魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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堀全部埋めてから言う台詞じゃねえ

「……達也」

「なんだ?」

「事情は察するが、泳がないのか?」

「……まあ、流石にな」

 

 到着もそこそこに、水着に着替えて楽しんでいる。本来なら昼食の時間だが、船の中で予め軽食程度の食事を済ませているので問題はない。

 ここにはいないレオと幹比古は遠泳で泳ぎに行った。悠元が誘われなかった理由は、エリカから「悠元が行ったら、確実に自信を折られるわよ」と忠告したせいだ。そこには、下手に引き離したら気にする女子が2人いることも勘案していたのだろう。

 なので、悠元は天神魔法の練習がてら、ビーチパラソルの下から海水で天然のウォータースライダーを作り、それを女性陣が楽しんでいるという構図だ。それだけのことを簡単にやってのけてしまう悠元の非常識さに、同じくビーチパラソルの下で涼んでいる達也は内心で溜息を吐きたくなった。

 

「普通は、あれだけの魔法を長時間維持するのも難しいはずなんだがな」

「現代魔法の場合はな。天神魔法でもちょっと工夫はしてるさ」

 

 こういうのを「最強(なろう)系主人公」というべきなんだろうが、かくいう達也も似たようなものである。すると、一通り楽しんだのか女性陣が近づいてきたので、魔法の行使をやめて海水を静かに戻していく。

 

「悠元さん、一緒に泳ぎませんか?」

「折角海に来たんだし、遊ぼう?」

「……そうだな。達也、覚悟を決めろ」

「どうやら、そうしたほうがいいな」

 

 お互いに羽織っていたパーカーを脱ぐと、やはり目立ってしまうのは達也の体に残る幾重の傷痕。悠元の場合は強力な自己修復術式のせいで残っていないが、達也は幼い頃から自己修復術式も満足に使えない状態から鍛えられていたためだ。

 それを見た女性陣は引いたが、已む無くフォローすることにした。

 

「すんごい鍛えてるな、達也は。それらの傷は努力の証ってことなんだろうが、九重先生はお前をどこに至らせるつもりなんだか、皆目見当がつかん」

「……ありがとうな、悠元。って、どうした?」

「お前から感謝の言葉が出るとは思わなくてな」

「どうしてそうなる。って、深雪も何故に笑う?」

 

 傷云々は男の勲章なのだとフォローした悠元に感謝の言葉を投げると、驚きを隠せない悠元はもとより、深雪は笑みを零し、ほかの女性陣は驚いたような表情を垣間見せていた。何にせよ、傷のことについて深く追及されなかったことは達也にとって良かったというべきことだった。

 その後、今度は空中に浮かんだ氷や炎の的に海水を利用しての的遊びに興じたのち、達也は悠元と想子制御の訓練に取り組んでいた。達也の飲み込みが思ったよりも早かったので、次の段階となる想子の収束・分散制御の特訓。なお、美月を除く女性陣は目の届く範囲でボートでの遊びに興じていた(美月はパラソルの下で休んでいる)。

 

「済まないな、悠元。お前も深雪や雫と一緒にいたいだろうに」

「別にかまわないさ。それに、近くにエリカがいると根掘り葉掘り聞きかねないと思ったからな。たまには1人でのんびりするのも悪くない……それに」

「それに?」

「どうせ夏休みが終われば、ほぼ四六時中深雪か雫の傍にいることになるし」

 

 同じクラスに加えて深雪とは同じ生徒会役員。加えて司波家に居候の身である以上、深雪と接する機会はおのずと多くなる。まあ、CAD調整に関してはこれまで通り達也の領分だということは変わらないが。

 

「というかな……沖縄の時に、あれが打算的な行動だったかもしれないって疑わなかったのが不思議でならない」

「……折角だから聞きたいが、深雪のことは良かったのか?」

 

 達也は、兄として妹を応援したい気持ちがあるのは事実だし、深雪にとっての初恋となれば、成就してほしいという叔母や母親の気持ちもある。

 兄である達也自身が言うのもなんだが、妹は聞き分けがよすぎる分、ストレスなどを溜め込みやすい。その発散相手として悠元に甘えている。その辺は大丈夫なのかと思わなくもなかったのだ……主に、妹が暴走して悠元に描写禁止ラインを踏み越えるようなことについて。

 

「既成事実化した以上は受け入れるしかないし、俺としても深雪のことを好きでいるのは事実だ。そういった一線を越えたときは溜息しか出なかったけど」

「うちの家系は恋愛事に疎すぎるからな。お前のところは違うのか?」

「父方の祖父の代は知らんが、父さんと母さん、それに爺さんが恋愛結婚だったらしい。師族二十八家はおろか、魔法使いでも珍しいだろうな」

 

