九校戦で示されている以上、これ以上は贅沢が過ぎるものだ。この辺の謙虚さはお前から学んだものだよ」
「いや、その言い方をされると自分が反面教師みたいなものじゃないですか」
悠元の物言いに対し、元が笑みを浮かべていた。
ただ、父親の言い分も理解できると悠元は感じた。元治を除く兄や姉達の成績もそうだし、元治も一応四葉家現当主の身内を救った側の人間だ。その功績に報いる形で穂波を嫁がせるのかもしれない。
この場合、四葉家の関係者という線を薄れさせるために剛三が動くことも考えられるであろう。
「まあ、それは今更なのでいいですが……他の師族から警戒されませんか? 例えば、四葉と因縁のある七草家やうちのことを軽く見る十山家あたりは」
「
「自分は特に何もしていませんが……」
「先日、東道閣下と会談した。三矢家の家業に口添えをして貰えることとなったので、政府関係者とも繋がりができた。加えてお前が国防軍に入ることでそのコネも強化できたからな……十山家に何も文句は言わせん」
「お前が新陰流の道場で励んでいる姿をご覧になったそうだ。それを見て剛三など軽々超える『抑止力』に足りえる、と断言していたらしい」
「既に戦略級魔法師がいるのに……いや、だからこそですか」
「お前の頭の回転の速さは一家で随一だな」
日本には政府公認の戦略級魔法師が存在する。
原作では虚弱体質なのだが、この辺も悠元が梃入れした。具体的には肉体と想子体のバランスが崩れているため、想子を意図的に放出させる起動式を組み込んだCADをプレゼントした。その上で一定の負荷を掛ける肉体トレーニングを段階的に行うようアドバイスをした。
その表向きの理由をこじつけた上で“治療魔法”を施した。具体的には[領域強化]の改良版というものだが。
結果として車椅子要らずになったのだが、『敵を騙すには味方から』ということで車椅子生活は続けている。これをあっさり受け入れた澪が意外にも強かな性格だったことに苦笑したのは言うまでもない。
閑話休題。
大国となれば、複数いるのが当たり前の戦略級魔法師。その切り札が一枚だけというのは心許ない。だからこその『抑止力』として国を守れ、ということなのだろう。
既に戦略級魔法[
さらに、それを現時点で十数発撃てるだけの想子保有量に跳ね上がった。死にかける(沖縄のときは一度死んだようなものだが)と想子保有量が跳ね上がるってどういうパワーアップ方法なのかと思う……解っていても意図的にやりたいとは思わないが。
「今更ですけど、12歳の台詞じゃありませんね。反省いたします」
「ふふ、それを自分で言うとはな。いや、好きにしろといったのは私だから、お前はお前の思うとおりにやれ……いずれにせよ、相手は四葉家の現当主だ。お前ならば問題はないと思うが、失礼のないように頼むぞ」
「はい」
なお、四葉家当主との会談においては、現在名乗っている名ではなく本当の名を使うように言い含められた。というか、深夜に正体がバレている以上真夜が知らないという可能性は考えにくいだろう。
それに、深夜の子である達也と深雪に関わることを少なからず知った以上はこちらも知られるリスクが当然伴うし、深夜と穂波を治療した件も考慮するものと思われる。
「ちなみにですが、自分が戦闘に参加したことに関して何か注意事項はありますか?」
「四葉殿からはどの道聞かれるから、そこはお前の判断に任せよう。ただ、侍郎や詩奈には話さないでくれ」
「自分から好き好んで話そうと思えない事柄ですが、了解しました」
聞くだけでも現代の価値観を逸脱したような惨状しか出てこないし、それに共闘した達也の件もある為、元の釘差しについては了承の旨を口にしたのだった。
◇ ◇ ◇
3日後、三人は指定された都内にある四葉系列(表向きは四葉家の関与を隠す為、いくつかの会社を挟んでいる)のホテル最上階―――VIPルームに案内された。まず出迎えたのは執事服を身に纏った高齢の人物。四葉家において執事長を務める
「三矢元様、それにご子息の元治様に悠元様ですな」
「ああ、今回の招待を非常に感謝している。二人とも、彼が四葉家の執事長である葉山殿だ」
元からすれば師族会議で面識があってもおかしくはないと思いつつ、元治と悠元も頭を下げる。執事としての一線を弁えているとはいえ、現当主に対して意見できるだけの実力者なのは間違いないと感じる。
