魔法科高校の『触れ得ざる者』   作:那珂之川

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親の細やかな願い、子知らず

 FLTの新製品展示会の日。達也は深雪と一緒に東京ビッグサイト(世界群発戦争の際に軍関連施設として使われ、戦後は各種企業の展示会や即売会などのイベントホールへと役割を戻している)へと赴いていた。だが、悠元に関しては別件の用事ということで別の場所にいた。

 それは、群馬にある上泉家の本屋敷。その離れにある座敷に招かれた悠元は、今や上泉家先代当主となった剛三と対面していた。

 

「神楽坂家での顛末は聞き及んだ。しかし……くくく、婚約者三人でも手に余るとは思いもよらなかった」

「俺としては、半信半疑の部分もあるんだけれど。兄さんは門下生に稽古の最中?」

「ああ、総師範は未だ儂が預かっておるからの。出来ることならお前に継がせたかったが……」

「あのなあ……ややこしいことになるから駄目だろう」

 

 いくら剛三の妻が神楽坂家現当主―――千姫の姉とはいえ、新陰流剣武術はあくまでも上泉家の根幹を成すもの。神楽坂家にも独自の武術がある以上、その線引きはあって然るべきだと悠元は断じた。

 

「元継と千里にも同じことを言われてしまったわ。こればかりは儂の不徳よ」

「正論しか言ってないと思うけどな。新陰流剣武術は上泉の根幹を成すものなんだし」

「御尤も……それで、千姫からは如何様に?」

伊勢神道流(いせしんとうりゅう)については、鍛錬を免除される形となった。新陰流が同じ香取神道流の極意を取り込んでいる以上、残るは奥義伝授だけだろうって……そんな簡単でいいのかな、と思うけれど」

 

 塚原卜伝(つかはらぼくでん)―――上泉信綱よりもその名を知られているであろう戦国時代の“剣聖”。この世界の彼に関わるエピソードも常軌を逸していた。信綱と同じように老いを感じさせない姿で、創作物と言われていた宮本武蔵との逸話も事実となっていたのだ。

 何せ、道場破りのごとく自宅を強襲してきた宮本武蔵を鮮やかに迎撃し、その上で彼に剣術を叩きこんだという書物が存在している時点でファンタジーに両足突っ込んでいるレベルだ。坂上田村麻呂(さかのうえのたむらまろ)の一例からして、もう驚くのも馬鹿らしくなってきている。

 この世界の戦国時代がゲームの動きをリアルに反映していても可笑しくない、と諦めた。

 

 その彼は当時の神楽坂家当主に剣術を教え、その教えと奥義「一の太刀」を元に伊勢神道流を開かせた。神楽坂家に用意された自分の部屋に何故かあった手記によれば「立場的に弱い公家であるからこそ、自らを守る術に手を抜いてはならぬ」と記されていた。

 

「そこは儂が話をしておいた。向こうの総師範は驚いておったぞ。お主が『心刃』まで会得しておると聞いて、興奮しておったな」

「普通は十代で到達し得るものじゃないわけだし、驚きも理解はできるけど」

 

 というか、神楽坂家は公家の末裔ということに思わず溜息が出そうになったのは言うまでもない。前世は身内がおかしいけれど一般市民の階級だっただけに尚更だった。

 

「儂も調子に乗って総師範に至る試験を課したからの。やってのけた時は目を丸くしたわい」

「……そんな話、今初めて聞いたんだけど?」

「いやー、その、ついうっかりな」

 

 「琉球走り」をはじめとした鍛錬は、総師範に至るための最終試験の側面が強いと剛三がここにきて明かした。自重しなかったのはお互い様、という言葉の後に悠元が溜息を一つ吐いたところで、剛三は真剣な表情を浮かべて尋ねてきた。

 

「ところで悠元。先日の臨時師族会議についてだが……烈とあの後電話で対談をすることになってな。どうにか九島家への協力を頼めないかと頭を下げにきおった」

「……はあ?」

 

 そういう反応になるだろう、と剛三は悠元を見つつも説明を始めた。

 元々、七草家と九島家に対しての追及は“警告”に止めてほしいとお願いをしていた。その理由は、七草家の本分であるメディア工作の主導権を神楽坂家が裏から奪ったことに対する“詫び”も含むが、最大の理由は大亜連合の論文コンペに合わせての横浜侵攻に対応できる人員を今減らすことは愚策であると考えたからだ。

 その動きを見て処分するかどうかの判断材料にすれば問題はない、という意味合いもあるし、原作知識ありきの考え方で失敗した九校戦の一件も念頭にあった。

 

 話を戻すが、剛三は烈から穏便な処分にしてもらったことには感謝しつつも、力を貸してほしいという曖昧な理由だった。あの御仁にしては歯切れの悪すぎるお願いに、流石の剛三も回答を保留にした状態で悠元に相談することにした、と話す。

 