 もしかしたら、七草家が三矢家や四葉家にちょっかいをかけているのは、現当主の恋愛結婚したことへの羨望やら妬みが含まれているのかもしれない。

 それはおいといて、深雪のことはそれなりに好印象を抱いていた。原作のことからして、例え介入しても達也への依存が強いだろうと思っていたわけなのだが……結果として、自分への依存度合いが増していっている。

 これについて、達也はこう説明してくれた。

 

「お前が魔法を放って気絶し俺が基地の司令室まで戻ってきた際、深雪の顔面が蒼白に染まっていたからな。それを見て、深雪は間違いなくお前に対して強い感情を抱いたのだろうと推察した」

「気絶していた間の話は深夜さんからも聞いたが……なるほどな」

「尤も、俺が問い詰めても深雪は『そ、そんなこと絶対にありません!』と否定していたが、態度とその後の行動でバレバレだった。バレンタインの時は、台所の雰囲気がまるで黒魔術の儀式のようだったが」

「いや、その表現は流石に酷くないか?」

 

 すると、海風でボート―――とはいっても、サーフボードに毛が生えた程度のものだが、悲鳴とひっくり返ったボートを知覚した達也がすぐさま動き出した。ここで悠元が一歩出遅れたのは、原作のとある場面を思い出したための思考でワンテンポ遅れた。

 

(達也のやつ、主人公の例に漏れずラッキースケベ的な気質も持ってるからな……っと、急ぐか)

 

 表面張力増幅魔法『水蜘蛛』で水上をまるで土の上を歩くかの如く駆ける悠元。その上で、波や風を防ぐために大気干渉結界を展開し、穏やかな波と風の状態に改変した。それに合わせて転覆したボートを元に戻し、ボートの中にある水を綺麗に排出。

 どうやら達也をいつの間にか追い越していたようで、雫と深雪をボートの上に軽々と引き上げた。ボートには自力で上がったとみられるエリカがいて、重量のこともあるので悠元は水面に魔法を展開して立っていた。

 

「流石2人の彼氏ですなあ」

「茶化すな。っと、残るはほのかのようだが……」

 

 そこで、達也がほのかをボートに上げようとしているのだが、ほのかが慌てた様子で上がることを拒否していた。これはアレだな、と察した悠元はボートに背を向ける形で回れ右をした。

 悠元の取った行動に首を傾げる雫だったが、ほのかがボートに上がった状態を見て察してしまった。

 

「……悠元、気付いてたの?」

「何か嫌な予感がしたからな。知り合いとはいえ、巻き込まれるのはごめんだ……ボートを砂浜に移動させるわ」

 

 ◇ ◇ ◇

 

 結局、砂浜に戻ってきても泣き止まないほのかを達也が宥めた(プラス雫が吹き込んだ)結果、達也はほのかのお願いを聞くこととなった。あの場合、達也がほのかの身だしなみよりも安全を最優先した結果の事故、と言えるだろう。

 ともあれ、ほのかにとっては折角巡ってきたチャンスを生かし、達也とボートに乗っていた。さて、兄がそうなってることに対して妹の反応はというと、こうだった。

 

「悠元さん、あーん」

「あー……んっ。ふむ、これは美味しいな」

「何というか、カップルの雰囲気出しすぎじゃない?」

 

 深雪としては、恋愛に対して良くない噂(アブノーマル的な趣味があるなど)が立つ位なら、いっそのことほのかに積極的にアタックしてほしいと思っていた。とはいえ、兄に甘えられない分を悠元に向けた結果、甲斐甲斐しくフルーツを悠元の口に運んでいた。これには流石のエリカも引き攣ったような笑みを零していた。

 

「とはいってもな、まともな恋愛経験なんて皆無に等しいぞ? 政財界や魔法師世界の腹黒い現実なら沢山向き合ったが」

「そうよねー、悠元はシスコンだものね」

「うるせえよ、超絶ブラコン」

 

 ここで雫が関わってこないのは、ほのかを諭した責任というものでもあった。深雪もその辺は察しているので、雫のことを悪く言ったりはしない。婚約者同士で不穏な空気が流れるのはごめんである。

 お互いに悪口を言いつつも、しっかり一線を引いている二人を見て、幹比古は思わず苦笑を零したのだった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 夕食はバーベキューということで、八人は和気藹々と楽しんでいた。時折、達也とレオがフードファイトを繰り広げたり、女性陣が恋話で花を咲かせていたりと、特にぎこちなさは見られなかった。

 その後、別荘の中で遊んでいる面々と別れ、悠元は一人砂浜に座り、静かに打ち寄せる波の音を聞きながら夜空を見ていた。

 

 ここまで脇目も振らずに走り抜けてきた。ここからどういった未来が待っているかなんて見通すことはできないが。正直出来過ぎの部分があるのは否定しない。

 

(ん? 誰か来たようだな……)

 

 砂を踏みしめる音と人の気配を感じて振り向くと、そこには大切な恋人となった少女―――深雪の姿があった。深雪はスカートに砂が付くことも気にすることなく、悠元の隣に座った。