「三矢元の長男である三矢元治です」
「同じく三男の三矢悠元と申します。よろしくお願いします、葉山さん」
「これはご丁寧に、葉山忠教と申します。四葉の執事を務める雑輩相手に大変痛み入ります。それでは、僭越ながら御当主様のもとへご案内いたします」
葉山の導きで通されたのは大きな会議場のような部屋。その上座に一人の女性が座っていた。遠くから見てもハッキリとわかる尋常ならざる雰囲気。彼女こそ『極東の魔王』や『夜の女王』とも謳われる四葉家現当主、
そして、元は真夜に対して頭を下げた。
「四葉殿。此度はお招きに与り、光栄に存じます」
「フフ、そんな殊勝にされてしまっては困りますわ、三矢殿。私達は同じ十師族の当主同士なのですから。それに、今回のことに関して礼を述べなければならないのはこちらの方ですのに」
この場合、真夜の言い分も理解できなくはない。同じ十師族の当主同士である上、今回の場合は真夜の身内が三矢家の人間に助けられた形となる。
だが、それに対して元が取った態度は七草家のように意地を張らず、敵対しない姿勢であった。
「四葉殿ならご存知のことでしょうが、私はそれほど尊大な人間でもありませんし、それに何かと七草殿とも近い身上。必要な時に頭を下げねば忘れてしまいますからな……それに、義父に四葉の強さを聞かされて育ちましたものですから」
「あらあら、そういうことにしておきましょうか。なら、夕食でもしながらお話しいたしましょう。葉山さん、お願いね」
「畏まりました」
立場的に同じ十師族ではあるが、今回のことを笠に着ないという文言を含めた元の言葉を聞いて真夜はクスッと笑みを零した。東道青波のことも既に承知しているが、今はそのことに触れることでもないと思いつつ葉山に指示を出すと、彼は短い返事の後に音を極力立てることなく部屋を後にした。
「三矢殿、そろそろそちらのお子さん達を紹介してくださらないかしら?」
「おっと、そうでしたな。長男で次期当主の元治、そして三男の悠元です」
元に促される形で元治と悠元は自己紹介をする。それを聞き終えた上で真夜は面白そうな笑みを二人に向けていた。
「四葉家現当主、四葉真夜と申します。先日は姉とその子ども達も含めて助けていただいたこと、真に感謝いたします」
値踏みということでもないが、心の中まで見透かされるような視線に元治は緊張していた。逆に悠元は一周回って落ち着いていた。深夜と間近に対話したせいでそこまでの警戒感を何故か持てなかったのだ。
『ああ、やっぱり深夜さんの双子の妹だわ』
という感想ぐらいしかでてこなかった。ともあれ、豪華な洋食のコースに舌鼓を打ちながら、沖縄侵攻のことで尋ねられたことに答えた。
あれについては一応軍事機密なのだが(真夜曰く風間から聞き及んだとのこと)、悠元が達也と二人で“殲滅”したことを説明すると、元は冷や汗を流し、真夜は興味津々で聞いていた。
その際に思い切って尋ねてみることにした。それは達也と深雪のことだ。
「四葉殿。先程の発言からして身内をお認めになるような言動が見受けられましたが……よろしいのですか? 他の師族が探りを入れるやもしれませんが」
「どの道、今回のことで姉に気付いて七草家あたりが探りを入れるでしょう。それに、魔法科高校に入学すれば自ずと表舞台に立たされることは逃れられないことは言わずもがなですもの。無論、このことは秘密といたしましょうか?」
確かに、達也はともかくとして深雪は自ずと周囲を惹き付けてしまう。彼女のガーディアンである達也も芋蔓式に目立つことになるだろう。それに、魔法技術に対して好奇心旺盛な面は極端な感情を抑制されてしまっている達也でも難しい話だ。
まあ、原作主人公とヒロインに目立つなと言っても暖簾に腕押しするようなものだが。寧ろ障害物を通り過ぎるごとに『分解』しそうなものだ。
真夜の真剣な眼差しに臆することなく言い切った上で元治に肘鉄を入れつつ呟いた悠元に、元治は返事しかできなかった。
「ええ、それに異存はありません。兄さんも道連れなんですからね」
「あ、ああ……そうだな」
「やれやれ……」
「ふふ……」
そして、デザートも食べ終えて食後のティータイムとなり、漸く今回の会談の本編となる。十中八九沖縄絡みだということは予測していたが、その展開は少し驚いてしまった。