「爺さんや母上があれだけ口を酸っぱくして言ったのにか?」

「十文字家当主の様子を七草家が掴んだようでな。上泉家が関わっているということで何かしらの探りを入れてきているが……お前の持つ固有魔法のことは、迂闊に話せぬ」

 

 有機物干渉系魔法は一種の禁忌に近い部分が存在する。とはいえ、完全に忌避されているわけではなく、魔法治療などの医療分野や一条家の『爆裂』などといった限定的な使い方に止められているのが実情。

 悠元の『領域強化』の効力は剛三自身も実感しているため、十文字家当主の治療に使うべきか悩んだ部分もあった。だが、いざという時の味方として協力関係を結ぶのがデメリットよりも大きいと判断し、剛三は悠元に治療を頼み込んだ経緯がある。

 

「(まあ、想定の範疇だが……)何か後ろめたいことがあるのなら、まずは自分たちでどうにかする術を編み出せ、というのは酷かな?」

「……やはり、九校戦での一件が尾を引いているか?」

「それもあるっちゃあるが、最大の理由は光宣(みのる)に対して九島家全体がまるで『隔離』するような扱いをしてることだ」

 

 剛三の場合は自分の身内だったから、深夜の場合は友人になりたいと言い放った相手である達也と深雪に対してのお節介、そして穂波の場合は兄の元治と幸せになってほしいという思いから使用した。剛三は真夜と深夜の2人と面識があったので、もしもの時のストッパーになってくれるだろうという打算的な部分もあった。

 仮に光宣を治した場合、メリットよりもデメリットが大きくなる可能性があった。とりわけ九島家現当主は力に拘っており、その魔法の根幹を知ろうとあの手この手で動きかねない。下手すれば年齢のかけ離れた婚姻を申し込んでくる可能性も否定できないのだ。

 

「達也の事情を深夜さんから聞かされたが……状況や境遇は異なるが、血の繋がった相手から疎まれてる部分は同じだと思ってしまうよ。光宣の場合は直接的、達也の場合は間接的に家の関係者という文言が加わるけど」

「……ふふふ、やはりお前に十師族という代物は楔でしかなかったわけか。わしの慧眼も曇ってはおらんようだ」

「生涯現役と言い放った爺さんの台詞じゃないぞ」

 

 急に年寄り臭い台詞を言い放ったことに対して、悠元はジト目を見せつつも剛三に辛辣な台詞を吐いた。それを聞きつつも、剛三は湯呑に入った緑茶を一口飲んだ上で悠元に尋ねた。

 

「悠元、お前は今回のあやつの動きをどう見た?」

「……恐らくだけれど、四葉家への“抑止力”を求めたんじゃないかって思う」

 

 現在の十師族の当主世代で言うなら、筆頭に来るのは間違いなく四葉家当主である真夜。表舞台には出てきていないが、四葉家の縁者で深夜もいる。それに加えて当主直系に該当しうる達也と深雪の存在を含めれば、間違いなく四葉家は十師族でも抜きんでている。

 

 それに対抗できるのは三矢家ぐらいだろうが、四葉家と間接的に協力関係にある以上は敵対行動をとる意味合いが不明。現当主であり自身の父親である元も四葉の恐ろしさを剛三から聞いて育った身。

 なので、師族会議においては四葉と同等の発言力を有するが、それを傘にして会議を牛耳るというのは非効率的である、と理解もしている。

 

「厳密には、達也に対しての抑止力ということなんだと思うけど。言っとくけど、俺にとっての親友を敵としてみるのは難しいわ。それに、深雪のこともあるし」

「怖いとは思わないのか? お前も聞いているのだろう?」

「そう思わないと言えば嘘になるけど、別に心を伴わない兵器を相手にしてるんじゃないんだから、問答無用で排除するのは間違ってると思う」

 

 確かに達也の魔法は脅威的だろう、だからと言って問答無用で排除する方向性は間違っている。仮に彼が天涯孤独で、理解者が誰もいないという状態なら危険極まりないが、今の彼は家族もいて理解者もいる。

 それに、当の達也本人が[再成]と[分解]の危険性や秘匿の重要性をしっかり認識している。沖縄で使用した戦略級魔法[質量爆散(マテリアル・バースト)]も含まれており、管理の仕方さえ間違えなければ国益に適う魔法師となり得る。

 (血縁上の)父親に関してはどうこう言えるような状況じゃないが……それを抜きにしても、彼は恵まれてるだろう。分家の当主たちが彼の力を危ぶんでいるが、それを望んだ結果の末路とも言える。

 

「……爺さん。達也の特性がああなるように仕向けたのは、爺さんと千姫母さんか?」

「なぜそう思った?」

「神楽坂家に伝わる[月読]を修得した時点で気付いた。達也が使っている魔法特性だと現代魔法の領域を遥かに超えてしまっているんだ……その最たる例が戦略級魔法[質量爆散(マテリアル・バースト)]」

 