 

「女の子同士で会話を楽しんでいたんじゃなかったのか?」

「実は、雫からほのかのことについて相談されまして……悠元さんを探しに行くといって、そのまま抜けてきました」

 

 ようは、近くに深雪がいると達也が動けないと判断したのだろう。雫の言葉を聞いたとき、深雪は「流石にお兄様でも分別ぐらいはつけると思いますけれど……」と思ったらしい。それ以上に、深雪はもう一つの考えに至った。

 

「お兄様が四葉のガーディアンである以上、私のことを思ってくれるのは嬉しいって思っています。私もお兄様に頼ってしまっていますから。ですが……お兄様と私が目指す夢を叶えるためには、私たちも“人”であることを目指すべきではないかと」

 

 人身御供という考え方で何かを成そうとは思っていない、と深雪は語る。だからこそ、達也にも幸せになってほしい。彼の妹としてのささやかな願い……その一歩目になってほしいと、深雪はほのかの背中をそっと押してあげた。

 

「尤も、流石に私や雫のような方法は推しませんでした」

「それが普通だと思うんだが? ほのかがやったら洒落にならん」

 

 とりわけエレメントの一族は依存体質が存在する。上手にコントロールできれば御の字だが、度が行き過ぎると日常生活にも支障をきたしかねない。なので、雫には昼のアクシデントの後で一応釘差しはしておいた。

 

「……なあ、深雪。一つ聞いていいかな?」

「何でしょうか?」

「どうして、俺を好きになったんだ? こう言っちゃなんだが、結構利己的な人間だぞ?」

 

 深雪を知る人間から色々聞いてはいるが、せっかくの機会だからということで聞いてみることにした。こういう機会なんてそうそうあるわけでもないし、落ち着いて話ができる機会が今後も多いとは限らない。尋ねられた深雪は、一つ深呼吸をしたうえで話し始めた。

 

「最初は、お母様が笑顔を見せたことでした。あの頃のお母様は体調を崩すことが多く、心からの笑顔なんてあまり見たことがありませんでした。それを引き出した悠元さんに、興味が湧いたのです」

 

 『領域強化』によって健全な状態へと戻った深夜だが、当時は魔法の酷使によって体調を崩しがちだった。そんな母親が作り笑いではない笑顔を見せた相手が悠元だった。

 それから、深雪は飛行機の座席交換で悠元と隣同士になり、色々会話をした。

 

「魔法のこととか勉強のこととかを気にせずに話した異性は、実は悠元さんが初めてなんです」

「無意識的に人を惹きつけちゃうからな、深雪は。正直なところ、見惚れていたことを必死に隠したけど」

「そうだったんですか……それを言うなら、私も悠元さんに見惚れていたかもしれません」

 

 自覚した今だからこそ言えることだが、一目惚れは恐らく飛行機での会話であると深雪はそう述べた。なお、悠元がプレゼントしたクッキーに関しては、いまだにあの領域に辿り着けていないと話す。いや、菓子作りに“聖域(サンクチュアリ)”とかの類なんて知らないんだが!?

 

「悠元さんこそ、第一夫人は私でよろしいのですか? 私、結構やきもち焼きですし……いろいろ自重しませんし……」

「(自重してない自覚はあったのか……)達也が色々規格外な時点で、多少のことは大目に見てるよ」

「悠元さん……そしたら、今度お背中を流しますね」

「せめてバスタオル装備は標準でお願いします」

 

 15歳にしては発育が良いため、プロポーションは言わずもがな。ほのかですら、深雪の下着姿を初めて見たときに鼻血を出したらしい……情報元は雫からだった。雫としては、スタイルの差からくる嫉妬を覚えていたのかもしれない。

 

「私を救って、泣かせた相手は悠元さんなんです。なので……責任を取ってくださいね?」

「堀全部埋めてから言う台詞じゃないと思うんだけどね」

 

 この後、雫の提案で彼女の部屋に連れ込まれ、深雪も加わって三人で眠る羽目になってしまった。なお、覗き見とかを考慮して一切手は出していない……はず。流石に熟睡している状態だと手を出したかどうかなんて分かるはずもない。ただ、朝起きた時に二人の胸を寝間着越しに触ってしまっていたので謝罪した。

 雫は「胸大きくしたいし、別にいいよ」と顔を赤らめて呟き、深雪は「悠元さんなら胸だけじゃなく、全部を見てほしいです」と返しながら寝間着を脱いで密着してきた。それに負けじと雫も寝間着どころか着ているものを全て脱ぎ捨てて悠元に抱き着いた。

 この世界の女子は肉食系の線が濃厚かもしれない、と薄々感じながらも朝早くから二人を抱くことになってしまったのだった。

 




達也サイドを書いてしまうと引っかかるのでこうなりました。

とはいっても、夏休み編はまだ続きますがw
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