「さて、今回お呼び立てしたのは他でもありません。姉の護衛を務めている桜井穂波さんのことです。聞けば、そちらの元治殿が好いて告白なさったと聞き及んでいます」
「そのことは義父からも聞きました。……さしあたっては婚約、ですかな?」
「ええ。上泉殿より然るべき家の養女とすることを承諾していただきました。その後に婚約としたいのですが、よろしいでしょうか?」
「異存はありませんな。形はどうあれ、息子が自分から本気で好いたとなれば良き縁談でしょう。私も三矢の当主として、父親として肩の荷が一つ下ろせますからな」
然るべき家―――となると、三矢家の場合は現代魔法と古式魔法のどちらでも可能だが、下手に波風を立てないことを鑑みた場合、多分百家の適当な家を選ぶことになるだろう。剛三の場合、百家の全ての家と面識があるので、四葉としても間接的にその家との繋がりを得ることが出来るというわけだ。
「あら、そんな簡単に決めて宜しかったのですか?」
「寧ろ、此方が非礼を詫びねばならない次第ですし、それを快諾して頂いた四葉殿に感謝せねばなりません。何かと妥協しがちだった息子が自ら望んだのなら、私に異論を挟む余地はないでしょう」
完全に既定路線を組まれた形で、当主間のやり取りが完全に定時連絡ぐらいの言葉の羅列。何故かトントン拍子に決まる話についていけず、口が半開きとなっている元治に悠元は軽く肘鉄を入れる。
その様子を元と真夜に見られ、元は苦笑していて真夜は笑いを堪える様に口元を手で押さえていた。
「まったく……申し訳ない、四葉殿。うちの長子は些か作法に不慣れなものでして。三男は義父のお陰か、逆に礼儀作法が成っている始末ですので」
「ふふ。宜しいのですよ、三矢殿。しっかりされている息子の存在というのは、それだけで頼もしいということですから」
その言葉を聞いて元治は頬を赤く染めてうつむき、悠元は苦笑が漏れた。何で一回り上の兄の面倒を見なきゃならんのよ、とは思いつつ話を進めるよう元に視線を送った。それを見て元も頷き、真夜との話を進める。
後日、当人同士で改めて婚約の挨拶をすることで合意となった。ここまでは元治に関する要件だろう。つまり、ここから先は悠元に関する案件ということだ。
「先日、風間大尉と会談いたしました。聞けば、悠元殿は国防軍の兵器開発部、特別技術顧問兼特務士官という形で所属していると」
「ええ。それについては間違いありませんが……父経由ではなく、自分が直接四葉の魔法技術向上に寄与してほしいと?」
「そこまでは贅沢が過ぎるというものですし、師族会議の規則に抵触してしまいます。そうですね……私の知り合いがFLTの筆頭株主をしております。そこに何らかの形で所属してほしい、というのは如何でしょう?」
真夜はそう述べたが、FLT社の筆頭株主は司波深夜―――実質的に四葉への魔法技術協力をしてほしいというもの。おそらく沖縄侵攻における達也の使った特化型CADや『サード・アイ・ゼロ』のことも風間経由で知っているのだろう。
ただ、直接的なものだと三矢家と四葉家の“共謀”になってしまうため、FLTというクッションを置くことで追及を回避する、ということなのだろうと思われる。
今回の元治の婚約の引き換えというわけではないが、それを匂わせてくるあたり、流石は十師族の当主だろうと思いつつ、悠元はゆっくりと立ち上がる。
「そのお話は非常に魅力的ですが……ちなみに、仮に自分が籍を置くとした場合、どこに配属される形となるでしょう?」
「そうですね……葉山さん、どうかしら?」
悠元の疑問を聞いて真夜が葉山に問いかけると、躊躇う間もなく即答した。
「それでしたら、CAD開発部第三課がよろしいかと。あの場所なら悠元様の才能を僻む者もおりますまい」
「成程。ということだけれど、いかがかしら?」
「異存はありません。改めてFLTへの所属の件、よろしくお願いいたします」
こちらとしても願ったり叶ったりである。三矢家の地下でも開発はできているが、機密の問題というか詩奈が下手に触って怪我でもされたら困るという兄としての心境があった。妹は時として好奇心旺盛な面が強い……とりわけ自分のやっていることに関しては。
言っておくが、別にシスコンなわけではない。侍郎が詩奈の恋人になるなら許すだけの話だ……広義的にシスコンだこれー!?