 魔法先進国ともいえるUSNAでも、質量をエネルギーに直接変換する魔法の成功例は存在しない。だからこそ、これから起こるであろう出来事の中に“マイクロブラックホール”という事例が発生する。

 主人公という概念を考えれば妥当な力かもしれないが、いくら精神構造干渉魔法の存在があるとはいえ、そう都合よく[分解]と[再成]という力に特化させるというのは至難の業。だが、そう言った力の前例が存在しているならば、特化させることも出来なくはないと推察した。

 

 天神魔法[月読]―――単独発動では精神干渉魔法となるが、相剋・相生による発動では想子や零子などといった肉眼では不可視の粒子に干渉する魔法。五行相剋の場合、粒子に含まれる全ての情報を“消去”―――広義的に言えば分解魔法の最上位に位置する。

 では、再成魔法は何を基準にしているのかというと、[天照]の五行相生であると推察した。術者に対するデメリットを全てカットした最上位の再成魔法……達也のものは、その下位互換版とも言えなくはない。

 

「……どこまで推察しているか分からんが、確かに達也をああしたのは儂と千姫よ。力を望めばどういう末路になるかを四葉の連中に分からせるためだ……元造の最期の頼みでもあった」

「四葉の先々代当主が?」

「兵器としての末路は自分と賛同してくれた同世代の同志まで、というのがあやつの台詞であったよ。このことは手紙を渡す際、真夜にも伝えておる」

 

 周囲からそう望まれて生まれたとしても、彼は兵器としての宿命から解放するための礎として復讐戦を敢行した。仮に娘たちが復讐に走るようなら、それを諌めて止める役割を剛三に託した。

 だが、彼は親友を失った悲しみのあまり、その役割を忘れるかのように新陰流に没頭した。その結果、四葉家が原作の通りの動きを見せていたことに繋がる。

 

「つまり、爺さんの尻拭いの片棒を担がされた身ってわけか」

「否定はせぬよ……神楽坂家へのことはお前の同意も得ずに進めたが、三矢の名を捨てたことに後悔はしておらんのか?」

「元治兄さんと血みどろの家督争いなんてしたくないし、こちらからお断りだよ。この辺は元継兄さんとも合意している。俺が家を出ても問題ないように国防軍の伝手も作ったわけだし」

 

 国防軍に身を置くことを決めたのは、そもそも実家に対して高圧的に出てくる十山家のことを個人的にも疎ましく思っていたからであり、将来家を出たときの就職先のひとつとして考えていたからだ。

 そもそも、三矢家の人間として過ごした時間よりも上泉家で過ごした時間のほうが長いため、感覚的には十師族としての自覚が上の兄や姉に比べれば薄いほうかもしれない。魔法科高校での姉(主に美嘉)の暴れ具合は、そう言った側面が表面に出た結果とも思えてくる。

 

「東道“さん”との伝手は驚いたけど、いざ話してみるとそこまでのものでもなかったかな……どうかしたのか、爺さん?」

「ククク、アハハハハ! あの義理の馬鹿息子の威圧をそう言い切るとは、流石は儂の孫よ」

 

 夏休み中に八雲の招きで東道青波と対面したが、千姫からは事前に「護人としての面子がある以上、彼に対して謙ってはいけません。寧ろ堂々としてください」と言われたため、彼の威圧に対して同等の威圧をぶつけると、彼は拍子抜かれたようにキョトンとした表情を見せていた。

 十数分の会談の後、先に帰った青波を見送った八雲が戻ってくると、開口一番に「彼のあの表情を見れるとは、やはり神楽坂の次期当主は貫録も一際違うね」と言われた。解せぬ。

 

「話を戻すけど……深雪を婚約者に据えてる以上、達也は俺にとって“家族”になりうる存在だ。それを害する輩がいるというのなら、相手が例え戦略級魔法師だろうが国家だろうが問答無用で叩きのめす。滅ぼすのは簡単かもしれないが、それで罪もない当該国の民に恨まれるのは御免だからな」

 

 別に戦争を望みたくはないし、それに巻き込まれるのも御免だ。

 だが、自身の生存権や大切な人を奪おうというのなら、死んだほうがマシとも言える手段で徹底的に社会的抹殺を図る。それを逆恨みに思ってこちらの逆鱗に触れるようならば……その際は容赦なく“消えてもらう”だけだ。

 だが、世界の版図が大きく書き換わって、犠牲となる非魔法師の数が増えても御免だ。なので排除はあくまでも最終手段ということになる。3年前の一件で人殺しを経験した後、いろいろ考えた俺なりの決意ともいえる。

 これを聞いた剛三は、何も言わずに優しい笑みを零しただけだった。

 




 九島家視点のお話はどこかで挟む予定です。多分横浜事変編の後ぐらいになる公算が高くなりますが。

 原作では深夜の持っている分解と再成の概念を以て達也に干渉した(と推察しました)が、本作ではこういった方向性にしました。

 ……あれ? 夏休み編が長くなってる気がするのは気のせい?
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