詩奈のことは置いといて、どうせ四葉の秘密の一端に触れたんだ。こうなれば達也に敵対しないルートを進むためにできることはやる。
そういや、後でエシェロンⅢとフリズスキャルヴをどうにかしないとなぁ。宇宙に飛ばされて達也が『分解』で暴れたら責任持てるのか? いや、愛国心の塊とも言うべき“あの男”にそんな気はないだろうな。『ディオーネー計画』の関係者の首が飛んでも俺には責任など持てないけど。むしろ地球滅亡のカウントダウン……洒落にならないな。
仕方ないから情報遮断魔法でも作るかな、と思った瞬間に魔法式が組みあがった。解ってたけど、無意識的に組みあがったらビックリするよ畜生……もう諦めたけど。
一先ず『ディープ』と『ベータ』は早急に組み上げる。『バリオン・ランス』も要検討かな。直感的に魔法式を組めるけど、CAD調整はまだ完全マニュアルの領域まで踏み込めてないから調整の練習も必要である。やることが意外に多くて頭抱えそうだ。
あ、でもその前に専用のCADが必要だ、と察して内心溜息を吐いた悠元であった。
◇ ◇ ◇
三矢家との会談を終えて、部屋には四葉家の人間―――真夜と葉山の二人だけとなった。
暫し流れる静寂の後、口火を切ったのは葉山であった。
「しかし、よろしかったのですかな? 三矢殿は好意的に見ておりましたが、穂波殿は……」
「一番懸念される問題をクリアされてしまったから、反対する理由も無くなったというわけよ。遺伝子レベルに改善が見られ、恐らく普通の人間ぐらいの寿命なら問題はない、と
この場に信頼できる者しかいないからこそ、先程とは打って変わった口調で述べる真夜。
「それに、姉さんの健康状態を健常者と変わらない様相まで変化させた……少し若返ったのはショックだったけれど」
医学的に寿命の短い調整体の寿命を延長する―――確実に医学どころか自然の摂理に喧嘩を売るレベルの事実。魔法師としても一生どころか将来の子孫まで食べていけるだけの功績。それを成したのは甥や姪と同い年の少年。
更には、手の打ちようがなかった深夜の症状を改善せしめた。真夜としても、少なからず心配であった双子の姉の懸案が取り除かれたのだ。
「もしかしたら、悠元殿なら今まで四葉を苦しめていた一番の難題を打ち破れる、と?」
「そうね……でも、今回の一件でようやく理解できたわ。悠元君に無理強いはできないと」
「と、言いますと?」
「深雪さんよ。あの子、どうやら彼に好意があると姉さんから相談されたわ……
深雪が悠元に好意を抱いているのは真夜としても見逃せない懸案である。ただ、片や国家非公認の戦略級魔法師であり、片や四葉家次期当主候補。彼の扱い次第で師族二十八家に軋轢を生みかねない、と理解している。
悠元に無理強いをして深雪を悲しませたら確実に達也まで動く。向こうとしても四葉に敵対しないつもりなのは読み取れていた。
そして、真夜は剛三から一通の手紙を受け取っていた。それは真夜の父である元造が剛三に託した最後の手紙。それがあったからこそ、真夜は深夜との関係を修復することができた。
「今回のことで姉さんと関係を修復できつつある以上、悠元君に下手なことはできない。彼本人にその意識がなくても、これは事実よ……それにね、葉山さん」
「何でしょうか?」
「『たっくん』が本音を言える親友に、あの子ならなってくれるかもしれない。ふふ、夢を見すぎかしら?」
達也は、普通の魔法師にはない強大な力を持っている。その意味で同じような力を持つ悠元なら達也と対等に語り合える存在へなってくれるかもしれない……淡い期待なのかと肩を竦めつつ苦笑する真夜に、葉山は珍しく首を横に振った。
「いえ、奥様……悠元殿なら、何故か成し遂げられそうな気がいたします」
「それは、四葉の執事としての勘? それとも、葉山さんの魔法師としての勘?」
「そうですな。強いて申し上げるならば、人生経験からくる勘にてございます」
「葉山さんらしい説得力がある言葉ね……一杯貰えるかしら?」
「畏まりました」
静かに部屋を後にする葉山を見送ることなく真夜は窓の外に映る都会の夜景を見つめた。
明かりで星など見えないが、その夜空にひとつ流れ星が煌いたような気がした。